番外、とある王子と流れ星
このお話は同作者の短編童話「お母様のお星様」https://ncode.syosetu.com/n1715hk/を加筆修正したものです。
昔々のお話です。
あるお城にルーカー王子という、それはそれは小さくて可愛らしい王子様がおりました。
「おやルーカー。もう本を読み終えたのか、偉いぞ」
「あらルーカー。絵が上手ね。とても素敵だわ」
お父さんとお母さんである王様とお妃様は、ルーカー王子をとても大切にしていました。
ルーカー王子も二人の喜ぶ顔が見たくて、お勉強や剣の練習を頑張る毎日です。
でも、一つだけ不満がありました。
「お父様、毎日お城にいるのは退屈です。たまにはお外で遊びたいです」
ルーカー王子のワガママは何だかんだで許してくれる王様ですが、どうしてかこの願いは聞き入れて貰えません。
「外はとても危ないぞ。外で遊ぶのはお前がもっと強くなってからだ」
強くなるってどの位でしょうか。
ルーカー王子には分かりません。
「お母様、毎日一人で遊ぶのは退屈です。お友達が欲しいです」
ルーカー王子の大抵のワガママは笑って許してくれるお妃様ですが、どうしてかこの願いも聞き入れて貰えません。
「お外はとっても怖いのよ。お外で遊ぶのはあなたがもう少し大きくなってから、ね」
大きくなるってどれ位でしょうか。
やっぱりさっぱり分かりません。
悲しくなってしまったルーカー王子は自分のお部屋の窓を大きく開けました。
見下ろした先にある森には、どんなものがあるのでしょうか。
見上げた空の向こうには、どんなものがあるのでしょうか。
あまりにも寂しそうなルーカー王子を見かねたお妃様は、寝る前にお話を聞かせてくれました。
「ほら見て、ルーカー。今日も星が綺麗に瞬いているわ。あなたを見守ってくれているのね」
「見守る?」
ルーカー王子はお妃様と窓辺に並んで星空を見上げます。
チカチカと輝く星は、確かにこちらを見ているようです。
「星は命なのよ。あなたのおじい様やおばあ様も、あの星のどれかに混ざってあなたを見守り、導いてくれているわ」
「命? 導く? お話は出来ないのですか?」
あれだけ沢山の星の中から、おじい様やおばあ様の星を見つけるのは難しそうです。
どうせ見守ってくれるならもっと近くがいいとルーカー王子が言うと、お妃様は困ったように笑いました。
「あんなに遠くても、あなたを応援してくれてるなんて素敵でしょう? それに、おじい様とおばあ様だけじゃないわ。きっとあの星全部が、あなたの事が大好きなお友達なのよ」
それはすごい事かもしれません。
ルーカー王子は大きな目をパチクリさせてもう一度星空を見上げました。
よく見ると大きい星に小さい星、白や赤、黄色っぽい星など色々な星があります。
あれら全てがルーカー王子を応援しているお友達なのだとしたら、お空の向こうはとても賑やかそうです。
「ねぇルーカー、忘れないで。いつかお母様がお星様になったとしても、ちゃんとあなたを見守っているからね」
「いや、お母様はお星様にならないでそばにいて下さい」
ルーカー王子のお願いに、やはりお妃様は笑うだけでした。
それから季節が一巡りした頃、突然お妃様が居なくなってしまいました。
お妃様に会いたいと泣くルーカー王子に、王様は「お前の母は星になったのだ」としか答えてくれません。
悲しみに暮れたルーカー王子は、窓を開けて夜になるのを待ちました。
「お母様、本当にお星様になってしまったのですか?」
チラチラと瞬く星は何も応えてくれません。
「お星様、どれがお母様のお星様ですか?」
キラキラと輝く星は、涙でぼやけてどれも同じに見えてしまいます。
「お母様。見守って、導いてくれているなら、もっと近くに来て下さい」
その時です。
星の一つがキラッと光り、スゥーッと弧を描いてルーカー王子の方に向かってきたのです。
「わ、わぁ!」
一筋の流れ星はお城の麓の崖下に落ちて見えなくなってしまいました。
ルーカー王子は身を乗り出して窓の外を見下ろしましたが、暗い夜の森しか確認出来ません。
「お母様が来てくれたんだ!」
ルーカー王子はいても立ってもいられず、王様にその事を伝えると「一緒にお母様を迎えにいこう」と言いました。
しかし──
「ルーカーよ。それは夢だ。それよりも今日は早く寝て、明日に備えなさい」
明日になったらお妃様のお星様は、お日様に溶けて消えてしまうかもしれません。
ルーカー王子はしぶしぶ「では明日、朝一番にお母様のお星様を探しましょう」と食い下がります。
ところが王様は、「外に出てはならん。それよりも明日は勉強を頑張りなさい」と言って部屋を出ていってしまいました。
お妃様が居なくなってからというもの、王様は前にも増して忙しそうでルーカー王子のお話を全然聞いてくれません。
おまけにとても厳しくなって、全然褒めてくれなくなりました。
「お母様が帰ってきたら、お父様も元に戻ってくれるかもしれない」
その日が来るまで、ルーカー王子は前にも増してお勉強も剣の練習も頑張るようになりました。
本だって読むし、絵も歌も、踊りだって頑張ります。
でもどれだけ頑張っても王様は厳しいままです。
お外に出る事も許してくれません。
とうとうルーカー王子は王様を頼る事を止めてしまいました。
「お外に出して貰えないなら、自分で出れば良いんだ!」
ルーカー王子はお勉強も剣の練習もこなしつつ、遊ぶ時間を全部使ってお部屋の奥の隠し部屋──の床に穴を掘りました。
カッツン、コッツン。
大きな音を立てて家来に見つからないよう、気を付けて。
ジャリジャリ、カッツン。
手袋やお洋服が汚れて家来に怪しまれないように気を付けて。
小さなシャベルではほとんど掘り進める事が出来ませんでしたが、ルーカー王子は毎日毎日、頑張りました。
どれ位の年月が経ったでしょうか。
小さなシャベルが小さなツルハシになった頃には、ルーカー王子の目的は「お母様を迎えにいく」から「外に出る」というものに変わっていました。
「きっとあの流れ星は母上の導きだったのだろう」
流れ星が落ちた先には何があるのか──
はたまた何も無いのか──
ルーカー王子は自分の目で確認したくてたまりません。
カッツン、コッツン。
ジャリジャリ、カッツン。
手袋が擦りきれたのは何回目でしょう。
それでもルーカー王子は流れ星が落ちた崖下を目指して横へ下へと穴を掘り続けます。
そしてついにその日が訪れました。
カッツン、バキリ。
「おっとっと」
急に視界が明るくなり、ルーカー王子はキュッと目を細めます。
どうやらお城の外に繋がったようです。
ルーカー王子はドキドキしながら外に足を踏み出しました。
目の前には森が広がっていて、振り返るとトゲトゲした険しい崖がそびえています。
「これが外か」
本で読んでも分からなかった草木の匂いが新鮮です。
ほっかむりとマスクを外し、作業用の上着も脱いでみます。
「なんて気持ちが良い場所だ」
風に乗って木々のざわめきや小鳥の声が聞こえてきました。
どの音もお城では聞いた事の無い音です。
「また来よう。次は流れ星が落ちた辺りを探検だ!」
ルーカー王子は開けた穴が見付からないよう石で塞ぎ、自分だけの秘密の抜け穴にしました。
そしてたまーに時間を見つけては、コッソリコソコソ、お城を抜け出すようになったのです。
本当は毎日でも外に出たいのですが、お稽古が忙しいのでそうもいきません。
ルーカー王子は毎日「今日は行けるかな」「誰にも見つかってないかな」とドキドキして過ごしました。
そんなある日、なかなか寝付けなかったルーカー王子は久しぶりに窓の外を眺めました。
美しい満天の星空はお妃様の話を思い起こさせ、胸が切なくなります。
「母上、導いて下さりありがとうございます。おかげで外を知る事ができました」
返事をする者は誰もいません。
ルーカー王子はいつも以上に寂しくなってしまいました。
その時です。
星の一つがキラッと光り、またもやスゥーッと弧を描いてルーカー王子の方に向かってきたのです。
「うわっ!」
一筋の流れ星はお城の麓の崖下に落ちて見えなくなってしまいました。
身を乗り出して窓の外を見下ろしますが、やっぱり暗い夜の森しか確認出来ません。
「これも母上の導きなのだろうか?」
崖下に何かあるのでしょうか。
次の日、ルーカー王子は朝の勉強もそこそこにお城を抜け出しました。
ザクザク、ザッザッ。
暗い抜け道を小さな灯り一つで進んでいると、何という事でしょう。
「あれ、穴が開いてる」
前に来た時に閉め忘れたのでしょうか。
そんなはずはないと思いながら、ルーカー王子はおそるおそる穴の外に出ました。
「誰が石をどかしたんだろう?」
もし悪者だったら大変です。
ルーカー王子は少し離れた所に隠れて穴の様子を見る事にしました。
そしてその犯人はすぐにやって来ました。
「ほら、ここ、ここ。変な穴が開いてるだろ? この岩で隠されてたんだぜぇ」
「ホントだ。……これ、自然に出来たものじゃないね。きっと誰かが掘ったんだよ」
近くに住む子供でしょうか。
とても大きな男の子と小さな金髪の男の子がおっかなびっくりといった様子で秘密の抜け道を覗き込んでいます。
秘密が見つかってしまった焦りと悔しさ──
同じ位の子供を初めて見る嬉しさと緊張──
ルーカー王子の心の中は大忙しです。
「見守っていて下さい、母上」
ルーカー王子ははやる鼓動をどうにかおさえると、勇気を出して抜け穴の前で話し込む二人に声をかける事に決めたのでした。
◇
その日の晩、ルーカー王子は窓から空を見上げました。
またもお妃様を思い出してしまいますが、今は寂しくないのだから不思議です。
「見守ってくれてありがとうございます。おかげで友達が出来ました」
声は聞こえません。
それでも星々がチカチカと瞬く様は、まるで「良かったね」と答えてくれているようでした。
◇
それから月日は流れ、数十年後──
「マオーさんマオーさん! 今夜はナントカ流星群だそうですよ! 見に行きましょうよぅ」
「そうか。風呂と歯磨きを済ませた今、圧倒的に面倒臭いが勝るな」
赤髪の少女に付き纏われた角兜の青年が、にべもなくベッドに腰掛けている。
このまま就寝するつもりなのだろう。
少女は不満を露わに頬を膨らませた。
「もー、マオーさんって時々凄くインドアですよねぇ。じゃあ先生……」
「断る」
「判断が早い!」
傍に居た金髪の青年にも振られてしまい、少女は水色の髪をポニーテールに結った女性に泣きついた。
「うぅ、エーヒアス~……流星群……」
「はいはい、付き合うわよ」
「やったー!」
飛び跳ねて喜ぶ少女と上着を手渡す女性のやり取りは、歳の近い友人同士というよりも姉妹のようである。
角兜の青年は外出の準備をする二人をぼんやりと眺めていたが、ややあってハッとしたように立ち上がった。
「いや何サラッと女子供だけで出掛けようとしてるんだ!? 夕飯後の外出は保護者同伴じゃなきゃ認めんぞ?」
「「いや誰目線!?」」
女性陣の疑問には答えず、角兜の青年もいそいそと上着を羽織る。
それとほぼ同時に金髪の青年がマントを差し出した。
「はぁ……魔王様が行くなら私も同行します」
「あざまるー」
角兜の青年は軽口を叩きながらマントを受け取ると、はしゃぐ少女の後ろに続く形で宿屋を出た。
空は満天の星空である。
どれどれ、と見上げた端から一筋の光が流れて消えた。
「わぁ! 凄い凄い! さっそく見れましたぁ!」
「フフ、素敵ね」
キャッキャと姦しい二人の後方で、角兜の青年は夜空を見上げて呟いた。
「家金彼女」
「……願い事を三回ではなく、三種言う人は初めて見ましたよ、魔王様」
「いやぁ、冗談冗談。そもそも流れ星へ願い事なんて『万が一叶ったら儲けもの』程度のおまじないだしなぁ。それに……」
──願いなら、とうの昔に叶えて貰った。
──これ以上を望むのは流石に星にも悪かろう。
パタリと言葉が途切れ、金髪の青年が首を傾げる。
しかし角兜の青年は穏やかな笑みを浮かべるだけで何も言わない。
また一つ、星が流れた。
【悲報】作者の配慮不足で盛大なネタバレを食らってしまった被害者が出てしまいました【速報】
誠に申し訳ありません! 許して下さい作者に出来る事なら何でもしますから!(出来る事が少ない定期)
戯れ言はさておき、修正前のこのページにあった登場人物まとめは加筆してから次話に投稿し直します。
作者の事は嫌いになっても魔王様の事は嫌いにならないで下さい。
この度は大変失礼致しました。




