第八十四話 理の事物
戦争を語るのに、うまい言葉などはない
綺麗な言葉もなければ、煩雑な言い分もない
ただ、死者の想いや願いを、自分が代弁し希望したかのように語る事のないようにひたすらに注意しています
それでも足りず見苦しい点があればご注意を下さると有りがたいです
月光を水面に侍らせた佐世保湾
風に撫でられ、小さく奮える夜の光の中にアイゼンハワーは立っていた
秋という季節を通り過ぎ冬に入る海ではあるが、この時期にしては月がよく見える空
佐世保や九州北側の天気は四月から冬に続く中で万華鏡のように色合いを変え、幾重も重なり二度と見ることの出来ない波を作る数を増やす
荒れと、荒れ少なしの間を行き来しながらほんのつかの間に涼やかな笑みを見せるような、こんな晴天の満月を浮かべる
実に貴重な時にアイゼンハワーは上着を肩に引っかけた状態で立っていた
金色の髪に惜しみなく注がれる月の恵みである柔らかなローブを纏い、カールをまいた髪の上に星を踊らすほどに滑らかなまま
小さな大将は、自分から遠く離れた場所に睨みを利かせていた
厳しい目線と感情を石の中に埋め込んだように固まった目で
佐世保基地からもっとも遠い泊地から、真っ直ぐに海上自衛隊佐世保基地の顔役達が繋がれたバースを睨んでいた
最後のバカ騒ぎ備えて、どうにか『くらま』との逢瀬を楽しめないものかと思案に暮れていたところで見つけた
10キロ先の海の上、護衛艦のヘリコプター甲板の上に光る魂の結晶を
静かに尖った目は青い瞳にテレスコピックの十字を浮かべる程に標的をしっかりと捉えていた
「コーパスクリスティー……それは知って良いことなのかしら……」
苦く歪んだピンクの唇を噛むと、髪をかき上げた
「日本海軍……絆を消失させたのは貴女達だけではないのよ……その上で、自らそれを絶ってしまおうとする者もいるという、そういう面白くもない喜劇を知っているかな?」
金色の髪を風に揺らす
子供じみた駆け引きを楽しんだ大きな眼はここにはなく眉間に苦痛を走らすラインの下で、水の記憶へ通ずる光の道を見るアイゼンハワーは、静かで落ち着いた声を響かせた
後ろには明日の御用聞きをしに伺っていた二人が、緊張と圧力を纏う上官の姿に声を押し殺し、互いの顔を不安げに見合わせる
ミラー(原潜シカゴの艦魂)とクーン(イージス艦カーティス・ウィルバーの艦魂)は、不安の色を浮かべた目で、小さな大将の後ろに立ち尽くしていた
声をかけたら、雷を落とされるのでは?そう勘ぐってしまうほどにアイゼンハワーの髪は金色からシルバーを織り交ぜ、踊るように揺れていて
それを伴わせた力に満ち、怒りにも似た「何か」を顔に表す様は、そして卑屈に唇を笑わす姿は初めて見る恐怖でもあった
一寸の時間を刻む、水の記憶の世界はぼんやりとたまま『こんごう』達の前でゆっくりと続けられていた
日差しを避けた艦体中程のスペースで魂達の宴はしめやかに、それでも笑顔の耐えぬ状態
さすがに日の高いこの時間に大声を出し騒げば、港に詰めている米海軍の艦魂達に何かしらの嫌がらせなり「命令」と称した暴力を受けかねない
負けた側の辛みもある、終始誰の顔にも笑顔はあったが声は小さく最後の時を楽しむ
小さな曳舟達は、どこからそんな物といわんばかりにお酒を取り出し、涼月の盃を支える者もいる
眺める景色の向こうでは小さな漁船達が昼上がりで港の縁に帰り始めていた
港側では、漁の出来を待つ婦人達や子供達、野良猫まで並び手をふる風景の前を
漁船の舳先に座り髪を靡かせる原初に近い船の魂達の顔は真っ黒に焼けた顔に満点の笑みを浮かべ、魚を箱出ししている漁師達を見つめて笑う
戦争は終わった
戦船は必要なくなり本来の形を行使し、人の仕事を見守る者達、人の糧である魚を獲るための船達、助けの器達は元気いっぱいに働いている
『こんごう』と粉川は、敷島艦のかつては主砲が鎮座していたであろう丸い穴縁に腰を下ろしていた
日露の戦いでは、ここにいた砲塔が何度熱気を帯びた唸りをあげたのだろう。台座には無数に刻まれた傷と油の跡が溢れ出た血のように滲んでいる
手に触れるざらつく感触、使い込まれた艦体の持つ年輪の前に砲塔の影はなく、ぽっかりと開いた穴を簡素な板足場が何十にもかけられていて、この船の終わりを如実に現していた
穴の奥からは船の動力として積まれた燃料の匂いと機械油の混ざる鼻には重い風を吹き上がっている
横から波打たれたら落っこちてしまいそうな深さがある穴の台座の向こうに、円座になって酒を酌み交わす敷島達をただ見つめていた
風は温く、波は穏やか、終わっていく日本国の一時代を作った帝国海軍の姿を『こんごう』の青い眼が潤んだまま瞬きもせずに見つめ続けていた
隣に座った粉川は感慨深くこの不思議の時をすごしていたが、三笠の姉敷島の姿が見られた事には素直に感謝していた
今までは聞くのもはばかった三笠の肉親が良く似ていた事を知れただけでも良かったと
髪の色が金髪と黒髪という差はあったが、目の輪郭や色、尖った感じの顎、高い鼻など三笠がもう少しの落ち着きを身につけたら彼女のようになったのであろうという予想
粉川には相変わらず目の前の全てが水の中で目を開けた時のように、ぼんやりとしたイメージに見えていたが、遠目でもわかる姉妹の特徴に少しの笑みのまま、宴の様子をうかがっていた
「それにしても横須賀から長門がいなくなってしまったという事、心配事も一つ増えたな」
敷島は途切れる事なく呑み続けていた盃を休めるように下ろすと、遠い空の向こうに目を走らせた
魂達の心を預かった三笠を守るため、敗戦の港を護り続けた中将長門の苦労はどんなものだったと思えば頭も下がる
自分のような骨董中将でさえ米軍艦艇は階級章を取り上げようと詰めより、叶わぬと知った時の暴力は集団での殴る蹴るという酷いものだった
それが現役の中将、大和や武蔵以前の大日本帝国を代表する連合艦隊旗艦として、世界に「big7」として名を馳せた彼女ならば……どんな仕打ちがされたのか、考えなくてもわかる程に辛かった
栄誉ある者を地に這いつくばらせ心を折る仕打ちをする者達を、争いが終わった今となっても蛮行を続ける姿を、許し難い行為と憶えていた
国家間の戦争に負けた事実を受け入れ、頭をたれた事は認めつつもやはり気性荒き教官であった敷島には、礼節までを打ちのめす事が勝者に許された権利なのか?と目を尖らせて勘ぐっていた
おそらくそれらの横行を全面で受ける苦行を自分に課した中将長門
彼女が、最後の日々で守った仲間を置いて横須賀を離れるという事を考えるに目頭を押さえて声を詰まらせた
「敷島中将、その事なのですが」
自分の発言から重く肩を落とした敷島の姿に、長谷川少佐は思い出したように声をかけた
ひび割れた丸めがねの下で、ほんのり赤く染まった酒やけの肌で頭ほ軽く叩きながら、苦悩を残させないように現状の報告と、敗戦直後の横須賀鎮守府の話をした
「横須賀でも……降伏調印前は連合国軍の艦艇が数多く進駐したため酷い事がたくさんありましたが、その…調印式後は米海軍ミズーリ少将の発言があり、酷状は早い段階で収まり、他の鎮守府に比べても比較的安全に過ごせる状況にあります。現在も、心配には及ばぬと思います」
「ミズーリ少将?」
敷島の頭の中に微かに浮かんだ名前で首を傾げた
すぐには名前の主の情報が出てこなかったのだ
大戦末期の頃に就航したアメリカ海軍艦艇の数は、その工業力に押された膨大な数だった
日本がどう足掻いても手の届きようのない圧倒的な数であり、当然艦艇の名前も数多にあった
相手の艦艇の名前を覚え、それら艦艇の運用や特徴などを的確に知るのは士官の仕事でもあったが、情報を取り纏め記憶するという努力を上回る名前と艦艇数には目を回した
なにより敷島のような老朽艦には大戦末期の頃の情報は、ほとんど耳に入ってこなかった
鎮守府近くの着けていればそれなりに情報をとる方法もあったのだが、退役艦として一線を退いてた敷島は相ノ浦に身を移されていた事もあり手に入る情報といえば、大本営の発表する情報を少しと、佐世保に帰港する怪我を負った艦艇達の不確かな情報だけが全てという粗末な有様だった
この頃には、大本営の情報も当てになるものが減り、相手の猛威が目に見える形で空を舞うのを見るに至り、この戦争の行く末が真っ暗な坩堝となったものだと実感していた
まともに相手を知る術がないのに、「何に勝て」だから「何を学べ」と、教えられるのか自身に憤然としていた敷島は、戦後各鎮守府が米軍の基地として存続されるに至りようやく様々な艦艇の名を聞くことが出来るようになった
件の有名艦「ミズーリ」の名も、この頃にやっと知った
戦艦大和に相対する者として作られた巨大艦ミズーリ
その姉妹達、アイオワ、ニュージャージー、ウィンスコンシン
敗北はしたが生を残した敷島は記録をとり続けていた。忙しく戦後を駆け巡った情報の中から、生き残った者(魂)の勤めとして、帝国海軍最後の歴史を綴った中にあった名前を長谷川少佐が口にした事で思いだしていた
短めの金髪の頭を揺らし、切れ長の目を細めると顎に手をあてたまま何度か頷く
「ミズーリ少将……アイオワ、ニュージャージー、後一人と戦艦艦魂の将だな」
体躯ならば帝国海軍が作り上げた戦艦大和に匹敵する大型の戦艦。長さならば数メートルを超え、高速型として作られた大物の魂。実物を見た事はなかったが
眉間によった皺を人差し指が撫でる
「ミズーリ少将……」
噂にはよく上っていた魂の名前。だが栄誉の将官というよりも、どちらかというと米駆逐艦達の悪口の中にあった名前に興味と嫌悪が浮かばせると
「何をしてくれたのだ、そのミズーリ少将というのは?」
眉間による思案の中で、話しを先に進ませるようにと手を振った
「それが、その、訓辞とか、礼に乗っ取ってというものではなく……」
長谷川も正確に聞き及んでいないのか、童顔ながらもそり残しの髭が目立つ顎を押さえると
「なんと言ったらいいのでしょう。僕はその時の事を曳舟達に聞いたので本当にそうなのかわからないのですが」
「曳舟は嘘をつかない、正直者ばかりだ」
周りで酒盛りをしつつもまん丸の目で話しに耳を傾ける、小さな魂達を敷島の目が一巡し長谷川の顔を睨む
急かされたように彼は、それでも少し訝しそうに答えた
「泣かれたそうです。「ここで、これ以上の暴力をふるう者を許しません。戦争が終わった今、守りたい者のために死んでいった者達を悼み送りましょう。生き残った者達を辱めるような事は止めて……」」
隣で降伏調印の文書を取り交わす日米代表団の行間ずれやらなにやらで手間取っている甲板の上で大きく手を振って、そして
ミズーリは泣いた
ただの泣きようではなく、甲板に崩れ伏したままの号泣は爆音のように大きな声で港につめた連合国艦艇の全てに聞こえたという
「泣いた……?何故?」
まったくわからない答えに、敷島は敗戦後港に入ってきた米駆逐艦達の行動を抑止出来なかった将達が居た事に注視し頭の回転に弾みを付けた
「少将ともあろう者がそんな感情を露わに……」
感情……
「守りたい者のために死んでいった者達を悼み送る」
聞く分には奢り無き勝者の労りにもお見えたが、その後の号泣が少しも話しの筋と繋がらないと思えたのだ
敗北で母国から捨てられる艦艇の姿は何度か目にしている
日露の戦いの時には何隻ものロシア艦艇が敗戦によって帝国海軍に接収、その身を落とし帝国に屈服した者達がいたが
敷島もそうだったが、出雲のように前に立ちお互いの戦いが終わった事を認め、新たに共に生きる者として受け入れの握手を交わし
決して接収者である事を責めたり、罵声を浴びせる事を許さなかった
それを命令として発令し、幾ばくかの問題は残しつつも帝国海軍艦艇は指示を守った
泣いて自分の命を通すなど「哀れみ」の現れにしか見えずむしろ非礼にも感じた。きちんと礼を尽くして手を繋いだ自分達の事を思えばいかにもおかしな話しだった
「変だな……」
高い鼻にかかったほつれ毛を返すと
「何故泣く?」
艦隊の中でも重職についた少将ならば泣いて直談判などという醜態など晒さずとも厳命をする事だって出来たはず……なのに何故そんな失態を公の場でミズーリは見せてしまったのか?
もたれかかっていた壁から体を起こし敷島は佐世保港の方に目をやった
居並ぶ米駆逐艦
進駐してきた米軍は用心深さは普通にもっており、帝国海軍の残った艦艇に外の情報を与えようとはしなかったが敷島はあらゆる手を使って集めていた
曳舟達に頼み、漁船達に頼みと、どんな些末な事も逃さぬように。持ち帰った情報を身振り手振りで話す彼女達の時間が半日近くになっても情報を集め続けた。まるで新たな職務に着いたかのように
それで気がついた事があった、米海軍艦艇の彼女達も何かがおかしかった
最初は夜陰に隠れた悪口程度の話しが、時と共に上官であるミズーリやアイオワに対してどこが気に入らないのかを、真っ昼間から艦上にて話し合っている様を何度か目撃するようになった
勝った事の喜びで時間は止まらない、勝った事に続く何かに不満があるのか?
終戦直後は戦勝に浮かれた不心得者達のねい言と片耳に聞きながら書き留めていた出来事に長谷川少佐の話が不可思議に重なる。どこかおかしい米海軍の中身
「グレート・ホワイト・フリート……」
一人思案にくれる敷島の眉間を走る痛みの奥、古い記憶を呼ぶように軽く額を打ってみた
1908年あの年、アメリカは白船の大航海を実施し太平洋における軍事力誇示を行った
ロシアとの戦争に勝った日本は太平洋側に産まれた一大勢力として世界に認められた
だが同時に、今まで頂点に立ってきた白人社会に不安を持ち込む者という穿った見方がとぐろを巻き始めていた
教会(Catholic)は働けど実を結べない下層労働者達の救済は「奉仕」であると声をそろえていたが、その日常の奉仕を日本人達が海外移民する事で奪い始めていた事も問題の一つとなっていた
「タタールの軛は、また来るやも」
列強の猜疑の前で、日本は間違った有頂天の中にいた
大国ロシアを倒した大日本帝国と
「奢ったものよ……」
当の敷島さえも、痛みから目をそらすために戦勝に浮かれた事があったと認めつつも、高く上がった鼻を最初にへし折られたのはやはり敷島達でもあった
白船来訪
もう一つの超大国とならんアメリカの示威行動
当時のアメリカの工業力にもは、敷島達日露組はただ驚くばかりだった
日本に訪れたのは十月に入ってからで、五ヶ月前に艦長が交代したばかりの敷島は式典に出席はできなかったが
三笠と朝日、姉妹二人は参列し客観的な感想は次女朝日から聞き及んでいた
「ロシアに勝ったのだからアメリカにも勝てる」など無責任な発言をする大衆の前で行われた景色は、恐るべきものだった
1904年から1907年。たった三年の間に11隻もの戦艦を造ったアメリカ
六の戦艦をそろえるのに議会を紛糾させ、何度も承認を流され、苦難の時は計画発動から九年、それでやっと足並みをそろえた日本海軍の前に現れた者達
白鯨の群れに心が粟立つのも無理のない事だった
同時に精錬された魂達の姿に驚いた
当時緊張した日米の間で行われた示威行動だっが、アメリカ海軍艦魂の姿は人の思案を十分に汲んだ大人の艦隊だった
脅威は示せど、魂として海をゆく仲間という認識から侮蔑や高みから見下しをみせる者はおらず、さらに軍人として冷静な目を持ち良い会話の場をもてたと朝日は言いつつ、それ故に心から脅威を感じたと漏らしていた
アメリカと事構えるなど考えたくもないと
なのに、ここに勝ってやってきたアメリカ海軍艦艇の「幼い」事には当初暴力行為の横行からただ苛立ちを持っていた見ていた敷島だったが、徐々にある違和感を感じていた
大戦前、最後にアメリカ艦艇にあった時はまだ秩序ある魂を見ていたハズ?
戦争は色々なものを破壊する、礼節も命令も、それ故の誇りも失ったのか?
アメリカ軍は……あれほど立派な艦魂を多く持っていたアメリカ海軍はいったい何処に行った?この者達にどんな教育をしたのか?
教育者の観点からも敷島は尽きぬ疑問を持っており、それが少将ミズーリの号泣話しと相まって首を傾げる結果となっていた
稚拙な簒奪と暴力を繰り返した戦勝国アメリカの艦艇艦魂達
「その、中将とにかく横須賀は今は平穏です。何か気になる事があるのならば三笠元帥にお言葉届けますが?」
顎と口をふさぎ考え混む敷島の背に長谷川は盃をとめると
「ミズーリ少将のはすでに日本にいませんので、探るのは難しいのですが必要ならば努力……」
「ああ、聞くことは出来ないだろうな。何故泣いたか?なんて」
ふさいでいた口を開くと
手を前に酒を曳舟に注がせ、一気に煽る
「三笠に言う事も今更ない」
やっと腰を落ち着かせたように、はがされささくれだった甲板の跡に座る
となりで黒髪を揺らし話しを聞き続けていた涼月はひっかかりのある質疑を割り込む事なく質問を控えていたが、止まった会話に一息をつくと
「敷島中将、今生最後になるかもしれません元帥に届けたいお言葉があるのならば……」
「涼月、お前は自分の行く末を選んだ。三笠の事は心配しなくても良い、誰よりも責を負って生きるか…抱えた者達と共に解体されるかは、もはや誰にも解らぬ事なのだから」
酒に焼けた喉から熱い息をはき出すと
「そんな事より、少佐。こんな遠くにまで来たという事からするに「恩寵の短刀」は全部集まり、ここが最後という事だったのかな?」
心配はない。三笠に関しては最早言う事はなかったが、それ以外の心配はあった
国内にの生き残った帝国海軍艦艇達は「心」を全て預けられたのかという
酒を頂きながらも手元から離さぬように持つ軍刀
長谷川はそれを後ろに隠すようにすると
「呉にては、榛名少将、日向少将、伊勢少将それと…出雲大佐がお預かりの願いを拒否され」
「そうか」
出雲は解っていた。きっと出雲は軍刀を渡さないだろうと、何故なら朝日の軍刀が届かなかったから
三笠の理論が正しくて、「心」を残す事が大切だとするのならば、届かなかった朝日の心故にそれを継ぐ魂は産まれない
朝日のいない世界など出雲には何の意味もないものとなった。だから自分の手でそれを持ち想い持って朝日の所に、自分で行くと宣言したのは納得のいく答えだった
妹の事を心より慈しみ、友として愛してくれた出雲の志に涙をこらえる敷島
最後まで伊達女を貫き通した友に感謝した
顔をおとし唇を噛む
「ありがとう、出雲……朝日に…よろしくな」
手にした盃が揺れる
願うような言葉の後を涼月が聞く
「榛名少将達も金剛少将のためにそうされたのですか?」
同型の長女だった金剛を思って短刀を渡さなかったのかという質問に
「いえ、金剛少将の軍刀は長門中将がお預かりしておられましたので、すでに三笠元帥の下に届けられております。随伴艦の浦風中尉の短刀は……届けられませんでしたが」
「ならば、どうして」
「意地を通したか」
目を開き、少佐を責めるように見る涼月の目を遮る手
心を置いてはいかないというのも、最後は自分できめる事。敷島は潤んだ目のまま、少佐が弱腰で短刀を預かれなかったのではという気持ちを顔に出してしまった涼月の発言を抑えた
「榛名達は将官だった。自分達が教えられなかった事や出来なかった事の多さを痛感していたのだろう。上に立つ者は責任をどんな形にしろとろうと思うもの、死んでいった者達の前で己の魂を預けたいと「言わない事も」また責任の取り方の一つでろう」
難しい選択だった
長谷川も額を床にすりつける土下座をして「心を預けて下さい」と頼んだ事を言うと
「己の命を持って、最後の日まで日本を見て逝く」
そう言われたのでは、下がらざる得なかったと涙した
「それで良い」
自分に言い聞かすように頷く敷島は、各地に残る仲間達の報告を聞いていった
終戦間近の九日に空襲を受け大湊の葦崎東方海岸に擱座した常磐は、終戦から向こう一年近く放置されていたが、その期間を使って自分が所蔵した本を曳舟達に分け預けていた
赤髪のまん丸目、愛嬌の良い顔が、半壊の自分を訪ねる曳舟達に気を遣うのはすぐに思い浮かぶ図というもの
帝国海軍の中では一番に宴会を愛し、上下関係なく出席をさせ楽しみを与えた常磐を慕う下士官から曳舟達は多かった
だから常磐の願いである蔵書譲渡・保管を、みんなが必死に請け負った
「いつか私の本と、作ってきた書を見てくれる船がいると思うから……」
初瀬と揃って本の虫だった常磐、大好きな本に包まれた生活をかなぐり捨て機雷を600発もその身に積んだ
近代改装をし、自分達日露組の中では一番はしゃいだ常磐が、それでもの型落ち艦の身で旗艦となって旗を振らねばならない戦いをどう思い、どう記したのかを敷島は知りたかったがそれも今は叶わぬ願い
軍刀は預けず、自分の宝だけを残して逝った
常磐の姉、浅間は出雲と同じく呉にて全ての者を看取る事を勤めと言い軍刀を預けなかった
テイ(鎮遠)と故郷を同じくした八雲は終戦時可動できる数少ない艦艇だった
無口なところはテイに似ている彼女は敗戦という苦境の中でも、寡黙な態度で特別復員船の任につき、中国本土からの引き上げをする人達を何度も舞鶴まで運んでいた
銀色の髪を靡かせた麗人は、敷島が過ごす熱波の夏の下、汗を掻くことを惜しまず働き続けまだ長谷川に会う事がままならない状態だった
横須賀に詰めていた春日は、富士中将の自刃を追う形で殉死
軍刀は自らの首を切り落とすのに使い、船と共に沈んだ
目を閉じても溢れる涙の中で敷島は盃を煽った
肩を並べ、互いを励まし、時に曲げられぬ故にぶつかり合った仲間達は、もうほとんどこの世を去った
「敷島中将……どうか、心は」
敷島の多くの旧友が軍刀を預けなかった事を、長谷川は語るのを恐れていた
彼女達の中で責任者といえば元帥になった三笠ではなかった、敷島こそが自分達の一番の指導者と皆が声をそろえた事を思うに、誰も預けなかった軍刀を敷島のみが預けてくれたのは青天の霹靂に近く、切れそうだった魂達の願いを長谷川はのやっと掴んだ形だった
こわばる顔が、自分の横に預かった刀を隠そうとするが
「言わぬよ、今更返せなどと」
相手の心中を察した目は涙を拭いつつ
まだ高い夏の太陽を見上げた
「私には別の責任がある、故にその刀を預ける意味がある」
「別の責任?もう誰も中将の責任を問う者など」
涼月の心配げな声に敷島は、静かに尖った目のまま
「三笠がしようとした事の結末を見届けるという責任がある」
恐れず戦え
号令を与えた三笠が、それを言い切れた証明を見る役目が敷島の最後の使命
「恥など今更な考えだ、死ぬのではなく結果を見据えるために私は心を託して、今を生きる義務がある」
覚悟宿した瞳には生き抜く気概が宿っていた
わざわざ表に力を見せるように、曳舟の持っていたどぶろくの器を受け取ると口をつけ一息に喉を鳴らすと
「まだまだ、まだ死ねぬ。やることが山ほどあるし、私のような頑固な船をばらすには半年はかかるだろう」
末尾の日の中にいるとは思えない程の凛々しい顔は、おかわりと盃を差し出し呑めと長谷川にも奨めた
上官の力強い姿に涼月も無礼講と盃をとると
「敷島中将、どうして三笠元帥は私達が死しても蘇る事ができると確信したのでしょう?」
漠然と思っていた事をポツリと聞いた
それはどの船も顔をつきあわせても聞きたかった話でもあった
大戦が激化した頃、神にも縋るような三笠の発言がまかり通ってしまったのは、確信に満ちた声と、その発言に現れた力強さにも原因があったが、終わった今、自分もその道を選びながらも
友も姉妹もが信じた言葉の中身を、涼月は少しだけでも本当のところを知りたいと零した
日本海を先頭をきって戦った魂であり、帝国唯一の元帥の称号を持つ艦である三笠の自信を信じたいと思うのは多かれ少なかれ明治以降に生まれた艦艇艦魂にはあったが、それが何なのかを探求した者は少なく、逆に三笠と同期の艦艇である明治組は眉をひそめながらもその言葉を聞いていた
「何故そんな考えに至ったのか」を
「「魂の引き継ぎ」の事だな」
あぐらをかいた姿勢で盃を重ねていた敷島は、軽く息を落とすと真面目な顔で
「ならば涼月お前に聞こう。私達はどういう生き物だと思う?」
返事を質問という形で返した
「私達はどういう?生き物?」
ふいの問いに涼月は考えがまとまらず、目を丸くしたままオウム返しをする
敷島はそのまま自分の前にすわる人にも問うた
「長谷川少佐、一番近くで長く我らを見てきたぬしに聞きたいが、私達をどういう者と見ていた?」
帝国海軍の中では数少ない艦魂との交流を持った男は、とつぜんの質問に盃を下ろすと欠けた眼鏡の鼻に指をやって
「自分は女神の末裔であると聞き及んでおりますが、前任者の」
「阿賀野大佐の感想を聞きたいわけではない、ぬしがどう考えているかを知りたいのだ。単純にいわれたままを信じてきたわけではないだろう?」
詰める視線の前で長谷川は持論を語るために、一度空を見上げる
涼月はそう言われてきた自分達の起源を覆そうとする敷島を恐れたのか身を引いている
「女神ではないと思います。女神というには感情的すぎるしむしろ僕達・人と同じように生を持って生きる存在のように感じました」
長谷川の顔は今は亡く思い出となった魂達の顔を、記憶の中に呼び戻していた
成熟した女性の姿を持つ者から、生まれたてのあどけない笑顔を持つ少女まで多くの魂と交流したが、言動や態度に神がかりを見せた者はいなかった
時に嫉妬し、時に喧嘩をし、時に食べ物やオシャレの話しで盛り上がった彼女達の姿は市井にいる娘達の姿と変わりはなかった
確かめるような視線の前で敷島も頷いた
「私もそう思う。私達は女神でもないし、女神の末裔などという者でもないと思う」
ノイズの混ざる音が画面を歪める
敷島の発言に粉川は立ち上がっていた
「女神の末裔じゃない……」
『こんごう』は微動もせず、ただ目だけはこれまでにないほど開かれた顔で固まる
「では、私達はいったい」
今まで触れた事のなかった起源の話しを、取りこぼさぬようにと目を見開く
「私たちは皆、人と同様に死ぬその身に痛みを受けて……死ぬのだ」
生物のサイクルを冷徹な目は見つめていた
憑きものでもなく、宿るというでもない自分達の存在に対しての疑問に鋭角の目が止まる
かつて、大騒ぎの中でその疑問と向き合った事があったという事に
「人と変わらぬ、生命のサイクルにいる者がどうして神などという扱いをうけるのか……有り得ぬ事だ」
敷島の指が宙を泳ぐ、螺旋を描くように回す指の終着へと
「同じく死に、そして産まれるだけ……?……何?」
自分を見つめる二人を置いたまま思考の闇から一筋の光を見つけた敷島は勢いよく立ち上がた
そのままストライドの広い長い足で艦尾に向かって走る
まだ海を、佐世保の港を見渡す事のできる場所にて広がる景色に目を回し、湾の片隅を凝視した
ここではかつてある事件が起こっていた
あの時は必死だった、ロシアとの戦争直後で多くの仲間を失った傷がいえていない中で起こった事件に対して敷島でさえ泡を食い、涙に暮れる仲間達と懸命の救助をした
「私達が理の事物をねじ曲げた?だからなのか?」
敷島の声は遠くなり始めていた
粉川も『こんごう』も最大の疑問である部分に追いつこうと離れ始めている画面の通路を懸命に走っていた
「ならばお前は、誰だ?」
霞む敷島の目が、ただ海を見つめて呆然としている
「誰が……誰がですか」
粉川は拳をにぎり、消滅してゆく風景に焦りの声を荒げた
「誰が、どういう事なんですか!!敷島さん!!」
粉川の焦りに『こんごう』も同じく敷島の答えを待って背に迫っていた
「三笠、お前は誰だ?」
「司令艦アイゼンハワー……その、どうしまししたか?」
夜半を回った佐世保基地の周りは生暖かかった風を追い払い、冬の風が水面を打つ時間になっていた
季節は確実に移ろい冬の冷えた風の中でアイゼンハワーは沈黙を続けていた
視線の先にあるものは
ほんの数分、三分にも満たない光の結晶で銀色の閃光を見せる塊に瞬きもしない姿は銅像のようにも見える
後ろに控えていたクーン(カーティス・ウィルバー艦魂)は焦りに狩られていた
アイゼンハワーより背の高い彼女だが、腰が折れ司令艦の顔に自分を合わせるように成りそうな程焦っていた
米海軍の規律にある「必要以上の接触はしない」を簡単に越え、水の記憶の中に日本軍艦魂(海上自衛隊艦魂)と、よもや人までを連れて行ったコーパスクリスティーの如何なる仕儀も許されないものではと
「司令艦アイゼンハワー、この事については私の方から調書を取らせていただきまず、ですから」
「クーン、暖かいコーヒーが欲しいわ」
閉ざされていたピンクの唇が、いつもの緩い声を返した
何事もないように聞こえる声だが、それでも表情を変えない上官の姿にクーンは最敬礼をすると
「どうか、お願いです。コーパスクリスティー大佐の事は私に一任していただけないものでしょうか」
コーパスクリスティーがここで懲罰を受ける事になれば、理由などが公開されないにしても戦船の責務の重さに魂の救済を求める姉ダニエル(カウペンス艦魂)の衝撃は計り知れない
クーン自身はコーパスクリスティーとの間に距離を持っているが、姉を思えば自分がこの事態を収束させる必要があると責任を感じていた
「コーパスクリスティー大佐を私の部屋に」
「司令艦……」
歪めた表情を隠す事の出来ないシルバーアッシュの短い髪の下で、目が懸命に懇願をして見せる
「どうか……」
「クーン、コーヒーの準備よ。何を驚いてるの、私は大佐に手紙を渡したいだけよ」
振り返る丸い目は自分の頭を指差して
「キティちゃんから大佐に電信があったの、私にもあったんだけどぉ、大佐への分が多いのよね。だから直接渡したいのよ」
「えっ、キティ・ホーク大将からですか」
姉の寄港する横須賀にて、合衆国海軍日本国側の護りの総大将キティ・ホークはコーパスクリスティーに信心している事で有名な魂でもあった
「でわ、すぐに支度を」
「そうして頂戴」
光の輪を現し、こぼれ出る欠片の中に消えるクーンの背中を見届けたアイゼンハワーはもう一度、佐世保基地のバースにて光る結晶を見つめた
「色々、聞きたい事があるしね」
顔に少しの倦怠感を漂わせて、金色の髪は揺れながらクーンの後に従って消えていった
カセイウラバナダイアル〜〜感情〜〜
とにかく、感情を追うという作業ずっとしています
どのキャラクターにも背景をつくり、それ故に絞り出される感情はどんな形なのかというのを作り出す事に手間取っています
これが実在の人物の心模様だったりしたらどんなに大変かと想いました
だから私の作品には名のある大将や、軍人があまり出てこないのですが、登場して頂くときも出来る限りでその方の事を調べてから書きます
それも
この大将はこういう人だった
だから、絶対こうするハズだという短絡的な思考誘導をしないように、その方の家族の事までできれば調べます
でもやっぱり難しい、頑張っても本人の全てを知る事はできない
隣に生きている友達の事さえそこまで理解できないのだから、見苦しい点も大いとおもいますが、ご容赦頂きたいと想いつつ今日も書き上げてみました
今回は外伝の方もどうぞ
艦魂物語,魂の軌跡〜こんごう〜外伝の外伝 港の働娘
「終わったの……」
8月15日、その日の舞鶴は晴天に恵まれていた
氷川丸をはじめ第二氷川丸の氷雨に、少しの輸送船団は湾口から向こうに敷設された機雷のせいもあり身動きのとれない状態で大日本帝国落日の時を迎えていた
ラジオから流れる大御心の言葉は、どこか掠れた音を響かせ
日本という国のどこもかしこもがすり切れる限界のところにいた事を如実に現していたと、氷川丸はぼんやりと空を見つめた目で考え
そして静かに涙を落とした
「なんのために……」
戦争が早く終わる事を願った
終わって、また姉妹がそろって客船として海をゆける日を心から願ったが
終わって、何もかもが手の中には残らない結末を迎えてただ悲しくて涙がこぼれた
「平安……日枝……戦争は終わったのよ。戦争は終わったの…戻って来てよ」
戻る事のない魂となった妹達
悲しみで下がった頭を氷雨が抱いた
「お姉さん、戦争が終わったんだね」
同じように泣いている氷雨、語る言葉をなくした魂達は皆すすり泣き、戻らぬ日となった仲間を思い崩れていった
「わかりました」
終戦と共に静まりかえった舞鶴鎮守府の一室で男達は苦く顔を見合わせていた
「後始末が回ってきたな…しかし、やむおえまい」
司令は襟口を何度もさわり落ち着きを取り戻そうとしていた
部屋の灯りは着けられておらず、戦時の頃と変わらぬ緊張野中でろうそくの火の周りを飛ぶ虫を見る男達はみな顔に苦痛を浮かべていた
「米内さんがいわれるんじゃあ、やった方がええんじゃろう」
痩せた目が暗がりに瞬きをすると
「近いうちにだ、明日からしたくにかかってくれ猶予はない」
速やかな決断はされ、時は無情に刻まれ出していた
終戦から三日、船達の元には「酒匂」という帝国海軍中尉が訪れていた
まだあどけなさが残る元中尉は礼儀正しく舞鶴に残された船達に挨拶をしていった
「早ければ来月末にもこの港にも米軍の艦艇が入ります。色々とご心配な事もおありでしょうが、この港の全ての責任は私酒匂が持っております。武装解除は致しても、秩序を守る義務があります故に、どうか私の指示に従う事をよろしくお頼みしたいと思います」
氷川丸からすると、まだ若すぎる中尉の姿はどこか痛々しいものがあった
彼女は沖縄に向かう予定で一度は佐世保に出航したのだが、初の実戦がそれではという配慮があったのか?舞鶴に戻らされ、それからはボイラーの火を落としてここに鎮座していた
姉の矢矧は沖縄に向かう戦いで撃沈、それ以前の姉達も最早世には居なかった
氷川丸達と同じように、残された側の者だった
幼い顔の彼女は、出会った時はまだ水兵のような姿だったが次々に将官、左官失う帝国海軍の中で指揮系統の職に就かざる得ないという状況が生み出したため17歳ぐらい、産まれて2年にもみたいうちの昇格をし、中尉となっていた
帝国海軍の一員である事、あった事が彼女にとって今更誇りだったのかを知る事は出来なかったが、礼儀を守った挨拶に酒匂を罵倒する船は一人もいなかったが、快く思った者もいなかった
戦船が本来の仕事もせず自分達と同じように生きている
このことに対するわだかまりは確実に舟達の心にあり、終戦の虚脱と失った仲間達への想いから深く心を蝕んでいた事が怒りとなって渦を巻いていた
「お姉さん」
氷川丸は氷雨と一緒に星空を眺めていた
終戦から向こう、船達には時間が出来ていた
今までは慌ただしく動いていた日々、それに合わせるように慌ただしく自分を動かす事で戦いの恐怖から目をそらそうてしていた日々が嘘のように静かな海だった
「私、私は祖国に戻りたいとかねそういう希望はないんです。ただもう一度客船に戻れると信じてここまでやってきたから、姉さん達と一緒にまだ海を行きたい、客船として、どこの国でもいいから」
氷雨の柔らかい髪はほどかれていた
病院船とは名ばかりで、武器や資材を人の死までを積み込んだ彼女に氷川丸は励まされた事を思い出していた
「うん、氷雨は強いから大丈夫よ。何処に行っても立派な客船としてやっていける」
静かになった日々でやっと、夢を取り戻すことが出来るようになった仲間達
まだこの先の事は何も解らなくても、ほのかな夢の話しで心を温め合っていた
「私は、氷雨に会えてよかった」
恐れで見る事も出来なかった空には、今は猛禽たちもいない
星の瞬きの間で、氷川丸は感謝していた
自分には出来なかった事、人を抱き死の見送りを懸命にし続けた氷雨に心を打たれた
そうだ帰りたいと願う人を抱いてあげなければと、時に勇気を生きる気力を与え、死の旅を安らかな道として与えるために
あの日から何度も肌身与えた
暖かさを思い出して進んだ
「姉さん、私も姉さんに会えて良かった。良かったよ」
氷雨の涙に指を這わす
新たに出来た妹と共に、これから先の荒波も越えていける
氷川丸はそれを信じていた