3、パーティーの後片付けってむなしいからいっそ片付け終わるまでをパーティーとしようぜ
さて、元気に歩き出したは良いものの、それが長く続くかと言われればそんな筈もなく……
「飽きたな」
「飽きましたねぇ~」
「飽きたわね」
女性陣と俺の不満三重奏にグルオとドリュー氏のやれやれだぜフェイスがコラボする。
橋を歩き始めてから早四時間……まだ四時間。
予定では今頃無料のキャンプ地ゾーンに到着している筈なのに、キャンプ地のキの字も見えないのは間違いなくあの長いお見送りと関所の足止めのせいである。
「全く……景色は橋と海ばかりで代わり映えないし、すれ違う人といえば逃げてきた冒険者や旅人ばかりだし……」
「マオーさん、文句ばかり言わないで下さいよ~。私だって飽きてるんですからー」
カロンが帽子のツバをもて余すように弄っているが、お前さっきまでコエダとじゃれてたの知ってるからな。
コエダが疲れて寝ちゃったから急に暇になったの、知ってんだからな。
俺だってコエダと遊びたかったのにズルい。
「……しりとりでもするか? 」
「えぇ~、そんな子供みたいな暇潰し……じゃあ、リンゴ……」
はい、小娘に子供みたいと言われる成人男性の気持ちが分かる人、ここに集合ー。
一緒に凹もうぜ。
「フフ、いよいよこの旅も見どころなしって感じね。……ごま塩」
「まぁ童心に帰るのも悪くないかな。……逢瀬」
「……セスキ炭酸ソーダ」
いや全員乗るんかーい。
自分から始めておいて何だけど、この流れ需要ある?
ないでしょ!(反語)
何が悲しくて魔王率いる冒険者一行が夕暮れの中黙々と歩きながらしりとりせねばならんのだ。
虚しすぎるだろこの光景!
「……だ……だ……脱毛」
この鬼クソ盛り上がらない地獄のしりとりは二時間続き、ようやく最初のキャンプ地ゾーンに到着した我々は夕食もそこそこに就寝したのであった。
……俺がどう夜を過ごしたかって?
グルオが六割引で購入した折り畳みの簡易ベッドで寝ましたが、何か?
◇
──イーガナ大橋に入って二日目の早朝。
「おはようございます、魔王様。新しい中古ベッドの眠り心地はいかがでしたか?」
「いや眠り心地以前の問題だったわ!」
キャンプ地で居合わせた数少ない宿泊者達からめっちゃ不審な目で見られたんだけど。
テントや寝袋で寝る仲間達を差し置いて一人ベッドで眠るとか普通に公開処刑であった。
これ魚人事件が無かったらもっと周りに人が居たって事だよな?
こんなに視線集めるベッド、二度と使うかばか野郎。
「そういえば魔王様、おめでとうございます」
「? 何がだ?」
別にレベル上がってないし彼女も出来てないぞ?
首を傾げていると横からカロンが飛び込んできた。
「おはようございますマオーさん! お誕生日おめでとうございます!」
「……は……?」
……タンジョービ?
……たんじょーび……?
…………誕生日!?
「うっわマジか!」
俺誕生日だった!
ハッピバースデートゥーミー。
ハッピバースデーディーア俺!
ハッピバースデートゥーミー。
「歌ってないで早く早く!」とカロンに急かされ、キャンプ地ゾーンに備え付けられているテーブル付きベンチに向かう。
小さなテーブルの上にはいつもより豪華な朝食が所狭しと並んでいた。
俺に気付いたエーヒアスがコエダに水をやりながら爽やかな笑みを浮かべている。
「おはよう、マオーさん。先生から聞いたわよ。お誕生日おめでとう」
「キィ!」
うわぁ、完全に忘れていただけにこれは嬉しいサプライズである。
いくつになっても誕生日を祝って貰えるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろうか……
「ほらほら、マオーさん! 温かいうちに食べて下さい。今日はマオーさんの好きな玉ねぎの」
「やぁ、マオー殿。誕生日らしいね。おめでとう」
おぉ、付き合いの短いドリュー氏も祝ってくれるのか。
彼がいる間は質素飯を……と思っていたが、誕生日位はご馳走でも良いかと思ってしまう。
これがバースデーマジック!
俺達は狭いテーブル席に詰めて座り、いつもより早い朝食にありついた。
うむ、今日は良い日になりそうだ。
オッサン1「うぉぉ、やっとここまで逃げて来られたぞぉぉ!」
オッサン2「夜を徹して歩いただけの事はあるぞぉぉ!」
……こほん。
今日は良い日になりそうだ。
……たとえ周りが魚人から逃げてきた兵士や怪我人で賑やかになってきているとしても。
たとえ今日中に魚人のいるコレカラ側駐屯所に付く可能性があるとしてm
オッサン3、4、5「「「生きてて良かったぁぁーー!!」」」
だーー! ガヤがうるっせぇ!
九死に一生だったのは分かったから、他のお客様のご迷惑になりますのでどうかお静かにお願いします!
「というかカロン、地味に料理の腕を上げたな。このスクランブルエッグふわっトロなんだけど」
「えへへ~、今日は特別にバターとチーズを入れたんですよー。いつもより時間をかけて弱火でじっくり作りましたぁ」
え、もしかして節約生活してなければカロンの腕前ってもっと上なの?
いやいやまさかそんなご都合設定が後付けされる訳がないよな、うん。
それにしても玉ねぎうめぇなぁ。
彩り豊かな食卓を片っ端から平らげていると、いつの間にか足元に来ていたコエダがチョンチョンとブーツをつついてきた。
今度は何だ?
「キー」
「どうした、コエダ」
「キッ」
ピッと差し出されたのは小さな草……いや、小さな花か?
どう見ても今その辺で取ってきました感がある雑草なのだが……
「キィ、キー」
「俺にくれるのか」
「キッ!」
まだ土が付いている根っこ部分には極力触れないように草をつまみ上げる。
どうやら彼なりにお祝い事だと理解したのだろう。
ソワソワしながら頭と両腕の若葉を揺らすコエダの健気さ、プライスレス。
手袋は汚れたが心は浄化されたので結果オーライである。
「ではありがたく受け取ろう。『この土気のない海上のレンガ橋の隙間から、雨にも負けず風にも負けず、塩害にも負けない小さくとも強く咲き誇る花のように、雑草魂を忘れず逞しく生きよ』というコエダの熱き想い、しかと受け取った」
「キ?」
「フフ、即座に全肯定できる所がマオーさんの良い所よね」
俺達の行動をにこやかに眺めていたエーヒアスが、ふと思い付いたようにテーブルに頬杖をついた。
「そうだわ、マオーさん。私も王都に着いたらお祝いに何か作ってあげるわね。楽しみにしてて頂戴」
「ほう、それはありがたい。エーヒアスがくれるものならば何でも嬉しいというものだ」
▽ 魔王 は 誘惑 を 発動した !
「あら、お上手ね」
▽ だが うまく かわされた !
よくあるこった、気にすんな。
そう自己暗示をかけていると、ドリュー氏が申し訳なさそうに顎髭を撫でた。
「急な話だったからね。私からは何も贈れないが、せめて祝いの言葉だけでも贈らせてくれ」
「いやいや、気持ちだけで十分だ」
流石の俺も依頼人から誕プレせびるほど非常識ではない。
食後のコーヒーを飲みながら話し込んでいる間に、後片付けをしていたグルオとカロンが戻ってきた。
「魔王様。無駄話はそこまでにしてそろそろ発ちましょう」
「えっ俺の誕生日トークってお前の中では無駄話なの?」
「優先順位でいえば三、四番目ってところです。それはさておき、逃げ延びてきた兵の話によれば魚人は駐屯所から動く様子は無かったそうです。今出発すれば夕方にはコレカラ側駐屯所に到着すると思われます」
さておかれた。
まぁ誕生日なんて他人からしたら平日だもんね。
仕方ないね。
こいつ他人じゃなくて家臣だけどね。
「では早めに行動するとしようか。もし到着が遅れて夜に魚人と遭遇したら悲惨だしな」
「マオーさん、それって予告ですかぁ?」
「断固として違う」
お願いだからフラグを予告扱いするな。
手早く荷物をまとめた俺達は、逃げてきた兵士や冒険者、旅人達に好奇と心配の目を向けられながらキャンプ地を発ったのであった。
「ところでマオーさん。いくつになったんです?」
「…………キリ番、ゲットだぜ!」
兜をクイッと被り直し、カロンから顔ごと目を逸らす。
「は、はぁ……キリ番、ですか?(二十五歳なのかなぁ?)」
「(キリ番? ゾロ目の二十二歳ってトコロかしら? マオーさんって結構子供っぽい所あるし)」
「(キリ番か……彼、割りとネタが古いし意外と私と年が近いのかも。若く見えるが三十歳の可能性もあるかな)」
三人の視線を背中に受け、俺はそそくさと歩みを早めた。
……今日で丁度百歳だなんて、言えやしない、言えやしないよ……




