12、玄関と玄関前の手入れ度で住む人の性格が分かったりする
(一番)
UreeeeeeYeahhーーー!
ドゥン パッ ドゥドゥドゥッパァン×2(ボイパ)
しみったれた毎日に good-bye
僕の前に舞い降りた 女神
君の瞳にくぎ付け HEY!
君の声に聞き惚れ HO!
君のハートに胸ドキ YO!
ラーララー ルーゥルゥララァー×3(ビブラート)
(二番)
流れる汗は誰の為 tell me
振るう小槌に嫉妬する 主人公
ボクの心弄ぶ HONEY!
ボクの未来を捧げる 献上!
ボクの全て君のモノ SAY! YO!
『君を見つけた瞬間、モノクロだった世界に、水色の光が宿った──』(台詞)
UreeeeeYeahhーー!
チキチキチキチキ……Foooooー↑↑
君と出会えた奇跡 これから続く軌跡
互いの未来の布石 永遠に繋がる夫婦岩ぁ(デスボ)
◇
うるっせぇぇー!
激しいヘドバンをしながら歌い続ける二十代半ばらしき彼。
言わずもがなエーヒアスと歩いていた暗い髪色の男である。
こう言っちゃ悪いがモブ感が強い顔立ちをしている。
それはさておき、せめて曲はロックなのかラップなのかオペラ調なのか統一して欲しいものだ。
突っ込み所多すぎて思わず二番まで聞き入ってしまったではないか。
地味に音痴なのも不快極まりない。
ちなみに肝心のエーヒアスはというと耳を塞いで何とも言えない微笑を浮かべているだけである。
至近距離ダカラ仕方ナイネ。
「果てない宇宙の宝石のように~、輝く涙を~……」
「なっげぇよ何番まであるんだその歌は!?」
とうとう四番に突入してしまい、思わず塀の陰から飛び出してしまった。
ここまで音楽性が違う奴は生まれて初めてだわ!
男は俺の乱入によほど驚いたのか、リアクション芸人よろしく後ろに盛大にひっくり返っている。
「マオーさん、私の気持ちを代弁してくれてありがと」
エーヒアスがどこかホッとした様子で両耳から手を離すのを見て、ガバリと起き上がった男が吠えた。
「何だ君は!? 人の一世一代のプロポーズを邪魔して、失礼じゃないか!」
「通りすがりの保護者兜です」
悪いがうちのパーティーはスキャンダルNGなんですよ。
「むしろお前が誰だ」と問えば、彼は酷く嫌そうに「ナルサーノ、音楽家さ!」とふんぞり返った。
……音楽家? あの歌唱力で?
「この人、王都で一番のピアニストだったんですって」
「ほうほう、それで二人はどういったご関係で?」
この流れでアベックという事は無さそうだ。
(※アベック=恋人。カップルの事。死語)
「さっき鍛冶ってたら告白されたの。秒で断ったら小槌取られて『返して欲しくば一曲聞いて』と土下座されて、仕方なく連れてこられただけの関係よ」
「それ土下座っていうか脅しな」
お主も悪よのぅ。
それにしてもこのナルサーノとかいう男、フラれてすぐに滅びの歌を贈るとかメンタル鋼かよ。
プレパラートのように繊細な俺には真似出来ない芸当である。
「とにかく、男なら潔く諦めよ。それと次からは歌よりピアノ曲を贈る事を勧める」
「うぐぐ……ポッと出てきた変質者に言われたくはない!」
こっちからしたらポッと出はお前なんだよなぁ~。
ブーメランが刺さってる事に気付いてない彼は、真っ赤になりながら「彼女はボクの運命の人なんだぁ!」と髪を振り乱した。
感情の起伏が激しい奴だ。
「きっとボクがピアノに飽きたのも、城に入れなくなったのも、王都を出るはめになったのも……全ては君に出逢うための神の思し召しなのさ!」
鼻息荒く「だからボクと結婚して、この家で幸せに暮らそう!」と詰め寄る彼からズザッと離れる俺達、悪くない。
そうか、この横に建つ民家はお前の家だったのか。
っていうか今サラッと不自然に王都の情報ブッ込まれなかったか?
彼はエーヒアスに距離を取られたのがよほどショックだったのか膝から崩れ落ちている。
見事なorzだ。
「ぬぅ……これはどうしたものか」
「そうねぇ。悪いけど私の答えは変わらないわ」
エーヒアスはスッと彼の前にしゃがみ込み、涼しい顔で言い放った。
「私、面白い人は好きだけど、それ以上に面倒くさい人は苦手なの。ごめんなさいね?」
「エーヒアスよ、もう少しオブラートに包んで言ってやれ」
求婚した女に「面白いけど面倒くさい」なんて言われたら、俺なら半世紀は引きずるね。
しかしナルサーノは「せめてお友達からでも……」と食い下がっている。
どんだけ必死だよ。
エーヒアスは懇願する大の男を見下ろし、お手上げと言わんばかりに額を押さえた。
「……知り合いからお願いするわ。まぁ私達は近い内にこの町を出るし、当分会うことも無いでしょうけど」
「そ、そんなぁ!?」
_人人人人人人人人人_
> 友 人 拒 否 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
デイグ氏よ、安心して下さい。
あなたの娘はめっちゃガード固いです。
「そんな事より、お前は王都に居たのだな? 近頃城ではハーブの買い占めがあったと聞くが、お前が城に入れなくなった事と何か関係があるのか?」
「そんな事って何だよ! ボクはハーブなんかに興味は無い! 得意だったピアノも捨てた今、ボクは愛を唄う一人の詩人さ!」
「どうしよう会話が通じない」
本当に面倒臭い男だ。
情報の引き出しに難航していると、エーヒアスがやれやれとナルサーノの顔を覗き込んだ。
「王都で何かあったの? 城に入れなくなったって、どういう事かしら?」
ナイス上目遣い! 効果は抜群だ!
ナルサーノはコロッと態度を一転し、自慢気に答え始めた。
「ボクは以前、国王様が開かれる茶会に毎週のように招待されていたんだ。勿論、ピアノ奏者としてね。正直ピアノは飽きてたけど、名誉ある事だから我慢していたのさ!」
どうだ凄いだろう! と胸を張る彼に対する我々の返事は「へーほーふーん」である。
いや、確かに凄いんだろうけどさ。
「ところが、一ヶ月半程前からかな? パタリと城に呼ばれなくなってね。理由を聞こうにも城の門は固く閉ざされてどうにもならず……これを機にボクはピアノを辞めて歌手デビューを果たす事にしたのさ!」
明らかにミスチョイスな転職だろうと突っ込む間もなく、彼はペラペラと捲し立てていく。
「しかし何故か王都ではボクの歌は真価を発揮できず……仕方なく初心に帰ろうと故郷のコレカラ町に戻った矢先に、エーヒアスさんと出逢えたという訳さっ!」
ビシリ! とキメ顔を向ける彼と、何の感情も無い顔で「へーほーふーん」と目を逸らすエーヒアスの温度差よ。
女子の雑な相槌ってマジで脈が無い証拠なんだなぁ……
悲しい現実はさておき、彼の情報は聞き捨てならないものである。
国王の茶会に呼ばれなくなり、城の門が閉ざされ、理由も聞けない状況か。
それも一ヶ月以上前からとは……
「①茶会自体が催されなくなった説。②彼がもの凄い粗相をやらかして王都で総スカン喰らった説。さて、どちらだろうか?」
「フフ、②だったら面白いけど、普通に考えたら①でしょうね」
「何をコソコソ話しているんだ!? というかさっきから近いぞキミ達!」
口元に手をやってヒソヒソと話す俺達を引き剥がし、ナルサーノは頭から湯気が出そうな勢いで喚き散らしている。
「ねぇ、ナルサーノさん。城の門が閉ざされたって事は、他の人も城内には入れなくなったって事よね?」
「あぁ、そうさ! 見張りの兵も何故か中には入れないらしく……っていうかエーヒアスさん、今初めてボクの名前を……!」
「という事はやっぱりお城で何かあったと考えるのが正解ね」
スルースキルを遺憾なく発揮した彼女は、俺を見上げて「王都には心して行った方が良さそうよ」と微笑んだ。
放置プレイとは上級者の嗜みである。
「面倒だが気を付けて行く他あるまい。ドリュー氏の依頼を中途半端に投げ出す訳にもいかぬしな」
報酬でっかいもん。
嫌な予感メーターが急上昇した俺達は、何やら喚いているナルサーノを無言で取り押さえた。
「え、何、ちょ」
そして無事に小槌奪還に成功し、カロンの待つ食堂へと向かう事にしたのだった。
……何か後方で「待って無視しないでぇぇエーヒアスさぁん!?」という声が聞こえたが、「それじゃあね(破ァト)」の一言で沈黙した。
美人の圧って凄い。俺は改めてそう思った。




