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4、食器洗いは油汚れが酷いものを最後に

 王城を救うレベルの特大イベントなどそう立て続けに起きる筈もなく、俺とカロン~時々コエダ~はここ一週間、実に平穏かつ健やかな毎日を過ごしていた。

特に代わり映えのないギルドの仕事(バイト)をこなす毎日。


 あえて何かを挙げるとするならば、カロンが「ギルドの食堂で皿洗い」というソロデビューを飾った位か。

初めての一人依頼が無事こなせたようで何よりである。


 後はそうだな……先日広場で開催された「早口言葉ダンスバトル」で、俺が華々しく優勝した位か。


 準優勝の男も中々の強者(つわもの)だったが俺の敵ではなかったな。

賞金の金一封も美味しかった。

来週行われるイベントは「魔獣声まねコンテスト」らしいので、今からコソ練しておこうと思う。




「しっかしこのペースでは中々金が貯まらんな」


「先生もエーヒアスもお仕事順調らしいですけどねぇ」


「人と比べるものではない。人は人、俺達は俺達だ」


 上ばかり見ない、これ座右の銘な。


 ちなみにエーヒアスの鍛冶屋はかなり評判が良いらしく、町を歩いてるだけでも噂が届く程である。

武器や防具のみならず、一般人が注文しやすい鍋や包丁、蝶番や鍵まで作るというのだから需要が高いのだろう。


 そしてグルオはというとまさかの経歴を作り上げていた。


 もはや恒例の「お掃除教室と掃除道具の販売&握手会」を開催していたグルオは、なんとお忍びで城下町に遊びに来ていた貴族のマダムに目を付けられたそうだ。

そのマダムが発信源となり、あれよあれよと貴族間で整理整頓、断捨離ブームが巻き起こってしまう。

飽きてしまい込み、そのまま忘れ去られていた芸術品や貴金属、衣装エトセトラ……


 それらの手入れはもとより、衣装部屋や物置き部屋、果ては使用人の寝床に至るまでとにかくピカピカにする習慣が流行ったのだ。

釣り上げた魚デカすぎぃ。


「私、不要なドレスを娘の部屋着に仕立て直しましたのよ」


「靴置き部屋を模様替えしましたの。掃除と管理がしやすくなったとメイドが喜んでいたわ。換気って大事ね」


「「オホホホホ」」


……みたいな感じなのだろう。知らんけど。

(※上記の会話は魔王様によるイメージです)


 いずれにせよ何なんだ、この庶民的ブームは。

俺のイメージする貴族像からかけ離れてるんだけど。


 貴族や王族には近寄らないという当初の決意など、大金の前には塵に同じ。

グルオは主婦層から羽振りのよい貴族層にターゲットを代え、ゴリゴリと業績を伸ばしていた。


 怖い。


 何が怖いってグルオの貪欲さが怖い。

いつか反・断捨離貴族やアンチボッタクリ族に刺客を向けられても知らんからな。


「こほん……とにかく我々は我々にしか出来ない事をやるしかないのだ」


「今日の依頼書、『誰でも出来る簡単仕分け』って書いてありますけどね」


「カロンよ。『誰でも出来る仕事』が『誰でも出来る』とは限らんのだ」


「それ何構文です?」


 そんなやり取りを繰り広げていると突然、背後の低い位置に何者かの気配を感じた。


 咄嗟に横に避ける俺と蹴り損なう誰か。

何者かの蹴り損なった足が脛にヒットするカロン。

……なんて不運な。


 振り返ると小さな少年が面食らった顔で俺を見上げていた。

まさか避けられるとは思わなかったらしい。


「うわ。お前やるじゃん」


「褒めて貰えるのは幾つになっても嬉しいが、むやみに人を蹴るのは頂けんな」


「避けた奴が言うなよな、オッサン!」


「オッサ……!?」


「ちょっと! 蹴られた私にも何か言うことは無いんですか!?」


 プンスコと脛を擦るカロンには目もくれず、少年は俺に人差し指を突きつけた。

人に指をさすな、俺じゃなかったらへし折られてるぞ。


「お前、冒険者なんだろ? ちょっとは強そうだし、オレの依頼を受けてくれよ」


「あ、オッサンの仕事は安くないんで。そういうのは正式にギルドを通してからどうぞ宜しく宜しくどうぞ~」


(やっす)い依頼書握り締めて何言ってんだよ」


 クソ生意気なキッズである。

彼はカロン同様にプンスコしながら手書きのボロ紙を突き出した。


「これ、オレの依頼書! その依頼の後で良いから引き受けてくれよな!」


「も~……あのですね、ボク。私達はそんなに暇じゃないんですよぅ。仕分けの仕事が終わったらコエダと日光浴したり魔法の特訓したり、お昼食べたり夕飯の買い出しをしないといけないんですから……」


「それ大して忙しくないだろ!」


 ああ言えばこう言う少年だ。

結局俺達は押しきられる形で子供のワガママに付き合うはめになってしまうのだった。





 そして数時間後──


 滞りなく魔石の仕分け作業を終えた俺とカロンは、遅い昼食もそこそこに少年が待つという小さな公園を訪れた。


「遅いぞ!」


「急ぐ気も無かったからな」


「ちょっとマオーさん、流石に大人げないですよ……」


 俺はオッサンじゃないからな、多少大人げなくたって仕方あるまい。


「してキッズ。我々に何を頼みたいのだ?」


「キッズって言うな! オレはレオだ!」


 クソガキッズ改め、レオはキャンキャンと吠えながら再び手書き依頼書を提示してきた。

そこには拙い字で「たから物の回しゅういらい」と書かれており、下の方には「ほうしゅう、たから物の山わけ」と書かれている。

……何故だろう、ろくでもない予感がするのだが。


「……レオよ。念の為に聞いておくが、この『たから物』とは具体的にどんな宝物なのだ?」


「そ、そりゃあ、すっごい物に決まってるだろ!? ほら、なんたって宝物だし!」


「「……」」


 あ、これアカン奴だ。

目が泳いでる依頼人にろくな奴はいないって何処かのばっちゃが言ってたもん。


「なるほど。つまりお前からしたら凄い宝物だが、我々大人、もしくは一般人からしたら金銭的価値のない(※1)、思い出はプライスレスな宝物(※2)って事でぉK?」


(※1)例:ブリキの玩具やカード、絵本、写真等。挙げだしたらキリがない。


(※2)稀にプレミアがつく事もあるが大抵はガラクタ。


 数手先を読む俺の見解に、レオは「全然ちがーう!」と両手を上げて抗議している。


「た、確かにお前らからしたら価値がない物も混じってるだろうけど! でもホントのホントにお宝なんだよ!」


「はいはい、分かった分かった、分かったさん」


「すっげー腹立つぞ、このクソ兜」


 レオはカロンに「お前こんなのとよく付き合えるな!」などと息巻いているが、俺からすればお前のような子供こそ付き合いきれないというものだ。

何故か赤くなっているカロンに促され、俺は渋々と依頼書の詳細を見た。


「ふむ。場所は下町の外れ……か? ここからだとそこそこ遠いな」


「そうだ。昔はここら辺と大して変わらなかったんだけど、今はゴロツキも多いし治安が悪くて子供だけだと危ないんだ」


「ひぇ……どうしてレオはそんな場所に用があるんですか?」


 ゴロツキと聞いて顔が強ばるカロンに、レオはムッとしながら口を尖らせる。


「だーかーら、お宝がそこにあるからだって! 早くしないと、その、ほら、誰かに持ってかれちまうかもしれないしな!」


「ほう。つまりその宝物は持ち去られる可能性のある物である、と?」


「うっ……ま、まぁそうだよ」


 妙に歯切れが悪い所が気になるが、彼の話は完全な嘘というよりも嘘と本当が混ざっているような気がする。

もしかするとレオの本来の目的は宝探しではないのかもしれない。

……とはいえ、ここまでガッツリ話し込んでしまった以上見放すのも気が引けるというものだ。


「どうする、カロン」


「えぇ……困ってるみたいだし、少し位なら付き合っても良いんじゃないでしょうか?」


「……だな。晩御飯の時間までに帰れるならば引き受けても良かろう」


 放っておいたら延々と別の奴に絡んでいきそうだし。

これも人助けである。


 俺達は待ちきれない様子で駆け出すレオを追い、下町方面へと歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございますっ 読むのもったいなくてガマンしていたけど、読んでしまいました。ニヤニヤしてます。 出番がないのに存在感だけですごいグルオさん (出番も欲しい)
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