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3、掃除は上からが基本。床、お前最後な。

おぉ! 言ってくれるか!

流石デフォルトで口が裂けてるだけの事はある!


「ご主人。この家は普段一体どのような手入れをされているのですか? 正直、掃除もメンテナンスも全く行き届いて無いとしか言えないのですが」


 ってそっちかーい!

厳しく詰め寄る掃除屋(スイーパー)を前に、主人は申し訳なさそうに眉を下げた。


「話せば長くなるんだよぉ。まぁ、とりあえず座っておくれよぉ」


 椅子を出されたのは良いが遠目でも分かる程に埃が乗っている。

いやいやいや……座る気起きないんだけど。


 足が縫い付けられたように動かない俺をよそに、カロンが「えっと、じゃあお邪魔します?」と民宿に入ってしまう。

嘘だろ、入るの? ここに!?

更にはエーヒアスまでもが「ま、腹を決めるしかないわね」と肩を竦めて入っていった。

嫌ぁー! 嘘だと言ってぇ!


「あれぇ? 兜のお兄さんは入らないのかい?」


「あ、俺めっちゃ耳良いから気にしないでくれ。話ならここで聞くから俺に構わないでマジで」


 気遣い<<(越えられない壁)<<<本能


 俺、この民宿に入ったら死んじゃう。

スライムよろしくプルプル震える俺を不思議そうに見ている主人……

「?」じゃねぇよそこは察しろよ。


 入り口付近の床は腐ってヒビ割れているしカウンターには白いモフモフが広がっている。

あのモフモフは間違いなくカビだろう。

ちなみに室内が暗いのはランプケースが汚れまくっているからだった。

うえぇ……


 俺のドン引きに気付かず、主人は椅子に腰かけて肩を落としている。


「実はここだけの話なんだけどねぇ……ボク、どうやら掃除が苦手みたいなんだよぉ」


 見りゃ分かるわ!


「見りゃ分かる」


 グルオの声低っ!

これは久々のガチギレっすわ。

そして「なぜ分かったんだい?」と目を丸くする主人ェ……その天然キャラ何なの。


「毎日欠かさず真心込めてお客様の為に掃除してるのに、この有り様なんだよぉ」


「えっ、毎日ですか!? コレで!?」


 カロンの失礼な発言にも腹を立てず、彼は「お客様来ないからねぇ、これでも毎日掃除ばかりして過ごしてるんだよぉ」と頭を抱えた。

ドゥーユー・コート・ナノォン?

入り口の外から突っ込めずにいるとグルオの小さな舌打ちが聞こえた。


「……では聞くが、毎日どのような掃除を行っている」


「どんなって……まずは床だよぉ。痛みも汚れも酷いから、一番力を入れてるんだよぉ」


「も っ と 具 体 的 に」


 グルオさんや、殺気漏れてますよー。

流石の主人も脂汗を浮かべながらたどたどしい説明を始める。


「まずバケツにいっぱい水を汲んで、床にぶちまけて汚れを押し流すんだよぉ。勿論、ちゃんとあのモップで擦ってね」


 オッサンが指差したのは水の滴る木屑だらけの真っ黒モップ。

汚いもので汚いものを拭いても意味無いだろうjk。俺でも分かる。


「その時点でも問題だらけですね……ちなみに乾拭きは何でやっている?」


「カラブキ?」


 あ、これアカン奴や。

「ケツぶっ叩くぞ」と凄むグルオをどうにかなだめ、話を促す。


「次にテーブルを拭くよぉ。お客様には気持ち良く食事して欲しいからねぇ」


「フフ、その気遣い、椅子にも回して欲しかったわね」


 エーヒアスが軽く尻を浮かせてはたいている。

埃さえ……埃さえ無ければ眼福だったのに……っ!


「テーブルの次は窓を拭いたり、壁を拭いたりするよぉ。ちなみに雑巾はあれだよぉ」


「雑巾? いいえあれは腐ったゴミです」


 もはや能面の如く表情のないグルオが吐き捨てる。

モップの横に吊るされていたのは水の滴る真っ黒な布らしき何か。

あれで拭く? ご冗談を。


……と、ここで、これまでグルオの剣幕にビビりまくっていたカロンが何かに気付いたように声を上げた。


「あれ、でもこの窓、クモの巣だらけじゃないですか? 拭いてるのにクモの巣が張ってるなんて変ですよぅ」


「いやぁ、ほら、蜘蛛って益虫って言うしねぇ。恥ずかしい話、他の虫を食べてくれるのを期待して蜘蛛の巣がある部分はソッとしてるんだよぉ」


「……他の虫、とは?」


 嫌ぁぁ聞くなぁぁ!

即座に耳を塞ぐが、俺の耳には確かにGの単語が届いた。

こんな所で耳の良さが仇になる日が来ようとは……

いい加減ウンザリしていると、俺より先に掃除の鬼がキレた。


「いい加減にしろよ。この無能オーナーが」


「ヒェッ……!?」


 ガタッと乱暴に立ち上がったグルオはツカツカとモップの元へと歩み寄る。

あ、このお怒りモード、なんか見覚えがあると思ったらあれだ。

城にいた頃のお掃除部隊の新人研修の時のグルオ隊長だわー。


「そもそも! なぜ傷みに傷んだ木の床を毎日水浸しにする! わざと腐らせているとしか思えん! モップや雑巾も古くなったら取り替える!」


「で、でも、勿体無くて……」


「道具は手入れをすれば長持ちする! 貴様のは一番最悪の放置状態だ! 何故洗わず、絞らず、湿気とカビだらけの無風の室内に置いた! 言え!」


「ど、どうせ毎日使うから良いかなって……」


「言い訳するな!」


 言えって言ったのに理不尽! って思ったけど、俺は賢いからお口チャックなう。


「雑巾も、何故食事をするテーブル用と腐りかけの壁用を兼用する! 違う物を使うのは当然として、雑巾は固く絞れ! 壁は毎日の掃除ならハタキがけだけでも十分埃が落ちる!」


「は、はいぃっ!」


 真っ青になって姿勢を正す主人。

いつの間にかメモを取っているカロン。

ニコニコ顔で椅子に座って静観するエーヒアス。

実にカオスな空間です本当にありがとうございました。


「蜘蛛は益虫? じゃあ蜘蛛や巣を見て不快になる客の思いは無視なのか!」


「虫だけに?」


「喧しい! そもそも蜘蛛は昆虫ではない」


 この主人、ボケとるバヤイか。

命知らずにも程があろう。


「……キィ……」


「おっと、」


 すまん、コエダ。

忘れていた訳ではないが、展開に圧倒されて構ってやれてなかったな。

コエダは剣の柄にしがみついて完全に怯えている。

よーしよし、怖いお兄ちゃんですねぇ。


「貴様には掃除の基礎を叩き込む必要がある! こんな腐った空間に泊まる訳にはいかない!」


「ひぃぃ~……!」


 うむ。

この話、長くなりそうだ。

これ以上付き合うのは時間と労力の無駄である。


「どれ、コエダよ。散歩にでも行くか」


「……キ……」


 ついでに別の宿を探してみよう。

ぶっちゃけこの民宿以外ならどこでも良い。

今日だけで随分と俺のメンタルも鍛えられたものだ。


 コエダを連れてコッソリこそこそ、その場を離れる。

まだ後ろからグルオの怒声が聞こえていたが、もう知ーらね。


「うーむ……このまま夕方になってしまうのはまずいだろうな」


「キー」


「どこか近くに手頃な宿は無いものか……」


「キィ!」


 あ。

すれ違った人にギョッとした目で見られてしまった。

一人言を言ってると思われたのだろう。

もう黙るんで通報しないで。

俺は無害な兜系育メンですよー。


「キー、キッ!」


「ん?」


 ツンツンと服を引っ張られ、コエダの指し示す先に目をやる。

そこには小さな店があり、十人程の人集りが出来ていた。


「失礼。この店は何の店だ?」


 カウンターに座っている店員らしき婦人に声をかけると、聞き慣れない単語が返ってきた。


「これはねぇ、最近王都周辺で流行っている『夢くじ』っていうのよ」


「夢くじ? 何のくじだ? 景品は何だ?」


「アハハッ、普通のくじ引きじゃないのよー。八桁の番号の紙を買ってね、当選したらお金が貰えるのよ。当選番号はいくつかあって、前後賞なんてのもあるわ。皆大金の夢を求めて買ってくって訳」


「ほぅ」


 なるほど、それで『夢くじ』か。

夢が金とは寂しい時代になったものだ。

金で夢が叶った所で、本当に胸を張れるのか?


「連番下さい」


「まいど! 当たると良いですね!」


 俺の人生という物語(ストーリー)

主人公は俺だ。

それがどういう事か分かるか?


「コエダよ。これは当たる、当たるぞぉっ!」


「キィー!」


 いやぁ、めっちゃ良い買い物したわー。

一万エーヌ使って十枚連番。

前後賞合わせて最大二億エーヌか。

先を見据えた投資が出来る俺、さっすがー。


 財布は少し寒くなったが、心はとってもホックホク。少しも寒くないわ。

ルンルンと人をかき分けて散策している内に、俺はある事に気が付いた。


「……やけにハーブが高いな。相場の五倍近い値ではないか」


 更に言うと品揃えも少ない。

どの店や露店もハーブ不足で困っているようだ。

あの民宿の主人、掃除スキルはヘッポコだが嘘は言ってなかったらしい。

どれ、その辺にいる露店商の男に声をかけてみるとしよう。


「おい、店主。なぜこの辺りはハーブが少ないのだ? 不作か?」


「さぁねぇ。噂によると、どうも王都で大規模なハーブの買い占めがあったみたいなんだよ。それで皆儲けようとハーブ持って王都に行っちまったもんだから、周辺の町はハーブ不足ってワケさぁ」


「ほぅ。ハーブ系以外の薬などは普通に売っているのだな?」


「そうそう。あくまでも高騰してるのはハーブだけさぁ。何か買ってくかい? オススメはこのゥゴョンヌーの刺身だよ」


「NO,Thank You」


 コエダよ覚えておけ。

NOと言える勇気って大事なんだぞ。


 あてもなくさ迷っている間に空がオレンジ色に染まりつつある。ヤバし。

そろそろ本気出して宿を探さねばと思った所で、俺達は背後から声をかけられた。

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