7、「抗菌」「消毒」「除菌」「殺菌」「滅菌」はそれぞれ微妙に意味が違う
「それにしても大きな町だな。流石城下町」
活気ある町並みはイヨイヨの港町を彷彿とさせるが、こちらの方が品があるというかシャレオツ感がある。
城周辺には貴族街もあるようだし流行の最先端スポットなのだろう。
ちらほら見かける見回りの兵士達もキリリとしていて格好良い。
治安維持ご苦労様です。
「こりゃ~この町でのパトロールバイトは望めないな。その辺の兵士がモブとは思えない程イケメンに見える」
「ははは、そうでもないさ。少し離れた裏通りには下町があるし、更に外れにはスラム街もあるからね。パトロールの需要はある筈だよ」
「ほう、一見では分からぬものだな」
王都とはいえ、華やかな面だけではないという事か。
逆に安心したわ。
俺の中の嫉妬心が引いていくのを感じながら、やたら広くて長いメインストリートを突き進む。
行事の際にはこの道でエレクトリカルなパレードが行われるのだろう。
容易に想像がつくな。ハハッ。
……っていうか城遠くね?
遠そうだとは思ってたけど全然辿り着く気配がないんだが……
「あっマオーさん、ベーコン安いです! ちょっと買ってきて良いですか?」
「主婦か。後にしろ」
「あ、魔王様、洗剤が破格のお値段です。ちょっと買ってきます」
「だから主婦か。後にしろって」
「あらマオーさん、鉄のインゴットが投げ売りされてるわ。ちょっと買ってくるわね」
「だから主婦……いや主婦は買わないなソレ。とにかく後にせよ」
キョロキョロと商店や出店に目移りしまくる仲間達を叱咤する。
全く、俺がしっかりしないと皆ダメダメだなぁ──
「そこの格好良い兜の兄さん! ウチの最先端兜見てかないかい? 若い娘にモテモテ間違いないよ!」
「それは興味深い。ちょっと見てくる」
「何言ってんですかマオーさん!? 今更兜を変えた位でモテる訳ないですよぅ!」
カロンお前、言って良い事と悪い事があるって教わらなかったのか。
そして何で皆も頷いてんだ、泣くぞ。
マントを引っ張って止める小娘の帽子を軽く叩き、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にする。
ふん、いつかおイケ兜を手にした暁にはモッテモテになって皆を見返してやろう。
そして「『マオーさんって本当はイケメンだったんだ』と見直されたがもう遅い」と高笑いしてやるんだ。
新たな決意を胸に刻んでいる内に、気付けば日が傾きだしていた。
ドリュー氏の話によれば貴族街に入るにも検問所を通らなければいけないらしい。
移動シーンばっかかよ。
「まずいな、見所が無さすぎてダレにダレてるぞ。これは由々しき流れだ。誰か事件を持って参れ」
「魔王様は一体何の心配をなさっているのですか」
かといって夜に城を訪れて「突撃! お城の晩御飯!」をする訳にもいかない。
せめてお昼時だったら「国王のブランチ」が出来たのだが……いや、やっぱ怒られそうだから止めておこう。
こうして我々は仕方無く貴族街の手前にある小綺麗な宿を取って休む事となった。
……壁と屋根とシャワーがあるって素晴らしいなぁ(切実)
◇
で、翌朝。
朝食が出る宿だったので、カロンは「朝から楽が出来た」と上機嫌である。
対してグルオは微妙に不機嫌だった。
どうやら水回りやベッドサイドに貼られていた「アルコール消毒済み」の紙が不服だったらしい。
一見綺麗な場所でも(俺の要望で)改めて掃除しなければならないという、やり甲斐の無さ&達成感の無さが原因のようだ。
ほんとごめんて。
「フフ、先生の機嫌はさておき、今日はいよいよお城入りね。私堅苦しいの苦手だからうっかり不敬罪をやらかさないか心配だわ」
「どんなうっかりだ。頼むから気を付けてくれ」
フリでも何でもなく問題だけは起こさないで欲しい。
とにかく今日はさっさとジーコローリエを城に届けて、何の印象も残す事なくアデューしたいのだ。
間違っても国王や重鎮達と深く関わる訳にはいかないからな。
渋い顔で食後のお茶を啜っていると、近くのテーブル席にいた宿泊客の会話が耳に入ってきた。
「おい、聞いたかよ。どうやら城に異変が起きてるらしいぜ」
「あ~、でもそれ噂だろ? 確かに城門を閉ざしてるらしいけど、常時開放されてたっていう今までの方が無用心だっただけだって」
「いやでも最近は兵士の出入りもないって話だぜ。絶対何かあるよ」
「おいやめろよ。ここは貴族街も近いし、根拠も無いのに下手な事言うのはまずいって」
ふむ。
流石に庶民の間でも噂が広まりつつあるようだ。
まだ根も葉もない噂の域を出ないようだが、こちらはドリュー氏の話で異常事態なのは分かっている。
ジーコローリエがどう事態の収拾に役立つのかは知らんがな。
今のところ「毒にも薬にもなるめっっちゃ臭いのドギツいハーブ」って事しか知らんし。
そして、遂にその時はやってきた。
嫌な悪寒と積み重なったフラグを背負い、俺達はやっとここまで来たんだ。
人間達の王が住む、ジワンエンドリー城へ──!
「お邪魔しまーす。お荷物お届けに参りましたー。領収書に判子下さーい」
「魔王様、代金はドリュー殿持ちですが」
「あ、そっか。じゃあ置き配するんでドリュー氏は代金だけ下さーい」
閉ざされた城門へ続く上がったままの跳ね橋の前で、ローリエ入りのザル×10を圧縮魔法鞄から手早く取り出す。
あらほらサッサと撤退の構えをとる俺とグルオに対し、ドリュー氏は「悪いが置き配は信用しない派でね」と白い歯を見せながら兵士に何やら指示を出していた。
チッ。
「マオーさんも先生も、何でそんなに急いでるんです? 折角お城に入れる機会なんですから、見学してっても良いじゃないですか~」
「いや我々はお城見学とか工場見学には興味ない系boy'sなんで」
ゴゴゴゴゴ……と重量感ある音を立てて下がってくる跳ね橋の光景に逃げられない事を悟る。
仕方ない、玄関先までお届けに上がろう。
先っちょだけ、先っちょだけ。
頑丈そうな木製の橋を渡ればドデカい城門とご対面である。
「では皆、こちらに来て貰おうか」
「? どこに行こうというのだね」
一足先に橋を渡ったドリュー氏が城の左手に進んでちょいちょいと手招きしている。
もしかして裏口入国の次は裏口入城?
大丈夫なのかコレ。
彼に誘導されるまま城の左手に回ると、後方でゴゴゴゴゴ、と跳ね橋が上がる音がした。
ふむ、これで後には引けなくなった訳か。
「さて、ドリュー氏。我々のゴールくらい教えてくれても良いのではないか?」
「そうだね。……君たちには何から何まで本当に世話になった……」
城の横にはよく手入れされた美しい庭があり、離れらしき白い塔が三つ建っていた。
どうやらドリュー氏は中でも一番大きい塔に向かうつもりらしい。
離れの塔となると、使用人の部屋とか倉庫とか……あとは牢屋のイメージがあるのだが、実際の所どうなんだろうか。
小さな噴水を横目に咲き誇る冬薔薇のアーチを抜け、彼はやや緊張した声色で塔を見上げた。
「今から君達には国王陛下に謁見してもらう」
「はぁ……って、はぁぁ!? 国王陛下!? 何でそうなるホワイ!?」
「……国王に謁見するのに、何故離れの塔を目指す必要がある?」
睨み殺さん勢いのグルオに怯む事なく、ドリュー氏は申し訳なさそうに頭を掻いている。
先程から頑なにこちらを振り向かない彼のぎこちなさに嫌な予感しかしない。
「それは……国王陛下がこの塔にいるからだよ」
「え? なんであんな立派なお城があるのに、王様はこんな塔に居るんですか?」
「カロン、流石にこんなはNGよ」
エーヒアスが軽く窘めるが、カロンの疑問も無理はないだろう。
確かに塔の外観は綺麗だし、中もかなり広そうである。
しかし国王陛下がわざわざ立ち寄るような場所とは思えないのだ。
「事情は中で説明する。それと……まだまだ君達には働いて貰う事になるやもしれん。すまないね」
「ドリュー氏よ。いい加減すまんで済むと思うなよ」
すまんで済んだら労基法はいらない。
お願いだから俺の「早く立ち去りたいですオーラ」を察してちょ。
見張りの兵に渋々手持ちの武器を一式預けると、ようやく白く塗られた鉄扉が開かれた。




