3、空き家がすぐ痛む二大要因は湿気と空気の停滞
「まずグルオ殿。Gの弱点や習性の知恵を貸してくれた事。そして勇敢な戦いぶりは此度の戦いでは必要不可欠のものでしたな。30万エーヌをお渡ししますな」
「ありがとうございます」
ドリュー氏の報酬と合わせて40万エーヌを受け取るグルオをボケラと眺める。
あんな大金、俺なら怖くて持てない。
「次にエーヒアス殿。ガスマスクの改良と作成のお陰で、突入部隊の上限が増えましたな。Gに臆さぬ勇猛さ、回復魔法も見事でしたな。30万エーヌをお渡ししますな」
「フフ、ありがとうございます」
「そしてマオー殿」
え、俺!?
すっかり気を抜いてた俺は、まさかの指名に慌ただしく姿勢を正した。
「魔法水晶と魔法鏡の遠隔操作、及び全映像の生中継は前代未聞の神業でしたな。お陰で突入部隊はかなりスムーズに事を運べましたな」
「あ、そっちか……」
「よって30万エーヌをお渡ししますな」
マージでー!?
ちょっと面倒ではあったが、大した事してないのに30万!?
裏に風魔法の件やら不祥事の口止め料やらが含まれていたとしても、国王ってば太っ腹過ぎない?
「そしてカロン殿」
「は、ひゃいっ!」
「応援を頑張ってくれましたな。300エーヌをお渡ししますな」
気まで使われてるぅ!
カロンは見るからに落ち込みながらも丁寧に頭を下げている。
大人な対応が出来て偉いぞ、カロン。
後でお菓子でも買ってやろう。
「そしてここから先の話は国王陛下からお願いしますな」
「うむ」
咳払いと共に大臣からバトンタッチした国王は、神妙な面持ちで俺達を見渡した。
「話によると、お前達は家を求めて旅をしているとか」
「あ、正確には俺のマイホームでござる」
「ならばやはり資金繰りは王都で行うのだろう? そこでお前達には特別に、こちらで手配した宿屋での長期無料滞在を許可する」
……チョーキムリョータイザイ?
…………え?
理解が遅れた俺を押し退け、グルオが前に出て頭を下げた。
「それはとても有り難いお話です。主共々、深く御礼申し上げます」
「うむ。そこのエルフの娘も、鍛冶仕事をしたいのならば鍛冶屋だった空き家がある故、そこを使うがよい。私が許可する」
「まぁ、それは嬉しい。ありがとうございます」
トントン拍子に話が進む。
ここまで俺達にとって都合良い展開ばかりが続くなんて、後が怖すぎるんだけど。
俺、幸運の反動で死なないよね?
戦々恐々としながらも報酬の受け取りはつつがなく終了する。
塔を後にした俺達は無料で泊まれる事になった宿屋に入ると、すぐに今後の方針について相談し合った。
「……で、どうする? 皆の意見を聞かせてくれ」
俺としてはもうどうにでもなれ的な感じなんだけど。
「私は当然、鍛冶をしたいわね。ちゃんとしたお店を構えられるなんて滅多にない機会だし、私の夢の為にもここらでしっかり宣伝しときたいもの」
エーヒアスの夢は武器以外での鍛冶仕事で生計を立てる事だったか。
名を広めるならば王都での活動は必要不可欠なのだろう。
ウンウンと納得しているとグルオも口を挟んできた。
「私も個別に動いて資金繰りをしようと思います」
「またかよ」
もう全部お前一人でどうにかなるんじゃないかな──そんな荒稼ぎしてる未来が見えた気がする。
遠い目をしながら了承すれば、今度はカロンがおずおずと口を開いた。
「わ、私は一人じゃお仕事出来ないのでマオーさんと一緒が良いです……」
「うん知ってた」
俺とカロンとコエダの役立たずトリオ、もとい、いつものメンバーね。
「じゃあいつメンの我々は、ギルドで誰でも出来る簡単な仕事を斡旋して貰ってせっせこ小金を稼ぐとしよう」
「マオーさん、言い方っ!」
プクーっと頬を膨らませるカロンには気付かない振りをして、俺は仲間の顔をゆっくりと見回した。
「さて、一応の期限を決めようか。三日位でオケ?」
「魔王様、三日で何が出来ると思ってるんですか」
短すぎたらしい。
そんな睨まないでもろて。
暫し考えた俺は改めて皆を見回した。
「各々がそれぞれのやり方で資金集めをし、そして必ずまた集結する。……我々の集合は三日後じゃなく二ヶ月後、というのはどうだ?」
「フフ、いいんじゃないかしら?『二ヶ月後に、ジワンエンドリー城下町で!』って事ね」
ドンッ! という効果音が聞こえた気がしたけど気のせいだったわ。
こうして我々は二ヶ月の間だけ「宿屋は同じだが日中は別行動」という生活スタイルに身を投じる事となったのだった。
◇
「……とは言ったものの、いざ修行回となると気持ち的にダレるよなぁ」
「マオーさん、修行回じゃなくて労働回ですよぅ」
カロンがコエダを帽子に乗せつつ口を尖らせているが、お前のレベルならどんな仕事も修行と変わらないだろう。
……なんて思っても口にはしない俺、超優しい。
「とにかく、だ。エーヒアスとグルオがそれぞれ仕事に行ってしまった以上、我々も何かを為さねばいかんのだ」
「働かざる者、食うべからずですもんね!」
キリッとする彼女は気付いているのだろうか。
自身が最も働かざる者に近いという事に──
そんな無慈悲な思いは捨て置き、我々は近場のギルドへと足を運ぶ。
流石王都と言うべきか。
今まで訪れたギルドと比べれば明らかに規模が大きく、受け付けもしっかりしている。
意識高ぁい。
「失礼、近場で出来る簡単な日帰りの仕事を探しているのだが」
「はい~。では冒険者登録証のご提示をお願いしま~す」
受付けのお姉さんに登録証を見せ、俺とカロンのレベル差に驚かれるのは最早お約束である。
目を見開きながらも条件に合った仕事を勧めてくれるお姉さんのプロ意識が凄い。
依頼の一覧表をザッと流し見た俺は、適当に目に付いた募集要項を指し示した。
「では今回はこの仕事を受けるとしようか」
「分かりました~。ではこちらで手続きをしておきま~す。マオーさん、カロンさんはこのまま現地に直行で大丈夫で~す」
依頼書を受け取り背を向ければ、「レベル差えっっっぐ」とヒソヒソされてしまった。
おいこらプロならせめて聞こえないように言え。
まぁカロンには聞こえてなかったから良しとしよう。
「それでマオーさん。今回はどんな依頼を受けたんですか?」
「え、いつものだけど?」
俺は手中にある依頼書をペロンとカロンに見せた。
──【未経験・短期も歓迎】求む! 城下町の警備&パトロール【直行直帰OK】
──【お友達との応募OK】時給1100エーヌ【分からない事は先輩が丁寧に教えます☆】
「……ほんとに『いつもの』ですね……」
ガックリと肩を落とすカロンには悪いが、新しい事に挑戦する心の余裕など今の俺にはないのだから仕方がない。
一日やそこらではG-ショックの傷は癒えないのだ。
「文句は文書でのみ受け付ける。では行くぞ、カロン隊員」
「うぅ~。折角レベル8に上がったのに全然冒険者っぽくないぃ~」
かくして俺とカロンの資金調達初日は何の目新しさも面白味もなく始まり、つつがなく終わったのである。




