12、エレベーターの清掃は水掛け厳禁。扉を開放して行おう
部屋を飛び出したは良いものの、スパの場所など知る由もない。
結果、俺達は轟音に心当たりがありそうなシーナの後を追うしかなかった。
グッバイ、スパでのラッキースケベ。
ドォン!
「また聞こえたな。一体何なんだ?」
「魔王様。確認は結構ですがあまり首を突っ込み過ぎないようお気を付け下さい。くれぐれも悪目立ちせず、問題を巻き起こしたり巻き込まれたりしないようにお願いします」
「隙あらばすぐ人をトラブルメーカーみたいに言うじゃん」
グルオの中の俺って問題児か何かか?
今までだって一度も好んで問題に巻き込まれた事などないというのに。
不服の申し立てをすべきかと考えている内に、昇降機の前でシーナに追いついてしまった。
どうやらセレブな宿泊客達がパニックを起こしているせいで階下へ降りられないらしい。
「今の音と振動は何だ!? 爆発か!?」
「まさか崩れたりしないわよね!? ここは本当に安全なんでしょうね!?」
「お、お客様、落ち着いて下さい。現在状況を確認中ですので……」
「これが落ち着いていられるか! ワシを誰だと思っているんだ!?」
「このアタクシに何かあったら貴方、どう責任を取るつもりザマス!?」
キィキィ騒ぐ客達に詰め寄られるベルボーイが不憫すぎる。
側仕えの者も控えているようだが主人を諌めるような猛者は居ないようだ。
これが世に聞くカスハラ問題……か。
ベルボーイに同情はするが近寄らないでおこう。
「さて。感動の再会だな、シーナよ」
「やぁ、マジで短い別れだったね。……それにしても邪魔だなぁこいつら。魔王様……いやマオーさん、グルオさんも、こっち。階段で降りるよ」
「なんだ、階段ルートもあるのか」
ならそっちの方が早かろう。
そもそもあの振動だ。
昇降機が正常に動いているかどうかも怪しいしな。
あの客達は何故昇降機の前まで来ておいて喚き散らしているのか理解に苦しむが、関わらないで済むなら喜んで階段を駆け降りよう。
珍しい事にグルオも俺と同じ考えらしく「あの客達は何がしたいのでしょうか。避難するでも部屋に籠るでもなく……」と一人ごちている。
その疑問に答えたのは先頭をきって階段を下るシーナであった。
「基本的に金持ちや貴族連中ってのは『他人にやらせて当たり前』っていう他責思考ばかりだからさ、考えるだけムダだよ。思考回路が一般市民とは違うんだ。ましてやこのマズワ島に観光で来るようなクズな奴らは特にね」
「? どういう意味だ?」
やけに含みと棘のある言い方である。
彼女の口ぶりからして貴族や金持ちに嫌悪感を抱いているのは明白だった。
「二人はこのマズワ島が抱える問題について知ってる?」
「問題って、あの超密集地獄な地下街の事か? むしろそれ以外思い当たる物がないのだが……」
「そりゃそうか。じゃあ何故あんな満員地獄になってるのかは知ってる?」
質問に質問で返さないで欲しいという思いは夜空の彼方へと投げ捨てよう。
素直に「知らぬ存ぜぬ答えキボンヌ」と告げれば、シーナは特に突っ込む事もなく「貴族の道楽のための混雑なんだよ」と吐き捨てた。
ドユコト? マダワ=カラン。
「超簡単にいうと『見たまえ、人がゴミのようだ!』を体験したいお貴族様の為の娯楽島って事だね」
「詳細も理由も一切分からんが、悪趣味な事だけは伝わった」
だから地下街を見下ろせる大穴周辺に高級ホテルが並んでいた訳か。
いやぁ~納得、納得──出来るか馬鹿野郎。
どんな過程を経たらそんな街に発展するんだよ。
あまりにも非常識&非現実的+非効率。
「三密」改め「三非」の異常性に怒涛のツッコミを入れる俺に、またもやグルオが同意してくれた。
珍しい事って続くんだなぁ。
軽く感動する俺などお構いなしに彼女の話は続く。
「ここって十年位前までは少し寂れた地下町だったの。でも五年位前から急に人口が増加して今みたいな状態になっちゃったんだ」
どうやら複雑な事情がお有りのようだ。
……が、別にこの街の歴史に興味はい。
もしやこの話まだ続く? と口にしかけた所でシーナの足が止まった。
辿り着いたのはホテルの一階──ロビーの端であった。
フロントでは従業員が喚く客をなだめており、出入り口には二人の警備員が立ち塞がっている。
どうやら「音と振動の原因については現在対処中。危険なので外には出ないように」というのがホテル側の言い分らしい。
さてどうしたものかとグルオと顔を見合わせていると、シーナが警備員の元へ駆け寄って話し始めた。
やはり元聖女というべき顔の広さか。
警備員はあっさりとシーナ(とついでに俺達)を外に出してくれた。
え、流れで外に出ちゃったけど、コレ良いの?
──と困惑する暇もなく、星空の下に出た俺達はすぐに異常の発生源を発見する事となった。
「何だ? あの人だかりは」
ホテルの外壁に見えるのは十人程の人だかりと、荷馬車よりも大きな謎のシルエット。
我々が来た時には見なかった物体だ。
そのブツが何なのかはゴチャつく人々が邪魔で把握出来ない。
「っていうかあの人だかりって、ほとんどドワーフじゃないか?」
「そのようですね。どうやら警備員と揉めているようですが」
小柄なずんぐりむっくりシルエットの彼らは一様に目出し帽を被っており、明らかな異様さを醸し出している。
「ふむ。不審者……というより強盗団か?」
「どうでしょうね。正直、久しぶりに魔王様より怪しい風貌の者を見た気がします」
「あ、俺も俺もー。とでも言うと思ったか?」
喧嘩なら買うぞと高額当選者の余裕を見せた所で、シーナの怒声が響き渡った。
「ちょっとアンタ達っ! こんな時間にこんなトコで何やってんの!!」
遠慮も躊躇もない大声に人だかりの動きがビクリと止まる。
「ゲッ、シーナ!? なんでこんな所に……」
「おぅオメーら、撤収、撤収だ! 元聖女がいやがったぞ!」
「クソッ」
ドワーフ達はシーナを認識するやいなや蜘蛛の子を散らすように走り出し、あっという間に姿をくらましてしまった。
残されたのは呆気にとられている三人の警備員と俺達だけである。
ポカーン。
「で、今の奴らは?」
「……さぁね。顔を隠してたから分かんないよ。アタシを知ってるからって、アタシの知り合いとは限らないしね」
そうつれなく答えたシーナは警備員に事情を聞き始めた。
どうやら謎のシルエットの正体は簡易的な破城槌だったらしい。
え、城門こじ開ける兵器でホテル襲ったの?
ガチの襲撃すぎて怖いんだけど。
「被害の状況は? 怪我人はいないの?」
「幸いな事に怪我人はいません。しかし外壁に損傷があります。一番酷い所では穴が貫通してしまっており……」
疲れた様子の警備員には悪いが、さほど問題は無さそうだ。
俺とグルオは無言で頷き合うと、ヒッソリコッソリとホテルに戻る事にし──
「じゃ、引き続き警備頑張ってね。行くよ、マオーさん達」
「「……」」
俺は見た。
元聖女の瞳に宿る「まさかこの流れで帰らねぇよな?」という圧を。
だがここで折れては元魔王の名が廃る。
俺は出来るだけ穏便に場を離れるべく彼女から距離を取った。
「フッ、シーナよ。我々は美容の意識が高いのでな。夜更かしは厳禁ゆえ、そろそろおやすみタイムとさせて貰お……」
「ねぇマオーさん。このホテルに35万エーヌ引きで泊まれるのはどうしてだったっけ?」
「よぉ~しグルオ、今夜はオール覚悟でシーナの姉御について行くぞぃ☆」
「魔王様、目が死んでます」
弱みって よく知らない人に握られたら 厄介なんだなぁ(字余り)




