番外、FA御礼
四十万森生様より、素敵なファンアートを頂きましたので、挿し絵として数点お披露目させて頂きます。
二代目魔王様がマイホーム探しの旅に出る少し前のお話です。
四十万森生様
https://mypage.syosetu.com/1973014/
素敵なイラストをありがとうございました!
俺の名前は平凡太。
どこにでもいる普通の高校一年生……の筈だった。
なぜ過去形なのか──
それはある日、トラックに轢かれかけた所を異世界の魔王様に召喚されるという形で救われたからである。
もう家族や友達に会えないのは少し寂しいけど、仕方ない。
それより何より重要なのはこの異世界についてである。
だって魔物とか魔法が当たり前のようにあるんだぞ?
まるで漫画や小説のような世界じゃないか!
ラノベ好きとしてはテンション上がっちゃうのも無理はない。
しかも魔王様の目利きと温情でレベルが1から19まで上がり、魔物の仲間入り所か三代目魔王の座まで手に入れてしまった。
異世界転移とかチートとか魔王就任とか、まんま小説の主人公じゃん!
何の取り柄もない平凡な俺にはそぐわない厚待遇である。
……まぁ、魔力譲渡された直後は調子に乗って恥をかいたりしたけども。
こんな俺にも「思いやりの心を忘れるでない」の諭しだけで済ませてくれたのだから、二代目様は優しい方である。
妙に城の美化強化を念押ししてたのが不思議だったのだが、その謎はすぐに解ける事となった。
「……おい。その長い独白はいつ終わる?」
「え!? あっはい、すみませんグルオさん!」
いけない、いけない。
まーたやってしまった、俺の悪い癖。
考え事してると全部口から出ちゃうんだよなぁ。
ハタキでベシリと後頭部を叩かれながら、俺は慌てて武器庫の棚を拭き始めた。
この人──いやグールはグルオさんといって、俺が召喚された際に居合わせた二代目様の腹心である。
とにかく厳しい性格で、魔王城一の掃除屋にして清掃部隊の隊長さんらしい。
正直凄さが全然分からないんだけど、周りの魔物達がヘコヘコしてる所を見掛ける辺り、立場はかなり上なのだろう。
元人間の俺が三代目魔王になるのが気に入らないらしく、目付きも態度も怖いので少し苦手である。
「遅いぞ平凡太。その棚を拭き終えたら次は牢の清掃だ」
「はっ、はい!」
さて、何故三代目魔王を指名された俺が掃除をしているのか──
それはズバリ、魔王教育の一環である。
魔王という立場の引き継ぎは一朝一夕で済むものではない。
俺は自分の命と立場を守る為にも、早く強くなる必要があった。
朝は修行、昼は勉強、夜は自由時間と、大変厳しく忙しい毎日。
そんな大変な生活に加え、グルオさんはある提案をしてきたのだ。
「頂点に君臨するからには城内の環境を把握する事も必要な事だ」と。
一理ある。
もし勇者が殴り込みに来たり謀反が起きた場合、魔王が城内で迷子なんて洒落にならないだろう。
何より二代目様が城の美化強化に心力を注いでいるのだ。
何処が汚れやすいか、何処をどう掃除すれば効率が良いか、部下に任せきりにせず自分でも考えねば城を守る者として申し訳が立たない。
そういえば先日、魔法石に吸引魔法を付与して誰でも使える掃除機を提案したのだが、その時の二代目様の喜びようは凄かった。
珍しくグルオさんも目を輝かせていたし、他の魔物達も「凄い発想力だ!」「夏休みの宿題工作か!」と褒めてくれた。
どうやらこの魔王城では魔力だけでなく清掃力もステータスとして一目置かれるらしい。
こうして俺は夜の自由時間を利用して、グルオさんに城内の清掃レクチャーをして貰っているという訳だ。
「いい加減黙って仕事しろ」
「うぐぐ、すみません……」
うぅ、また怒られてしまった。
意識的に口をつぐみながら清掃作業を済ませていく。
さて、次は牢掃除か──
よいしょと掃除道具を抱えた所で、ガチャリと倉庫入り口の扉が開いた。
「やぁやぁ。上手くやっているか平凡太」
「わ、二代目様!? なんでこんな所に?」
「今丁度現在、旅に出る支度中なうでな。武器庫に眠りしあるアイテムを取りに来たのだ」
ちょっと通りますよ、とグルオさんの前で手刀を切る二代目様のフランクさが凄い。
これは見習うべきなのだろうか──と思ったけれど、グルオさんの眉間に皺が寄っているので止めておこうと思う。
「魔王様、入り用の物があるならば私共にお申し付け下さい」
「いやぁ、どれが丁度いいか自分で選びたかったからな。ほら、俺って身に付ける物は実物見て決めたい派じゃん?」
「知りませんよそんな事」
二代目様はグルオさんの苦言など物ともせず、ウロウロと防具置き場を行ったり来たりしている。
何を探しているのだろうか?
「二代目様、探し物は何ですか? 見付けにくい物ですか? 手伝いましょうか?」
「そこまでではない故、手伝いは不要だ。鞄の中や机の中を探す必要はないぞ」
そうこう話す内に、二代目様は目的の物を見付けたらしい。
「これこれ!」と何かを指し示したかと思うと、次の瞬間にはグルオさんがアルコール消毒に取り掛かっていた。
流石城一番の掃除屋。早い、早すぎる。
「二代目様。それって兜……ですか?」
小柄な俺からすると結構大きめのゴツい兜だ。
角のある魔物用なのか二ヶ所に大きな穴が空いている。
二代目様はピカピカに拭き上げられていく兜を眺めながら満足気に口を開いた。
「旅の途中、角を人間に見られたら大事だろうからな。俺は無駄に争う気はないし、兜を被ればこの禍々しい角も誤魔化せよう」
「なるほど! 角を兜の飾りって事にするんですね!」
これは賢い!
小さく拍手する俺とは対照的に、グルオさんは小さく溜め息を吐くだけだった。
彼は今でも二代目様が魔王の座を退く事に大反対らしい。
「もし人間に魔族バレしたらすぐに帰宅ですからね」
「バレないバレない。モーマンタイ」
「そう言っていざバレた時に駄々こねないで下さいよ」
思わず「お母さん?」と突っ込みたくなるようなやり取りである。
不敬罪が無い城って平和で良いね!
※ここは魔王城です。
……と、何だかんだで見ている分には面白いこの二人だが、来週には城を出てしまうという。
寂しくなるなぁ。
呑気に「で、これど→よ。似合う?」とピースする二代目様には、本音を飲み込んで笑みを返す。
この世界のファッション事情は詳しくないけれど、せめて不審者扱いされないよう祈っておこう。
……って思ったけど、常にあの兜というのは流石に「ナシ」だろう。
やはりここは正直に「ダサいです」と伝えるべきであったか──
なんて失礼な事を思いながら、俺はぼんやりと目を覚ました。
いつの間にか眠っていたらしい。
「おぉ凡太。やぁっと見付けたぜぇ」
「……あ、トトルさん」
俺の護衛兼、戦いの先生であるトロールのトトルさんがのっしのっしとやって来た。
「ヘッヘッヘェ、稽古場で昼寝とは良い度胸してるじゃねぇかぁ」
「わわ、すみません!」
トトルさんは俺を立派な三代目にすると二代目様に約束したらしく、いつも気にかけてくれている。
見た目こそ大岩のようにゴツくて怖いが、とても面倒見が良い愛妻家なのだ。
「今、二代目様とグルオさんが旅に出る少し前の夢を見てました」
「おぉ、それは懐かしいなぁ。グルオが一緒だから問題はねぇと思うが、やっぱり少し心配だぜぇ」
「上手くやっていると良いんですが、一つ気になる事があって……」
「ヘッヘッヘェ、奇遇だなぁ。俺もだぜぇ」
俺とトトルさんは顔を見合せて口を揃えた。
「「あの格好、逆に目立つんじゃ説」」
デスヨネー。
黒角兜マントのロン毛大男なんて情報過多だもの。
俺達は二代目様のマイホーム探しが順風満帆にいくよう、遠い目で祈るしかなかった。




