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神様のモニタリング 第二章 ~激動の時代~  作者: 片津間 友雅
動乱前夜編

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●「悲しき再会1」

 キスリング宰相暗殺未遂事件の第一報がエルスティア・バルクス・シュタリアに届けられたのは、事件から三日後の一月七日の事。


 王都ガイエスブルクに残留しているメイド――アビー・コッパーという名前だ――からファンナさんへの感応通信を受けての事であった。

 それにしてもやっぱり感応通信は便利である、二か月のかかる情報伝達をわずか三日で行う事が出来るのだから。

 うーん、やっぱり感応通信を固有魔法と決めつけずにちゃんと解析してみることを試すべきかもなぁ。


 感応相手であるアビーは、母さんが独自に作り上げたメイド兼諜報員の取りまとめ役。

 ゆえにその時点では貴族の上層部しか知りえない、つまりは中央でも知らされていない事件の詳細情報まで手に入れることが出来ていた。

 

 少し前にふと気になってアビーに貴族上層部の情報をどうやって手に入れているのか聞いたことがあったけれど……返ってきた返答は、『殿方は奇麗な女性と美味しいワインがあれば心を開いていただけますから』という事だそうだ。

 ……うん、男って悲しい生き物だねぇ。


 今時点で分かっている報告としては、一月四日の夜にキスリング宰相が外出先から屋敷に戻る間に何者かによる襲撃を受けたという事だ。

 被害者は護衛の騎士二人が死亡。キスリング宰相も重傷を負ったが、逃げていた御者の一人が簡単な治癒魔法が使えたらしく騒ぎが収束して戻ってきた際に治癒魔法によりとりあえず一命は取り留めたそうだ。

 ただし現状の容体については分からないとの事。襲撃者の素性も現在捜査中らしい。


 その報告を聞いた時、僕の傍にはクリス、アリス、リスティの三人。

 三人と今はいないユスティに関しては、生後三か月の我が子のお守りを出来るだけ自分たちの手でやるように心がけているようで、時々こうして集まっては先駆者であるクリスに体験談を聞いたりしている。

 ただ、なぜ僕のところでわざわざやっているのかは、分からない……育パパになれというプレッシャーか?


 残りのベルとメイリアも出来るだけ自分の手でと考えているようだけれど、なんせ二人の仕事は技術班。

 製鉄所や工場といった危険が伴う場所に行くことが多いからどうしても勤務中はメイド達に面倒をお願いせざるを得ない。


 今日も二人は工場で次の目標である次世代銃と試作魔導エンジンの開発に取り込んでいる頃であろう。

 魔導エンジン……うん、いい響きだ。

 

 未だに石油の発見に至っていない以上、魔力によるエンジンの開発をベルにはお願いしている。

 もちろんガソリンエンジンであれば前世の技術書があることでベルの力を使えば一年もかからず完成できるだろう。

 けれど魔導エンジンともなると前世の技術はあまり役には立たない。

 ベルにとっては前世の技術と魔法技術を組み合わせた初めての試みになる。

 だから二年や三年ですぐできるとは思ってはいない、長期的な計画の内の一つになる。


 閑話休題


「クリス、知っていたらでいいんだけれどキスリング宰相という人の情報を貰えないかな?

 正直、基本的な情報しか僕は知らないからね」


 中央から遠く情報が手に入りにくいバルクス辺境侯、しかも十五歳という比較的若いうちに戻ってきたからキスリング宰相の情報は僕の中にはほとんどないといってもいい。


 それはアリスやリスティであってもそこまで大差はないだろう。

 それであれば元王女として中央の上級貴族とも少なからぬ繋がりがあったクリスの情報が頼りとなる。


「そうね、一言でいえば『天才』かしら?」


 キスリング宰相暗殺未遂の報を聞いてから眉間にしわを寄せていたクリスは、ゆっくりと口を開く。


「天才?」


「えぇ、不思議に思わない? 後継者争いが顕在化してからもう二十年以上にもなるのに王国が王国のまま割れていない事が」

「……確かに、大概の後継者争いの先にたどり着くのは内乱だもんな」


 王位継承権を巡っての争いは前世の歴史においても枚挙に暇がない。

 壬申の乱、南北朝時代、百年戦争、モンゴル帝国帝位継承戦争、スペイン継承戦争などなどだ。

 

 一方、エスカリア王国となると確かに貴族同士の戦争は発生しているけれど、あくまでもそれは貴族数人同士の戦争。

 それは後継者争い云々に関係なく三百年の歴史の中で普通に繰り返されてきた出来事でしかない。

 実際に実力が拮抗した戦争故にお互いに痛み分けというのがほとんどで国内の領土が大きく変わったのは、ここ二十年でもオルク子爵家の領有権を取得して伯爵となったバルクスの北方のエウシャント伯爵家と、ルーティント解放戦争でルーティント伯爵領を取得して辺境侯になった僕を含めても四例しかない。


「王国が割れていない理由、それはキスリング宰相があくまで中立の立場として各派閥が暴走しないように止めていたからなの」

「なるほどね、二十年以上も自分本位主義な貴族たちの暴走を止めることが出来る。確かに天才以外の何物でもないな……」


「……ちょっと待って、クリス、現状の王国でそれほどの大人物を失ったという事が意味するのは……」


 クリスの言葉にリスティが疑問を投げかける。それにクリスはより眉間のしわを深くする。


「ええそうよリスティ、今の状況は王国の国家としての存亡が危うくなっている。近い将来、国が分かれかねない状況よ。

 暗殺未遂という位だから、キスリング宰相は亡くなっていないのでしょうね。けれど『まだ生きている』だけなのかもしれない」


 僕の頭の中を『人類滅亡』の文字がちらつく。


「エルス落ち着いてください。こればかりは中央から遠い場所にあるバルクスでは防ぎようもない事。

 私たちが考えなければいけないのは、これからどうするのか? です」

「アリス」


 そんな僕の心の内を読み取ったのか、アリスが微笑みながら僕を励ます。


「エル、あなたの願いを叶えるため、私は、いえ、私たちはここにいるのです」

「リスティ」


 リスティもアリスに続いて力強く、そして優しく僕を励ます。


「そうよ、それに今回の事がどれほど王国にとって重要な事件であるかを最も理解しているだろう人が中央にはいる」

「……『南方の黒獅子』ファウント公爵か」


 僕の言葉にクリスは頷く。

 考えてみれば、ファウント公爵はイグルス第三王子派で今や一番王位に近いといってもいいだろう。

 にもかかわらず、他の派閥に対して直接的な圧力をかけるのではなく、その言葉をもって切り崩しを行ってきていた。


 そう、国が分かれることが無いように、細心の注意を払いながら。


「……まったく、僕は果報者だよ。これほど素晴らしい妻達がいてくれているんだからね」


 僕は最愛の妻たちへ微笑みかける。

 そうだ、過去を悔やんでも仕方がない、今から何をすべきか。それが重要なんだ。


「よしクリス、ファンナさんからアビーからの連絡を密にしてもらうようにしてもらえるかな。

 些細な情報でも構わないからさ」

「えぇ、わかったわ」


「アリスとリスティは、クリスからの情報をもとにバルクスがどう動くべきかを政治、軍事の両面から検討を」

「はい」「了解」


「最悪の場合、王国が分裂することも考慮してほしい。そうはならないで欲しいけれどね」


 僕だって、この世界に生を受けて二十二年。それなりにこの王国という場所に少なからぬ情がある。

 もちろん前世の日本に比べれば不便や不条理はたくさんあるけれどね。


 それでもこの世界を、愛する家族や領民のために守りたいという気持ちに偽りはない。


「さぁ、子育てもあって大変だろうけれど、皆、協力してこの危機を乗り切ろう」


 僕は力強く言うのであった。


 ――――


 この時、僕たちはあくまでもこの事件の傍観者であり、第三者としての考えしかなかった。

 それが違っていたことを思い知らされるのは、アビーから襲撃者の名前を知らされる二度目の報告の時であった。

いつも読んでいただき有難うございます。

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