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■「再び王都へ1」

「それじゃぁベル。家のことはお願いするよ」

「はい、エルさんもお気をつけて」

「イシュタール。領内のことについては頼んだよ。クイが帰郷次第引継ぎをよろしく」

「はい、かしこまりました」


 五月になって早々、今後の王国の体制についてリンクと対談するため王都ガイエスブルクに向けて旅立つ準備が出来た僕は、ベルたちの見送りを受けていた。

 メンバーは僕、対外交渉役としてクリスとアリス。大砲の使用感調査などの技術的な作業役としてメイリア。

 護衛役としてユスティ、後は身の回りの世話をしてもらうメイドが八人と護衛騎士が一個中隊(三百人)。そして……


「エリザベート大母(おおはは)様、行ってきます」

「「「「行ってきます」」」」

「えぇ、王都に行き色々見分を広げてきなさいね。アルフ、フレア、ルーテシア、シェリー、ヘレン」


 僕の長男であるアルフレッド、長女フレア、次女ルーテシア、三女シェリー、四女ヘレンも遊学のために一緒に来ることにした。

 最初は子供全員を……とも考えたけれど、片道一カ月半の護衛や世話の面と僕の直系男子が旅行中の不慮の事故で全滅するわけにはいかないので取りやめとなった。

 なので次男のジークと三男のエドワードには悪いけれどお留守番となった。


 八歳になった際の貴族学校への入学に関しては僕はさせるつもりがない。なにせ領内に貴族学校と同等の教育が受けられる学校の整備が既にできているからだ。


 貴族学校に行く目的の一つである優秀な人材スカウトについても、領民への教育により執務官として毎年十人程度採用しているのでぶっちゃけ必要ない。

 むしろ気心だけは高い貴族に比べて、学習意欲が高い平民のほうが有能だ。

 さらにいえば、僕やクイの頃に比べてバルクスは大きくなった、なにせ伯爵家が今や辺境侯だ。

 その分、権力。もしくはその技術を得ようと内部工作してくる可能性のほうが高い。獅子身中の虫をわざわざ迎える必要もないだろう。


 なので貴族学校に入学しない代わりにこうして王都を遊学として一年ほど訪れる体験は、他の二人についてもいずれと考えている。

 今回は第一弾として五人を連れていくことにしたのだ。


 アルフレッドとシェリーはクリスが。

 フレアはユスティが。

 ルーテシアはメイリアが。

 ヘレンはアリスが母親だから、道中寂しくなるということは無いだろう。

 むしろ普段は執務に追われている分、旅の間は横にいる時間が圧倒的に増えるから子供たちは純粋にみな喜んでいる。

 残った二人も最近はマリーの魔法研究やアンの医術研究に興味があるようで足しげく通っているので不満はないようだ。


 前回旅立ったのが八歳の時。それからおよそ十七年も経つと人員構成や護衛の数の変化に驚かされる。

 まぁ公子一人の時と当主と公子、正室と側室ともなれば違うのは当たり前だけれどね。

 その中でも変わらないのが三人……


「フレカ、アーシャ、ミスティ。今回の旅もよろしくね」

「はい、エルスティア様。よろしくお願いします」


 僕と一緒だったメイドトリオは今回、子供たちの世話役として旅に同行する。

 母さん配下の諜報員としての役割は終えたものの、年数とともに経験を備えた優秀なメイドとしての役割は健在である。

 今回の旅にベルとバインズ先生がいないのは少しさびしさを感じつつ。僕たちは多くの人に見送られながら旅立つのだった。


 ――――


「いやはや、あの頃に比べて本当に速くなったなぁ」


 ルーティント領との領境に近いカモイの町に到着した僕は感嘆の声を呟く。

 かつて僕が王都への旅の際に訪れた際には二週間の道程を八日間で踏破している。しかもあの時より旅団の規模が大きいにもかかわらずである。

 バルクス領内の主要都市間の道路を瀝青(れきせい)という天然アスファルトを用いて整備したことによる物流の向上を身をもって体験することが出来た。


「それもあるけれど、馬車に導入されたサスペンションも偉大よね。お尻の痛みが軽減されて快適だもの」


 僕の呟きを聞いたのか、クリスもアルフとシェリーの手を引きながら馬車から降りてくる。

 魔導エンジンの開発と併せて進められている自動車の製造の過程で完成したサスペンションは、保有している馬車にも逆輸入として導入された。

 その効果は上々でその技術はバルクス辺境侯内の馬車製造を行う技術者に伝授済みである。

 さてこの技術を領外に……となるとサスペンションの材料に鉄が使われるというところで立ち消えてしまう。


 まったくもって『忌み鉱』というものは、技術流出阻止できるメリットもあるが技術伝播する際にはデメリットにもなる。

 前世の技術の多くが鉄をベースにしているのでこの世界の主流となっている銀をベースにする際には、無駄に検証が必要になるからその手間を考えるとどうしても後回しになってしまう。


「それにしてもこの町に直接来たのは、ルーティント伯との戦争以来だけれど……発展したなぁ」


 あの頃は人口が二万人程度の若い町であったカモイの町は、戦争の際の流民受け入れとその後の移住者の受け入れなどにより今や十万人を超える中規模の町へと発展している。

 もともとバルクス領とルーティント領を結ぶ重要拠点であったが、両領が僕の領土となったことで人と物の流通が増えたことも理由の一つだろう。


「ただ道路状況が改善したことでいくつか問題も発生してきましたね」


 別の馬車から降りてきたアリスが、僕とクリスの会話に追従する形で言う。


「問題?」

「はい、元々バルクス領内の町は、一日の馬車の走破距離を考慮して建設されています。

 ですが走破距離が改善したことでギャップが発生しています」

「あーなるほど……」


 たしかにこの八日間は毎日が同じ距離を移動したわけではない。宿泊する町を考慮して夕方まで移動する日もあれば午前中だけ移動するなんてこともあった。

 中には駐留することなくスルーした町もいくつか存在した。

 毎日平均的な距離を移動するほうが人と物の流通の考えた場合は、メリットも大きいしスルーの対象となる町は今後寂れていく可能性が高い。

 なにせそういった町の重要な資金源は、駐留した商人たちが現地で落とすお金なのだから。


「ってことは、改めて町村の整備が必要って感じかな?」

「はい、直ぐにというのは難しいかもしれませんが特に主要道路に関しては、なるべく早く対応したほうが今後の経済活動を考えるとメリットが大きいですね」

「それならば、イシュタールにその旨を伝えてある程度の草案を作ってもらうように動いてもらえるかな?」

「そうですね。私のほうでもある程度の案をまとめてイシュタールさんに動いてもらいましょう」


 そうやり取りをする僕とアリスを、ユスティは呆れた顔で見ながら


「まったく、旅行の間くらい仕事忘れて楽しめばいいのに」


 とぼやくのであった。

 ――そう、旅はまだ始まったばかりである。

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