1、風が運ぶ花粉や黄砂はカバーをかけるか室内干しで対策を
昼過ぎに始まったG退治は奇跡的にも日暮れ前に片がついた。
かれこれ二ヶ月も城を奪われていた彼らにとって、今日という日は激動の一日であったに違いない。
城内の惨状には目を瞑っているのか、はたまた現実逃避か──
日は完全に暮れ、祝勝会という名の夕食を済ませた今もなお、大臣や兵士達のテンションが大気圏を突破している。
このお祭り騒ぎ、朝まで続きそう。
「やれやれ、これで本当に依頼は完遂だな」
「長かったですね。具体的には王都に着いてから丸一年経った気分です」
「おいやめろ。それ以上はいくない」
国王陛下のご厚意でシャワーを借りた俺とグルオは、一旦町の宿に戻るべく塔を出て空を見上げた。
わぁ、星が綺麗。
まるで最終回のような光景である。
ちなみにカロンとエーヒアスは疲労困憊で、今夜は塔の医務室にお世話になる事となった。
大怪我した訳じゃないし明日には回復するだろう。
「お待ち下さい、マオー様、グルオ殿! この度は本当にありがとうございました!」
ふいに背後からファースィオンが駆け寄ってきた。
甲冑を脱いだ彼は昼間見た時よりも若々しく見える。
わざわざ宴を抜けてまで追って来るとは見上げた律儀さだ。
「一番頑張ったのはお前達やグルオとエーヒアスだがな。あとカロン……の応援とか」
おっと危ない、俺とカロンの暗躍は秘密であった。
ボロが出ないようムググと口を閉ざせば、ファースィオンは「ご謙遜を」と意味深に笑った。
「マオー様の魔法鏡の生中継も見事なご活躍でした。それと、皆が口にしている神風の件ですが……」
「え、何? 何の話? 俺が最後に口にしたのは紅茶だけど?」
内心ヒヤリとしながら軽口を叩くも、彼はそれには応えず神妙な顔で話を続ける。
「エントランスホールでの戦闘中に吹いた神風。……上手く隠されていましたが、確かに魔力を感じました。あれほどの風力を出しておいて魔力発信源の感知をさせないなど、普通では考えられません」
「じゃあ考えなくて良くね?」
「ですが、不可能であると言われた魔法鏡の遠隔操作を成し遂げたマオー様ならば可能な筈。あの神風はマオー様のお力添え……違いますか?」
「違いますん」
やーだー、この子確信してるじゃーん。
確信した上でわざわざ答え合わせしに来てるじゃーん。
俺の背後でグルオが警戒しているのが肌で分かる。
やめて問題起こさないで。
さてどうしたものかと考えていると、ファースィオンの表情がフッと和らいだ。
「そう警戒しないで下さい。私はただお礼を申し上げたかったのです。あのままでは死因がGになっていたかもしれないのですから」
あ、それは普通に嫌だわ。
返事代わりの納得顔を浮かべる俺に、彼もまた大きく頷いた。
「この事は国王陛下と殿下も気付いておられます」
「おっふ(絶望)」
「……ですが、ご安心下さい。マオー様のお立場は我々もある程度理解しております。大臣や他の重鎮達には決して他言致しません」
「あ、マジで? って……え゛?」
~Replay~
『マオー様のお立場は我々もある程度理解しております。大臣や他の重鎮達には決して他言致しません』
お分かり頂けただろうか。
ではもう一度ご覧頂こう。
~Replay~
『マオー様のお立場は我々もある程度理解しております』
アイエエエ!? バレた!? バレたナンデ!?
マジでバレたの!?
明日から「アイツ魔王辞めたんだってよ(笑)」って皆が俺の事指差すの!?
逃げる?
▽誤魔化す?
処す?
脳内選択肢のカーソルの荒ぶりが凄い。
答えに詰まっていると、ファースィオンは何故か感極まったような熱い眼差しで語り始めた。
「実は私、マオー様が陛下の元を訪れた時から、その冒険者らしからぬ教養ある立ち振舞いに気付いておりました」
「教養ある立ち振舞い……?」
おいグルオ。そこで首傾げんな腹立つ。
「グルオ殿のマオー様を最優先に気遣う発言や立ち位置も、ただの仲間などではなく護衛や従者のものです。彼の有能さを踏まえるとマオー様のお立場の高さが窺えます」
「俺を気遣う……?」
「魔王様。そこで首傾げないで下さい。腹立ちます」
謎にギスる我々に構わずファースィオンの熱弁は続く。
「その上、あれだけ強大な魔力を有しておきながら無名の冒険者という肩書き。これはもう、陛下と殿下と私の読みはほぼ間違いないかと──」
キリッと俺の目を見つめ、彼は自信満々に告げた。
「失礼ながら申し上げます。マオー様は由緒ある家柄の……何らかの理由で公に出来ない高貴な生まれの方ですね!?」
いや当たってるけどなんか違う!
確かに俺の生まれは人間には公に出来ないけども!
「それだけの立場と強い魔力を隠しながら放浪しているという事は、何らかの理由で家に居られなくなり身分を隠して生きねばならない過酷な境遇の最中という事!」
だから当たってるけどなんか違ーう!
確かに岩の城が嫌で家を出たんだけども!
野宿とか過酷な境遇だったけども!
「恐らくグルオ殿が唯一の従者として共に付いてきたのでしょう。そして高貴な身分を隠したまま、安住の地を求める旅をしているのではありませんか!?」
全部当たってるのになんか違ーーう!
確かにグルオしか付いて来なかったけども!
安住の地なんて堅苦しい事は考えてないから!
ただ綺麗で掃除しやすいマイホームを求めてるだけだから!
「……フッ。ま、まぁそう思うのならそうすれば良い。周りに伏せてくれる心遣いには感謝するが、俺の口からは何も言える事は無いな」
「……! 分かりました。ではこの話はこれで終わりとしましょう!」
予想が当たったと思ったのだろう──ファースィオンは爽やかな笑顔で敬礼をしてみせた。
ある意味大当たりだよちくせう。
「長々と引き留めてしまい申し訳ありません。今日の所はゆっくりとお休み下さい」
「オマエモナー」
この男とはどうせまた明日会うだろう。
そう考えるとカロンとエーヒアスが居ない時に話せておいて良かったかもしれん。
無事に城の敷地外へ出た我々は、ドリュー氏が手配してくれたお高い宿屋で休む事となった。
っていうかベッドフッカフカ!
部屋も広いし綺麗だし、控えめに言って最高かよ!
カロンとエーヒアスに少し申し訳ない気持ちが芽生えるが仕方ない。
明日自慢しようそうしよう。
俺はズブズブと柔らかい枕に頭を埋めたのだった。
「……あ、やべ。今寝てGの夢見たらどうしよう」
「その時はくれぐれも起こさないで下さいね」
拝啓 ファースィオン殿。
コイツ全然俺の事を最優先に気遣ってくれません。
発言の撤回を要求します。
敬具 マオー




