12、ダンボール箱は虫やカビがついてくる事があるので長期使用に向かない
翌朝。
俺とカロンは朝食もそこそこに宿を出発した。
グルオもエーヒアスも普通に仕事があるし、特に何も言われる事はなく自由の身である。
「よっしゃよっしゃ。では行くぞ、カロン」
城下町の外れまで移動した我々は人目につかない建物の陰に身を潜める。
ここまで来ればやる事は一つしかない。
「フッ……ペクマクマヨヨン!」
「いや格好つけても呪文ダサいです、マオーさん」
いつものグニャリは割愛するとしよう。
いつグニャ、いつグニャ。
「よし、っと」
揺れの治まりと共に我々は王都の塀の外に立っていた。
コエダを大っぴらにする訳にはいかないし、あの関所を通るのは面倒だからな。
仕方ないね。
根が真面目なカロンは「良いのかなぁ……」と不安を繰り返しているが、何をそんなに心配する必要があるのやら。
もしバレたとしても全て俺に任せておけ。
全力で謝罪してやるよ(キメ顔)
そんなやり取りをしながら、俺は地図を頼りにもう一度空間転移魔法を試みる。
名付けて「人目を気にしつつ少しずつコハクの森に近付く作戦」である。
まぁ結局トータル三回の転移で森の入り口に到着しちゃった訳だけども。
流石徒歩二時間……案外近くて拍子抜けだわ。
森は深い緑に覆われており先が見えない。
周辺は苔むした岩場になっていて、道は森の手前で途切れている。
途切れた道の脇には古びた看板が立っていた。
「何々……『この先、コハクの森。迷子多発。立ち入りは自己責任。命を大事に』……か」
「ヒェッ……! ココってそんなに危険な森なんですか!?」
少し戻った先に道や立て札などの人工物が見える事からみても、この森は滅多に人の立ち入りが無いことが窺える。
カロンはあまりにも仰々しい警告文のせいで完全に怖じ気づいてしまった。
「大丈夫だカロン。迷子なんてどこでも起きるし、冒険者自体が自己責任みたいなものだろう。命を大事にとか、知らん奴に言われるまでもない事だしな」
「いやいやマオーさん、この看板が伝えたいのってそういう事じゃないと思うんですよぉ……」
残念、どうやら俺は人を励ますのが下手なようだ。
何も分かっていないコエダを抱きしめるカロンを尻目に、俺は探索用形態に移行する。
……どんな形態かって?
お久しぶりの白い雨ガッパ(上下仕様)ですが何か?
※忘れた人は五章9話参照
長手袋もバッチリ装着したし、虫よけ対策もした。
これで一先ず安心である。
「落ち着けカロン。行きたくないなら一度王都まで送るか?」
「あわわ、行きます! 行きますからその恥ずかしい格好で転移しようとしないで下さい~!」
やけに必死に止める理由は考えない事にして、俺達はようやくコハクの森に足を踏み入れるのだった。
ギャアギャア──
キキーッ──
ジジッ、ギッ
森の中は時おり鳥やら獣やら虫なんかの聞き慣れない声が響いている。
木々の背が高いせいか葉のざわめきがやけに遠い。
木漏れ日が差しているとはいえ、やはり晴れの日の朝とは思えない程には薄暗かった。
「うぅ……静か過ぎて怖いですねぇ」
「そうか? 結構色んな獣の鳴き声が聞こえて楽しいが」
「えぇぇ? マオーさん、どんだけ耳が良いんですか」
やべ。そこは個人差としか言えんな。
何となく迂闊な事も言えず、俺達の会話は徐々に減っていった。
ザクザクと落ち葉や枝を踏みしめる音が大自然の中に消えていく。
方角的には真っ直ぐ進んでいる筈だが、如何せん初見の場所ゆえ自信はない。
一度だけ群れからはぐれた若いバネウルフと戦闘になったが、カロンのファイアに驚いて逃げてしまった。
集団だったら俺がどうにかするしか無かったのでラッキーと思おう。
「……ん?」
「? どうしました? マオーさん」
不思議そうに見上げてくるカロンを片手で制止し、耳を澄ます。
俺の耳は間違いなく、獣とは違う人型の足音を捉えていた。
数は一つ。
地形のせいで分かりにくいが、距離は四、五十メートル後方といった所か。
魔物か人か。
敵かモブかの判断がつかない以上、我々の取る行動は三つである。
①無視する
②こちらの速度を上げて距離を取る
③隠れてやり過ごす
①の無視は相手が敵の場合、気付かれた時がダルい。
②の速度上げはカロンの体力的に厳しいだろう。
不規則に生い茂る木々のせいで空間転移も難しいしな。
と、なると③か。
隠れてやり過ごそうそうしよう。
「カロン、後ろから誰か来る。隠れろ」
「え? 誰かって誰でしょう。まさか迷子とか!?」
「いや、足音は真っ直ぐ一定だ。それに早朝からこんな辺鄙な森の奥に来るなんて、普通に考えてマトモじゃないだろう。絶対碌な奴じゃないか変人だ」
「それ私達にもブーメラン刺さってません?」
キョロキョロと隠れられそうな茂みを探すカロンに倣い、俺も辺りを見回す……が。
「何もねぇ~~」
こんな深い森で隠れ場所が見つからないって事、ある?
かくれんぼって大柄な潔癖男には難易度高すぎな件。
どの茂みも絶妙に隠れられないサイズだし、木の太さも微妙だし。
地べたに這えば隠れられるだろうが、俺には無理な芸当である。
そもそも全身真っ白で超目立つし。
詰んだ。
「ちょっとマオーさん、なに突っ立ってるんですか? 早くカッパ脱いで隠れて下さいっ」
「なら今すぐ俺がジャストフィットする綺麗な箱を持ってきてたも」
「いや無茶言わないで下さいよ!」
どことなくグルオに似てきたカロンの突っ込みにそこはかとなく寂しさを覚える今日この頃。
ついに事態は動いた。
「そこで何をしている」
「ヒャアッ!?」
そう、足音の主に追い付かれてしまったのだ!
途中から普通の声量で喋ってたし、遅かれ早かれ人がいるのはバレてただろうから仕方ないね。
俺が選ぶのはいつも4つ目の選択肢なのさ。
「って、んん? その声はどこかで……」
「む。その兜は……」
改めて相手と向き直れば見覚えのある大男と目が合った。
あのほら、えーっと、あれだ、悪徳領主の屋敷で会った……
えっと、なんか大剣の……
……あー、ちょっと待って。
喉のこの辺まで名前が出てるんだ、いやマジで。
確か
「ドールザーだ」
「いや全然覚えてましたけどぉ!?」
セッカチかよ。
それはそれとして、この状況で普通に知り合いと遭遇する確率って凄くない?
ドールザーは「久しいな、兜の剣士」と厳めしい顔のまま腕を組んで仁王立ちしている。
もっと気軽に「よっす、お久~」と笑えんのか、この男は。
危険は無いと判断したカロンが茂みから姿を現す。
俺とカロンを交互に見た彼は、まるで珍妙な物に出会ってしまったかのような顔で眉を顰めた。
「今日はあの金髪は居ないのだな」
「グルオの事? 今日は別行動デーだ」
「そうか」
相変わらず口数が少ない男である。
「Youは何しにこの森へ?」と問えば、ドールザーは「仕事だ」と案外素直に答えてくれた。
「ほう? イヨイヨのギルド員がここまで来るとは、中々ご苦労な事だ」
「まぁ……うむ」
どこか歯切れが悪い。
カロンと顔を見合わせていると、ドールザーは観念したように口を開いた。
「実は個人的な依頼を受けてな。メープルドラゴンという魔物を探しに来たのだ」
「わぁ、凄い偶然ですねぇ~」
おい口が軽いぞカロン!
ジトリと睨む俺に気付かず、カロンはアッサリと自分達の目的がメープルドラゴンのミツであると明かしてしまった。
あちゃ~、もしドールザーの目的がメープルドラゴンの討伐とかだったとしたら、俺はどう立ち回れば──
「そうか。俺もメープルドラゴンのミツを求めている」
問題無かったわ。
オケオケ。
別に競争する訳じゃないし、目的地が同じ以上わざわざ解散する理由もない。
旅は道連れとはよく言ったものである。
流石にこんな所で「かつての敵と行動を共にする」なんて胸熱展開が待っているとは思わなかったがな。
小声で「変なパーティーだな」と呟けば、「その格好のお前が言うか」と返されてしまった。
角兜&全身雨ガッパコーデの何が悪い!




