第八十一話 オレの嫁
色々な事があってつかれましたが、頑張ります!!
今話はちょっと勉強がいるかもしれません。私もたくさん勉強しました…ふぅ
「良い月ですね」
木立の影で熱くなった心を冷やす夜風を浴びていた二人の背に掛かった声には、通常の空間であり得ないような深いエコーが掛かっていた
まるで石積みの高い屋根をもつカテドラルの中に自分たちがいたかと錯覚をするほどに驚き
『こんごう』は腹に抱えていた粉川の頭を叩き飛ばした
不意の打撃に受け身も取れないまますっころぶ大男の前には、深紅の衣装、裾を風に揺らした人物が霞の月の下に写る
突き飛ばした頭から素早く敬礼の姿をとった『こんごう』とは別に、飛ばされたまま姿勢を直せなかった粉川は膝を着いた先にみえるローヒールを下から順に眺めていた
まるでそびえる佐世保電波塔遺跡を目で追うようにゆっくりと上がる顔の先には長い黒髪を揺らすシルバーの目、鼻筋の通りは西洋人らしく高く、白すぎる肌の浮世離れした顔の輪郭の中、眉毛が霞み目の大きさが際だつ人物
言葉を失うのは、彼女を覆う月光のラインに神秘の姿を実感してしまった事で粉川はだらしなく口をあけたまま相手の顔を見つめていた
その呆けた顔、緩んだ身体に強烈な蹴りが入る
「何ぼさっとしているか!!敬礼!!」
四つんばいに近かった腹を下から蹴り上げられるという激痛に粉川は飛び起きると
「ちょっと!!真面目にヤバイよ!今の角度!!」
怒りの顔を『こんごう』に向かわせたが、今度は顔面に縦割りのチョップが入っていた
「静かにしろ!!無礼だろ!!」
遠慮のない激突は粉川の鼻筋に激痛を届けると、倒れる事を許さずそのまま耳を引っ張って、目の前に立つ魂の紹介をした
「アメリカ合衆国海軍、今回の演習にて潜水艦隊の旗艦を勤められた方。ザ・シティー・オブ・コーパスクリスティー大佐だ!!敬礼しろ!!」
引っ張られた耳の穴に直接固形の言語を叩きつけられる衝撃で、身体が斜めながらも間柱を注入されたがごとく真っ直ぐ立つ
痛みに吹き上がった汗のまま、片目を大きく開いた粉川は目の前に輝く妖精に対して敬礼をした
「失礼しました!!日本国海上自衛隊粉川一尉であります!!」
慣れたものである
普通の人なら、夜更けに現れた彼女の姿に別の動揺を示すだろう、見えているのならば
敬礼などする事の意味もわからない事だろう。だが粉川には経験のある怒鳴り声に対応もできた
相手の姿に驚くなど今更な事。見えない人でなく、見えている人としても驚くことではない。佐世保の基地の中で出会う魂、ましてや日本人離れした顔とくれば『こんごう』に言われるまでもなく何処の艦艇の魂なのかはわかるというもの
それ以上に耳を引かれる苦痛の中でつい、口元が緩むのは初めて佐世保にきた時に『ちょうかい』と出会い、即座に怒鳴られたこと。『くらま』司令に敬礼せよと、それが思い出にうかびさすがにその姉である『こんごう』がお手本のように同じ事をばっちりしているのに痛みの中にも懐かしさを覚え、ついにやけた
「何、笑ってるんだ」
しかし笑みには時と場所を選ぶときがある。『ちょうかい』があれほど硬い一面を持っているのならば容易にその事もわかっていたハズなのに…その姉で名を『こんごう』と、とても素手では太刀打ちできない硬い石のごとくの魂、怒りの顎が目の前に現れたことの必然に粉川の目は一瞬にして波乗りの頂点で固まり、敬礼したまま
「すいませんでした!!」
兵学校の三下のように謝罪した
鼻筋一線を真っ赤にした粉川の顔に、おそらく艦魂随一の神秘の化身であるマリアは口を押さえて笑っていた
程よく月は空の頂点に昇ろうとしている時、波の輝きも月の柔らかい破片を泳がせる静かな世界
これから粉川と『こんごう』の進む嵐の道のりを示す最初の出来事にしては滑稽な幕開けとなっていた
一通りの騒ぎを収めた二人は木立を抜け出て前に広がる突堤を、コーパスクリスティーの後ろを従うように歩いていた
良い月の夜、そう言って現れた彼女の肩越し
青白い月が大気に振れる細かな光の舞の中で丸く浮かぶ
20時前の時間にしては静かすぎる波は秒を刻むように押しては引く様子で、明日も晴れた中に強い寒さをつれてこようとしているのが肌に感じられる
粉川は羽織っていた上着の前を閉め、前を浮遊するように歩く赤い影の主、スータンの姿を不思議そうに見て訪ねた
「コーパスクリスティー大佐は、その従軍神父なんですか?」
振り返り葉しないだろうという予想の中で、それでも背中に向かって軽い会釈をした後で、深い闇を織り込んだ赤のスータンを見るに合衆国軍では少なくない宗教関係の軍務者と思われる魂に問うた
粉川は自分の問いが実に不自然なものであることを理解していた
女という形を持つ魂に「神父」と
魂という人とは違う者達にある「信心」とは、何であるかに触れようとした
「そうですね、そうともいいますね」
振り向かない顔は微動だにしない背中越しで答えると歩を止めた
黒髪が背中の中程までを隠す、背丈は『こんごう』より低く『いかづち』ぐらい
止まった位置からゆっくりと首をあげ、月に目を向けた顔が振り返る
「私の事はマリアと呼んで下さい。私に佐官名は必要ありません」
灰鉄の瞳が、探求心の目を向ける粉川を試すように微笑む
静かに白い眉と、雪を乗せたような睫毛の下で
「ダメだ!こいつにまで呼び捨てを許可するなんて」
心を探る神秘の目線の前で、挑戦的な顔になっていた粉川の肩を鋭さを伴った手が「さがれ」と引っ張る。お堅い『こんごう』は階級的に自分と一緒の相手を粉川が呼び捨てするのは無礼と睨み
両肩を揺さぶると、急に真顔で
「お前、もういいだろ。今日は帰れ」
取り憑く島のない三角目を光らし、本当に迷惑だと自分より高い位置に顔がある粉川に顎をあげる
まくし立てる剣幕の上で粉川はまだ早い夜の時間である事を理由に、海外艦艇の魂との交流を本気でしたいと思っていた
考える先にあるのは、自分がまだ魂達の真実に遠いという気持ち、だからどんな角度からでも迫っていけるのならば眠りなど無用と思えるぐらいの心境で、睨む相方『こんごう』に
「まだ早いよ、せっかくだから少しぐらいお話したいし…」
「お前は無礼者だから、突然何を言い出すかわからん。鉄拳が別れの挨拶になる前に帰れ」
制服のスカート付近、マグマという火薬を込める拳を前に
一見普通に見えるしぐさの中でがっちり防御態勢を整えた粉川は、猛烈な反論をした
「ちょっと、『こんごう』暴力に訴えるつもり?僕は君に比べたらよほど紳士的だよ。それに、コーパスクリスティー大佐の前で「おまえ」はないでしょ、それこそ失礼というものだよ」
基本は『こんごう』より自分は大人という自覚をもっている粉川だからこそ邪険に扱われるのは心外と肩を掴む『こんごう』の手を丁寧に振り払うと顔に向かって同じように顎を立てて
「日米艦魂の親睦大使ともいえる僕に失礼だよ!!」
「それは私がやっているから、お前はお呼びじゃない!!」
場違いなつばずりあい、立ち止まった二人のにらみ合いを振り返ったコーパスクリスティーは
「良い夜ですから、二人ともご一緒にしばしの時間を楽しみましょう。そのためにもお互いが気心しれる名で呼び合う事が良いと思います。ですから気にせずマリアと、畏まる事なく参りましょう」
白い手で固まる礼儀の空気を振り払うと、困惑の眉を見せる『こんごう』に笑みを見せ輝く銀色の目で合図した
「今夜を楽しむためにも、是非にゆるりといきましょう」と
一方、自分を遮る『こんごう』の背中の前で粉川は別の衝撃を受けた
思わず口元に力が入ってしまうのを、俯く事で隠すと思いだしていた
最初に『こんごう』から官姓名を教えられたときに、ぼんやりとだがやけに長ったらしい名前に聞き覚えがあると記憶を漁っていたところで、合致を得ていた
冷徹にも見える切れ長の目、下から緩いカーブを書き上げるような流麗ラインの中に輝く銀色の瞳の主、愛称…マリア
護衛艦で唯一、三笠との面識を持つ魂は『はるな』であると『こんごう』に教えた魂の顔を確認するように見つめた
食い下がってココに着いてきた意味に心を硬くする
目が思わず吊り上がっているのを隠すことが出来なくなった男の顔に、銀の瞳は切り返した
目に掛かる髪を軽く跳ね、本論よりも最初の交流をと
「盗み聞きするつもりはなかったのですが、先ほどのお二人の話聞こえてしまいまして…粉川一尉、先ほどの話の中に疑問がおありのようでしたね。そこで今ひとつ変わった角度で先ほどの話しを見直してませんか」
そういうと左手に抱えていた分厚い本を前に出した
「Bible…ですね…」
黒い皮を板張りの下、分厚い表紙と背、裏に覆うように着けた本
装飾に金縁のラインが四方の留め金として入った聖書
「お二人はお読みになった事はありますか?」
波に同調するような静かな声に『こんごう』は申し訳なさげに、無いと答え
粉川も同じく無いと答えた
「そうでしょうね、この国には唯一一神を祀るという風習はないようですから」
そういうと分厚い本の真ん中よりさらに下った終わりに近い箇所を開いて見せた
「人の世での区分から、新約聖書内ルカによる福音書20章27節から七人の夫を持った妻の話。聖書の言葉はよくたとえ話としてつかわれます。そこから自分に当てはめるという形で、たまに曲解解釈をする方もいますが、今回は「さわり」の形でご紹介しましょう」
英語ではない文字で書き綴られた聖書
紙面は石を押して作り上げたような黒い文字で埋められ、刷り込んだ染料の重さがあるのか一枚のページが木の板のような重さを感じさせている
大英博物館などでみられる判物を押し込んだ横文字の羅列とそれぞれの章を分ける証印
とても粉川には読めるものではなかったが、話の中の疑問について見抜かれたのは心持ちが悪かった
魂達の愛
愛には色々な形があるからこれを禁じ手というは基本的には無いです。本音で無くてもそう答えたいという思いが半面の気持ちに逆らえず、文字を追うふりをしながら『こんごう』の顔を横目で見た
最後の抱擁をする者、死ぬ人達を抱きしめる行為。場合によっては生きる気力を授けるために情交も辞さないという態度を果たして純粋な愛と呼んでいいのか?またそれが複数の人であったとしても彼女達が拒まないというのを、男の自分が受け入れられない引っかかりとして持っていた事をコーパスクリスティーの銀の瞳が見抜いている事に気持ちを悪くしていた
だけど、ココでこの話を突き放してしまうと彼女達の生態系を否定する事になる
なによりも、疑問以上に残されている問題解決の糸口を逃すことが出来ないという気持ちから
「お聞かせ願いますか?」
返事を待つ静かな影、銀の瞳に頼んだ
「聞いていいかな?」
頼んでおいて今更だったが、『こんごう』にすまなさそうな顔を見せた
先に『こんごう』が聞かせてくれた話をしっかりと理解していなかったのではと勘ぐられるのが怖かったための会釈に
「お前が知りたいのなら、かまわない。私も聖典の話は聞きたいと思う」
いつもの尖り目は同意をした
二人の意見が合致したところでコーパスクリスティーは開いた書を自分の側に直すと、クリアグリーンに塗られたネイルの指で文献の箇所をなぞった
「これは主を試すサドカイ人(祭司派*1)が当時の時世に乗っ取った中で、神の王国に復活を果たすとされる人達の過去と未来を値踏みした時の会話です」
いきなり難しい民族の名に躓きそうな粉川は唇を噛み眉をしかめた
聖書というものは名こそ世界的に知られているが日本人にそれ程なじみ深くはない、ましてや内容を知る者などはさらに少ない
教典の元にあるもので名前が挙がるのは正直「イエス・キリスト*2」ぐらいという人が多いくらいだろう
当然粉川もそうだった
サドカイ人と急に言われてもわからない、顔の中央に皺を寄せて隣に立つ『こんごう』に耳うつ
「サドカイ人って…誰?」
顔は正面で身体を反らすように小さく聞く声に、舌を刺すような目線
静かに聞けという赤いオーラに元の位置に身体がもどる
二人の様子を察したかのように教典を開く彼女は静かに微笑むと
「何人かはそれ程問題ではありません。この話で重要なのは七人の夫もった妻は誰の妻なのかという事です」
そういうと簡潔に章の中身を説明した
かつての民族・原則に従ったユダヤ人達の婚儀の元にあった一つの話
繁栄のために二人は結ばれるが夫は不慮の死を得て無くなるところから続く章
当時の民族繁栄と、一族の血を残すという原則に従い兄弟の内の一人が寡婦となった彼女を娶る
ところが、彼もまた死んでしまう
原則はつづけられ、彼女は一族の兄弟の妻としてまたも娶られる
ところが、彼もまた彼女との間に子を残すことなく死ぬ
これが七人目まで続けられるが、ついに子を残すことなく妻も夫達も死ぬ
さて、この一族は天におられる唯一一新の神に信心する者達で、天の王国を約束された「復活組*3」である
時は満ち、神の到来によりコレまでチリに返った者達が復活を果たす時
一族は皆王国の民となるために蘇る。夫達も妻も
「その時、彼女は誰の妻になりますか?」
会話を理解しようと頭を悩ませ目を白黒させる粉川の前、コーパスクリスティーは感想をどうぞと笑い
『こんごう』は顎に手をあてたまま粉川を見つめていた
二人には答えがわかっている様子に粉川は一人で焦っていた。まるで小学生が新しい数式の入った数学に目を回すように、今日まで聞いてきた事とは違う世界観に戸惑っていた
捕捉は何もないが、当時の民族が一族の血を残すために迎え入れた女を妻とし、不慮の死により夫なくした彼女を子孫繁栄の子を得るために次々に妻として娶るというのは、時代の差があるとはいえ倫理的に言ってどうなのかという問題
ましてや一族の血のために、血のつながる兄弟で妻を分けると言う行為には抵抗があった
額を何度か叩くと、ごく普通の考え方を答えを間違いだろうと予想しながらも答えた
「最初の方だと、お互いが相思相愛であるならば、そう思うのですが」
「この頃の男女間に「相思相愛」というものを育む時間は結ばれて以降にしかありません。その証拠となるのが「子」ですから」
民族の中身を知るのは難しい事だ
粉川は軽い混乱で頭を掻いて俯いた、その姿に『こんごう』が軽く肩を叩いて
「民族という枠にはめるからわからなくなる。これは私達の事を例えとして話しているという事だ。さっきも話しただろ」
『こんごう』は二人の間に入ると
「私達は産まれたときには成体だ、その形で人と出会う。私のような護衛艦でさえ出会う人は千差万別の世界で、漁船や客船などはもっと多くの人との関わりを持って生きる。私達は常に人と共にいる、私達を駆る者達の連れ合いだ。その中から一人夫を選べるか?そう聞いているんだ?」
自分に、写身である船に乗る者達の全ての妻という魂
護衛艦『こんごう』で言うならば乗り合わせる隊員達の数は300人、全てに愛を持っているのだから一人を夫という形には選ばないと尖った目は告げていたが、粉川はすぐには頷かなかった
人の生活にある与える愛は大きい、だけどそれが己の身体を与える事にまで適用されるのは人には考えられない事で、理解を働かせるのは大変な作業だった
同じ世界にいるのに、違う感覚
言われてもなかなかわからないという傾げた首の前
「そうですね、私達は来る人を選ばない。それは私達と人の間に流れている使命が変わらないから。民族・一族の血脈という言葉に表されているものは、変えられない使命を意味していると思って頂きたい」
「つまりな、使命を挟んで私達は共同作業者であるという事だ。私達と人は使命という名のengageしているという事だ」
胸元に十字を飾った使徒は、早くに答えを明かしてしまった『こんごう』の顔を見ると、小さく息をついた。もう少し会話を楽しみたいと考えていた彼女の前でせっかち『こんごう』の回答は少しおもしろさを欠いていたと感じた様子で目を細める
一方押されるように答えを聞き続けた粉川も少しずつ理解を働かせていた
産まれとともに与えられた使命、船の用途を中心に人との絆を結ぶ魂達のありかたは、船という単体を考えれば確かにと思える話だった
だが、やはり躓いていた。それでも1対300という愛の配分は肉的に考えたくないもので、短絡的に引っかかっていた
灰鉄の瞳を持つ使徒はそんな思案で曇った目の粉川の心内が見えているという顔で話を続けた
「もう一つ、私達軍属の船の中でも特に日本海軍(海上自衛隊)は馴染みがないでしょうが、代替えによって売却される艦艇を見て貴方は不貞だと言いますか?」
「いいえ、そんなふうに考えた事はありません」
見透かされたという焦りで即答の返事をした顔に
「客船や貨物船の世界ではもっと多くある事です。売却により船主がかわる事は。でも使命が変わらなければ私達が人と向きあう態度は変わることはありません。人もその事はよく知っているハズです」
護衛艦には売却がない、第二の人生はなく国防の任をとかれれば後は実艦標的として最後の奉仕をするか、解体という有るべき死を迎えるかだが、合衆国海軍通常動力の巡洋艦などの多くは売却によって太平洋の同盟国諸国家に移り第2の主を得て働く
それを不貞だとは言えない
七人の夫を持った妻、七たび国を変え働く船と考えれば不貞など口が裂けても言えない言葉
粉川は首を振って
「まったくです次の船主の手に渡ったからと言って、それで貴女達が不貞をはたらいているなんて、とんでもない考えです」
変わらない使命というengageを真ん中に彼女達は同じように奉仕をする
どこに行っても、客船ならば客船として働き、貨物船ならばその用途に従って主と共に海を行く
「理解して頂けて良かったです。私達は誕生と同時に与えられた使命に則していれば何処にいても同じように奉仕をします。それが私達の艦生なのですから」
少しずつ理解を働かせる粉川の前、コーパスクリスティーは静かな笑みのまま聖句の続きを話した
「さて、続きですがこの話について主はサドカイの者達にこう返事されます。「事物の体制*4の子達は」娶ったり嫁いだりしますが、死人の中から復活を得る者にそれはない」と」
民族や宗教の観点をやぶり、自分たち魂に置き換えてみればという『こんごう』の言葉で話の整理の付け方がわかってきた粉川には、コーパスクリスティーが言った言葉と合致するものを見つけるのは容易だった
今度は俯くことも額を抑える事もなく頷いた
「それ故我らは誕生と共に入水する」
死からの復活をする者、海に身を投げて夫を救う道を作った妻…その末裔達
神話を語った三笠の言葉と、聖典を元に自分達のポジションを知らせたコーパスクリスティー
水面下の繋がりに粉川はなるほどと顎をさすると
「僕たち人の世界が事物の体制…というのですか」
軽い笑み
「本当はそういう意味ではありませんがココではそうですね、事実私達の世界では娶ったり嫁いだりを行ったりはしませんから」
生きるために相手を持ち、子を作り生活をしてゆく人と
生きるための相方を使命というengageで結んだ向こう側の花嫁達
まだ見えない論点の紐を解こうと、何度も自分に頷き背中を丸める粉川の姿に
「足りない頭で難しく考えるな」
まったく変わることのない高圧的な顎、謎に埋没しようとする相手の心に鉄の杭でも叩き込むように会話をぶった切ってしまった瞳の相方『こんごう』は手を広げると、めずらしくご機嫌な顔で夜空を仰いだ
「人のように対一人を愛の器とはしないのが私達だ。私達は常に海を行く全ての者達の受けいれる。お前が心配しなくてもそういうふうにな生きてきている」
「理解しようとしてるのに…なんか、そんな突き放しかたって」
『こんごう』の横槍は人が悩もうが悩むまいが、確かに船は人の生活と共にいるものであるという事を示しているが、理解を深めようという事からは外れてしまったような声に
粉川は一気に進められた会話の中に留まれず、流されたと抗議の声をあげたが
「だから!もっと簡単に見ろって言ってるんだ。私達と人は別々の空間を保っているが、偶発的な出会いで顔を合わせなくても地球という世界を共に生きていて、共に必要であるという事だ」
自分の胸を叩き自分を納得させるような仁王立ちの『こんごう』の姿に粉川は伏せた顔で少しばかり吹き出していた
結局彼女は自分と同じ事で悩んだことがあるという事を知ったからだ
使命というエンゲージをしていると言い切っては見たが、国防のために兵器の船として産まれた彼女の中には蟠りがなかったわけではない
あったからこそ自分を戦艦金剛だと信じようとしていたという事
数多の船達の中で自分たちが人に愛されているのかという不安は、どの護衛艦にもあった
粉川はそう思えた
今日までを共に過ごした、二ヶ月足らずの間だったが護衛艦艦魂達が抱えている問題を目の当たりにしてきた
人の不始末である機密漏洩で心を痛め、共に歩むべき隊員に不信感を持っていた事
不審船事件で海保船底達から「仲間殺し」と罵られ、乗艦の士官達もまた海保の詰問を受けているという現状に自分たちの存在価値をが揺らぎそうになる心を抱え
だけどそれは彼女達だけの問題でもなかった、同じ苦しみを隊員達も背負ってきた
目の前でいきり立ち、無理にでも手を広げた『こんごう』の姿、背中にあるものに感じたのは…
だからこそ彼女が、自分たちが選ぶことなく人を愛しているという事を大きく公言する事で、この国の艦船の中でももっとも孤独な船である護衛艦達が兵器の魂であっても変わることのない愛を人にしめそうとしているように見えた
「わかったよ、わかった」
大手を広げ自分を見せる『こんごう』の姿に答えられるのは、自分の不細工な笑顔しかない
丸めていた背中を正し頭を掻くとコーパスクリスティーに答えた
「僕たち人は、魂である貴女達とマンツーマンという形で働けません、大抵の人は残念な事に貴女達を見る事ができないから」
自分の理解、答えを待つ『こんごう』を見て
「ですけど、彼女達が僕たちや多くの人を見つめていてくれる事に感謝はしています。それは自然体で共に働いているのですから、見える形でというのは難しいですけど、宣言はしています。隊員にとって自分が乗艦する護衛艦は間違いなく「オレの嫁」と、そう言ってますから」
夜の紫の空の下
なのに青空の下で風を受け海をゆくような顔は自慢げに自分の無味を親指でつくと、そのまま『こんごう』の側にもグッドと向けて
「だから君はオレの嫁!!」
「なんだそれ?」
向けられた指の前で『こんごう』の顔は困惑と共に真っ赤に染まった
突然の亭主宣言に
「お前なんか下僕で十分だ!!」
身を翻して怒鳴った
「ちょっと!!それじゃ今まで話してきた事が無駄になっちゃうでしょ!!」
難しい紐解きを頑張った粉川は、納得いかないと『こんごう』の手を引こうとするが
「さわるな!!下僕!!」
「いやいや!!僕は君の亭主!!他のみんなの妻なの僕だけ下僕はないでしょ!!」
「お前は下僕!!私が主だ!!」
真っ赤な顔と耳を隠すように、粉川の顔を見ないように懸命に身体を回す姿にコーパスクリスティーは柔らかく口元をほころばせると
「どちらでも大切な仲間である事を忘れなければよろしいのでは…触れられなくても共にいる空気のように、安らぎから生存の糧にまでなる水のように、ぬくもりから発展の力にまでなる火のように、当たり前にあるものがもっとも人に則している事を忘れないように、私達もそうである事を忘れないでくだされば、どちらが主でもかまいませんでしょう」
優しい声はそこまで言うと背を向け青い月に目を向けると小さく語った
「でも私は人を抱いたりはしませんけどね」と
粉川の耳にはしっかりと言葉は入っていたが質問は許されなかった
「さあ、良い頃合いです。参りましょうか?」
一度背を向けた身体を二人の側に戻すと、平手を横にひらき
「Bless This time*5」
神秘の瞳が深く海をたたえて、月を迎え入れる酔うに天を仰ぐと
ふざけていた『こんごう』の口調が静まり、粉川の腕を掴んだ
「さあ、今日はここまでだ」
「いえ、人も一緒にどうぞ」
引き続きの会話への誘いと喜ぶ粉川の前で『こんごう』は目を大きくしていた
「いいのか?人も一緒に行けるのですか?」
「ええ、鮮明であるかはその人の感じ方によりますが、せっかくの良い夜ですから是非にどうぞ」
慌てる『こんごう』とは対照的な導き手の前で粉川も、何が始まるのか?それに着いていっても良いのかを確かめようとした
「アメリカ海軍の皆さんに紹介とかは、まずいのかな?」
先にアイゼンハワー見たさに寄宿舎に侵入した話を思い浮かべ、遠慮しようかと隣の『こんごう』を見たが、彼女の顔は真剣に掴んだ相手を睨んでいた
「そうじゃない、「水の記憶」を辿るんだ。今日は満月で海の力が強く溢れているらしい、私が最後の日の願いとして頼んでいたんだ」
「水の記憶」
『こんごう』が先の演習で東シナ海のあの日を遡ったと話していた秘技の事に粉川の目も丸くなった
秘技に触れられるかもしれないという期待と、立ち入りを憚る彼女達の領域に
「二人ともを招待します。この海に残る記憶に触れてみて下さい、貴女達の求めるものへの道を見つける助けになるやもしれません」
『こんごう』と粉川、二人が共に道を切り開くために歩む光をコーパスクリスティーは示していた
月は高く青く輝き、満ちたる海は奇跡の到来に震えていた
カセイウラバナダイアル〜〜聖書〜〜
本来ならばここに氷川丸さんの話しが入らないといけなかったのですが、そうすると今話で使った聖書の注釈が書けなくなってしまうので次回に見送りました
そんなものが必要な人を書くなというご意見もあるでしょうが、神話や聖典の繋がりというのは人類の流れに沿って語り継がれたものですから、日本書紀だけではなく、聖書にも触れていただきたいとおもいまして、不必要と思う方は読まなくてもけっこうですよ!!
*1 サドカイ人
厳密にいえばこれは民族の名前じゃありません。聖書の時代というのはイエス・キリストの時代と考えている方が多いと思いますが、イエスの歴史を書いた部分は現代でいう「新約聖書」と呼ばれている部分です
原本の聖書からすると1/4ぐらいの箇所なんですよ、少ないでしょ
サドカイ人はそれ以前の書、「旧約聖書」と呼ばれる箇所に登場します
かのソロモン王の神官に与する一族が派生ではと言われていますが、だとすればソロモン王治世の後期に侵入した政治犯的な存在だったのではとヒボシは睨んでいます。
ソロモン王はイスラエル王国史上もっとも偉大な王とされましたが、後期の執政は荒み国民に重税を課し享楽にふけったとされ、その時の王の権力を我がものにしようと争った派閥の一つがサドカイ派でした
この一派は神官・祭司からなっていてので非常に発言権が強く、イエスの現れたローマ支配下のイスラエルでも詭弁派閥のように存在していました
当時イスラエルは、それ程ローマの支配を悪く思っていませんでしたが、やはり自分達の国であって欲しいという想いからメシア(イスラエル王)を欲していました
そこに現れた彗星のごとくの人、イエス・キリストに彼が解く、天の王国諸説に否定的で、こういう意地悪な質問をしてまわりました
ちなみにこの一派は西暦1世紀以降あまり見られなくなり自然消滅したような人達ですwww
*2 Jesus Christ
言わずと知れたキリスト教史上最大の「宣教師」
日本人はキリスト教をイエス・キリストを祀った宗教と思っている人が多いが本人が自分を祀れと言った事は一度もないw
むろん誕生日を祝せとも言わなかったし、母マリアを聖母崇拝の対象にしろとも言っていない…なのにいつの間に家族ごと祀られている人
唯一言ったのは自分の死を忘れてはならないぐらい
もっともそこにいたるまでの逸話が多すぎて、後代の訳詞達がいいとこ取りをした感は否めない(それが例のマグダネラ・マリアの話に繋がっていたりもする)
彼曰く、神の子・神の長子で別名をMichaelとされている
地上にいらっしやった理由は原罪のひな形を解除するためとの事
彼の家系をさかのぼっていくと当たり前に「アダム」に到達する
聖書では最初の人は罪を犯す前までを「perfectbody」とされていて、罪により欠損した事で死を得る体となった
その結果不完全な体のコピーとして今の人類が出来上がったとされていて、欠損のひな形の破棄・原罪のリセットが必要とされた
そのための贖いがイエス・キリストの「perfectbody」だったとされている
彼が処女マリアから産まれたとされる所以はここにある
神の指による転移懐胎であるから(だいたいこんな感じ)
しかし、現在のイエス像はそうとうにねじ曲げられているのでヒボシには笑い話のような部分も多数ある
聖書の福音書を読むにイエス・キリストは当時としては珍しいフェミニストだっとヒボシは思っている
女子供に人気の高かった神の宣教師をローマが嫌ったのは当然の帰結であったといえる
なんたってローマ皇帝は人気がないと退位させられてしまう事のあるポジションだったから
それにイエス・キリストの一派は聞くには穏健派なんだけど、弟子はけっこう武闘派で
「ゼカリス(熱心党)(諸刃党)」…この変ちょっとうろ覚えなんだけど、彼の人気にあやかってJerusalemの乗っ取りを考えていたりとローマにとって二重の意味で危険をはらんでいた
もっともイエス・キリストを裏切ったのは同胞のユダヤ人で、原因はやっぱり彼の人気の高さだった
この時代イスラエル王国は一度滅びバビロンの捕集から帰国した民で構成されていた
つまるところ理想論の王様が欲しかった
強くて、かっこよくて、自分達の上に立つ偉大な王ソロモンのような
ところがイエスにはそういう気持ちがなかった
むしろイスラエル王国が滅びた原因の一つに前序のサドカイ派や、古い形式にしがみついた者達がいて、それらを一掃しなくて神の王国はこないと説いた事が決定打となって、杭にかけられた
外典などには生活感のあるイエス像が書かれていたりするようなのだけど、現在発行の新訳(七十人訳)にはほとんどのっていない。正式にローマ国教となった時に作られたのが現在皆さんが耳にするイエス・キリストの姿であり、彼の時代の姿でない事だけが真実である
*3 復活組
黙示録の書の後半に書かれる神の王国に入る者達の事
実は生き残れる人間の数まで設定されている神の王国、ちょっと引くわ
この数字は総数144000でイスラエル十二部族の各部族から12000をだしこれによって神の王国の数としたと言われている
ところが黙示録事啓示は過激な文章表現で前序のごとく色々と添削されているのでどこまでただしいのかヒボシにはさっぱりわからない
このあたりは探求と勉強が必要だと思うのだけど、カトリックもユダヤも隠してしまってわからない。そんなに凄い事がかいてあったとするなら是非に知りたい
で、復活組の事については復活した人には嫁いだり娶ったりという行為が不必要とされるという下りがある
それでサドカイ人の質問に対してイエス・キリストは誰の妻でも夫でもなくなると答えている
だから人口が増えるという心配はなくなり144000という枠で世界を満喫する事ができるという言ったのかもしれない
しかし明らかに人間の性を否定しているようにも感じる
出産のシステムを神が作りたもうたならば(ちなみに現代科学ではどうあがいても子宮をつくる事ができない)それがある理由と、とざす理由を知りたい、課題は増える一方だ
*4 事物の体制
実はこの言葉が出現するあたりから聖書翻訳は曲がってゆく事になる
イエス・キリストが登場した頃のイスラエルの公用語は古ヘブライ語とアラム語だっと言われているが、大事な見落としがあるとすればローマの帰属により言葉失い始めていたという事
侵略されると最初に失われるのは文化風習だけどじょじょに失われるが言葉だったりする
このころローマの帰属によって商工業がなりたち、それに併せてギリシャ語をしゃべるヘブライ人(ユダヤ人)が増えたという事、彼らはヘレニストとよばれローマからの貿易で豊かさを身につけたため、これにならうヘブライ人が増えたのは言うまでもない
こうした状況の中で当然真っ先に失われたのが古ヘブライ語だった
ヘブライ語については前の話で説明したように特殊な言語で子音は文書としてあらわされるのだけど母音は書かないという仕様…当然旧訳の石版聖書は廃れてしまう、口伝だけでは物事を伝えるのに限界があるという危機感からユダヤの祭司達が中心となって旧約を訳本化した
ところがこんなに善行つんだユダヤの祭司達、この時に新訳の聖書を否定してしまった
よほどにイエス・キリストが嫌いだったんでしょうね
これが「原理主義」の一派となってしまう
ここで事物の体制の解釈がねじれる事になる
そも事物の体制という語を新訳で使っているのは日本ではおそらく
「エホバの証人」の新約聖書で
普通の書訳では「世界」またはその時の帰属地域と訳された(今はおそらく世界1つになっている)
で、原理主義はただ「世」と訳した
事物の体制というは実中途半端な言葉で本来、「臨在」とワンセットでかかれる事が多い
これ以上いくとややこしくなるので、本伝で描かれた事物の体制についてwww
コーパスクリスティーは体制の側を「人の世界」と位置づけて話しをした
事物の体制の元、人は娶ったり嫁いだりをしている。このくだりを人の世界はそうだと例えた
後につづく復活組の話しを自分達に当てはめた
死からの復活、入水から魂となる女達の形としたという事
日本人は聖書の聖句を利用する事がすきだけど、中身をしらないでつかったりする人が多いので良くアメリカの友達に笑われる
押井守のパトシリーズといい、攻殻機動隊といいたとえがうまくつかわれていない事が多い
つながる文脈からそこだけ抜き取っても…ねぇ
*5 Bless This time
簡単にいうと祝福の時、でも解釈はものすごく多い、多くつかれる
だからここでは額面通りでおねがいしますwww
そんな感じで説教臭いウラバナダイアルでした
それではまた〜〜〜