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5、鼠はまず家屋に侵入させない事が大事




「おっと皆さん。二つ先の部屋に二匹、通路の先にも二匹いますな。戦闘は避けられそうにないですな」


『了解した』


「挟まれると少々面倒ですな。先に部屋の敵を排除する方が良いですな」


『流石大臣ですね。承知しましたっ!』


 さて結論から言おう。

オペレーターは大臣が就任する事となった。

カロン?


「んーと、次は右……いやえっと、皆さんから見てフォーク持つ方の左に曲がって下しぁ、下さい」


……という謎ナビゲーションをおっ始めた事で二分で解任となった。

後に「フォーク持つ左」って何なのか確認した所、「ナイフとフォークを持った時の左手側」という意味だったらしい。

伝わるかっ!


 かくして俺とカロンの無能コンビはサポーターという名目で特に何をサポートする事もなく大臣の背中ごしに映像を眺める作業に徹していた。

不甲斐ねぇな、不甲斐ねぇよ。


「それにしてもお城って広いんですねぇ……もう結構な数のG-コロリを設置してる筈なのに、作業の終わりが全然見えませんもん」


「それな。どうにも煙が城内全体に回ってる気がせん」


 燻した瞬間からモックモクと薄緑色の煙が立ちのぼっているし、G-コロリ自体に問題はなさそうだ。

問題なのは煙がその場周辺で留まってしまう点である。

窓や通風口がバリアーで完全に密閉されているのが仇となっているのだろう。


「同行している魔法使いが風魔法で空気を循環させているようだが、戦闘が始まるとそうもいかんしな」


「敵との遭遇率も増えてきた気がしますし、心配ですねぇ」


 祈るように呟くカロンに向かって「流石に敵も侵入者の存在に気付いてるだろうし、遭遇が増えるのは当然だろ」というド本音パンチは繰り出せない。

今の俺にはこっそりとコエダを撫でる事しか出来ないのだ。


 そうこうしている間にも何度目かの戦闘が始まっており、グルオやエーヒアス、ファースィオン達がドガチャカとやり合っている。

映像の端で氷魔法が飛び交うのも見えたし、やはり戦闘中は城内の空気の循環は止まっているようだ。

いくら城お抱えの魔法使いといえど、二種類の魔法を同時に使い続ける事はままならないのだろう。


 もし俺に虫耐性があったなら風魔法で空気を循環させつつ氷魔法をブッ放せたというのに、現実はは無情である。


「? 何だ?」


「どうしました? マオーさん」


 何だろう、今どっかの映像の端で何かが動いたような──


 イヤンな悪寒を感じていると、通信機器から派手な破壊音と動揺する隊員達の声が聞こえてきた。


『うわっ!?』


『ひぃ、何だ、どこの音だ!?』


 薄い煙が立ち込める中、小部屋では上手く立ち回れないと判断したファースィオンが「一旦外へ」と指示を飛ばしている。

全員が通路に飛び出した瞬間、ある魔法鏡の一角にとんでもない物が映り込んでしまった。


「」


 絶句する俺達傍観者組。

最初に我に返ったのは有能大臣だった。


「みっ皆さん、そこからすぐに移動するのですな! 早く!」


『しかし通路の先には二匹いるのでは──』


「後ろから超大型の敵が向かって来てるのですな!!」


 切羽詰まった大臣の叫びを合図に全員がダバダバと走り出す。

俺はいつの間にか呼吸を止めていたらしく、あまりの息苦しさに眩暈すら覚えていた。


「な、な、な、ナニアレナニアレナニアレ!?」


 目測二メートル程の超大型Gが高速でシャカシャカ這い寄ってる映像は我が人生最低の光景としか言いようがない。

今までの犬サイズとは比べ物にならない大きさだ。


「マオーさんおお、おつついて下しゃい。アレはきっとタタリゴキか何かです」


「いやどっちにしろナニソレ!? 静まりたまえとしか言えんのだけど」


 現場の者達も迫り来る異質な存在に気付いたのか、悲鳴や雄叫びを上げながら通路を駆け抜けていく。

あんな化け物が居るなんて聞いてないのだから仕方ない。


「ま、まずいですな。エントランスホールに出てしまいましたな」


 大臣の焦りも尤もである。

今グルオ達がいるのは二階部分。

このままでは追ってくる超巨大Gに加え、上階から降りてくる敵と一階から登ってくる敵にも気を回す必要が出てくるのだ。


 吹き抜けになっているクソ広いエントランスホールでは、それこそ四方八方から敵が出てきて囲まれる可能性が高い。

非常にまずい。


「グルオ、エーヒアス。大丈夫か?」


『ちょ……っとマズイかもしれないわね。上からも何か来る音がしてるもの』


 エーヒアスの言葉に慌てて他の鏡を見ると、確かに黒い影達が移動しているのが見てとれた。


「そうして気付く、新たなる絶望」


「言ってるバヤイですかマオーさん! あの超大型G、一匹じゃないですよ!?」


 ザワザワとざわめきながら、黒い影達がエントランスホールに集まっていく。

さながら団体ツアー客の現地大集合といった所か。

そうこうしてる間に突入部隊達はグルリと取り囲まれてしまい、一点突破すら不可能な状況に追い込まれてしまった。

南無三。


『チッ……ファースィオン殿、回転切り的な技は出来ますか? こう、勇者っぽい感じの』


『私は勇者ではありませんが、この状況下での大技は皆さんを巻き込んでしまうので不可能です』


『フフ、ミンチにはなりたくないわね』


 ジリジリとひと塊に追い詰められる突入部隊。

万事休す、といった所でしわがれた声がホール全体に響いた。


──ワシ等の城に侵入した愚かな猿共よ。今すぐ撒き散らした毒の解毒剤を用意せよ。さもなくば……


『!? 誰だ!』


 主の城を好きに言われてカチンときたのか、珍しくファースィオンが声を荒らげる。

彼等が見上げた先には人間サイズのネズミが二本足で立っていた。


 っていうかネズミが喋った!?

知恵を付けたとは聞いてたが、まさかここまで賢いとは思わなんだ。


──ワシはこの城の新たなる王、オーガスター。そしてここに控える四匹は可愛い可愛い、息子達じゃ。


 ウゾウゾと黒い群れが道を開け、四匹の二メートル級の超大型Gがネズミの前に集結する。


──俺は長男、ジーナルド!


──俺様は次男、ジファエロ!


──僕は三男、ドナジー!


──オイラは四男、マイジー!


──我ら、ミュータントカクロッチーズ!!



 おいやめろシレッと喋るな!

流石にこれは怒られたら言い訳出来ない!

心なしかネズミの声が渋く聞こえてきたけど、こいつらは間違いなく人類の敵である。


──さぁ猿共。俺様達の家に毒を撒いた上、部下達を大量毒殺しやがった事、たっぷり後悔するがいい!


 バッと飛びかかる超大型Gに続くように他のG達も動きだす。

応戦するグルオ達だが、分が悪いのは火を見るより明らかだ。


「こ、これは絶体絶命ですな……!」


「あわわ、どうしましょうマオーさん!?」


「いや俺に言われましても」


 今の俺に何が出来るって、口を動かす事位なのですがそれは。


「えーと。グルオ、エーヒアス、大丈夫か?(二回目)」


『……っぐ……だいじょばないです……!』


 グルオの苛立った声に暫し思案する。

エーヒアスは回復魔法と回避、ハンマー攻撃で返答する余裕は無さそうだ。

詰んだか?


「ふむ。いや……」


 待てよ?

先程血の気の多いGが言ってたな。

「部下達を大量毒殺しやがった」と。

つまりG-コロリの効果はあった訳だ。

ともすれば……


「すまぬが大臣。ちょっとお手洗いに行きたいのだが」


「このタイミングで何を言ってるんですかな!?」


「なる早で戻る。行くぞカロン。連れションだ」


 グイとカロンの首根っこを掴むと「私女の子ですよ!?」と潰れた悲鳴を上げられた。

ドン引きしながらも「お手洗いは部屋出て右奥ですな」と教えてくれる大臣、マジ大臣。


 部屋を出た俺はパタンと扉を閉めると同時にカロンを解放した。

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