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6、トイレは毎日小まめに掃除すると大掃除が楽

 洞窟の奥はボコボコと幾つもの窪みがあり、彼女達はその空間を上手く利用して生活しているようだった。

部分的に天井の隙間から光が差し込んでいる。

意外と地上が近いのだろう。


「インキュちゃーん、お客さん来てたから連れて来たわよぉ」


 婦人が声高らかに話しかけると、平たい岩に横たわっていた人影がムクリと起き上がった。


「うっそ、何で勝手に連れて来ちゃったのママ! ボク会いたくないんだけど!」


「でもねぇ、インキュちゃん。いつまでも一人で閉じこもってちゃダメよぉ。たまにはお外に出ないと」


「やだやだやだぁっ! ボクはママやばぁば達が居ればそれで良いんだい!」


「インキュちゃん……っ!」


 いや、何ズキュン、みたいな顔してんだ。

よく見ると辺りには何人もの女性の姿があり、皆一様にインキュバスらしき人影を温かく見守っている。


 これは……


「罠ではなく、ズコーッの方だったか……」


「マオーさん、今凄い顔してるの気付いてます?」


 女性陣に諭され、インキュバスらしき人影は渋々嫌々といった様子でこちらに歩み寄って来た。

……おぉ……なるほど。


 見た目は確かに若い。

パッと見は二十歳前後の人間だが、とても普通とは言い難い容姿をしている。

小さな角が生えているからという理由ではない。

まさに絶世と言っても良い程の儚げな美青年なのだ。

はだけた衣服から覗く白い素肌が眩しい。

カロンが完全に目を奪われている。

チョロすぎるだろ。


「……ここに何の用だ。ボクは君達に用はない」


 でしょうね!

正直俺達も何をしに来たのか目的を見失いかけてるわ。

俺は気だるげに欠伸をするインキュバスに惑わされる事なく、きつめの口調で説明する。


「この辺で人攫いが出るという噂があってな。我々は人攫いの犯人とその被害者を探すためにここまで来たのだ」


 キリッ!

珍しく真面目に言い放った言葉は呑気なおばちゃん達の反応で相殺されてしまった。


「まぁイヤだ、怖いわぁ~」


「物騒ねぇ、戸締まりちゃんとしなきゃ」


 いや十中八九、被害者はあんたらだから!

何故無自覚なんだ。

これはやはり魅了(チャーム)がかけられているのではなかろうか……


「あー、それ多分、犯人がボクで、拐われたのがママ達とばぁば達のことだよ」


 認めるんかーい。

あまりの毒気の無さだ。

流石のユートも戸惑いがちに俺達の顔を見回している。


「えっと……これ、オレ達どうしたら良いんだ?」


 そんなのこっちが聞きたい。

とりあえずもう少し話を聞いて……


「ママー、お腹減ったぁ。ばぁば、膝枕ー……」


「あらあら、じゃあお茶にしましょうねぇ」


 急にくつろぐの止めろ!

インキュバスは始めから俺達の事など居なかったかのようにゴロリと横になり、老婦人の膝枕を堪能し始めた。

完全に祖母に甘える孫である。

人の好みに口を出す気はないが、正直これは酷い。


「魔王様、あの者をはっ倒して良いですか?」


「今それやったらこの場にいる全婦人が敵になるから止めよ」


 やだもうこのだらしない状況。

誰だよ18禁展開だけは阻止とか盛大な杞憂してた奴は。


 その後、何だかんだでお茶を出されてしまい、よく分からない説明会が開催された。

結論から言うと、やはりこのインキュバスが人攫いの犯人だった。


「ここに住み始めて、ボク、独り暮らし向いてないなーって気付いちゃったんだよね。それで、最初はママがいれば良いやって思って一人連れてきたんだ」


 その発想がおかしい。

あ、でもインキュバスの習性的にはそれが普通……なのか?


「でも、ママが家事してる間、ボクは暇でしょ。だから、次にばぁばを一人連れて来たの。でもばぁばはすぐ疲れちゃうから、もう一人ばぁばを連れて来た。そしたらママが家事で大変そうになっちゃったから、もう二人のママを連れて来て、家事をシフト制にしたんだよ。そうしてたらなんか段々増えてっちゃった」


 何もかもがおかしい。

「もう二人のママ」っていうパワーワードに全力で突っ込みたい。


「一人間違えてオバサンみたいなおっさん連れて来ちゃったけど、頼んでも全然帰ってくれなくて、今はトイレ掃除専門のおっさんをやってるよ」


「Q、トイレ掃除専門のおっさんとは」


 おっさんまでたぶらかすインキュバスの美貌怖い。

現にこんな駄目な面しか見せていないクズにも関わらず、カロンはすっかり赤くなってモジモジしている。

エーヒアスは……どうだろうな。

相変わらずニコニコしているが、言葉少ななせいで真意が読めない。


「……もう良い。とにかく、全員家に帰って貰おう。町の者が心配しているのでな」


 俺としては早く解決して謝礼を貰って勇者とバイバイしたい。

ところが抗議の声を上げたのは婦人達全員だった。


「嫌よ! 確かに最初は不思議な力で連れてこられたけど、今は皆好きでここに居るの! それに、私達が居なくなったらインキュちゃんがご飯食べられないじゃない!」


「そうよ! 私達が居なくなったら誰がインキュちゃんに子守唄を歌ってあげるのよ!?」


「身寄りも無い老い先短い私からインキュちゃんを奪わないで頂戴!」


「ワシもインキュちゃんから離れんぞ!」


 ヌルッとおっさん入ってくんな。

それにしてもこれは厄介である。

聞けば全員家族も身寄りもなく、このインキュバスだけが心のオアシスなのだと言う。

そう言われましても……


「なぁ、兜の兄ちゃん。オレ、面倒くさくなってきた。オレ一刻も早く魔王の城に行きたいし、皆幸せそうだし。この洞窟攻略、もう終わりで良くない?」


「ぬぅ……」


 そういやユートは妙に先を急いでいたな。

このまま魔王の城に行かせても良いのかという問題もある。

全く、問題山積みじゃまいか。


「……まぁ聞け。我々がここでお前達を見逃したとしても、すぐに別の冒険者なり、騎士団なりが捜索に来るぞ。もしそうなればこのインキュバスは駆除対象と見なされてしまうだろう」


「そんな!」


「酷いわ!」


 その時婦人達に衝撃走る……っ!

この機を逃さず俺は畳み掛けさせて貰おう。


「残念だが事実だ。お前達が真にそのインキュバスを庇いたくば、とにかく一度帰宅し、周囲を安心させる事を勧める」


 よっしゃ、我ながら上手い着地点を見つけた!

慌てふためく彼女達には悪いが、これ以上こんな所で時間を食う訳にはいかないのだ。

グルオが珍しく「流石、減らず口の魔王様ですね」と褒めてくれたが……あれ? これ褒められたのか?


……と、ここで何やら考え込んでいたユートが「あのさぁ」と口を挟んできた。


「いっそおばちゃん達とインキュバスが一緒に町で暮らせば良くない?」


 なん……だと……!?

その発想は無かった。

ユートはなんて事無い口調で続ける。


「勿論これ以上女の人を魅了しちゃマズいけどさ。こんな洞窟に人間が住み続けるのも無理があるだろ? 皆は一度町に帰って、インキュバスは後でこっそり誰かの家で静かに暮らせば良くない?」


 こいつ……天才か……!


「君は天才か」


 被った。

インキュバスも目から鱗が剥がれ落ちている。

見た目が人間に近いとはいえ魔物が人里に紛れて暮らすなど、そうそう思い付かないだろう。

インキュバスはコテンとあざとく小首を傾げてきた。


「その人間の言う通りにしたら、ボク、ママ達と離れないで済む? ばぁば達も一緒に暮らせる?」


「う、うぅむ……? まぁ、これ以上ママとばぁばを増やさなければ何とかなる……んじゃないか……?」


「そっか。じゃあボク、ママ達の里帰りを許可するよ。大人しくここで迎えが来るの待ってる」


 解決した!

まさかの円満解決!

信じられるか? ここまで来るのに殆どの戦闘シーンカットしちゃって見所が無いんだぜ!


 困惑しかない俺達だったが、ユートはやったぜ! と謎の勝利ポーズを決めている。

これが勇者の持つ主人公パワーというものか。

勇者、なんて恐ろしい子……!




 こうして俺達は渋る八人の女性と一人のおっさんを引き連れ、霧の洞窟を抜け出したのだった。

途中でネズウサギやモグラウサギと二度程遭遇したが、こちらの人数が多かったせいか戦闘にもならなかった。


 このままでは次の瞬間にでも「俺達は何事もなくヒィの町に着きました」の一言で終わってしまうだろう。


「全く、巻きすぎは打ち切りの前兆だと相場が決まっているというのに……」


「マオーさん、何の話をしてるんですか?」


 インキュバスの前では終始無言だったカロンが不思議そうに見上げてくる。

どうやら彼から離れた途端に元の調子に戻ったようだ。

良かった良かった。

お前にあの色香はまだ早い。


「それにしても、綺麗なヒトだったわね。私、ドキドキしちゃった♡」


「こちらとしてはその発言にドキドキするのだが……」


 豊満な胸に手を当て()()を作るエーヒアスをそっと目に焼き付ける。

ありがたや、ありがたや……


 全部で十四人。

人数が多いせいもあり、ちょっとしたツアー団体みたいになっている。

ワイワイと騒がしく森に入った瞬間、辺りに霧が立ち込め始めた。


「ほう、これが噂の霧か」


「全員固まって下さい。私が先導します」


 グルオの指示に従い、皆ワチャワチャと団子の如く固まりだす。

うぬぅ、暑苦しい。


 ワイヤーさえ辿れば何とかなろう。

俺は皆から一歩引いた距離を保ち、微かに見えるワイヤーを目印に森を歩く事にした。

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