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7、実は湿気取りには炭や重曹も使える(低い所に置こう)

 ワイヤーさえ辿れば何とかなろう。


……という発言を素直に信じた者はどれ程いただろうか。


 問一、何とかなったの?


 答え、なりませんでした。


 皆の姿を完全に見失った俺は現在進行形で一人寂しく霧の中を歩いている。


「キ、キー……」


 あ、一人じゃなかった、コエダがいたか。

落とさないようしっかりとベルトに掴まらせておかねば。


「コエダよ、我々は迷子ではないぞ。これは遠回りの散歩というのだ」


「キッ」


 仕方ない。

MPが勿体無いが、空間転移魔法で一気にドマンナ街道まで戻るか……ん?


 ズドドドッ


 鋭い殺気と共に何かが勢いよく地面に突き刺さった。

これは危ない。


「何の用だ?」


 いきなり背後から攻撃するとは物騒な。

コエダを気遣いながら全弾避けてやれば、上空から驚いたように息を飲む音が聞こえた。


「この霧は貴様の仕業か」


 返事はない。

ただの霧のようだ。


「ふむ……少し違うか。この()()()()()()()という訳か?」


 気配が揺れるのが伝わった。

いきなり図星を突かれ動揺しているようだ。

霧はどんどんと濃くなっていき、自分の手元すら見えない状況となってしまった。

コエダが怯えて縮こまっているのが分かる。


 多分恐らくきっとメイビーだが、この霧は現れる範囲が限られているな。

俺の周りがこれだけの濃霧ならばグルオ達の方は霧が晴れているだろう。

ならばもう少し時間をくれてやるとするか。


「よし、ではまず自己紹介をしよう。俺はしがない冒険者Aである。年齢や出身は訳あって言えぬが、趣味は日記と鼻歌である。好きな食べ物は新玉ねぎの──」


 ズドドドドッ


 おっと。

また攻撃されてしまった。

どうやら先程から投げられているのは石礫だったらしい。

足元に突き刺さる尖った石をつま先で確認し、意識を周囲に集中させる。


 気配が一ヶ所に定まらない。

となると敵の正体はやはりこの霧そのものか。


「まずは話をしようではないか、ヴァンパイアよ」


 脅しのつもりで魔力を少し解放すると、一瞬にして霧が晴れた。

薄暗い森の中、茂みの奥からこっそりと顔を覗かせたのはヴァンパイアの少女だった。

ヴァンパイアは霧化できるとは聞いていたが実際に見るのは初めてである。凄い。


 艶やかな黒髪に陶器のように白い肌。

閉じた口からはみ出る二本の牙。

ヒラヒラとした黒いドレスのせいで人形感三割増しである。


「……なんであんた、つよいのに人間のふりして人間の味方するの」


「別に味方という訳ではない。成り行きで仕方なく、だ」


 ヴァンパイアの少女は表情一つ変えず、苛立たしげに舌打ちをした。


「あんた、わたしの使い魔、いじめたでしょ」


「ふむ。あのインプ、やはりあのインキュバスの使い魔では無かったか」


 インプの親玉は「この洞窟に越して来た魔物の為に働いてる」とは言っていたが、その者に仕えているとは言っていなかった。

出てきたのは洞窟だったのに逃げた先が森だったのも気になっていたしな。


「つまり、貴様はインキュバスの為に働くようインプに命じていたという事になるな。……貴様の目的は何だ? まさか惚れてるから、なんて事もあるま」


「……~~っ!」


「あ、ごめん、今の無し」


 真っ赤になって涙目でプルプルし始めるヴァンパイア少女。

ほんとゴメンて。

青春って良いと思うぞ、うん。


「しかし、なぜ霧で人を惑わせるような真似をする。人攫いの噂もあるし、下手をすれば強い冒険者に目を付けられてしまうだろう」


「……もともと、わたしが先に森にすんでた。たまにくる人を霧で迷わせて、こっそり血をもらってた」


「ほうほう」


 この話、長くなるかな。

人の自慢話と過去話ほど退屈な物はないんだけど。


「二ヶ月まえ、あの麗しき超絶イケメンインキュバス様が来た。でも、わたしは好みじゃないっていわれた。だから、こっそり遠くから見守ってた」


 健気な話である。

一歩間違えばストーカーだけど。

彼女はギロリと赤い目を剥く。


「あんたたち、ババアだけじゃなく、あの麗しき超絶イケメンインキュバス様まで連れだそうとしてる。ゆるせない」


 あ、それでおこだったのか。

やっと理解した。

やはり話し合いは大切である。


「ならば、貴様もあのインキュバスのようにヒィの町で暮らせば良かろう」


「……むり。わたしは、トマトジュースやワインじゃ納得できないグルメなの。もし町でくらして血を飲むことが人間にバレたら、あの麗しき超絶イケメンインキュバス様に迷惑かけちゃうし」


「そこは気合いでカバーせよ。それとも、貴様の愛は食欲に劣るというのか?」


 っていうか呼び方長くない?

もうそこは「あのお方」とかで良くない?


 俺の言葉にハッとしたのか、ヴァンパイア少女は口元を覆った後、意を決したように強く頷いた。


「……わかった。トマトジュース、すきになる。それで、あの麗しき超絶イケメンインキュバス様の近くにすんで、目の保養に人生を費やす」


「想いが重い!」


 これ、ストーカー行為の助長させてないか不安になってきた。


「とにかく、もう霧で惑わすのは控えよ。俺は仲間達を待たせているのでな」


「……わかった。道はあっち。勝手にかえって。わたしは、あの麗しき超絶イケメンインキュバス様が町にひっ越すまでこの森にのこる」


 ソウデスカ。

なんかドッと疲れた。

いつの間にかコエダは寝ている。

逞しい奴だ。


 俺はすっかり霧が晴れた森の道を歩き、ドマンナ街道の立て札の場所まで戻るのだった。




 ドマンナ街道に出ると同時に、膨れっ面のカロンにブーブー歓迎された。

他の皆の姿はない。


「マオーさん! 遅いじゃないですか! 心配しましたよー」


「すまぬ。マイナスイオン浴びるのに夢中になっていた。皆はどうしたのだ」


 カロンは「全くマオーさんは仕方ないですねぇ」とやけにお姉さんぶった口調で仁王立ちしている。

おまいう。


「皆は一足先にヒィの町に戻ってます。拐われてた人達はそのまま帰宅するそうです。先生とエーヒアスは勇者さんと一緒に役場に報告に行って、私達の協力を説明しておいてくれるって言ってました!」


 それは良い。

役場での面倒くさいやり取りをせずに済むのは凄く助かる。


「なら我々はさっさと町に戻って宿でぐうたらしよう」


「それ、ダメ人間の発言ですよマオーさん」


「俺以上に駄目な発言かますインキュバス相手に頬を染めていたのは誰だ、と言いたかったが、止めておこう」


「全部言っちゃってます、マオーさん!」


 さっきのは魅了魔法(チャーム)のせいです! などと供述する彼女は実にからかい甲斐がある。

ちょっと元気が出てきた俺は作詞作曲父上の鼻歌を披露するのだった。

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