7、職人の拘り≠需要
※G退治が終わった後の王都でのお話です。(エーヒアス視点)
あぁ、長かった。
ドリューさんの依頼も無事に終わったし、やっと落ち着いて鍛冶が出来るようになったわね。
資金集めもあるから暫く王都に滞在する事になるだろうし、これでやりたかった事に専念出来るってものよ。
私はドリューさんに許可を貰って大きな金床のある空き家に鍛冶場を仮設した。
フフ、いつもの青空鍛冶屋よりも立派な作業環境で嬉しいわ。
まるで自分のお店を持ったみたい……っとと、まだ開店はしないけどね。
ガァン、ガァンと槌を振るい、個人的な用をこなしていく。
個人的な用──それはマオーさんと約束していた誕生日プレゼント製作に他ならない。
当日は橋の上での魚人騒ぎがあったから、ちゃんとお祝い出来なかったのよね。
マオーさんには助けて貰った恩もあるし、旅に同行させて貰った恩もある。
折角だからとびっきりの武器を贈らなくっちゃ。
「やっぱり男の人は浪漫武器が好きよね」
それにマオーさんって子供っぽい所あるし。
ここはやはり伝説の聖剣的な、エクスカリバった感じの武器が少年心を擽るだろう。
私は以前会った勇者、ユートに見せて貰った伝説の斧を思い出しながら一心で鉄を打った。
「柄の部分は金……は高価過ぎるから鍍金にして……飾りの石は奮発して一つだけ魔法石にしときましょうか」
そうこうして出来上がった一本の鉄剣。
しかしこれは──
「……駄目ね。マオーさんには合わないわ」
途中から楽しくなっちゃったのが災いした。
ゴテゴテし過ぎた派手な銀色塗装の施された刀身。
黄金色の柄に加え、中央で光り輝く赤い魔法石。
もはや伝説の勇者がラスボス戦で装備する最終武器のイメージそのものである。
まさに映え~って感じね。
パッと見ただけではただの鉄剣とは思えない程の細やかな装飾には我ながら惚れ惚れするが、今はそんな場合ではない。
あまりにも派手。
あまりにも光属性。
マオーさんはとても面白い人だけど、派手な感じではないのよね。
あれで意外と落ち着いてるっていうか、教室の隅で仲良い男子とドゥフドゥフ笑い合ってるイメージ。
どちらかというと白より黒。
光より闇。
と、そこまで考えてハッとする。
そうよ、最初の考えが間違ってたんだわ。
何も男の浪漫は「少年心」だけじゃないじゃない!
真の男の浪漫……それはズバリ、「厨二心」よ!
ガァン、ゴォンと一心不乱に槌を振る。
釜戸の熱など気にならない。
汗で張り付く髪を払う事もせず、私は鉄を打ち続けた。
そして──
「……こうして、なんやかんやで完成したのがこれよ」
「いやこの話の流れで何で木の剣!?」
「フフ、正確には『けやきの剣(仮)』よ。だって真面目に作ったらあまりにも厨二……禍々しくなっちゃったんだもの」
あれは酷かった。
最初の剣が聖剣なら、二本目の剣は魔剣である。
即ボツにした。
誕プレに魔剣モドキは流石に無いものね。
「とにかくどうぞ」と木目の美しい質素な剣を手渡せば、マオーさんは苦笑しながらも受け取ってくれた。
「(仮)が気になるが……まぁ礼は言おう。まさかこの歳とレベルで木の剣を渡されるとは思わなんだ」
やる気なく空を切ってみせるマオーさんに待ったをかける。
意外ね。この剣の凄さにまだ気付かないのかしら。
「マオーさん。その剣は浪漫武器であり、ユニーク武器なのよ。扱いには注意してね」
「は? 注意とは?」
疑問符を浮かべるマオーさんに、近くに積み上げられていた薪用の丸太を切るよう促す。
素直に試し斬りに応じた彼は、力を抜いた体勢のまま丸太に刀身を振り下ろした。
スパパパパァンッ!
「──え゛?」
「あらあら」
積み上げられた丸太の全てが、それはもう気持ちが良い位に一刀両断される。
……正直ここまでとは思わなかったわね。
マオーさんたら、どれだけ地力が強いのかしら。
「いやいやいや、何だこの切れ味。木の剣の威力じゃないぞ!?」
「だって木製じゃないもの」
「ファーー!?」
この剣は歴とした金属製である。
私の技術を全力で注ぎ込んだ木目調の塗装が施されている一級品なのだ。
超頑張った。
「その辺に転がってるような粗末な玩具の剣で強い敵を一刀両断……これも浪漫よね」
「それはまぁ……分からなくはない、のか……?」
この威力だと逆に怖いと慄くマオーさんに「ちょっと遅れたけど、誕生日おめでとうね」と呟けば、今度は苦笑ではない笑みを返された。
フフ、なんだか大きな弟みたいね。
楽しんで貰えたようで良かったわ。
「さて、と……」
手元に残った聖剣モドキは、いつかユートに再会した時にでも渡しましょうか。
天真爛漫で明るい彼ならこのド派手な輝きも似合うだろうし。
……魔剣モドキ?
明らかに世に出しちゃまずい見た目になっちゃったからね。
封印……コホン。保管しておくとしましょうか。
いまだ「けやきの剣(仮)」をフリフリするマオーさんを横目に、私はようやく開店の準備を始めるのであった。




