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5、イヤフォンは定期的に掃除しないと耳にカビが入る

「して、本日はどのようなご相談で?」


「フ、フンッ。どうもこうも無いさ! 人間って奴はどいつもこいつも人魚に夢見やがって。そのくせ、いざアタイの姿を見たら『ギャア、魚人だ、化け物だ!』だとよ!」


 普通に話してくれる事に安心したのも束の間だった。

「失礼ったらないわ!」と魚人女が地団駄を踏む度に地面のレンガがバキバキとウエハースのように割れていく。

いや流石に止めろし。

そろそろ本格的に橋の修繕費がヤバそうだ。


「そうか、それは災難だったな。とりま一旦落ち着い──」


「それだけじゃないよっ!」


 まだあるんか~い。

チラと仲間達を見やると全員が神妙に頷くのが確認できた。

ここは彼女の話に付き合おうという事で満場一致のようだ。


「この前、急な嵐に遭遇した商船があったんだよ。その時何人かが海に放り出されてね。中々の男前がいたからこのアタイがわ・ざ・わ・ざ助けてやったのさ!」


「ほう、それは善行ではないか」


「でしょ!? なのに折角助けてやった奴等、何て言ったと思う!?『うわぁ魚人だー!』『助けてー!』『まさかこの嵐、この魚人の仕業かぁ?』……ですってよ! ざっけんなぁ!!」


 ビッタァーーン!


「ただの(いち)人魚が天候なんて操れる訳ないだろーが!」と、彼女は濡れた髪を振り乱しながら頭を掻きむしっている。

確かにそんな理不尽な扱いをされたら怒り狂う気持ちも分からなくはない。


 しかし、それがどうして男を要求する事に繋がるのか──


「アタイの知り合いの人魚は船から落ちたイケメン助けて恋に落ちて結婚までしたってのに、この差は何だってぇのよぉーー!!」


 あー、察したわぁ……

魚人女は「アタイがモテない原因は足か! 足なのか!? 足があるからモテないのか! 足の生えた人魚に需要は無いのか!」と、がに股で地団駄を踏んでいる。


 これ絶対に問題は足じゃないんだよなぁ。

欠点って案外自分じゃ気付けないものなんだなぁ。


「いいから落ち着け、魚じ……人魚の君。頼むからそれ以上暴れてくれるな。これ以上(橋が)傷付くのは見るに堪えかねる」


「えっ……えっ!?」


 ピタリと動きを止めた魚人女が訝しげに眉を顰めて俺を見た。


「なんであんた、さっきからアタイの事を気遣って……(ハッ!)ま、まさかあんた、アタイの事……」


「断じて違う」


 気遣ったのはお前じゃなくて血税で作られた橋の方だから。

頼むから頬染めんな。

水色の肌が染まると顔が紫色に見えて怖いんだけど。


 恋愛拗らせ魚人ガールは「んーだよ期待させやがって! これだから乙女心の分からない男はぁぁ!」と転げ回っている。

ビチビチと飛び散る水飛沫with慄く俺。


 もう一度仲間達の顔色を窺うと、もれなく全員死んだ目をしていた。

きっと俺も同じ目をしているのだろう。


「(魔王様、これはスキップ可能イベントな気がします。今の内に離れましょう)」


「(禿同)」


 こんなサブイベントにいつまでも構っていられるか。

俺達にはやらなきゃならねぇ事があるんだ。

こんな場所、さっさと離れさせてもらうぜ!


……と、そそくさと歩き出すも、転がっていた魚人にすぐに回り込まれてしまった。


「どこ行くつもりだってんだい!? アタイの要求叶えてくれるまで、若い男は逃がしゃしないよ!」


「えぇ~……要求とは、つまり?」


「だから最初から言ってんじゃないか! アタイにイイ男見繕って、彼氏(スパダリ)作らせろってさぁ!」


 なんともまぁ無茶を言いなさる。

そんな脅迫行為で恋人が出来て嬉しいのか?

そこに愛はあるんか。


 すると突然、エーヒアスが挙手をして魚人に問いかけた。


「『若い男は逃がさない』って事は、女の私達は関係ないのね?」


「フンッ、お呼びじゃないよ! アタイは美人が嫌いだしねぇ。さっさと失せな!」


「あら優しいのね。さて、どうしましょ」


 エーヒアスはカロンに向き直り、「一旦マオーさん達を置いて先にローリエ届けるか、一緒に残るか。どっちが良い?」とドストレートな相談をおっ始めている。

こんな敵に丸聞こえの作戦会議初めて見たわ。

更に言うならもう少し俺達にも気を使って小声でやって欲しかった。


「う~ん……一緒にいても時間が勿体ないし、ここはマオーさん達に犠牲……任せて、依頼をこなした方が良い気がします。なぁに大丈夫、ローリエ届けたらすぐに戻りますよ!」


 おいカロン、今犠牲って。犠牲っておま。

ドリュー氏はドリュー氏で「ここは我々に構わず先へ行け」などと不穏な言葉を口にしている。

さっきから何なんだ、このフラグのバーゲンセールは。

そろそろ食傷気味だぞ。


「まずいな。このまま勢いに流されて『マッチョ魚人(ヒロイン)とゴールイン』、なんて打ち切りENDになったら洒落にならないんだが」


「そんな流された程度でゴールインする位なら満更でも無いって事なので悩む価値無いです、魔王様」


 ぐう正論……な訳があるかこの野郎。

俺にだって選ぶ権利くらいあるわ。

余は(元)王ぞ? (元)魔王ぞ?


 家臣の一刀両断に反論すべく口を開いた時だった。


「あぁ~っ! やぁ~っと見つけたぁ! おぉーーい!」


 俺達が来た方向から酷く場違いな、実に間の抜けた声が聞こえてきた。


「はて、誰だっけ?」


 見覚えがあるような無いような──大きなリュックを背負った、暗い髪色の地味メンの男だ。


「ナルサーノ……エーヒアス殿の見送りに来ていたピアノ演奏家だね」


「あーいたな、そんな(モブ)


 ドリュー氏に耳打ちされるまですっかり忘れてたわ。


 ナルサーノは息を弾ませながら「待って下さいエーヒアスさぁ~ん!」とこちらへ駆け寄ってくる。

まさかわざわざ追ってくるとは思わなかった。

なんかハート飛ばしまくってる幻影が見えるし。


 あまりにも空気を読まない彼の登場に、全員(魚人含む)はポカーン状態である。


「いやぁ、すっかり荷造りに時間かかっちゃいまして。どうか僕もエーヒアスさんと一緒に旅……を……」


 彼の視線がエーヒアスから魚人女に移り、その目が大きく見開かれる。

まさに「驚愕」といった眼差しにトラウマスイッチでも押されたのか、魚人女は再び激昂した。


「ぬぁ~に見てんだい! そんなにアタイが怖いか! 醜いか!? そもそも人魚は見世物じゃないんだよ! これだから人間ってやつぁ~」


「ぅ、う……」


 ナルサーノは魚人女から一切目を逸らす事なく、口を震わせた。


「美しい……!」


「はぁ!?」


 その場に居た全員(魚人含む)が驚きの声を上げる。

ナルサーノよ、君今何と?


「広大な海を思わせる水色の肌! キラキラと光を反射し、その水色を引き立たせる敷き詰まった瑞々しい鱗! 素晴らしい! 実に素晴らしい!」


 うっとりを通り越して恍惚とした表情のナルサーノに今年度一番の突っ込みを入れる。


「……い、いやいやいやいや! お前あれだけエーヒアスに言い寄ってたではないか! あの愛の歌(笑)は偽りだったというのか!?」


「まさかエーヒアスさん以上に美しい水色を(たずさ)えた女神が存在するとは思わなかったんだ……!」


 そういやこいつ、エーヒアスに向けた歌でもやけに「水色」を推してたな。

なるほど、ナルサーノは水色萌え、と。なんてドマイナーな趣向だよ。


 いつも柔和な笑みを携えているエーヒアスの表情が引きつって見えるのは気のせいではないだろう。

そりゃそうだ。


 いくら何とも思ってない男相手とはいえ、惚れられた理由が髪の色て。

しかも心変わりの相手が拗らせマッシヴ魚人て。

そりゃ女としてのプライドが傷付くってもんd


「エーヒアスさん申し訳ありません! どうかこの場をもって僕との婚約は解消させて下さい!」


 おいやめろぉっ。

頼むからこれ以上彼女のプライドを傷付けてくれるな。

「これが流行りの婚約破棄!」と目を輝かせるカロンの口を慌てて塞ぎ、恐る恐るエーヒアスを見やる。


「フ……フフ……そもそも婚約してないんだけどね?」


 笑顔怖っ。

俺が大人じゃなかったらチビってたわ。

黒いオーラを放つエーヒアスに気付かず、ナルサーノは「僕は真実の愛を見つけたのです!」などと声高に宣言している。

ははは、抜かしおる。


「美しい水色肌の貴女! お名前をお聞きしても?」


「えっ、えっ? アオーサだけど……」


 呆然とした魚人女の反応からみて、事態を飲み込めていないのは明白だ。

「ではアオーサさん。どうか僕と結婚を前提にお付き合いを!」などと畳み掛けるナルサーノ節が凄まじい。

これは新曲、五番までいきそうだ。


 タジタジの魚人女ことアオーサからは先程までの怒気や殺気は感じられない。

恐らく彼女の魚人人生最初で最後の猛アタックなんだろうな……


「……じゃ、行こうか」


「「「「意義なし」」」」


 ほんと何だったんだ、このイベントは。

警戒しまくってた時間と労力を返して欲しいものだ。


「まさかこのサブイベントが、あんな出来事に繋がっていただなんて……この時の私は考えもしなかったのです……」


「カロンよ。無駄に布石をばら蒔くのは止めよ」


 俺達はボエ~♪ と歌うナルサーノと満更でも無さそうなアオーサに背を向ける。

最後まで茶番に付き合ってやる義理はないからな。

歌声がよほど耳障りだったのか、グルオが忌々しげに吐き捨てた。


「全く人騒がせな魚じ……人魚でしたね」


「それな。あれ二人とも後の黒歴史確定だろ」


 ある意味お似合いかもしれん。

数年後に今日という日を思い出して身悶えるがよい。


「「でも僕達(私達)、今とっても幸せです!!」」


 やかましわ!

いつの間にか手を取り合っているリア充二人に祝福代わりの聖水五本(※第一章、三話にて購入)を投げつけて、俺達は今度こそその場を離れたのであった。

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