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6、門扉の鉄サビは放置するとどんどんボロボロになるので早めに塗装し直そう

 全く、感情移入に困る事件であった。

特にエーヒアスは災難だったな。


 駐屯所を離れてもなお聞こえてくるラブソング(B G M)の存在感たるや。

「秒で忘れたい」と額を覆うエーヒアスの願いはまだ叶わなそうである。


 我々は複雑な思いを燻らせたまま、駐屯所から一キロ程離れた道半ばで夜営の準備を始めた。

日は完全に暮れているので満月の光と焚き火の明かりだけが頼りである。

魚人女とナルサーノのご両人と駐屯所で一夜を過ごすのは何か嫌だったのだから仕方ない。


 俺のベッドと湯浴み用のドラム缶を準備するグルオを静観しながら、ドリュー氏は感慨深げに口を開く。


「何はともあれ解決したようで良かったよ。恋人が欲しいという彼女の望みは叶った訳だから、もう暴れる事もないだろうしね」


「まさか依頼の顛末が『魚人に彼ピッピGET_END』だとは夢にも思わなかったがな」


 愛って平和をもたらすんだなぁ。

今頃コレカラ側駐屯所を目指して必死に行軍している兵士の皆さんには心底同情する。

眼前の問題が払拭されたのは良いとして、夜営がツラいっていう俺個人の問題は残っているけどな。ぴえん。



 かくして俺達は特にトラブルもなく夜を過ごし、翌朝すぐに出発。

しりとりやナゾナゾを出し合いながら歩き続けたのだった。


 途中ですれ違った兵士ご一行に魚人の件を説明したのは割愛しよう。

最初は信じて貰えなかったのにドリュー氏が口添えした途端に隊長格の兵士が信じた時には笑ってしまったがな。

いやぁ、顔が利く依頼人で良かったわ。


 閉ざされているという城の事情にも詳しいし、こりゃドリュー氏は王室関係者で間違いないだろう。

流石に国王本人なんてベタなオチはないだろうがな。

仮にも民の頂点に君臨する王が城を出て呑気に珍道中だなんて、そんな馬鹿な話がある訳ない。

そんな無責任な王がいていい筈がない。

……自己紹介? なんの事だかさっぱりです。



「そして時を進めよう──(指パッチン)」


「? 何言ってるんですかマオーさん?」


 だって特筆すべきイベントが無かったんだもの。

我々は当初の予定通り五日かけてイーガナ大橋を渡りきり、今しがた橋の関所を通過した所である。


「やっとトオデ大陸か……ここまで長かったな」


 感慨深くクソ長い橋を振り返っていると、エーヒアスが珍しくソワソワした様子で周囲を見回していた。

海上にいた時と違って違ってウミドリが多い。


「私、トチュー大陸以外の大陸って初めてなの。何だかテンション上がるわね」


「あ~、分かる分かる」


 俺も初めてトチュー大陸に着いた時は船酔いさえなければ大はしゃぎしていたと思うもん。

新天地ってムダに冒険心が擽られるよな。


 さて、関所を出てまず目に入るのは王都をグルリと取り囲む馬鹿デカい外壁である。

ドドンとそびえ立つ石製の外壁が守りの盤石さを物語っており少々物々しい。

俺の家はもっと親しみ易い外観にしたいものだ。


 出入り口の門は五つ並んでおり、それぞれの門で検問が行われている。

橋の関所と近いのに検問する意味はあるのか? とも思ったが、ここは国王のお膝元。

二重チェックする位の警戒は必要なのだろう。


「マオー殿。我々はあちらの出入り口を使おう」


 ドリュー氏が一番右端の門を指し示す。

その門は他の門と比べて圧倒的に並ぶ者が少なく、かなり空いていた。

ラッキーと思ったのも束の間、グルオとエーヒアスが待ったをかける。


「待て。あの門だけ様子が違うのは何故だ?」


「見た感じ、左二つの門が出口で中央二つは入り口よね。一番右端は特別な出入り口ってトコロかしら?」


 言われてみれば確かに。

「言われてみれば確かに……」と呟くカロンにシンパシーを感じつつドリュー氏を見やれば、彼は声をひそめて俺の腰元を指した。


「王都の警備は固く、周囲を取り囲む外壁全てに魔物避けの強力な結界が張られている。そんな門を通ったが最後、君たちの大切なコエダは木炭になってしまうだろう」


「おぉう……そんなご無体な」


 結界の存在忘れてたー!

そりゃそうだよな。

地方領主のギャンザクですら町や村に魔物避けの結界を有してたのだ。

王のお膝元がのんびり丸腰無防備ライフを送っている筈がない。


「キィ?」


 そっと腰に手を添えるとコエダが不思議そうにスリスリと頭の若葉を擦りつけてきた。

こんなキャワな生き物を木炭にしてたまるか。

どうしたものかと唸れば、ドリュー氏は人差し指を立てていたずらっ子のように微笑んだ。


「だが例外はある。見世物や研究、飼育等を理由に魔物を取り引きする場合もあるだろう? そんな時に魔物が通れる門が無いと困る訳だ」


「……なるほどな」


「どゆこと?」


 一人で納得してないで教えてグルオてんてー。


「つまり右端の門は『生きた魔物の取り引きなどにも使われる門』で、結界の力が例外的に働いてないという事です」


「ふむ、分かりやすい。星5★★★★★をやろう」


 その門を使えばコエダだけではなく、俺やグルオもバチッてしないで済む訳だ。

有難い抜け道だが、問題は……


「(マオーさん、まずいですよ。このままじゃコエダの飼育許可無いのがバレちゃいます!)」


「(だな。軽い罰金で済めば良いが、罪の重さが分からぬ)」


 ドリュー氏の手前、コエダを懐に隠して「出てきちゃダメェ」作戦は通用しないだろう。

最悪「この子なにも悪い事してないわ、殺さないで」展開になりかねない。

カロンと共に青ざめていると、天の助けといわんばかりの提案がなされた。


「魔物の入国は手続きに時間がかかる。今は急ぎ故、コエダの件は伏せて通して貰おう。幸いあの門衛は私の知り合いだ。チェックも甘く済むであろう」


「ドリュー氏がマジでネ申(かみ)


 アシスト最高かよ。

っていうかこの男、コエダが無許可飼育な事に気付いてるよな、絶対。

依頼人に借りが出来てしまうのは本意ではないが致し方ない。

国一番の結界ともなれば俺はともかくグルオもヤバいだろうし。

黒こげアフロになるグルオは心底見てみたい気もするが、魔物バレしたら俺の立場も危うくなる。


「では行くとするか」


 コエダを内ポケットに隠して人通りの少ない右門に向かう。

門衛は中年と若者の二人がおり、退屈そうに談笑していた。


「やぁルソアック。新人教育お疲れ様」


「! お、お帰りなさいませ! アン……」


「シッ。此度は内密の外出故、今騒ぎになるのはまずい。急ぎここを通して貰おう」


 ドリュー氏の登場にいち早く反応したのは中年の門衛だった。

彼はピシリと背筋を伸ばし、横で固まっている若い門衛の背をひっ叩いている。


「それは構いませんが、後ろの方々は? 見たところ騎士団員ではないようですが……」


 門衛二人の訝しげな視線が俺達、というか俺に突き刺さる。

何でや不審者と兜は関係ないやろ!


「彼等は私が雇った冒険者だ。信頼に足る者達である事は私が保証する。急ぎ冒険者登録証の確認をして通してやって欲しい」


「は、はい。承知致しました!」


 ドリュー氏の注文が効いたのか冒険者登録証(カード)の提示と鞄の中身を軽く見せただけで門を通る事が許された。

こうも簡単に事が運ぶとは予想外である。


「……我々は助かるが、良いのか? これで」


「まぁ本当は良くないが、君達の人柄を信用しての事だ。頼むから問題は起こさないでくれよ?」


「勿論そのつもりだ。俺は誠実が服着て歩いてるような男だから案ずるな」


 ナニソレ初耳と抜かすパーティーメンバーは無視して周囲を見回す。

巨大な石門を抜けると、そこは城下町でした。


「ふわぁ~、すごく賑やかですねぇ。さすが王都!」


 カロンが目を輝かせながら少しでも遠くを見ようと背伸びしている。

この人混みでは無意味な努力だが気持ちは分からんでもない。


 明るい色のレンガでカラフルに舗装された道に、等間隔で植えられた常緑樹。

ゾロゾロと大通りに向かう入国者や行き交う荷馬車。

どこかで大道芸でもやっているのか、軽やかな音楽と歓声も聞こえてくる。


「国王が手紙で言っていた賑やカーニバルというのも納得の盛況ぶりだな」


「賑やカーニバルは魔王様の意訳ですけどね」


 そうだっけ?

国王(ヤロウ)に興味ないからよく覚えてないわ。


 それはそれとして入国者を歓迎する華やかな(のぼり)やアーチは観光地っぽくてワクワクするな。

祭でもないのに楽しくなってくる。


「ふむ、『ようこそ王都・ジワンエンドリーへ!』か。……ふむ、今の王都はジワンエンドリーというのだな」


「? 何か言いました? マオーさん」


「何でもナスビ」


 確か六十年位前は違う名前だったよなー。

更にその二十年位前は人間同士の二国間で戦争してたし、一国に完全統一された今がある以上、人間達にも色々あったんだろう。

俺でも分かる。


「っていうか城までまだ結構距離があるのな」


 遠く前方を望めば高台に建つ白い城が見えた。

絵に描いたようなでかい城だ。

横にも幾つかの白い塔が見えるし、正に「王宮」と呼ぶに相応しい外観である。


 俺の実家のおどろおどろしい洞窟の城とは大違いで、正直羨まし……いや、妬まし……いや、(そね)ましい。

何でウチもクリーンなイメージの城にしなかったんだ、父上よ。


「さぁ行こうか」


 城下町の喧騒にかき消されないよう声を張るドリュー氏に頷き、俺達は城を目指す事にした。

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