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6、茶渋落としは重曹より漂白剤の方が時短な気がする

 え、あれ? 広場で見た銅像とかなり違くね?

どんだけ盛ってたんだよ。


 ギャンザクはユッサユッサと大きな腹を揺らしながらニタリと嫌な笑みを浮かべた。

一本だけ見える金歯が輝く。

ヒィ、舌なめずりすんな。

両手をワキワキすんな。


「ほぉーん、また会えたな、鍛冶エルフ。手こずらせおってからに」


 エーヒアスの胸元ばかり舐めるように見るこの男……汚らわしいにも程がある。

女性の胸ばかり見るなんてとんでもなく最低な奴だ、恥を知れ。

そんなんだからモテないんだぞ!


「待て。女を引き渡す前に報酬が先だ」


「おぉん? ワシに催促するとは、若造のくせに良い度胸してるな。まぁ良い。……おい!」


 ギャンザクがパチンと指輪だらけの指を鳴らすと、付き人らしき若い女性が小さな革袋を持ってきた。

おお、巨乳美人っ! 目に焼き付けて拝んどこう。


 メイドとは違う服装のその女性は、白いブラウスに茶色いロングスカートというシンプルな出で立ちだ。

女性にしては短い茶髪。

キリッとした切れ長の目はカタギとは思えない程鋭い。


「……こちらが謝礼となります」


 チラリと中身を一瞥し、俺は駄々をコネコネする。


「町が壊れる程の騒ぎの中、やっとの思いで捕まえたのだぞ? もう少し弾んでくれたら町の復興の為に働いてやっても良いんだがなぁーチラッチラッ」


「チッ、強欲な奴め……貴様のような流れ冒険者の助けなどいらんわ! 黙ってこの報酬を受け取ってこの町から出ていけ!」


 ギャンザクはバンッと革袋ごとテーブルを叩き、「この町で起きた事、屋敷で見た事は他所で口外するなよ」とふんぞり返った。

それが人に物を頼む態度か。

見ろ、カロンがビックリして固まってしまったではないか。


 さて、このまま大人しくエーヒアスを渡す訳にもいかないが、そろそろ話を引き延ばすのも限界である。

次の手段を考えていると応接間の扉がバァン! と勢いよく開いた。


「ギャ、ギャンザク様、大変です!」


「うるさいぞ! 一体何事だ!」


「侵入者です! 地下……いや、娯楽室の者が全員逃げ出しました!」


「何ぃ!?」


 おー、グルオってばナイスタイミング。

開け放たれたままの扉からは微かに複数人の雄叫びや叫び声が聞こえる。

うむ、作戦は上手くいったらしい。



<作戦四、グルオは捕まっていた人達を解放したら脱出行動に移る>



<作戦五、俺達はギャンザクを倒す、又は捕らえ、屋敷内の労働者を解放する>



<作戦六、あとは野となれ山となれ>



 そうと分かれば俺達も大人しくする必要はない。

さっさとこの場を脱してグルオと合流しよう。

頭使うのもう疲れた。


 ギャンザクは鼻息荒く「誰なんだそいつは! さっさと殺せ! 逃げた奴も全員だ!」と叫んでいる。

もはや俺達がいる事などお構い無しである。


「随分と物騒なやり取りが行われる屋敷なのだな」


「ほぉん、役人にでも密告するか? 言っとくが、この町ではワシの言う事は絶対なのだよ。何たってワシは王族と親密な関係の、選ばれた人間だからな!」


「それと」とギャンザクはタプタプの顎を擦り、ニヤニヤと笑う。


「どうも貴様は気に入らんなぁ~。ついでにここで死んで貰うとしよう。いやぁ、報酬が儲かった。貴重な鍛冶エルフも手に入ったし、ご苦労さん」


 やれ、という小さな合図と共に、付き人らしき女性が床を蹴った。

おぉ、思ったより数段早い。


 カロンとエーヒアスを両脇に抱えて後ろに跳躍すると、先程まで座っていたソファーが真一文字に裂かれていた。

隠し武器か……良い太刀筋だ。

エーヒアスは着地と同時に手首に巻いていただけのロープを外し戦闘体勢に入る。


「エーヒアス、動けるな?」


「勿論。でも、あの早さには対応出来ないわよ」


「構わん。カロンを任せる」


「フフ、了解」


「え? え?」と目をぱちくりさせているカロンをエーヒアスの元へ押しやる。

相変わらず何が起きたか分かっていないのだろう。


 他の使用人達は蒼白になって扉付近でオロオロしている。

逃げたいけど、主人が怖くて逃げられないといった所か。

……という事は、この場はこの女さえ制圧すれば俺達の勝利である。


 女は串のように細い剣を構えると形の良い唇を小さく開いた。


「今のやり取りとその身のこなし……やはりお前はただ者ではないな。そのエルフと侵入者もグルか」


「やはり……? え、もしかして俺第一印象から強いって思われてた? 俺今褒められた? モテてる? ちょっとその辺詳しく教、」


「排除する」


 女は突進しながらヒュヒュヒュと剣を振りかざしてくる。

心なしか尋常じゃない殺意が込められてる気がするんだが……

繰り広げられる猛攻をスレスレでかわし、室内を駆け回る。

そこそこ広い部屋とはいえ長物相手に距離を取るのは難しい。


 思いの外俺がしぶとかったからか、ギャンザクはギリギリと悔しそうにこちらを睨み付けている。

その隙を突き、エーヒアスは扉付近の男達をのしていた。

退路確保お疲れ様です。


「何を手間取ってるこのグズが! とっとと給料分の働きをせんか! 早く! 血を! 見せろ! おぉん!?」


「くっ……」


 雑音に苛ついたのか、焦ったのか。

女の剣撃がさらに早くな──はっやぁ!


 テーブルを盾にして何とか避ける。

あ、このテーブル大理石かと思ったが御影石か。

少しでも安く済まそうとする辺り、ギャンザクは相当の見栄っ張りなのだろう。

何にしろ頑丈なテーブルで助かった。


「貴様は腕が立つな。名は何という?」


「排除対象に名乗る名など無い!」


 攻撃が大振りになってきている事に彼女は気付いてないのだろうか。


「じゃあ勝手に呼ばせて貰うぞ、G(ゴキ)-girl(ガール)……」


「ラピスだ」


 名乗るんかい。

どんだけ俺のあだ名が嫌だったんだ。

女もといラピスの攻撃が当たり、ガシャンバリンと窓が割れ、飾られていた壺が割れ、花瓶が割れ……室内はどんどん荒れていく。


「ではラピス。それ程の剣技を持っておきながら、何故あんな男の言いなりになる。人質の心配ならばいらぬぞ。あの男は今から捕らえ、外部の役人に引き渡す予定だからな」


「……! 余計な事を……っ!」


 ラピスは怒りに燃えた瞳で俺の喉を的確に狙ってきた。

怖ぁっ!


「くっ、ちょこまかと……!」


 埒が明かないな。

幸いここは一階だ。

カロンならエーヒアスがいるし大丈夫だろう。


 俺は剣を抜き割れた窓に向かって振り下ろす。

風圧で残った破片が飛び散り、広い出口が完成した。


「エーヒアス!」


「了解!」


 俺がラピスに斬りかかるのとエーヒアスがカロンを連れて窓から飛び出すのはほぼ同時だった。

ギャンザクがドスを効かせて吠える。


「くそっ! ラピス! エルフを追え! 絶対に逃がすな!」


「……はっ」


「悪いが行かせぬ」


 ガチリと刃が重なり、つばぜり合いが始まる。

ラピスは不快に顔を歪ませた。


「……お前、フェミニストのつもりか? この武器と実力の差でつばぜり合いなど……馬鹿にしているのかっ!」


 ガキンッと俺の剣が弾かれる。

真っ赤になって怒鳴る彼女は少しだけ幼く見えた。


「いやぁ別に馬鹿にするつもりは」


「問答無用! 本気で来い!」


 バッと足払いをされるが跳んで避ける。

理不尽!

どうやら俺は誤解されやすいタイプらしい。

悲しい運命である。


「とにかく落ち着け。まずは茶でも飲んで平和的に話をしようではないか。ちなみに俺はぬるめの麦茶が一番好きだ」


「黙れ!」


 ピッと切っ先が前髪を掠め、俺の前髪が二、三本ヒラリと舞い落ちた。


「うぅっわぁビビったぁぁ!」


 シュバッ


 俺は反射的に前髪を押さえ……ん?

シュバッ? 今の何の音?


 チラッとラピスを見ると、彼女はちょっとあられもないボロボロの格好で大の字に倒れていた。

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