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■「売買疑惑4」

「てメぇらか。俺たチの事を探っテいるやつラってのは」


 人通りが少なくなった小道でユスティとビーチャを前後から立ちふさがるように現れた六人組の一人は、変わった訛りを含みながら二人を恫喝してくる。

 そこから彼らが純粋な王国民でないことがわかる。

 とすると帝国か連邦か、はたまたグエン領か。

 バルクスの位置を考えると東の端に位置する連邦の線は薄いだろうがここで切り捨てるわけにもいかない。


 御大層にもそれぞれが手になにかしらの武器を持っているのだから最初から友好的な接触ではないようだ。


 本人たちは殺気を放つことでこちらを委縮させるつもりらしいが、大勢の騎士団員を前に副団長を務めていたユスティからすればそこら辺のごろつきが弱者に威勢を張っている程度にしか感じない。


「ビーチャ。出来る?」


 ユスティはビーチャに短く告げる。


「……ふわぁ、よゆー」


 それにビーチャは普段通りの抜けた口調で応える。そのいつもとの変わらなさにユスティは苦笑いする。

 まったくもって三人の中でも抜きんでた大物である。


 それよりも問題になるのは前三人のチンピラはともかく後ろ三人に対する違和感である。


「ビーチャ。後ろ……」

「すっごい気持ち悪い。 魔法?」


 ビーチャの言葉に彼女も違和感を感じていることを理解する。

 そう、変なのだ。そこに三人の気配も実物もいる。なのに視界や気配がぼやけ認識があいまいになるのだ。

 ビーチャが言ったように認識阻害関連の魔法か何かだろうか?


 情報が少ない場合、情報収集を図りながら撤退がベターな動きだろう。

 無理する必要もないしこのチンピラたちも大通りまで逃げれば下手な動きは出来ないはずだ。

 まずはエルやレスガイアさんと合流する方が先決であろう。


「……っ!!」

「ニャッ!!」


 さてどう逃げるか? に思いを巡らせていた二人は、やや離れた場所から突如として膨れ上がった圧倒的な殺気に思わず声を漏らす。


 取り囲む六人がそれほど大きな動きをしていない。むしろその声が自分たちを恐れて出た悲鳴と勘違いしたのかニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。

 その事から力量が大したものではないと断ずるが、そんな奴らのことは既にどうでもよいことだった。


(この殺気が敵であればまずい)


 ユスティにしろビーチャにしろこれほどの殺気を放つ敵と対峙したことは無い。ビーチャが猫のような声を漏らしたことに突っ込む余裕もない。

 正直勝ち目を感じることすらできない程の圧倒的な力量差。 情報収集など放棄で逃げの一手しかありえない。

 唯一の光明はその殺気の濃度といっていいだろうか? 自分たちに対しては僅かばかりとはいえ薄いこと。


 だが、その殺気はすぐさまにまるでなかったかのように霧散する。 そして少し離れた場所から二つの小さな悲鳴が聞こえる。


 二人は、今まで感じていた圧迫感から解放されて一度小さく安堵のため息を吐く。もちろん状況が完全に好転したのかどうかがわからない以上、気を抜くことは出来ない。


「さてと……僕の知り合いに何か用かな?」


 そんな二人の背後から聞きなれた。ユスティにとっては最も安心できる声が発せられるのであった。


 ――――


 僕の言葉にユスティとビーチャを挟み撃ちにしていた六人が一斉にこちらを見る。

 前の三人はともかくとして後ろの三人はやっぱり容姿姿があいまいに見える。

 認識阻害の魔法に似ているけれどレスガイアさんの言いようだとどうやら違うらしい。


 ちなみにレスガイアさんは先に倒した二人をまずは捕縛するために『それじゃ後はよろしく』といって姿を消している。


「なんだ、てメぇは。こいつらのツれか?」


 いや、そう言っただろと頭の中で突っ込みながら僕はユスティに視線を向ける。

 それで色々と察してくれたようでユスティは苦笑いとともに小さく合図を送ってくる。


 それはリスティ発案で騎士団に取り入れたもので、音を発することなくやや離れた相手と意思疎通でき、かつ暗号性も持たせているため秘匿性にも優れた軍隊式のハンドサインである。


(前……三人……オーケー、後ろ……任せた……か)


 ユスティとビーチャは接近戦を主体として、一方の僕は魔法を主体とした遠距離戦を得意とする。

 その性質上、相手の力量が読みづらい後ろ三人を二人が相手にするのは分が悪い。しかもユスティの事だから僕が姿を現す前にある程度仕込みが完了していることもわかっているのだろう。


 故にユスティの判断は正しいと言える。


「二人に依頼主(・・・)から伝言だよ」


 という事で僕はこいつらの言葉を無視して口を開く。無視された前三人が怒りで顔を紅潮させているのが見えるが二人の力量を考えれば些末なことだ。


「『出来るだけ殺さないように。もっとも口を開くことさえできれば状態にはこだわらない』だってさ」


 そう言い放つとともに僕は、事前に発動させていたライトニングバインドを三つ発動させる。


「っツ!ガッ!」


 自分の足元に突如として現れた青く光る魔法陣に真ん中にいた一人が体勢を崩す。

 それを逃すまいと絡みついた魔法の鎖から放たれた雷撃に白目をむきながら倒れこむ。

 気を失っても気配の曖昧さは変わらない。やはりレスガイアさんが言ったように術者の意識がなくなると同時に無効化する魔法とは異なる物のようだ。


 残り二人はその魔方陣から逃れるように大きく左右に飛びよける。まるでこの魔法を知っていたかのように


「ウグ、ラグーザ、ベスティアス、エルスティア、ドレイク、アクリホストゥン、ベク」

「ベーティア、レグーザ、ン、ボレロ、フス、エグンデシア」


 そして二人はどこの言葉かもわからないやりとりをする。なんだか僕の本名を呼ばれた気がするけれど気のせいだろうか?


「『この魔法はエルスティアが発明したはずだぞ』『だがこんな所に本人がいるはずがない』だそうよ。

 人類種にわからないように母族語で話したんでしょうけど逆にどこの種族かがバレバレになるから気を付けた方がいいわね。

 お姉さんからの優しいアドバイスよ」


 僕の背後から不意にそう言われる。 振り返るまでもなくレスガイアさんだろう。

 そんなレスガイアさんに魔法から逃れた二人が驚愕したような気配を見せる。


「ナゼ……アンタガコンナトコロニイル」

「シンダ……ソウキカサレテイル」


 二人は母族語――母国語の族バージョンかな?――で話すことを止めたのか片言で言う。


「簡単なことよ。 私は『旅人』になった。 ただ長命族の見解としては『死んだ』。 それだけよ」


 その言葉にレスガイアさんは笑う。――本当にいつもの笑顔。 それなのに僕の背中を嫌な汗が流れる。

 それは連携を取る仲間に対する怒りなのか……悲しみなのか。僕にはわからない感情が含まれているように思う。


「それじゃさっさと終わらせて仲間に裏切られた可哀そうな子たちを救いましょうかね」


 ただレスガイアさんはそう言い放つのであった。

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