10、ボランティアは事前準備を怠らない
「……連れていけ」
「はっ!」
ラピスの指示に従い、騎士達はギャンザクを無理やり立たせて連行する。
おぉ、騎士っぽい! 格好いい! お揃いの鎧格好いい!
「離せ、ちくしょう! ワシを誰だと思ってる!」
最後の最後までギャンザクは喚きながら屋敷を出ていった。
再び大広間に歓声が沸き上がる。
中には泣いている者もいた。
「……予定外の事が重なったが、いずれにせよこれでギャンザクの悪政も終わりだ」
止まない歓声の中、ラピスはドールザーの縄を解くと俺達に向き直る。
「私の集めた不正の証拠資料。ドールザーの集めた証拠。人々の証言……これだけ揃えば十分だ。奴の罪は重い」
「ほう……どのくらい重いんだ? スイカ何個分?」
「一生牢生活か、極刑か……日の目を拝めない事に変わりはないだろうな。国王様に恥をかかせ、人々を苦しめたのだから当然だ」
「へーほーふーん」
人々を苦しめた、ねぇ。
そこに魔物はカウントされないのだな。
ラピスは俺の態度にカチンとしながらも文句を言わない。
戦いで負けたからなのか、事件解決の功労者だからなのかは不明である。
「どこまでもふざけた奴だ。……だが、協力には感謝する。後程身分の確認が済んだら謝礼が出るだろう」
「マジか。ラッキー」
さて、とラピスは周囲をグルリと見回す。
「証拠保留の為、ここは一度立ち入り禁止とする。全員屋敷から出ていって貰おう!」
げ。
それはまずい。
このままでは地下の魔物達が殺処分待ったなしではないか。
皆ワラワラと屋敷を後にしていく。
今外に出てしまったら再侵入は難しそうだ。
……仕方ない。
俺は大きく息を吸って叫んだ。
「ぎゃあぁぁ! 俺の家宝が無い! きっとさっき地下室に落としてきてしまったんだぁ!」
カロンがビックリしたように俺を見上げる。
「え、マオーさん、家宝なんて持ち歩ってたんですか?」
「それが持ってたんだ! ちょっと行って取ってくる! 良いよな? では行ってきます!」
答えも聞かずに駆け出すと案の定引き止める声がかかった。
「待て! これ以上現場を荒らす事は……」
「そこを何とか! 大切な父上の形見なんだ!」
「あわわ、そんな大事な物なら、私も探すの手伝いますよぅ」
いやカロン、お前は来なくて良いから!
魔物と仲良しトークする所なんて見せられないから!
……あ、まてよ? 良いこと思いついた。
俺はコソッとラピスに耳打ちする。
「(ラピスよ、この純粋な娘にあの凄惨な地下室を見せる訳にはいかぬ。すまんがこの娘が俺の後をついて来ないよう、屋敷の外に出た後もこっそりと見張っておいてくれぬか?)」
「……何だと?」
「(騎士だというお前を信用しての頼みだ。この娘は目を離すとすぐ居なくなる。形見を取って来たらすぐに戻る故、少しの間で良い、見守ってやってくれ)」
「チィッ……早く取って来い」
やっりぃ。
チョロくて助かった。
やはり「信用」と「守って」は騎士のプライドを刺激するらしい。
グルオが呆れ顔で「魔王様、顔がゲスいです」と言ってるが、そんな筈はない。
俺はいつでも何処でも爽やかフェイスだ。
「んじゃ、ちょっくら行ってくる」
「はい、こちらの事はお任せ下さい」
言われなくても任せる気満々くんである。
時間はない。
皆と別れた俺は大急ぎで書斎部屋まで駆け戻り、それはもうもの凄いスピードで地下室まで駆け下りた。
一回部屋間違えたけど、この間およそ三十秒足らず。
多分世界記録だろう。
それにしても相変わらず血生臭い、不衛生な部屋である。
牢の前に立った俺は思わず言葉を失った。
人間の牢と違い、魔物の牢は幾つかの牢に分けられていた。
共食いさせない為か、厳重な鎖付きで。
なんと酷い光景か。
「さて、約束通り助けに来たのだが……この中に自我を保っている者はいるか?」
叫び声や呻き声に混じり、ちらほらと「いまーす」という声が聞こえ出す。
ふむ、半々といった所か。
その返事の中にどこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あんれぇ~? その声、もしかして二代目様でねぇダスか?」
「まさかの知り合い! でもごめん誰だっけ?」
とりあえず剣で檻を叩き壊してみる。
次に武器を新調するときはコンニャク以外何でもスパッと斬れる刀を装備したいものだ。
鎖に繋がれていたのは片目を失った中型ゴブリンだった。
「オレダス。ゴブゾーダス。ほら、十数年前に、魔王城の寮でグルオ先輩の隣に住んでた……」
「うっわ懐かしっ! 元気? 今まで何してた?」
「自分探しの旅の末、ここに捕まってたダス」
「ごめん」
あの料理上手で歌の上手いゴブゾーがこんな目に遭っていたとは……許すまじギャンザク。
俺はゴブゾーを解放すると、二人で協力して自我を保っている魔物達を解放していった。
「しかし、トレントの子供などいないではないか。助け出すよう母親に頼まれていたのだが……」
「トレント? あぁ、彼女の子供ならあそこに隠れているダス」
「それマ? どこ?」
目を凝らすとゴブゾーの指し示す壁の亀裂に、二十センチ程の細い苗木が生えていた。
え、これトレント?
ど根性シリーズの植物じゃないの?
試しに軽く剣の鞘でつついてみると、苗木はビクリと跳ねてゴブゾーに抱き付いた。
「この子、牢内出産だったダス。まだ外の世界を知らない赤子なんダス」
「それは気の毒な」
「この部屋唯一の癒しだったダス。皆のアイドルダス」
「……ほう」
俺はこの子供の親の仇という事か。
後に彼が成長し、「やっと見つけたぜ、母の仇!」と言われる日が来るやもしれんな。
覚悟しとこう。
「さて、これで全員だな」
一、二……助けられたのは全部で七体か。
残りの五体は残念ながら会話はおろか、意思の疎通すら叶わなかった。
「狂っちまった奴ら、可哀想ダスなぁ」
「しかし今解き放てば我々に襲いかかってくるのは明白だ。俺はともかく、お前達がただでは済まないだろう」
「相変わらず二代目様は優しいダスなぁ」
涙ぐむな、恥ずかしい。
俺はサクサクッと空間転移魔法を発動する。
「ペクマクマヨヨン!」
「呪文ダサいダス、二代目様!」
目的地はモチット町の近くにある森だ。
時間が無いから近場だけど仕方あるまい。
グニョリと歪むこの感覚は何だか随分と久しぶりな気がする。
「うおぉぉ!?」と驚きの声を上げるゴブゾー達と共に、一瞬で森の中に到着した。
「さて、これで晴れてお前達は自由だ」
「ありがとうごぜぇます、二代目様」
「ご恩は一生忘れません、魔王様」
「一生ついていきます、魔王様!」
「あ、今魔王の城を切り盛りしてんの三代目の平凡太だから。俺もう引退してるから」
口々に述べられるお礼の言葉がくすぐったい。
わぁ、今の俺、凄く人気者!
※ただし相手は魔物(全員♂)
「近くに人間の町があるが、報復はしないで欲しい。あれらもギャンザクに苦しめられた者達だ。もし行き場がないなら、魔王の城に行け。待遇は知らんが、あの牢生活よりはマシだろう」
「はい、魔王様!」
「了解です魔王様!」
「人の話聞いてた?」
まぁ良い。
これ以上時間は割けぬ。
俺はゴブゾー達に別れを告げ、再び空間転移魔法を発動した。
あぁ、やはりこのグニョリ感は慣れな──
「……キィ」
「え? あ、ちょ、待っ……」
気付いた時にはもう遅く、俺は舞い戻ったギャンザクの書斎部屋で呆然とした。
「キー、キィー……」
「何でついて来ちゃったし」
俺のベルトと剣の間に挟まるように、トレントの子供がへばりついていた。
子連れ魔王、爆・誕! の記念すべき瞬間である。
「いやいやいや、ないないない」
ただでさえカロンというでかい子供がいるのだ。
その上赤子など、世話出来る筈もない。
「おち、おちけつ。とりあえずもう一度空間転移魔法で……」
「何をしている。形見は見つかったのか?」
ドッキーン!
書斎の扉からドールザーが顔を覗かせていた。
いや何でお前が来たし!
あービックリした。
「身分証を見せたら信用された。そして戻るのが遅いお前の様子を見てくるよう頼まれた。それだけだ」
「さ、さようでござるか」
俺の神疑問にすぐ答えてくれてありがとう。
君のおかげで子連れ魔王ルートが確定した。
……はぁ。
こうして俺はトレントの子供をコートのポケットに隠し、ドールザーと共に屋敷を後にするのだった。
……で。
「どうしてこうなった」
これはトレントの子供がついて来ちゃった事に関する言葉だけではない。
ギャンザクの屋敷を出た後、俺はラピスの部下に身分証となる冒険者登録証の提示を迫られた。
無事に正式な冒険者だと見なされ、モチット町まで戻り、この言葉を発するに至る。
破壊された宿屋の通りには既にトレントの死骸は無く、瓦礫ばかりが散乱していた。
その中で生き生きと動き回る家臣が一人。
「出来るだけ単独で行動するな! 必ず誰か視界に入るよう行動し、生き埋めにならないよう頭上に気を付けろ!」
「はいっ、グル先生!」
「そこのお前馬鹿か! 素手で瓦礫撤去するな! 軍手を使え」
「すみませんグル先生!」
「今こっちに一輪車を持ってきてどうする! まずは動線を確保しろ。話はそれからだ!」
「はいっ! グル先生っ!」
何度でも言おう。
な に こ れ ?
この短時間の間にどれだけ町人の信頼を得ているんだよアイツ。
ここまで来るともう妬む気にもならんわ。
町の人々はせっせと瓦礫撤去に勤しみ、力の無さそうな女性達はチャキチャキと水や食料を配っている。
いやはや、一致団結とは素晴らしいですね。
カロンやエーヒアスも俺に気付かず忙しそうに走り回っている。
人手が足りないのだろうが、ここで俺に出来る事は何もない。
「……寂しくなんかないですよー……」
俺はなんて無力なんだ……
せめて邪魔にならないよう離れておこう。
「? あれ?」
何だ? 何か変だ。一体何が──
グラリ、と体が傾く。
足から力が抜けていくのを感じ、ここで俺の意識は途絶えた。




