11、排水溝に自分じゃない色や長さの髪が詰まってたら恐怖
瓦礫の撤去に勤しむ仲間の様子を見ていた俺は、背後から支えられる感覚を最後に意識を失ってしまい……目が覚めたら……
体が縮んでしまっていた!
……という事もなく、普通に目覚めた。
ココドコー?
パッと見は狭い宿の一室だ。
壁も天井も灰色の石造りで、左側の壁には細い格子付きの窓が一つある。
外は明るく、聞こえてくる音からして早朝という事はなさそうだ。
で、俺が寝てる右側には……
「……すー、……すー……うひっ、……すー……」
椅子に座って幸せそうに眠りこけるカロンがいた。
汚っ! 涎を垂らすな!
しかし参った、状況がまるで読めない。
「誰か説明プリーズ」
気だるい体に鞭打ち起き上がる。
辺りをキョロキョロしているとガチャリ、とカロンの背後の扉が開いた。
「おはようございます、魔王様」
「グルオッハー。……で、ここどこ」
「モチット町の壊された宿屋とは別の宿屋です」
俺の挨拶に突っ込みもせず、グルオはカロンの頭をベチンと叩く。
彼女はフガッ! とブタ鼻を披露して目覚めた。
「ま、ま……」
「ママ?」
「マオーさぁぁん! や゛っど起ぎだぁー! 心配じまじだぁー!」
「ひぇっ……」
寝起きに迫る恐怖。
号泣するカロンを片手で押さえ付け、グルオが淡々と説明する。
「魔王様は丸二日、眠っていたのです」
「ファッ!?」
嘘だろおい。
一体何で……あ。
「そういやイノシシ退治以来、寝不足だったな」
「それに度重なる戦闘。更にラピスやドールザーといった中堅クラスとの連戦。空間転移魔法……」
「もう無茶できる年でもないという事なのだろうか……」
そう考えたら、むしろ二日で済んで良かったわ。
魔族の時間感覚で寝てたら次に目覚めるのがうん年後とかもあり得た訳だ。
あっぶね。
「というか、風呂入ってなかった事の方が深刻だ……ショックで死にそう」
それなら、とカロンが涙を拭いながら笑顔を浮かべる。
「一応先生が体を拭いてましたよー。『風呂入って無いと知ったらショック死するかもしれない』とか言って」
「あ、そうなの? それはありがたいけど正直複雑だわー」
何が悲しくて野郎に体を拭かれにゃならんのだ。
俺は黒髪の清楚系巨乳美女を所望する!
「我が儘言わんで下さい。私としても吐くほど嫌でした」
「吐くほど!? え、吐くほど!?」
酷くね?
いや俺も逆の立場なら吐いただろうけど!
そこはわざわざ言わなくて良くない?
胸の内に留めておいて良くない?
「あ、そういやエーヒアスは?」
「昼間は町外れで鍛冶の仕事を請け負っています。夜はカロンと共に魔王様を見守っていたようですが……」
「? よう?」
何でそこあやふやなの。
つか俺美女と同じ部屋で寝てたのかよ。
何で俺起きなかったし。
実に勿体ない事をした。
悔しがる俺に気付かず、カロンはニコニコとベッドに肘をつき身を乗り出す。
「先生は夜になると用があるって出掛けてたんですよー。なんか忙しかった? みたいで、朝になるまで帰って来な……もがっ」
グルオがカロンの口を塞いだ。
はい、把握~。
はい、有罪~。
「俺が寝てる間に随分とお楽しみのようでしたね」
「……束の間の休息です」
「美女いた? 黒髪美女いた?」
「ヒント。この町、俺好みのブロンド女子少ないです」
それヒントちゃう、答えや。
次は絶対誘えし……って、あぁ!?
口を塞がれたままのカロンの顔色がヤバイ事になってる!
慌ててグルオを引っ剥がす。
「鼻まで塞ぐ奴があるか!」
「何となく」
「ウッカリですらないとは驚いた」
カロンはゼーハーと大きく深呼吸し、頭上ではピヨピヨとヒヨコが旋回している。
すげぇ、こんな古典的な表現初めて見た。
さて、ちょっと可哀想だが仕方ない。
この場はグルオに任せて、さっさとシャワーを浴びる事にしよう。
一刻も早くサッパリしたかった俺は備え付けの狭いシャワールームを使う事にする。
浴槽が無いのは気に入らないが、仕方ない。
「……はぁぁ~……生き返る……」
汗や汚れを洗い流していく内に頭がシャッキリしてきた。
そういえばあのトレントの子供はどうなったのだろうか。
先程の会話には上がらなかったが、どこかに行ってしまったのか……?
エーヒアスとドワーフの事も気になるし、ギャンザクのその後もまだ聞いていない。
あとは……町の様子とラピスの言っていた謝礼の件位か。
あれ?
もしかしなくても俺、さっきまでの会話で凄い無駄な時間を過ごした気がする。
「いかんいかん、しっかりせねば……」
バシリと顔を叩き、気合いを入れ直す。
いい加減目覚めなさい。
着替えて髪をよく乾かしたら、兜を被って元通り。
うむ。
ほぼいつもの俺の完成である。
「ふはははは! 今上がったぞ!」
元気百倍でシャワー室から飛び出すと、部屋に思わぬ人物の姿があった。
「相変わらず変な奴だな」
「おぉっとぉ、客とは知らなんだ」
先程までカロンが座っていた椅子にラピスが座っているではないか。
今日はカッチリとした白地に青いラインの入った騎士の隊服を着ていた。
真面目な雰囲気に飲まれたのかカロンは大人しくベッドの端に腰かけており、グルオも部屋の隅に控えている。
レディーの前で今のテンションはかなり恥ずかしい。
それとな~く佇まいを直しとこう。
ラピスが包みから取り出したのは見覚えのある深緑色の布だった。
あ、これ俺のマントだ。
彼女はマントを俺に押し付けながら眉間に皺を寄せる。
「礼を言うつもりはない……が、一応返しに来た。勿論洗ってある」
「そうか。わざわざすまぬな」
「借りっぱなしが好かんだけだ」
フゥー、COOOOOL!
おかえり、我がマントよ。
さほど役には立たないが、無いと何となく寂しくなる所がお気に入りだ。
俺がご機嫌にマントを装・着! していると、彼女は仏頂面のまま腕を組んだ。
「で、具合はどうなんだ」
「あぁ、いっぱい寝たからバリバリ元気」
「そうか。目の前でいきなり倒れた時は驚いたぞ」
え?
目の前で倒れた?
キョトーンとする俺に、彼女はやれやれと呆れたように頭を振る。
「全く……そこの家臣から何も聞いてないのか?」
「下らない話をするのに忙しくてそれ所では無かったのでな。倒れてから目覚めるまでの間の事は、まだ何も知らん!」
「威張る事か! 何なんだお前達は!」
急な怒鳴り声に反応し、カロンが怯えたように縮こまる。
全く、子供を怖がらせるとは何事だ。
ラピスは少しだけ声を抑え「一度しか言わん」と深いため息を吐いた。
「まず二日前の事だ。お前が無様に倒れ伏す寸前、私がお前を支えた。そして意識の無いお前をドールザーが横抱きでここまで運び、お前の家臣達が懸命に介抱していた。そこの魔法使いの娘もずっと心配していたぞ」
「横抱きの情報はいらなくね?」
嫌がらせかよ。
知りたく無かったわ。
「そして昨日。国王様の元へ護送中だったギャンザクが何者かの襲撃に遭い暗殺された。その後、行方不明だった魔物調教師ゴッツが、今までの罪を自白しに役場へ出頭してきた」
「流れるように唐突なシリアス路線」
マジでか。
あのオッサン殺されたのか。
これは予想外な展開である。
誰だよ俺の愉快な冒険紀行にシリアス要素ぶっ込んだ奴は。
ハッ……!
「KY…………グルオ……まさかお前、」
「違います」
あ、違うのか。良かった。
「魔王様。KYで私に思い至るのはお止め下さい」
「まぁどちらかというとお前はあえて空気読まないだったな」
「誠に遺憾です」
グルオが恨みがましく眉間に皺を寄せている。
そういやあの領主もかなり恨まれていたようだからな。
暗殺の一つや二つがあっても仕方ないか。
悔い改めさせる事が出来なかったのは残念だが、今更言っても仕方あるまい。
話の脱線に焦れたのか、ラピスがわざとらしく咳払いをする。
「コホン。……ゴッツはギャンザクの暗殺に関しては関与を否認している。そして町は少し瓦礫が片付き、今朝は唐揚げが旨かった。お前達への謝礼は明日の午前中には届く手筈だ」
「今サラッと朝ご飯の感想言わなかった?」
今気付いた。
俺目覚めてからまだ何も食べてない。
ラピスは全て説明してやったとばかりにささやかなドヤ顔をしている。
ちょっと可愛い。
「以上だ。何か質問は?」
「俺は好みに入りますか?」
「寝言か? 叩き起こしてやろう」
「あれれー、永眠させられそうな殺気を感じるぞぅ?」
その後一言二言会話して、彼女はムスッとしたまま乱暴な足取りで帰っていった。
全く、冗談の通じない奴め。
「……して、カロンよ。お前はさっきから俺のマントで何をしている。遊ぶな」
「何でも無いですぅ~。ほっといてくださいー」
何故かカロンは不貞腐れたように俺のマントを端から丸めて海苔巻きを作っていた。
何なんだ一体。




