9、時間の経った血液汚れは浸け置き&ペースト状の粉末洗剤
レオの依頼を完遂できたは良いものの、宿屋に帰ってからがまぁ~~大変だった。
ソノ大変サヲ以下ニ記ス。
①帰りが遅れた事で、グルオに「今何時だと思ってるんですか? もう少しで探しに行く所でしたよ」と親にも言われた事無いセリフで叱られ。
②レオショックから立ち直れないカロンは晩ご飯を作れず。
結果、固い干し肉とパンを貪るしかなくなった。
③とにかくグルオにホウレンソウ。晩ご飯を食べたらすぐに騎士団に通報する事に。
④なんと夜の駐屯所は大騒ぎ。
かの有名な「居座り強盗四天王団が仲間割れして自首してきた」との事でエライコッチャになっていた。
⑤とりま報告だけして帰宅。
お気にのマントを失った悲しみが後から湧いてくる。
⑥翌朝一番に事情聴取。
どうやら「居座り強盗四天王団」のボスが俺に負け、自首するように言われたと話したらしい。
⑦聴取ついでにグルオも同伴でご遺体発見現場へ。
そこで二十年ほど前に起きた一家三人惨殺事件の話を聞いた。
両親が玄関先で、幼い息子が庭で殺されるという惨事だったらしい。
遺体は行方不明とされていた娘で間違いないとの事。
カロンが泣いて大変だった。
⑧夕方、ドリュー氏からジワンエンドリー城まで来るよう呼び出される。←ナウ
……
……え、俺、何かやっちゃいました?
※例に漏れず映像でお届け出来ないのが残念ですが、只今魔王様の目が高速で泳いでいます。
いやまぁ、心当たりなんて……大いにあるよね。
不法侵入とか器物損壊(主に壁)とか、現場から勝手に物を持ち出したり賞金首放置して夕飯優先したとか。
……これ、怒られるだけで済む?
何らかの法に触れない?
元魔王が豚箱エンドとか色々な意味で終わるんだけど。
いざとなったら空間転移魔法使ってでも逃げようそうしよう。
すっかり身構えた俺は仲間達と共に城の南塔で王との謁見を果たした。
国王は相変わらずの威圧感を放っており、傍に立つドリュー氏の存在感が完全に食われている。
「オッス、一週間ぶり! まだ本城には入れないの?」なんて聞ける筈もなく、俺は持ち前のクールなポーカーフェイスで告げられる言葉を待った。
「よく来たな、冒険者マオーとその仲間達よ」
ちょっと愉快な感じに言うのやめてくれない?
そうツッコミたい気持ちをどうにか堪え、国王の話に耳を傾ける。
「話というのは他でもない。昨日のお主の功績についてである。報を聞いて驚いたぞ。まさかあの卑劣な『居座り強盗四天王団』を壊滅に導くとはな……」
よっしゃあぁそっちか!
どうやらお咎めはなさそうだと判断し、心の中でガッツポーズを決める。
今日はいい日だ、間違いない!
国王はこちらの安堵などお構いなしに粛々と賛辞を並べていく。
「長年捕らえる事が出来ずに手を焼いていたのだが、お主のおかげでこれ以上の被害を食い止める事が出来た。被害者並びに多くの遺族も報われるであろう」
「お、おぉ……アイツらホントにガチで悪い奴らだったのな」
今更だけど引くわ。
人って見掛けによらないんだなぁと実感していると、国王は「それだけではない」と深く息を吐いた。
「そこにいるグルオにも、昨日から城内の清掃業務の特別指揮官として働いて貰っているしな。たった一日で作業効率がグンと上がったと聞き及んでいる」
「え、ナニソレ初耳なんだが?」
グルオってば俺の知らない所でゴキ処理してたの?
信じられない思いでグルオを見ると、「貴族相手に清掃講義してたらスカウトされました」と悪びれる様子もなく事後報告をかまされた。
HAHAHA、この報連相ガバガバ家臣め。
職業が斥候なのに引き抜きされたってか。
笑えんわ。
動揺を隠せずにいる間も国王の話は止まらない。
「エーヒアスも素晴らしい仕事をすると聞いておる。騎士団のみならず、ギルド一帯でもお主の打つ武器、防具が評判だとな」
「フフ、ありがとうございます」
「巷では『エヒたんブランド』と呼ばれ、それを持つ事が一種のステータスになっているそうだが……それは誠か?」
「さぁ……? よく分からないけれど、そういえば最近よく『エヒたん』って呼ばれる気がするわね」
え、ナニソレ初耳なんだが?
エーヒアスってば俺の知らない所で「エヒたんしか勝たん」とか言われてたの?
これまた信じられない思いでエーヒアスを見ると、「何故か剣や盾に私のサインを彫る依頼が増えてるのよねぇ」と首を傾げられた。
HAHAHA、推しのサインを求めるとは、騎士団員も人の子なんだなぁ~……じゃない!
この子大丈夫? 変なファンついてない?
今度エーヒアスの仕事場を後方彼氏面しながら見に行くとしよう。
国王はひとしきり俺の知らない情報を落とすと、改めて頭を深々と下げた。
「ギャンザクの件、霧の洞窟、愚息の護衛、魚人騒ぎ、城の奪還……そして凶悪犯の説得と未解決事件の被害者発見。お主達の功績はあまりにも大きい」
「いやぁそれ程でも」
感謝は良いから早く帰らせて欲しい件。
この話長いの? と絨毯の模様を眺めていると、ドリュー氏が紙の束を取り出してきた。
何かと思う暇もなく国王の朗々たる声が響き渡る。
「そこで、だ。お主達の数々の功績を認め、褒賞を与える事となった」
「ほう、それは有り難い」
確かあの賞金首は一人約五十万エーヌ、居場所の情報だけでも十万エーヌだったか。
直接捕らえた訳ではないから安くはなるだろうが、それでも結構な額が期待出来そうである。
いやぁ、良かった良かっ……
「代表としてマオー。お主にはある領土と男爵の爵位を授けよう」
……
「……ファッ!?」
やべ、声裏返った。
何かの聞き間違いかと確認するより早く、グルオが発言する。
「国王様、今何と?」
「マオーに領土と爵位を授けると言ったのだ。勿論、僅かだが褒賞金も出そう」
聞き間違いじゃなかった。なんてこった。
そういえばこの国王、俺を「不遇生まれの隠れ高貴な冒険者」だと勘違いしてたんだったわ。
だとするとこれは御礼を兼ねた気遣いなのかもしれない。
こんな所で誤解を解かなかったツケが回ってくるとは思わなんだ。
人間の統治が如何ようなものかは知らないが、面倒事は勘弁である。
どう考えても「ムリ」の結論しか出ず、俺は慌てて辞退の姿勢を見せた。
「いいいいや、おちもき……お気持ちだけで結構ですん」
「まぁまぁ、マオー殿。ここは陛下を立ててあげて下さい。我が父は貴殿を気に入っておられるのです」
ドリュー氏がにこやかに差し出してくる紙の束を見て、漸くそれが「叙爵に関する書類」なのだと理解する。
いやいやいや、ないないない。
「折角の話だが、そもそも我々は旅半ばの冒険者故、領土を渡されても管理など出来ぬ。ジャガイモ程度の知識しか無い中で男爵の役目も果たせるとは思えん。よって爵位も領土も不要である」
ハッキリとNOを言い渡せば、国王は何故か面白そうにニヒルな笑みを浮かべた。
「与える土地がサイッショ大陸のナカイド領と聞いても同じ事が言えるか?」
「いやドコー?」
「ふむ……お前にはハジーメ村周辺、といった方が分かりやすいか」
「………………は?」
フシギだなぁ、凄く聞き慣れた地名が聞こえた気がするぞぉ……?
目が点になる俺に構わず、国王の話は止まらない。
「ここ近年、ナカイド領……ハジーメ村一帯を治める領主が高齢を理由に後任探しをしていてな。あの辺りはかなりの僻地だが、そこを目指すお主達には丁度良かろう」
「いやそれ都合よく厄介事押し付けてるやつ!」
ていの良い人材派遣かよ。
ご褒美が聞いて呆れるわ!
その後十五分に渡って押しつ押されつの攻防を繰り広げた結果、どうにか叙爵の辞退に成功する。
「なんと謙虚な。いや、むしろそこまで貴族に嫌悪感を抱いているという事か……だが……」
「頼むからこれ以上俺の生い立ちを深読みするの止めろ下さい」
頑なに「お気持ちだけで」を貫けたのは良かったが、国王の意味深な呟きが不穏であった。
「危ない危ない。『チルい田舎でのんびりスローライフ』という俺の夢が消え去る所だったわ」
「魔王様、頭痛が痛いみたいな発言になってます」
突っ込むな、流せ。
滝のような冷や汗をハンカチで拭いまくるも、仲間達はどこ吹く風である。
むしろカロンは「すごい勿体ないですよぉマオーさん!」と無邪気に残念がっている位だ。
一般人からしたら凄いご褒美だとしても嬉しくないんだよなぁ……
話が纏まった所で、一番嬉しいご褒美である現金を受け取る事となった。
その額、なんと180万エーヌ。
「予想の倍高かった件」
「レオ君の妹さん発見の手柄も含まれてるみたいですねぇ」
カロンが複雑そうに見つめる中、グルオはさっさと圧縮魔法鞄に現金入りの袋を詰めてしまった。
感傷に浸る暇も与えないとは、隙のない男も考え物である。
と、ここまで全く口を挟まずにいたエーヒアスが突然声を上げた。




