12、鉄の家具は乾拭きして錆止めすると綺麗長持ち
何故かむくれていたカロンだったが食堂を借りて食事を作ってきている間に不機嫌の理由を忘れたらしい。
時刻は昼過ぎだったらしく、俺としては遅すぎる朝食となってしまった。
出てきたのは少し焦げ気味のフレンチトースト。
カロンの料理は見た目はともかく結構イケる。
部屋で黙ってモグモグしていると、ふと窓の外に木の枝が刺さっているのが見えた。
……ってあれ?
あの枝、今動い……
「あぁっ!? 窓に、窓に!」
トレントの子供ではないか!
慌てて窓辺に寄る俺を制止し、グルオは「あ、やっぱこれ、あのトレントの子供でしたか」と何食わぬ顔でカーテンを閉めた。
おっま!
「マオー様にくっついて離れそうに無かったので追い出したのですが、窓辺に居ついてしまいました」
「幼子相手に追い出したとかお前ホント何なの」
急いでカーテンと窓を開け室内に入れてやる。
よほど心細かったのか、トレントの子供はか細い声で「キィ……」と一鳴きした。
可哀想!
手に乗せてみた所で、恐る恐る近寄ってきたカロンが目を輝かせた。
「わぁぁ、やっぱり可愛いです!」
「何だ、知っていたのか」
なら話は早い。
このトレントを今後どうするか三人で相談せねば……
カロンはションボリしながらトレントの頭の若葉をつつく。
「最初、連れて行きたいって言ったんですけど、先生にダメだって言われましたぁ……一度飼ったら最期まで面倒見なきゃダメだって……」
「あっ……(察し)」
「トレントって凄く大きくなるし、何十年も、何百年も生きるらしいです……うぅ……」
あー確かに。
俺達ならある程度平気だけど、カロンの寿命では付き合いきれないだろうな。
人間って儚いなぁ~。
トレントは「キー……」とカロンの指に両腕の細枝を擦り付けている。
控え目に言って超絶可愛い。
「ふむ、なかなか懐いているな」
「ふふ~ん、先生の目を盗んでお水あげてましたから!」
「ほぅ……初耳だ」
グルオの指圧がカロンのつむじを襲う。
本当に仲良いな、お前ら。
「だがいずれ森に帰さねばなるまい。まだほんの子供だし、少しの間位なら共に行動しても良かろう」
「ま、マオーさんん……!」
魔物は逞しいしな。
ある程度成長すれば一人でも立派に生きていけるだろう。
文句言いたげなグルオには気付かないフリをして、俺はトレントをつまみ上げる。
「よし、貴様に名前をくれてやろう。雄のトレントだからな……あ! トレン田く……」
「ダメです」
駄目か。
名付けとは案外難しいな。
個性を出そうとキラキラさせてしまう親の気持ちも、今なら分からんでもない。
「じゃあキー棒とかウッデ……」
「魔 王 様 ?」
結局、トレントの名前はコエダになった。
大きくなってもコエダとはこれ如何に、なんて考えてはいけない。
腹が膨れた所で、俺達はエーヒアスが居るという町外れの空き地に向かった。
町は訪れた時とは比べ物にならない位、明るく活気づいている。
これがこの町本来のあるべき姿なのだろう。
そんな事を思っていると道ですれ違う人間から次々と声をかけられた。
「おぉ、グル先生。兜の旦那は目覚めたのかい?」
「はい、うるさいくらい元気になりました」
うるさい……?
「あら、お嬢ちゃん。兜のお兄ちゃん元気になったのねぇ」
「はい! 無駄に元気になりました!」
無駄……?
っていうか俺の知らない間に知り合い増えすぎじゃね?
俺にももっとかまちょ。
地味に肩身の狭い思いをして広い空き地に辿り着く。
エーヒアスは釜戸らしき物で火を起こし、鉄を熱して──え?
ここ、空き地だよね?
何で釜戸があんの?
他にも何かでっかい道具が沢山あるし。
ガンガンとハンマーで赤い鉄を打つエーヒアス。
その額には汗が浮かんでいる。
おぉ、職人の顔だ。
彼女はこちらに気が付くとニコリと微笑んで汗を拭った。
「良かった。マオーさん起きたのね。おはよう」
「心配かけたようだな、すまぬ」
「フフ、当然でしょ? 私と師匠を救ってくれた大恩人だもの。ありがとうね」
これはキターーー!?
フラグの可能性に脳内ガッツポーズ。
エーヒアスは何故か俺の後ろの二人を見て一層笑みを深めた。
「まぁ、一番心配してたのはカロンと先生みたいだけどね。二人共死にそうな顔してたもの」
マジでか。
カロンはともかく、グルオが心配とかちょっと想像つかないんだけど。
チラッと顔を見てみたら規制かけるレベルの顔で睨まれてしまった。怖ーい……
「しかし、この設備の数々は何だ? ここは青空鍛冶屋か」
「これ全部私の所持品よ。ほら、宿屋に預けてた荷物。それが携帯用溶鉱炉、これは携帯用ふいご。あっちのは携帯用焼成炉で、あれが」
「あ、もう良いです」
俺達も圧縮魔法鞄で色々持ち歩いているが、溶鉱炉持ち歩くって何。
どうして持ち運ぼうと思ったし。
そんなん出来るなら俺次からバスタブ持ち歩くわ。
「エーヒアスはここで町の人に頼まれた物を直したり作ったりしてるんですよー」
カロンは自慢気に「ほら」と鍋を掲げる。
これはイヨイヨで貰った持ち手の無かった鍋だ。
今は壊れていた形跡などまるで無く、立派な片手鍋の形を成している。
「ほぉ……凄いな。武器以外の物も取り扱えるのか」
エーヒアスは笑いながら「個人的にはそっちを本業にしたいのよね」とガンガン鉄を打ちつける。
「今は迷惑をかけた町の人の為に、扉や柵、棚なんかを作ってるの。今は師匠も別の場所でレンガを焼く手伝いをしているわ」
「レンガを? 刀鍛冶や武器精製とは関係無い仕事のように思えるが……」
首を傾げる俺に、彼女は少し誇らしげに口を開く。
「私達は加熱加工出来る物なら大抵扱えるし、鉱石や宝石の採掘、鑑定、加工なんかも出来るわよ」
「能力ドワーフすぎだろ」
「ほぁ~、女の子なのに凄いですねぇ~」
この娘本当にエルフ?
それだけの事が出来るのなら大したものだ。
あの装飾だらけの屋敷に住むギャンザクにとって、彼女は単なる武器職人だけでなく貴重なインテリアコーディネーター要員にもなり得た訳か。
「武器を打つのは嫌なのか?」
「嫌っていうか……私の生み出した武器で血が流れる事に少し抵抗があるだけよ。仕事はきちんとやってるわ」
彼女は表情を変える事無く鉄を細く伸ばしていく。
っていうか何を作ってるんだ?
彼女の足元には控え目な装飾が施された格子状の鉄板が数枚置いてあった。
ゴテゴテしてなくてちょっとオサレだ。
小窓の扉か柵だろうか。
モチット町の民家は窓に格子を張り付ける風習があるようだし、多分そうだろうな。
「……このご時世、需要があるのは武器職人。鋳掛屋の真似事だけで食べていけないの」
「鋳掛屋ねぇ……」
今どき聞かないな。
つまり彼女は、本当は鍋の修理とかをする人になりたい訳だ。
折角良い腕と夢があるのに勿体無い。
……
…………あ、そうだ。
「エーヒアスよ。一つ聞くが、家の装飾作りなどに興味は無いか?」
「装飾? 物にもよるけど……お洒落な物はデザイン考えるの好きよ。けど、そういう依頼する人って、注文の多い貴族とか富豪ばかりで、あまり自由に作れないのよね……」
ふむふむ、なるほど。
目を輝かせる俺の考えに気が付いたのか、グルオが物凄ーく嫌そうな顔をした。
勘の良い奴だ。
俺は待ったを掛けられる前にエーヒアスに詰め寄る。
火の近く暑っ! でもめげない。
「エーヒアスよ。我々の旅の目的は知っているか?」
「確か、マオーさんと先生はお金を貯めつつ、サイッショ大陸のハジーメ村に行って家を建てたいのよね。で、カロンはレベル上げの修行……だったかしら?」
わーお。
完璧に把握されてる。
カロンの奴、口軽すぎるだろ。
あとで個人情報の大切さをきつく言っておかねば。
「その通り。そこでどうだ。この後予定がないのなら、お前も我々と共に来ないか?」
突然の俺の申し出に、その場にいた全員が戸惑いの色を見せた。




