9、旅は道連れ、世間は狭い
俺はユート・ルーリッヒ。
元気が取り柄の何処にでもいる普通の勇者だ!
将来の夢は素敵な大工さん!
よろしくなっ。
さて、そんな一般人の俺だが実は少々困っている。
「何処だここ?」
辺り一面森ばかり。
ギャアギャアと不穏に鳴く鳥の声しか聞こえない。
完全に道に迷ってしまったみたいだ。
いやぁ、参った参った。
「誰か都合よく道を知ってる人が通りかかるといいんだがなぁ~」
こんな時、一人というのは不便なものである。
旅の途中で何度か冒険者とパーティーを組んだり依頼人と同行したりする事はあったが、俺は基本的に一人旅なのだ。
世界平和の期待を背負わされた勇者がボッチだなんて変な話である。
どうやら俺は誤解されやすい性格らしく、仲間になった人はもれなく申し訳なさげな苦笑を浮かべながら去っていくのだから仕方ない。
彼ら曰く、
「何しでかすか分からないから心配で胃が痛い。短期間で八キロ痩せました」
「平気でヤバい作戦立てる癖に成功するの何なの? 勇者補正なの? 解せぬ」
「お人好しに付き合いきれない、自己嫌悪で禿げそう」
「突撃作戦多すぎません? 労災出ます?」
と、まぁこんな具合だ。
よく分からないけど、たぶん俺はコミュニケーションをとるのが下手なんだろうな。
悲しいサガである。
あ、でも待てよ?
そういえば一つだけ例外のパーティーがあったっけ。
カッコいい角兜を被った面白い兄ちゃんと、強い掃除の先生と、魔法使いっぽい女の子とハンマーのねーちゃん。
あの四人は最後まで俺と一緒に行動してくれたなぁ。
ずっと親切だったし、面白かったし。
「別れるのが寂しい」と本気で思うのは久しぶりだったからよく覚えている。
あ~~、楽しかった時を思い出したら寂しくなってきた。
辺りは相変わらず薄暗い森の中。
せめて方角が分かればなぁ……
「よっ、と」
太陽の位置を確認するべく、鬱蒼と繁る背の高い木を登る。
高い所は好きだし、木登りも得意だからそれだけでもテンションは上がる。
「ん~、太陽があっちって事はシューバン大陸のある西は……こっちか!」
よく見たら西方面に海らしき青も見えるし、間違いないだろう。
あっちこっちどっちの結論を出した俺は、スルスルと木を降りてヒョイと着地した。
「ギャッ!?」
「うおわっ!?」
しまった、油断した!
まさか着地した瞬間に眼前の草むらから中型のゴブリンが顔を覗かせるとは──
俺はすぐさまバックステップで距離を取ると背中に携えた大斧を構える。
相手のゴブリンも突然人が降ってきた事に動揺しているのか、ワタワタと草むらに身を潜めるように距離を取った。
「くっ、まさか下に魔物がいるとは!」
「いやそれこっちの台詞ダス!まさか人が木の上にいるなんて思わないダス!」
「それはそうだな、ゴメン!」
現場の安全確認を怠るのは事故の元。
これは全面的に俺が悪い……ってちょっと待て!
「え、お前もしかして人の言葉分かる感じ?」
「まぁ一応……このご時世、魔物言語と人言語のバイリンガルの魔物は多いダスから」
「マジかよすっげぇ!」
これワンチャン、人間も魔物言語を履修したら争いも減るんじゃないのか?
「そういや兜の兄ちゃんも魔物言語が出来たっけ。俺も通信教育受けようかなぁ」
「兜……?」
訝しげにしながらも棍棒を下ろすゴブリンに合わせてこちらも構えを解く。
互いに緊張感を残しつつ、俺はゴブリンをマジマジと見た。
二メートル近くある筋肉質な緑色の肌。
ボロボロの腰布だけを身に付けた片目のゴブリンだ。
「お前、戦う気はないのか?」
「な、無いダス、無いダス! オレはただ食料を探してただけの一般通過ゴブリンダス!」
「なら俺も戦わないぞ。争う理由がないもんな!」
やはり対話って大事なんだなぁ。
俺はこれ幸いにと今の状況を打ち明ける事にした。
「ところでお前、イヨイヨ漁港までの道分かるか? 俺シューバン大陸に行きたいんだけど、道に迷っちゃってさ」
「い、一応分かるダスが……オレは魔物なんで港には近付けないダス。実はオレ達もシューバン大陸に帰りたくて、海の魔物に橋渡しして貰う為に取引用の食料探しをしてるんダス」
「へぇ、奇遇だな」
オレ達って事は仲間がいるのか。
あ、そうだ、良いこと思い付いた!
コイツらの食料探しを手伝う代わりに、港の近くまで案内して貰えば良いんだ!
俺の素晴らしきWin-Winな提案に、ゴブリンは片目を見開いて驚きの表情を浮かべた。
「アンタ、変わってるダスなぁ。魔物と協力し合おうだなんて……」
「そうか?……そうかもな! 俺も兜の兄ちゃんに会うまでは魔物と対話して平和的に解決出来るなんて考えた事なかったし」
やはり魔王の世代交代とやらのおかげもあるのだろうか。
貴重な情報を得ていて助かった。
おかげで無駄な血が流れずに済んだし、ほんと兜の兄ちゃんさまさまである。
「でも食料集めは大変なんで無理しなくて良いダスよ。終わりが見えなくて皆意気消沈してる位ダスから」
「大変なら尚更手伝った方が良いだろ。で、どの位集めたいんだ?」
「ゴブリン基準で大体百人前ダス……」
「ひゃくぅ!? いや多すぎだろ! 戦の準備かよ!?」
どうやら彼らは海の魔物に足元を見られまくっているらしい。
しかし大陸を移動するには海の魔物の要求に従う他ないのだとか──
なんて不憫なんだ。
「オレ達、最近まで悪い人間に捕まっていたぶられてたんダス。魔……兜の剣士様に助けて頂いて、ご恩を返す為にも第二の人生をシューバン大陸で過ごそうと思ってるんダス」
「良い話だなぁ」
兜を被った奴って良い奴が多いのか?
俺も兜被ろうかなぁ。
「お前や仲間の魔物は人を襲わないのか?」
「戦う理由があれば戦うダスが、わざわざ襲うなんてしないダス。皆、今はただ平穏に生きたいだけなんダス」
なるほど。
前に会ったインキュバスの時も思ったけど、魔物にも色々いるんだなぁ。
無害な魔物もいるんだって事を、人間達ももっと知れば良いのに。
……いや、待てよ?
知られていないなら、俺が広めれば良いじゃないか!
「なぁお前、名前は? 俺はユート! ユート・ルーリッヒだ!」
「あ、ご丁寧にどうもダス。ゴブゾーダス」
戸惑いがちに頭を下げるゴブゾーに人の……いやゴブリンの良さを感じる。
よし決めた。
俺、コイツと協力する!
「なぁゴブゾー。もし良かったら俺と一緒にシューバン大陸に行かないか? もちろん仲間も一緒で良いぞ。人に危害を加えないってのが大前提になるがな!」
「ホァ!? 正気ダスか!?」
「正気で本気だ」と告げると、ゴブゾーは一瞬迷った様子を見せたものの、太い首を横に振った。
「有り難い誘いダスが、現実的じゃないダス。いくら人間の付き添いがあったとしても、港に魔物が何匹も現れたら大騒ぎになるダス。最悪、兵士や冒険者に駆除されるダス」
「俺がそうはさせないって!」
「いち冒険者の意見が通る訳ないダス。いくらユートがオレ達の事を『無害だ』と言った所で信用されないダス」
あ、なるほど。
確かに俺がただの冒険者ならゴブゾーの言う通りだろう。
駄菓子菓子!
「俺、国王陛下公認の勇者だから大丈夫だと思うぞ! ちゃんと港の皆を説得してやるよ!」
「」
「あれ、ゴブゾー? おーい、もしもーし!?」
この後、俺は白目を向いて意識を飛ばしたゴブゾーを揺すり起こし、仲間を紹介して貰って港に向かう事となる。
そして港は一時騒然となったものの、無事ゴブゾー達が「無害である」と認めて貰う事に成功した。
正直、「勇者様が魔物をテイムして仲間として従えている」という認識をされたのは不本意だったが──
下手に否定するとややこしくなりそうだから放っておくとしよう。
船の上でお行儀よく膝に手を乗せるゴブゾー達の隣で、俺は遠ざかるトチュー大陸のイヨイヨ漁港に別れを告げたのだった。




