14、シュレッダーゴミは袋が破けると飛散悲惨
昼間とはうって代わり、夜の町はイベントが終わったダンジョン宜しく実に静かだ。
空は魚人の鱗をぶちまけたようにキラキラと星が瞬いている。
涼しい風が吹き抜け、俺の長い髪を優しく撫で……あ、もう無理。
どうやら俺には†詩人†のセンスはないらしい。
適当に歩く内に高台を発見した。
村などで見かける木製の物見櫓とは違う、石造りの立派な高台だ。
見張りなどはおらず、出入りは自由らしい。
これは上るしかあるまい。
俺は高い所が大好きだからな!
ルンルンと石階段を上っていくと頂上に先客がいた。
ナカーマ……あ。
設置されている投石機の横に立っていたのは、エーヒアスの師匠ドワーフだった。
彼は俺を一瞥だけしてそっぽを向く。
「……フン、ハナタレの雇った若造か……」
「ご機嫌よう。師匠ドワーフ」
「別に機嫌は良くないし、第一儂はお前の師匠じゃないわ」
ぐぬ、やはり取っつきにくい。
ドワーフは町の外を見下ろしたままモジャモジャの髭を弄る。
「まぁ、世話になった、とは言っておく」
「ジジデレとか誰得」
「何の話だ」
ドワーフはデイグとだけ名乗り、難しい顔をしたまま黙りこんでしまった。
気まずい事、山の如し。
……もう帰ろうかな。
そう思った矢先にデイグ氏が口を開いてしまった。
やべ、完全にタイミング逃した。
「……あのハナタレが話しておった。胡散臭い兜の変人に変わった旅の誘われ方をしたとな」
「それ悪口!」
「……だが、かなり喜んでいた。諦めていた夢を追えるかもしれんとな」
デイグ氏は言葉を選ぶようにてっぺんだけ薄くなったモジャモジャ頭を掻く。
「良い機会だ。あやつはいい加減親離れせにゃならん」
親離れ?
あの大人びたエーヒアスが、まさかファザコンとでも言うのだろうか?
イメージ湧かないんだけど。
「そもそもこの町に来たのだって、あやつが勝手に儂について来ただけだ。職人としても、もう一人でやっていける腕を持っているというのに……」
「そんなに凄いのか」
「儂が赤子から育てたんだから当然だ。……だが、子はいつか親元を離れねばならん」
それは分かる。
分かるが……でもなぁ~。
嫌でも別れなきゃいけない日が来るんなら、そんな急いで離れる必要なくね?
デイグ氏は俺のモヤッと感を置いて話を続ける。
「お前は強い上に底が知れん。だが話を聞く限り、お人好……とても悪人には見えん。構わずあのハナタレを連れていけ」
今一瞬お人好しって……幻聴かな? 幻聴だな!
「だがエーヒアスの意思はどうとする。彼女はまだお前と共に居たがっているように見えるが」
「それは子供の我が儘というものよ。……まぁ、それに関する心配はいらん。明日、あのハナタレには儂から話をつける」
マジでか。
本人より先に保護者の了承を得ちゃったよ。
「では、きちんと話をつけた上で彼女が納得したのであれば、我々の仲間にしよう」
「フン、若造が偉そうに……だが、」
蚊の鳴くような声で「頼む」と呟くデイグ氏は、今までになく小さく見えた。
おぉ、これが親父の葛藤というものか。
「安心せよ。娘さんの身の安全は保証しよう、お父さん!」
「だぁれがお父さんじゃあぁぁ!」
ガツーンと強烈なアッパーが繰り出された。
咄嗟に反対方向に跳んでダメージを軽減させたが、なかなか強い一撃だった。
父上にもぶたれた事なかったのに、これは驚きである。
親父は強し。
何だかんだでデイグ氏と少しだけ仲良くなった俺は、その後宿に戻り気分よく眠りについたのだった。
翌朝。
目覚めた時には既にエーヒアスは仕事に行ってしまっていて不在だった。
で、今はカロンが作った朝食を三人で食べてる所だ。
「キィ」
おっと失礼、四人だったか。
コエダは皿に注いだ水に、足にあたる根っこを浸けてパチャパチャやってる。
食事中に遊ぶな。
「魔王様。今日は国から謝礼が貰える日です。貰えるもん貰い次第、この町は出ましょう」
「お前、あんなに慕ってくれる人がいるのにやけにアッサリ味なのな」
「出会う人間にいちいち情が湧いていたらきりがありません」
そういうものなのか?
こいつの価値観はよく分からん。
人間は寿命が短いし、一期一会の別れは名残惜しいと思うんだがなぁ……
「私は寂しいですよぅ。今日でエーヒアスとお別れだなんて……」
カロンがヨーグルトに乗ったベリーをつつく。
元気がないのは明らかだがデイグ氏との話はまだ伏せておこう。
共に来るか来ないか、決めるのはエーヒアスだ。
下手に話してぬか喜びさせる訳にはいくまい。
「さて、食事が終わったらラピスのいる駐屯地へ行くとするか」
「いくら貰えるでしょうね」
「待て。こういう場合は期待しない方が良い。むしろ金銭とは限らない位に思っておけ。最悪国王のサインやブロマイドとかかもしれん」
「何ですかそのクソ国王。魔王様レベルのアホじゃないですか」
……んん?
ちょっと意味がわかりませんねぇ。
俺達は「早く早く」と急かすカロンに背中を押され、ラピス率いる騎士団がいる駐屯地へと赴く。
その建物は元々は町の集会場らしく、なかなかに広い場所だった。
「マジかよ聞いてないんだが」
俺達三人とドールザーはズラリと整列する騎士団の前に立たされ、正装したラピスに感謝の言葉を述べられるという公開処刑を受けた。
遠くから温かい拍手を送る町の人の視線が刺さる。
何これ超ハッズい!
言ってくれてればもっとおめかしして来たのに!
ちゃっかり難を逃れたらしいエーヒアスが人混みに紛れてニコニコしているのが見える。
ずるい。
「……そして、これが褒賞だ。受け取れ」
「あ、ごめん、全然話聞いてなかったけど貰うわ」
「……ごほん。こちらの感謝の意は伝えた。以上だ」
本当に感謝してるの? って位睨まれてしまった。
謝ったのになぁ。
俺がアザーッスと高価そうな赤い小箱を受け取ると、その場はお開きとなった。
あぁ、堅苦しかった……
「魔王様、謝礼の中身は?」
「お前そればっかかよ。……さて……」
オープンザボックスー。
蓋を開けると二万五千エーヌと回復薬三本、そして手紙が入っていた。
うぅ……む……
これは微妙すぎて逆に反応に困る奴だ。
「メッッチャ高額か、逆にブロマイドだったら超面白かったのに」
「魔王様は何を求めているんですか」
人間の王め、遊び心のない奴だ。
俺とは気が合いそうにないな。
……と思いつつカサリと手紙を開いてみるみる。
「えぇと何々……え゛……」
「……魔王様、何と書かれてたのですか?」
「要約すると、『ギャンザク捕まえてくれてサンクス! そーんな強いならこの前現れた勇者と合流して魔王討伐とかしてくれたら嬉しーなー! ま、無理にとは言わないけど。もし都に来た時はお城に遊びに来てね。城下町は賑やカーニバルだよ』って書いてあった」
「何故要約してしまったのですか……」
だって堅苦しい文章だったんだもの。
そんなの一々音読してられるか。
「マオーさん、このお手紙、二枚目がありますよ」
カロンがツンツンと手紙を指さす。
うわホントだ。
全然気付かなかった。
俺は手紙の続きにざっと目を通す。
「……ふむ。要約すると『追伸。ドマンナ街道から外れた場所にある霧の洞窟に、女性を狙った人攫いが出るという噂があるよ。もし近くに寄ったら、ついでに解決してくれたら助かるなー。またお礼するし、暇ならよろしこ』との事だ」
「どうして要約しちゃうんですかぁ……」
「だって文面そのまま読んだら断りにくい感じになりそうなんだもん」
俺はこの国王とそこまで関わる気ないしな。
第一、俺が元魔王とバレたらヤバヤバい。
手紙の内容は忘れる事にしようそうしよう。
気を取り直して宿屋に戻り旅立つ準備を始める。
準備と言っても殆どグルオがやってくれるので俺は何もしてないんだけど。
コエダを膝に乗せて戯れながら、荷物の最終確認をするグルオとカロンを見守る。
あ。来たか。
気配察知。
ガチャリと扉が開くと、そこには革の鞄を提げたエーヒアスが立って……
んんん!?
「……エーヒアスよ。その顔はどうした」
「フフ、少しクソ髭親父と語り合ってきたのよ」
彼女は左目に青あざをこさえ、鼻血を止める鼻栓をしていた。
水色のポニーテールはボサボサで唇も少し切れている。
いやいやいや! 何してんの?
確かに昨日、デイグ氏は「話をつける」とは言ってたけども!
話って拳と拳の語り合いの事だったの!?
「ひぇぇ、だ、大丈夫ですか? 早く回復魔法使わないと……」
「良いのよ。だって、公平じゃないでしょ?」
「はぇ?」
ニコリと微笑む彼女の雰囲気は実に晴れやかな物である。
これ、デイグ氏も相っ当ボロッボロにやられたと見た。
何を語り合ったかまでは分からないが、彼女なりに納得のいく別れ方だったらしい。
脳筋親子め。
エーヒアスは姿勢を正し、乱れた髪を軽く整えると深々と頭を下げた。
「……事情と気持ちが変わったの。もしあなた達さえ良ければ、私も旅の仲間に入れて貰えないかしら?」
俺達は顔を見合わせる。
カロンは満面の笑顔。
グルオは遠い目をしている。
あれは諦めの境地の顔だ。
よし、無問題。
「歓迎しよう。エーヒアス」
こうして俺達は新たな仲間を迎え、モチット町に別れを告げるのだった。




