6、夢売りのプロ
これは一行がジーコローリエの乾燥待ちでコレカラ町に滞在していた時の事──
◇
「ちょっと聞いてくれないかしら、マオーさん。先生ったら酷いのよ」
「酷いのはお前の思考回路だろう。魔王様、この女の話など聞くだけ無駄です」
「お、おぅ。……おぅ……?」
皆さんこんにちは、今日も兜がマブい二代目魔王ことマオーです。
眼前でバチバチと火花を散らしているのは、まさかまさかのうちのクールコンビである。
何故かは知らんが昨日の夕方から今朝にかけてずっとこの調子なのだ。
子供の精神衛生上よろしくないと判断して、カロンにはコエダを連れて公園に行って貰った。
そして俺は仲裁者という貧乏くじである。
ぴえん。
「まぁ二人とも落ちつけ。いつまでもいがみ合われては困る。事情を説明せよ」
いい加減にしろという意を込めて少し強めに言うと、意外にもエーヒアスの方が先に口を開いた。
「だって先生ったら私の話に文句ばかりなんだもの」
「文句?」
あまりピンと来ない発言である。
グルオは俺やカロンの我が儘には文句言いつつも折れてくれるイメージだし、そもそもエーヒアスの意見は真っ当なものが多い。
ぶつかる可能性は限りなく低い筈だが──
そう思った所でグルオが「被害者ぶるな」と噛み付いた。
「ろくな勘定も出来ず、奇抜さだけで勝負しようとする奴に商品開発を任せられるか」
「奇抜さ だ け ? 私の商品は品質第一なのに何を言ってるのかしら。これだから目利きのなってない人は嫌なのよ。少しは利益だけじゃなくて消費者目線で考えたら?」
「笑わせる。消費者の目線に立った奴とは思えない物を考案しておいて何をほざいているのやら」
何度目かの火花バチィッ、に俺は慌てて二人の間に割り入った。
今なら火花を火種にたき火が作れそうだ。
「だからやめんか。そして何の話だ」
暫く睨み合っていたものの、両者はどうにか苛立ちを抑えて一連の流れを説明しだした。
「元々は私が『販売用の新しい掃除道具の開発』をエーヒアスに依頼した事が発端でした」
「ほうほう。この話長い?」
「そこで私が開発したのがこちらの商品、『ゴシゴシスッポン!』よ」
言いながらエーヒアスはぬぅっと圧縮魔法鞄から銀色に光る棒状の何かを取り出した。
よく見るとその棒の両端には見たことのある物が引っ付いている。
具体的に言うならばトイレ掃除でお馴染みのアイテム──
スッポンと便器用ブラシである。
「えっと、それは?」
「スッポンとブラシ、二本置くにはスペースが足りない……そんな方にオススメなこの商品! 一本に二つの機能が付いている優れものよ。しかもブラシは付属のスポンジに付け替えも可能! どう? 凄いでしょう?」
確かに多機能道具という発想は素晴らしい。
素晴らしいが……
何と返すか言葉に詰まる俺より早く、グルオが言い返した。
「馬鹿か。持ち手はどうする。便器に突っ込んだ片側を持つなど不衛生極まりないだろう。ついでに言っておくと正しくは『スッポン』ではなく『ラバーカップ』だ」
「細かいわねぇ。それにどうせ掃除する人はゴム手袋使うでしょうし何も問題ないわ。ちなみに売り文句は『定価千エーヌの所をなんと! 今から三十分以内に限り、五百エーヌでお売りします』よ」
いや気持ちの問題っ!
これはグルオの言い分が正しいわ。
「なのに先生ったら、どうせ売るなら『定価一万エーヌの所を七千エーヌで』って売り文句にしろって言うの。流石にボッタクリすぎよ!」
「メーカー希望価格から十四倍は草」
この喧嘩、どっちもどっちじゃね?
つーかグルオは何故この商品で七千エーヌ取れると踏んだんだ。
絶対売れずに在庫だけ抱えるオチだろ。
「しかし魔王様。このクソしょーもない商品ですが、素材だけは無駄に良いのです。柄の部分は錆びやカビに強く、ブラシ部分はどんな頑固な汚れも擦り落とせるのに便器は傷付けないという素晴らしい仕様なのです」
「へー」
「でもマオーさん。この商品の材料費ってせいぜい三百エーヌなのよ? それなのに七千エーヌはやりすぎよ!」
「へー……っていやいや、儲けが二百エーヌしかないのもどうかと思うぞ? プロの仕事にしては安すぎだろう」
これが始めに言っていた「ろくな勘定もできず」って事か。
つまり、アホみたいな形状でさえなければ高品質……と。
エーヒアスはもっと職人として自分のブランドを大事にしろ。
「っていうかそんなに良い品なら無理に新機能搭載なんてしなくても良くないか?『ドワーフ直伝の職人技で美人エルフが作った超高級・清掃道具!』みたいな売り文句ならそれなりに売れそうだし」
「「!?」」
「価格は材料費にブランド価格を加えて……それこそ一九八〇エーヌ位なら主婦層でも手が出しやすかろう」
「「…………」」
何となく思い付いた事をツラツラ喋っているだけなのだが、それにしても二人が大人しい。
え、俺、何か言っちゃいました?(きょとん)
「魔王様」
「あっはい元気です」
「「それです!」」
神妙な顔で考え込んでいたグルオの金色の目が更に輝いたのは気のせいか──
そしてエーヒアスもいつの間にか職人モードになっている件。
何なの。
◇
「……そうして出来上がった商品がこれだそうだ」
「え~っと何々?『ドワーフ直伝、プロの職人技! 高級トイレブラシとスッポンの二本セット。~スポンサーと製作者、どちらかの握手券付き~』価格は……五千エーヌ!?」
目を丸くするカロンに大きく頷き、俺は目の前に連なる二つの長蛇の列を眺めた。
列の先端には言わずもがな、グルオとエーヒアスである。
前者はニコリともせず淡々と商品を売り渡しては握手をしており、後者はにこやかな笑顔で商品を売り渡しては握手に応じている。
「まさか女性客のみならず男性客までターゲットにするとは思わなんだ……」
「いくら二本セットにしたとはいえ、価格の大半が握手券代とは思いませんよねぇ……」
プロって何だろう──
そんな事を考えずにはいられない出来事であった。
◇
後日──
「ちょっと聞いてくれないかしら、マオーさん。次の新商品なんだけど先生ったら酷いのよ!」
「聞くだけ無駄です、魔王様」
「いやまたかーい」
何々、今度は取っ手が取れる省スペースの鉄の鍋とフライパン?
唯一の取っ手には金属タワシも付いていて洗い物が楽?
料理の時にタワシが邪魔?
作る手間の割りに利益が低い?
知るかそんなもん!
勝手にやってろ!
そう叫びながらも、俺は突きつけられた鉄の鍋を反射的に受け取ってしまったのだった。
あ、これ結構重いな……
タワシはさておき、まずはサイズを小さくして省スペースの一人鍋で売ってみて、好評なら……ブツブツ……
>>強制終了<<




