15、賞状やトロフィー、表彰盾は意外と埃が溜まる
無事にコハクの森を出た我々は徒歩で王都方面へ向かう事となった。
空間転移魔法を使いたい俺達にとって幸運だったのは、ドールザーが道中の馬屋で離脱してくれた事である。
どうやら別件の仕事があるらしい。
彼にはメープルドラゴンの無害アピールを念押ししたし、もし他所で話題に上がっても危険視はされないだろう。
こうして俺達は誰にもバレる事なく関所を越えて王都の帰還に成功する。
最大の誤算は、宿に着く頃にはすっかり日が暮れてしまっていた事だった。
ではここで一つ問題を出そう。
Q、主が連絡もなしに晩御飯の時間に帰らず、近くに姿もないとなると、家臣はどうなると思う?
……(シンキングタイム)……
……なんだ、知らんのか?
A、鬼 に な る ん だ よ 。
いやぁ、怒られた怒られた。
「遠くに行く時は私も付いていくと言いましたよね?」
「言ワレマシタネ」
「帰りが遅くなる可能性がある依頼を受ける時は事前に言えとも言いましたよね?」
「言ワレマシタネ」
「……真上の反対は?」
「マシタネ」
まさかいい歳した大人が門限破った位でここまで怒られるとは思わないじゃん?
グルオの説教はなかなか終わらず、お土産のミツもご機嫌取りのような形で渡すはめになってしまった。
不服の極みである。
とにもかくにも翌日にはフュベルダ嬢への納品も済み、ファースィオンから報酬の8000エーヌを受け取る事ができた。
結構な採取量だったので当然ともいえるが、最高金額とは嬉しい限りである。
ちなみに翌日になってもグルオの機嫌は斜めっていた。
「全く、今後は報連相を怠らないで下さいよ。モグッ、いざという時困ります……モグッ。カロンもだ。魔王様がやらかしそうになったら必ず私に報告しろ、モグ」
「あのぅ、先生。怒るか食べるかどっちかにしません?」
それをカロンが言うか。
※前話参照。
何だかんだ言いつつも器用に口元を隠しながらミツタップリのトーストを三枚も食べる家臣の姿に、やはり多めにミツを貰ってきて正解だったと確信した。
エーヒアスも気に入ってくれたし、二人に喜んで貰えたなら何よりである。
◇
……と、こんな感じで良い報酬を得る事もあったが、基本的に俺(とカロン)の仕事に代わり映えはない。
日雇いの簡単な仕事ばかりである。
こんな低収入ではマイホームの夢は遠いと思われるだろう。
……が、安心して欲しい。
なんと副収入もあったのだ。
一つはレオの報酬である。
彼が最後に渡してくれた袋の中身はいわゆる貴重品であった。
激レアな切手の数々に、歴史的価値のある魔法書数本。
数十年前に流行った吟遊詩人や曲芸師のサイン数枚。
そしてちょっとオシャレな封蝋印二点である。
一つ一つの品が「え、これ本当に売っちゃって良いの?」ってレベルの品々だったから驚いた。
グルオは全てを売る気満々のようだったが、何となく封蝋印だけはカロンと分け合って手元に残しておく事にした。
純金製らしいし、これも記念だと思っておこう。
気になる売却価格は合計50万エーヌ。
国王からのご褒美180万エーヌと合わせると、レオ関係で230万エーヌも稼いだ事になる。
綺麗な金してるだろ、嘘みたいだろ。この大金、俺とカロンだけで稼いだんだぜ。
本当にありがとうレオ少年。
オッサンだのクソ兜だのといった発言は全て許そう。
そして二つ目の副収入が広場で定期的に行われる面白イベントの賞金である。
参加料金はたったのワンコイン。
俺は時間さえ合えば積極的に参加していた。
結果、「早口言葉ダンスバトル」「古今東西ストンプ選手権」「にらめっこ奇声トーナメント」等、数々のイベントで優勝した。
優勝賞金は金一封の場合が多く、準優勝も含めて合計するとそこそこの賞金を稼げた計算になる。
俺の活躍は人目を引くのだろう。
今では広場を歩く度に「うわ、また出たあの兜」とか「おぅ兜の兄ちゃん、次の変な大会も出んのか?」と声を掛けられるようになってしまった。
「人気者って辛いぜ(長髪ファサッ)」
「あのぅ、マオーさん。暫くの間、少し離れて歩いて欲しいです」
何かカロンが言ってるが、知らん知らん。
「フフッ、マオーさん。知名度と人気度はイコールじゃないのよ?」
何かエーヒアスも言ってたが、知らん知らん。
それはそうとエーヒアスの仕事も進展があったらしい。
国王へ贈る品が早くも完成し、先日無事に献上出来たそうだ。
その数、なんと三品目。
銀製の食器類とコート掛け、そして両開きの棚である。
食器はデザインの美しさを全面に──
コート掛けは美しさに加え、高さや幅を調節出来る利便性を取り入れ──
両開きの棚は美しさと利便性に加え、珍しい材質や宝石を使った希少性まで考慮され──
短期間で仕上げたとはいえ、どれもが職人の本気が詰め込まれた一級品である。
国王やドリュー氏のみならず、まだ一度も姿を見せていない王妃も大満足の品だったらしい。
まぁ国王達としても早く色々新調したかっただろうし、喜ばれるのは必然だったとも言えよう。
「ウフフ、王家の後ろ盾って凄いのね。暫くはお店に『国王様も愛用中!』って貼り紙でも貼っておこうかしら」
「その際はぜひ『有名ドワーフ職人も認めた!』とか『デイグが育てました』の紙も貼ってやれ」
「あら、私は野菜かなにか? まぁ良いけど……いずれは自分だけの力でも爆売れさせてみせるわ」
俺が日雇い仕事やイベント参加に精を出している間、「エヒたんブランド」の知名度は着実に広まっていたようだ。
いや、ファンが勝手に呼んでるだけで「エヒたんブランド」は正式名称じゃないけども。
どんな理由と経緯であれ、バズったもん勝ちである。
あ、国王の話で思い出したわ。
グルオの仕事についても進捗があったんだった。
奴も国王の後ろ盾を得た一人だという事を忘れてはならない。
俺が直接見た訳ではないが、本人の話以外からも情報は得ている。
<証言者1、ドリュー氏>
「グルオ殿の仕事ぶりは清掃チームの主任から報告を受けているよ。特殊な清掃内容にも関わらず見事な手際だそうだ。最近は清掃員の教育マネージャーに任命されたらしい。短期間の役職なのが残念でならないよ」
<証言者2、ファースィオン>
「先日お見掛けしましたが、グルオ殿は凄いですね。戦闘時も頼りになりましたが、清掃時はその比ではありませんでした。清掃チームの主任にも指示を与えていて、もはや誰が上司か分からない振る舞いでしたよ」
<証言者3、特殊清掃員A氏>
「特殊清掃員ってのは中々に難しい仕事でな。除菌、消臭は当然として、あらゆる事象の痕跡を完璧に消す『原状復帰』がとにかく重要なのさ。グルオ殿はその心得があると見える。鞄から一般家庭用ではない、特殊な薬剤が出てきた時は驚いたぜ。あれ、結構高いんだよな」
<証言者4、ベテラン清掃員B氏>
「くん煙剤の後処理ってかなり面倒なんですよ。本城は広いし、やはり時間がかかりますね。それでも予定より早く片付いているのはグルオさんの働きが大きいかと。あの人、仕事が丁寧なのにめちゃくちゃ早いんですよ。もはや掃除の神ですね」
<証言者5、マダム>
「国王様直々にお呼ばれするなんて、流石グル先生ですわ。でも、おかげで『整美講習会』は無期限延期になってしまいましたの。ねぇそこの兜の貴方、グル先生のお城の仕事がいつ終わるのかご存知ではなくて?」
なんで俺が清掃員だのマダムだのと話す機会があったのかって?
たまにドリュー氏に呼ばれて南塔に赴いていたからな。
清掃員の話はその時に偶然耳にしただけである。
マダムは城門を出た所で普通に捕まった。
どうやら俺を城勤めの兵士と勘違いしたらしい。
噂を聞いた感じ、結構稼いでるどころか出世してるみたいだし、何ならもう「アイツ一人で家建てられるんじゃねーかな」状態ですらある。
「皆それぞれ頑張っているんだなぁって思いました……と」
「マオーさん、また日記書いてるんです?」
「たまには見せて下さいよぅ」と纏わりつくカロンを片手であしらい、俺は日記帳をパタリと閉じた。
今日をもって資金繰り開始から丸二ヶ月経つ。
今後どうするかは明日にでも決めるとしよう。
すっかり慣れ親しんだ宿屋の天井を仰ぐ。
見慣れた光景だ。
この部屋とももうじきお別れだと思うと少しだけ寂しい気がした。
<番外編用の質問募集のお知らせ>
魔王様(マオー)、グルオ、カロン、エーヒアスへの質問を募集させて頂きます。
質問数は最大お一人様5つまで。
その際、質問内容に添えて希望する回答者をお書き下さい。
例
・好きな色は?(全員)
・マオー様はお風呂の時、体のどこから洗う?(魔王)
・グルオの初恋は?(グルオ)
・家族はいるの?(カロン)
・旅で一番しんどかった事は?(エーヒアス)
ふざけた質問から真面目な質問まで。
集まった質問に皆が答えます。
募集期間は2024年3月末日くらいまでです。
※締切は予告なく変わる可能性があります。予めご了承下さい。
作中でお名前の公表等は一切しませんので、メッセージか活動報告欄にて気軽にお寄せ下さい。
感想欄での募集はしておりませんのでご注意を。
なんなら挨拶文も不要です。
質問の箇条書きだけでも喜んで採用します。
(センシティブな質問やモラルに反する内容等はNGです。
また、全ての質問が採用されるとは限りません)
なお質問者がゼロでも番外編は投稿させて頂きます。
代わりに質問内容が薄くなりますがご容赦下さい。




