5、カロンの夢邂逅
夢を見た。
気付けば私は知らない町に一人で立っていた。
季節は春になったばかりらしく、周りは春歓祭で大賑わい。
道行く人々はみんな、頭に沢山の花や葉っぱ、春野菜を乗せて春の訪れを祝っている。
私も出店を回ろうかなぁ──
そう思ってとんがり帽子を被り直していると、ふと屋台の陰に立つ二人の子供が目に入った。
最初は姉弟かと思ったけど、それにしては似ていない。
女の子は十三才位で身なりが良い。
上品なポニーテール頭に大量の花と二本の人参を飾っている。
男の子は十歳位で……孤児だろうか。
酷く痩せていてボロボロの服を着ている。
口元を布で覆い隠し、頭に大きなハスの葉っぱを一枚乗せているだけだ。
妙にコソコソとした様子の二人が気になって、私は通行人のふりをしてソッと近付く。
「────、着いてくんなよ。お前には関係ないだろ!」
「そう固い事を言うな。大体、無一文のお前がどうやって薬を手に入れようというんだ?」
男の子は苛立ったように女の子を睨み付けている。
女の子の方はまるで意に介してないけど。
「そりゃ勿論、この祭りの馬鹿騒ぎに乗じて、サッと盗ってパッと逃げ……」
「はいアウトー。この人混みの中、土地勘もないお前の足では悪・即・縛がオチだろう」
「ぐっ……で、でも何とかして薬を手に入れならきゃ、トトル兄ちゃんの怪我が治らない!」
男の子の様子から「何としても薬が欲しい」という強い思いが感じられる。
余程そのお兄さんが心配なのだろう。
俯く彼の背を軽く叩き、女の子は自信満々に言い放った。
「幸い今日は祭日だ。店は多いし、人間も多い。ここはナントカ長者にあやかり、手持ちのアイテムを交換していって薬を手に入れようではないか!」
「まどろっこしい。それよりその辺の間抜けから財布をスッた方が早い」
「お前はそろそろ道徳心と倫理観を履修した方が良いと思うぞ?」
可愛い見た目にそぐわず物騒なやり取りをする二人だ。
「その辺の間抜け」の時に視線が一瞬だけ私に向けられた気がするけど、気のせいだと思いたい。
あまり盗み聞きするのも気が引けて、私はそそくさとその場を離れる。
しかし次の瞬間グニャリと視界が歪み、ふっと意識が遠のいた。
そして気付けば先程とは違う場所に立っていた。
全く違う町という訳ではなく、周囲は相変わらず春歓祭フィーバーである。
訳が分からず首を傾げていると、先程の子供二人が雑貨屋から出てくる所と出くわした。
「いやぁ驚いた! まさか拾った焼けクギが二時間で雷水晶にまで化けるとはな!」
「需要ってよく分からないな」
えぇ……?
雷水晶ってそこそこ高価なアイテムでは?
一体どんな交換を経たら焼けクギから雷水晶にメガ進化するんだろうか。
驚くと同時に再び視界が歪み、私はまた違う場所に立っていた。
やはり目の前にいるのはあの二人である。
「参ったな……琥珀細工の耳かきが麻のハタキになってしまった」
「だからあんな胡散臭いオッサンとの賭けなんて止めとこうって言ったんだ、この馬鹿!」
ハタキを振る女の子に食ってかかる男の子……端から見ればじゃれ合ってるようにも見えるが、やはり会話の内容は可愛げがない。
薬代っていくら必要なのだろうか?
財布の中身を思い出していると、不機嫌そうな男の子と目が合った。
「お前、何見てんだ……ん? お前、さっきも居た奴だな? 俺達に何の用だよ!」
喧嘩腰な男の子に対し、女の子は「まぁまぁ」と笑顔を浮かべて私に近付いてくる。
「敵意はないようだが、我々に何か用か?」
私は軽く謝りながら、正直に「薬代の話をしているのを聞いてしまった」と答えた。
怪しむ男の子とアッサリ納得する女の子の対比が凄い。
話によると二人の友達が魔物に襲われて大ケガを負ったらしく、大量の薬が必要なのだという。
話ついでに薬の金額を聞けば、8000エーヌ必要だと教えてくれた。
8000エーヌは子供からしたら確かに大金である。
財布を確認した所、私の全財産が8150エーヌだという事が分かった。
少し迷ったけど仕方ない。
子供の命には代えられない。
私は8000エーヌを差し出し、麻のハタキを買いたいと告げる。
驚いたように目を丸くする二人。
可愛い。
短い押し問答の末、二人はお金を受け取ってくれた。
「見ず知らずの我々に親切にしてくれてありがとうガール。深く感謝する」
「……ありがと……」
どういたしまして、とハタキを受け取り、薬を買いに行くという二人の背を見送る。
「良い人間もいたものだな」という女の子の言葉に、男の子はつれなく「知るかよ。いいから早く行くぞ、────」と吐き捨てるように呟くのみであった。
と、ここで目が覚めた訳なのだが……
「なんと起きたら麻のハタキを握ってたんですよ! しかもお財布見たら所持金が150エーヌしか無くて! もうビックリですよね!? 夢だけど夢じゃ無かった、みたいな!」
そう興奮冷めやらぬ状態で熱弁している内に、マオーさんと先生の様子がおかしい事に気が付いた。
どうしたんだろうか。
「? 大丈夫ですか、二人共。顔色と汗がヤヴァいですよ?」
何故かマオーさんは引きつった笑顔で私の両肩を掴み、声を振り絞るように口を開いた。
「それは夢だ、カロン。忘れろ。あとその女の子は女の子じゃない」
「はぁ?」
疑問符を浮かべる私に、今度は先生が険しい顔で詰め寄った。
「そんな夢は今すぐ忘れろ。あと失った所持金の件だが、私が出す」
「え、いやそんな、悪いですよ。またパトロールのバイトでもして稼ぎ直しまs」
「良いから黙って受け取れ下さい」
「ヒェッ、せせせ先生が優しい!?」
何が何だか分からないけど、この日はマオーさんと先生が妙に優しくて気持ち悪い一日となった。
優しい先生とか怖すぎて吐きそうなんだけど、助けてマオーさん。
ちなみに麻のハタキは先生に没収された。
ホント何だったんだろう……?




