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3、シンクの汚れはジャガイモの皮や大根のヘタの切り口でエコ綺麗

 晴れて自由の身になった俺は、グルオを付き人として引き連れ、物々しい岩の城を後にした。


 ちなみに平凡太には信頼できる教育係と護衛を付けた。

これで謀反や暗殺の心配も無いだろう、多分。


「俺達の冒険はこれからだ!」


「無駄に打ち切り感出さないで下さい、魔王様」


「もう魔王ではないぞ」


 ぶれない男、それがグルオ。

久しぶりの外出でハイテンションな俺に対して、この塩対応である。


「実質、最強の立ち位置は魔王様に変わりありません。それに、私は平凡太を魔王と認めておりません」


「おぉ、おっふ」


 なるほど、これが流行りのデレという奴か。

何故この作者はグルオを男にしたんだ。

ここは清楚系巨乳美女の魔族ヒロインにするべきだっただろう!


「気持ち悪いです、魔王様」


 五メートル程離れた所からのツッコミが辛い。

何だこの距離。心の距離?


 そんな茶番を楽しみながら、俺達は城から程近い森を突き進むのだった。


「ぎゃあぁ、蜘蛛の巣!」


「……」


「ぎゃあぁ、ミノタウロスのフン!」


「……」


 撤回。

数分後、俺は空間転移魔法を使い、近場の町へと向かうのだった。



 MP(マジカルパワー)を大量に消費して、やっと辿り着いたのはシューバン大陸のナカバ町。

この町はそこそこ規模が大きく、店も多く建ち並ぶ。

難点があるとするならば、人の目が多いという所か。


 俺は城から持ち出した兜を被り、出来るだけ目立たないようにする。

安心して下さい、このツノ飾りですよ。


「魔王様、目立ってます」


「解せぬ」


「全身黒コーデのマントを着たツノ兜の大男なんて、目立って当然です」


「ぐぅ」


 ぐうの音が出た俺を無視して、グルオはアイテム屋の扉をくぐる。

……あれ? なんか周りの人間の視線、あいつにも集まってない?

十分あいつも目立ってない?

女の人の視線、一人占めしてない?

イケメンだから? パツキンのイケメンだから?


「……悲しいものよ(はげろ)


 はっ。

こんな所で顔面格差社会に揉まれている暇など無かった。

早く所持金を得なくては。

俺も慌ててアイテム屋に入店する。


 店内は随分と商品がごちゃごちゃしており、棚にはうっすらと埃が被っていた。

なんて店だ。

今回は売却だから大目に見るが、普通にクレーム案件だぞ、これは。


「いらっしゃい、何のご用で?」


「売却を頼みたい」


「はいよ」


 グルオが小太りの店主とやり取りをしている間、暇な俺は狭い店内を見て回る。

薬草、解毒剤、タリスマン、防御魔法の指輪……


「どれもいらんな」


 冒険者には必要なのかもしれないが、俺には不要な物ばかりだ。

ん?


「これは……」


 そこには「どんな汚れもピッカピカ! 魔法のメラミンスポンヂ」と書かれていた。

お値段なんと五〇〇エーヌ。

今なら聖水も十本おまけでついてくるらしい。

なんてお得なんだ!


 俺はいそいそと商品を持ってグルオの元へ戻る。

どうやらダークソード(以下略)やらの査定を待っている所らしい。


「グルオよ、売却が済んだらこれを買おうと思うのだが」


「……まだいくらの値がつくかもわからないのにそんな物を……」


 呆れたように一蹴されたが、欲しいものは欲しい。


「今なら聖水もついてくるのだぞ」


「……聖水って闇属性の弱点をつくアイテムですよね。魔王様は、闇属性ですよね」


「だ、だが、この聖水で掃除したらメチャ綺麗になりそうではないか」


「まだ宿も無いのにどこを掃除するつもりですか」


 ゴネにゴネていると、店の奥から店主が戻ってきた。

手にはダークソード(以下略)のアイテムが抱えられている。

店主はやや興奮気味にアイテムをカウンターに置いた。


「お客さん、凄いぞ! これらはどれも一級品の代物だ」


「おぉ、そうか。さすがは父上、目が高かったのだな!」


「しかし、良い物すぎて、ウチで全部の買い取りは無理だ」


 なん……だと……?

ショックを受ける俺を押しのけ、グルオは店主に話しかける。


「全部が無理でも、幾つかは買い取って貰えるのか」


「えぇ、そうですね……このヘルクリスタル(笑)とオッド・アイ眼鏡(笑)の二点なら買い取りますよ」


 グルオは「じゃあそれで」と淡々と返す。

こいつ冷静のオバケか。

そこに心はあるのだろうか。


「……あ、それと、この商品、買います」


「はい、まいどあり」


 グルオが指を指したのは俺の手中にあるメラミンスポンヂ。


「グ、グ、グルオォォ!」


 俺はメラミンスポンヂを掲げて叫んだ。


『魔王は メラミンスポンヂを 手に入れた!』




「……して、これからどうするか……」


「どうしましょうね……」


 俺達は少し放心しながらナカバ町の大通りを歩く。


「まさか、こんな事になるとは……」


「正直、意外でした」


 別に予想以上に売値が安かったという訳ではない。

むしろその逆だった。


「なにこの金額」


「あの店、潰れませんかね?」


 上級冒険者の全身の装備一式が余裕で買える金額が、俺達の手元にある。


「あのよく分からんオッド・アイ眼鏡(命名、父上)があんなに高価だとは……」


「いわゆる貴重品(コレクターアイテム)だったんでしょうね」


 文無しから一転、ちょっとした小金持ちになった俺達は財布を二つに分けて持つ事にした。


財布(これ)を落としたら俺は一年は立ち直れないだろう」


「しっかりして下さい魔王様。とりあえず今日の宿を取りましょう」


 そう言うが早いか、グルオが手近な宿屋を見付けてきた。

……のは良いが、どうにも古臭い宿である。

いまいち清潔感に欠ける。

俺は最低でもベッドと水回りは綺麗じゃないと泊まる気になれない。


「この宿屋、星いくつだ?」


「じゃあ魔王様は一人で野宿して下さい。私はここで休みますので」


「ワー、イイトコロダナー」


 我慢は体に悪いと聞く。

ふふ、俺は近い将来、胃に穴が空いてしまうかもしれんな。

大人な俺は不満を堪えながらグルオの後を追って宿屋に入った。


 こうして俺達の旅の一日目は、とりあえず野宿だけは回避出来たのであった。




「……めっちゃ床が軋むのだが」


 ローテンションで床をギシギシ踏む俺に対し、グルオはテンション上がり気味に部屋をチェックし始める。

掃除屋としての血が騒ぐのだろう。


「あ、魔王様、洗面台に汚れが残っています。折角なのでメラミンスポンヂ使って良いですか?」


「待て! 俺が最初に使う」


 俺はグルオを押しのけてメラミンスポンヂに水を含ませる。

ワクワクしながら適当に擦ろうとすると、待ったが掛かった。


「魔王様、浴槽にメラミンスポンヂを使っては駄目です。傷が付きます」


「え、そうなの?」


 言われた通りに蛇口を軽く擦ると綺麗になった部分に俺の顔が映り込んだ。

水垢が面白いように落ちていく。


「ステンレスも注意です。この蛇口のような、メッキにお使いください」


「おぉ、ピッカピカになったぞ」


 もしかしたら、我が人生初の掃除かもしれぬ。

そう考えたら感動してきた。

魔王を感動させるとはやるではないか、メラミンスポンヂ。


「ちなみに曇り止め加工のされてない鏡も使用OKです」


「おぉ、これまたピッカピカ。流石……」


「「どんな汚れもピッカピカ! 魔法のメラミンスポンヂ!」」


 ……なんか宣伝みたいになった気がする。


 『魔王は メラミンスポンヂの 使用方法を 覚えた!』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 出だしの3話を読ませていただいたのですが、凄く面白いですね…!魔王様とグルオのやりとりなどの一つひとつに、実際の掃除のコツや笑いがちりばめられていて、とても興味深く、面白いです。 たしか…
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