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第七十三話 吐息の夜

恋愛に高い純度を持っておられる方には不愉快な部分があります

というか

これから先そういう部分がたくさんあります


ヒボシの書く艦魂は

ただやさしく

ただ可愛く

という存在ではありません、時に狡猾に見えたり、時に愛を必要以上に欲したりします



現実の世界でも全てを一つと言い切れるものはないので、依存する領域による倫理観の差によるものもあり

それが「人」には汚らしい行為に見えても

「魂」には普通の形だったりという部分があります


恋愛の箇所に掛かる場合もあります、それを不快と感じられる方は読まれないようご注意下さい


火星明楽

『むらさめ』が『いかづち』を会場に届け、隣の図書室で粉川と話しをしていた頃

会場では『しまかぜ』が自分の席を立とうとしていた


「『こんごう』、頃合いを見計らってアイゼンハワー司令に、ご挨拶をしてね」


上座の同列で会食をしていた『しまかぜ』は『こんごう』の肩に手を置いて指示をすると妹の顔を確かめた

夕刻の頃、コーパスクリスティーと会話していた時に自分の手から離れるように歩いた『こんごう』だったが、主賓の席についた時には姉での指示をきちんと聞いていた


暖かさがある部屋の中で頬に力の入った顔のまま

尖り目の妹の眼差しに鈍った輝きはなく、先ほどは本当に彼女と顔を合わせていたのは挨拶をしただけの事だったのでわ?

『しまかぜ』は勘ぐりながらも、ともすれば青い瞳の中の八角が輝いてしまうのではと思う程真面目に自分に指示を仰ぐ妹を信じる事にした




講堂の広間に作られたパーティー会場

数はそれ程多くはないが形として女ばかりの魂達が集まり黄色い喧噪が響き渡る

もともと一階から二階への吹き抜けは天井をかなり高くとった優雅なスペースであり、大きく取られた空間によって声もよく響く

照明は裸電球より明るいが、蛍光灯が持つ味気ない白ではなく仄かな乳白色を発する簡素なシャンデリアで、夜の楽しみに一役買っている


徹底した簡素が売りでもある佐世保基地ではあるが、国際的にも同盟国も開かれた港であるが故に、パーティーはさかんである

だからこそ煉瓦倉庫の寄宿舎中央にあるロビーは開かれたスペースで、どの国の艦艇を迎えても海軍として恥ずかしくない規模を持っている


給仕として忙しく、しかし粗相無いようにきっちりとした働きをこなす下階級の魂達の中、年末行軍の会場は少しの休みに羽を伸ばしたい魂達の声で外より幾分温かい場となっていた


会場の中、全員にパーティーの流れに乗る暖気が十分に行われたのを確認した『しまかぜ』は、ほろ酔いになった頬を押さえ、与えられているもう一つの仕事に入ろうとしていた

海自の艦艇で姿の見えない者がいないかを確認したり、基地を共有する他のアメリカ艦魂との親睦を司令艦レベル以外でも深めるために会話をする事

また今週入港をしていたオーストラリア海軍のバララット、サクセスの訪問に対してのご挨拶以外の交友も必要とされていた


佐世保では『くらま』そして現在出払っているが海上自衛隊総司令艦三頭の一角である『あさかぜ』などが普段は「見回り兼懇談」をするのだが

『くらま』はアメリカのメイン艦魂達の標的とされ手一杯の状態だし、『あさかぜ』は就航記録を伸ばすのが楽しいかのように他基地にお出かけ中で先月からココにいない


そうなると必然的にこの仕事をするのは次席である『しまかぜ』に回ってくる

もちろん上二人がいても、それなりに気を遣い懇談して回っているのだが、今日は一手に引き受けなくてはならない

メインゲストにかまけ、ココにつめる同盟国からの訪問者を疎かにする事は出来ないから


「こまったわね、あんなにお酒が好きだったなんて」


細い腰に手を当てた『しまかぜ』は心から呆れていた

細めた目で騒ぎの根元達を見つめながら、首を鳴らして


一週間前パーティーはアイゼンハワー寄港に際して催したばかりで、オーストラリア海軍からの客であるバララットが来たのがつい三日前

その時も年末行軍(クリスマス月間)のパーティーも兼ねてやりましょうともちかけられ、本地の日本海軍(海自)がやらないとは言えずで大騒ぎのお迎えをして

さらに今日『こんごう』帰還に合わせたパーティー、すっかりhardDaysの様相だ


日本でも重要軍港である佐世保基地の事を考えればパーティー三昧なわけにいかない事は容易に理解できそうなもの、なぜなら決して休暇が続いているわけではないも言えば

休暇になっているのはアイゼンハワーと取り巻きの艦艇である潜水艦コーパスクリスティーとシカゴ、そしてイージス艦カーティス・ウィルバーの3人だけだ


対してこの一週間で海自の側では長崎に年次検査に出た者がいるし

大型演習が終わったからといって、まだ十一月末で小型の演習に時間を費やす艦艇もいる

毎日入れ替わりで海に出て行く護衛艦達

さらに近場の港で一般公開など催し物に出る艦艇もいる

目の回る忙しさがホスト側にある事をまるで無視したご乱行である


『しまかぜ』は頬に掛かった黒髪を耳にかき上げ軽めの溜息とゆっくりとした動作で、向こう上面『くらま』争奪杯を続けるアメリカ艦魂に会釈すると席を離れ『こんごう』の反対側に立った、指さし確認をするように不備なく事を行いなさいと二度目の釘を刺す耳うちしながらも、安心感を再確認もしていた


注意に対して真面目に自分を見る目もそうだったが、今回はホストを任せても大丈夫ではという思いを感じさる程に


普段なら無口の権化である『こんごう』を一人にしないよう注意を払ってきていたが

今回演習から帰った『こんごう』の評価はそれなりに良かった

大演習での未知の実験、修復を必要とし長崎に寄り道しなくてはならなかったという事実があったにもかかわらず

あの『くらま』をして「『こんごう』の状態は心身共に特に問題なかった」と言わしめた事に『しまかぜ』は大きな関心を持っていた

だけど、話し下手である事まで解消できたとは思えなかったため注意は多めにしていた


「『こんごう』貴女のできる方法でおもてなしをしてあげて、失礼の無いようにね」


話し下手な妹に相手との対話の術として、年上であるアイゼンハワーに今までの演習経験談をお聞きしたい。などと尋ねてみるといいと細い指が肩を押す

無理して自分から話さなくても、話しを聞くという態度は感心を得られる一つの対応だからと、後はお酒の好きな人達だからゆっくりと飲み楽しんで、と


変わらぬ親身さ加減、立ち上がりる姉の姿に確認と深く頷く『こんごう』も一つの覚悟を決めていた


大げさかも知れないが、今までは妹である『ちょうかい』が(『ちょうかい』の方が「人」的にはベースラインの関係上佐世保に置いては次期司令艦の最有力候補であるからというのもある(ちなもにこの物語の設定上の話しです))パーティーや親睦会の前面に立っていた


自分に比べて社交的で国際的儀礼にも不足のない出来すぎな妹、だけど出来すぎでいたのは甘えられないの裏返しでもあった

今回、演習後で寄った長崎で初めて自分の声に笑顔をくれた妹を見たとき、今まで自分の無位な交友関係の断絶で無理をさせていた事を良く理解したし

いつまでも妹に全てを押し付けておくわけにもいかないと気がついた


DDG、他のDD達の前に立ちDDHの司令艦を助ける者にならねばならない自分、そしていずれは日本国の五大基地どこかの司令職に就くこともあろう立場なのだから

今日のように上位各が抜けてしまった時の来訪者があれば自分も前に立つ

決意がてー振るの下で拳を固める


そういう練習を今からでも短い時間の中で確実にするためにして逝かなくてはいけない

自分の目が届くうちに経験を積ませる、それらへの手配りをするのも『しまかぜ』、良き姉の手本に見習おうと


期待に応えるように目配せする『こんごう』は

「心配ありません。お任せを」と意志の乗った輝きを見せた


鋭く冷たい印象ばかりが先行していた『こんごう』の瞳に心強い光を見つけた『しまかぜ』は笑顔でこたえると足早く、ロビーの中程で会話を楽しむ第七艦隊付け佐世保基地に詰めるアメリカ艦艇の輪の中に入っていった




「改めまして、日本国海上自衛隊イージス艦『こんごう』であります」


『しまかぜ』が上座からの退出をし、交友会の波間に消えたのを確認した『こんごう』は意を決したように立ち上がると

『くらま』争奪杯に息を巻いていたアイゼンハワーの前、背筋も正しい敬礼と挨拶をした

目の前、部下達以上に夢中の遊泳を続けていた上座の客達に

騒ぎの空気をまるで意に介さない真顔の青い目線


直立の敬礼で目の前に立った『こんごう』の姿に

『くらま』の腕に絡みつくように、雪崩を打った形で迫っていた幼獣アイゼンハワーと、普段なら部下の手前見せないであろうおかしな盃合戦をしていたエセックスだったが、さすがに真顔でびっしりと決められた敬礼の前で見苦しい姿をさらしたまま返礼するわけにもいかず

お互いの服を引く形で『こんごう』と顔を合わせていた


「『こんごう』大佐(一佐)演習の結果は私達合衆国の妖精に(艦魂)にも勇気を与えるものでしたわ。強い同盟国がいる事を再確認できた事に感激しております」


見るからに小さな合衆国有数の司令旗艦であるアイゼンハワーは、相手に会わせるようにテーブルを挟んむ側で踵を合わせて花のように輝く笑顔でキレイな挨拶をすると、踵を合わせて正しく敬礼を返した


「初めまして、アメリカ合衆国海軍第八空母打撃群司令艦ドワイト・D・アイゼンハワーです」


分度器で丸い線を引いたような愛嬌の良い眉と瞼を持つ目、青い瞳を輝かせる小さな司令艦

ウェーブの入った金色の髪を揺らし、愛らしく小首を傾げるて返礼を解除すると親愛を示す握手をと小さな手を伸ばす

争奪戦に目をぎらつかせていたアイゼンハワーだったが、締める場所での態度変換は早かったクルリと振り返ると同時に、軽快にしてさわやかに艶やかな唇に笑みの返事を披露した


素早いシフトに少しの驚きを感じながらも顔には出さないが『こんごう』はすぐに応え手を交わす


「アイゼンハワー司令、良い演習が出来たことに心から感謝しております」


若い声の返事に頷く司令艦

アイゼンハワーは見立ては『こんごう』よりずっと若く、海自に所属する艦艇ならば『なみ』姉妹の年齢を下回るような姿


どちらかといえば『きり』姉妹の『さわぎり』にも近い身の丈は原種アメリカ的には見えないぐらいだが、特徴は絵に描いたような金髪碧眼

緩いウェーブヘアはセミロングで改修したて(オーバーホール開け)の肌はくすみと無縁、見た感じの質感から柔らかいというよりセルロイドの人形だ


今までも色々な国の魂に合ってきたが、今回この司令の姿に普段とは違う興味を見た『こんごう』は目を動かし、さりげなく探るようにアイゼンハワーを見る


艦魂の年齢は産まれた容姿から年を重ねる

アイゼンハワーのように1970年代生まれで三十年以上を勤める者はそれ相応の姿を持っているもの。艦魂は人とは時間の流れが違うかのように緩やかに年を重ねる

誕生の時、二十歳前後の容姿であるなら三十年を働けば順当な容姿として、横須賀に詰めるキティホーク大将と同じぐらいで二十八歳前後、魂としても成熟の域に入った形、『こんごう』的に言うならば『しまかぜ』のようであるハズなのに


目の前の幼獣はそういう感じはなく、ひまわりのように天真爛漫な少女にしか見えない

さらに言えば失礼な事なのだが、とても世界の海軍の名かでも一線級の艦艇を従えるアメリカ司令艦という任にあって艦隊を指揮している者の容姿とは思えない


『こんごう』はいつもは漠然と見過ごしてしまう事を、今日はより深く考えていた

同盟国として近いアメリカ海軍これまでも何人かの空母司令艦を見てきたが、横須賀のキティホーク大将ぐらいしか年に見合った容姿の人はいなかった事を思い出す


何故、合衆国海軍の原子力空母の面子は年を取らないのか?と

魂らしくもない事を考えた


自分の上司である『くらま』が二十年を越した成熟の域に入った姿を持っているのに、アイゼンハワーの幼すぎる姿に、初めて少しの違和感を持った


しかしながらそれを話題にするまでには至らなかった、そういう差違は自分たちの世界には少なからずついて回る事だし、今それを話題にしたら相手に失礼な事


「子供みたいですねアイゼンハワー司令」なんて言えるわけ無い


さて挨拶に来たは良いが話題のない『こんごう』は、自分たち魂の存在、あり方のほうに興味が働き

アイゼンハワーの前で銅像になっていた

その姿に幼い悪魔は悪戯心を宿したスカイブルーの目を輝かせ、人魚のささやきのように口火を切った


「前にAbraham Lincolnエイブラハム・リンカーンが来たときには、貴女は会えなかったそうですね」


頭の中で余分な事を考え、まるで硬直化の始まった人形みたいに自分を見つめていた相手に、軽く首を揺らして吹きそうな笑みで話しを振る

手を開いた気軽な合いの手に、通電を得たように『こんごう』は急いでこたえた


「ああっ、そうです、あの時は任務にありまして、ココにはいませんでした」


容姿とは関係なく、話しの運びなどの巧者であるアイゼンハワーは、愛嬌の良い目を笑わせながら、ゆっくりとした視線で相手の顔を見る

栗色の髪、青い目、日本にいるには少しおかしな手足の長い背伸びしたような姿

頭脳と瞳にアメリカの技術の粋を埋め込み産まれた彼女『こんごう』は自分の護衛を走るカーティス・ウィルバーの従姉妹のようなもので馴染みがあり会話もしやすい顔だった


優しい目の小さな司令艦に振られた話題を追随するよう『こんごう』は自分不在に寄港した相手の話を思い出すが…

今ひとつ、良い話題ではなかったのではと首を傾げてしまった



一昨年、現在アイゼンハワーが付けている三十五番錨地に付いたAbraham Lincolnは回る艦体の上で踊っていた、寄港において前代見物な挨拶をかましたのだ

佐世保でお出迎えをした護衛艦達は『くらま』に、他の基地では話すなと釘を刺されていたがあまりの珍事に口が緩んでしまわざる得ない出来事で海自中の艦艇に話題となった魂だった


超がつく大型艦艇である米空母、泊地としてはゼウスやフリント、アラン・シェパードなどが着けている岸壁に横付けする事もあるのだが、現在その場所に付けることはない

ここ数年、その大きさから佐世保湾内の投錨地はenterprise以来定番の場所に身を置くことになっていた


そこで起こった珍事

『こんごう』は同盟国の一級空母である司令艦がそんな事をするとは思っていなかったが、後で聞いた話は尾鰭に背鰭、何か別の生き物に進化した魚のようにも聞こえて、どこまでが本当なのかと訝しく思った程


そもそもの場所、三十五番錨地は佐世保基地からは一等遠く離れた佐世保港南側の泊地

そのまま南下すれば内湾の奥まった先に瀬川という少し寂しい漁港にあたる。制限水域のないこちらの港は釣り人にとっては絶好のポイントのようで、鯛も釣れれば、冬には煮付けにもってこいのヒラアジなどもとれる穴場で、基地水域とはいえ牧歌的な場所


とどのつまり三十五番錨地というのは佐世保基地の僻地なのだ

大型艦艇である空母がポツンと浮かぶ場所

合衆国から来た者に唯一馴染みのある近場と言えば、錨地を囲む西側にある丸崎鼻の米軍石油貯蔵地区

殺風景で寂しい所に本来なら注目の的である空母は泊まるのだ


「寂しいのはキライなのです!!」


あの日、Abraham Lincolnが随伴艦であるDDGレイク・シャンプレーンに従い入港し錨地で行った挨拶は、お立ち台の上で踊る女のようだった…と言われていた

下ろした錨を中心に潮の満ち引きでクルクルと回る空母、その飛行甲板で金のストレートサラサラヘアを振り乱し手を上げて踊った魂


「錨地で大変熱烈な挨拶をされたと聞き及んでおります」


聞くばかりで見ていない話しだが

話題を振られたのに応えない訳にもいかない、少しは考えた答えをと苦しみ紛れで背を伸ばし、目を天井に向けた『こんごう』は

「とにかくすごかった」という話しに当たり障りのない返事をした


緊張した顔で、ひっかかりない受け答えをした若い魂の前、アイゼンハワーは口を横に大きく開く笑い顔を見せると


「踊ってたでしょ、あの子」

意地悪そうな青い目が重ねて聞く

「そうなんですか?あいにく居合わせることができませんでして…後でお話に聞く程度で…」

「踊ってましたよね!!」

アイゼンハワーは自分の後ろにつけるエセックスに聞いたが、エセックスは機嫌の悪い顰めた眉を前髪で隠すように顔を俯かせると


「どうもすいません生憎、私もおりませんでして…いたらあんな事やらせなかったのに…」


不手際を責められたと受け取っていた

得点争いの間にその話題はないでしょ?と同席のジュノーはうっすら酒に色づいた頬をふくらませて見せる


『こんごう』はチラリと『くらま』の顔を見た

不用意な発言は厳禁、言わなくても顔に目に危険信号として浮かぶほど張りつめた表情に息を呑む、短髪のオールバック、こめかみに過敏な神経線がひた走る『くらま』

この話しには続きがあったからだ


寂しいのはイヤと女子高生のような容姿の金髪ヤンキー、踊り狂うLincolnの元に海自佐世保基地DDG司令職であった『あさかぜ』が飛ぶと、『くらま』の制止も何のそので二人揃って踊ったという…信じられないエピソードが


当然後で聞いた『こんごう』は口を閉ざしていた

上官、それも現在海上自衛隊艦艇では総司令として頂点の魂である『たちかぜ』司令の直妹である『あさかぜ』海将がそんな事をするなんて考えられなかったから

普段はボーイッシュという年齢ではなくなったがハイミスに似合う短く纏めた黒髪の魂

背も170センチ中ぐらいでスレンダー系、見立ても悪くない二重の目を持ち、誰の目からも出来る魂、司令艦なのに?と


ただ実際の『あさかぜ』は容姿の良さとは別に、日頃から規律に対して緩い艦魂であり、司令とはいえどこか間の抜けたところのある魂で知られてはいた


禁句と目で会話する海自の二人を尻目に、アイゼンハワーは上機嫌にオーバーな身振りで緩いカールの髪を振ると


「日本海軍(海自)の方も踊ってたんですよね!!」

聞かれる事を恐れていた事を聞いた

口の中に否定の勢いを押しとどめた『くらま』は少しずつ呼吸を整えるように


「はは…その節は大変見苦しい事を…」


さしもの『くらま』も同席の海将を頭ごなしに怒鳴る事は出来なかったという珍事件

顔には微塵も焦りはでていないが、首筋には焦りのマグマが湧いている

この姿を見れば、いくら堅物の『こんごう』でも事件が本当の事だったとわかる

緊迫の間合いにいる海自の二人とは別に、無理矢理にでもテンションを上げたアイゼンハワーは満面の笑みで本論に入った


「見苦しいなんて、とんでもないですわ!!私達はステイツ(本国・アメリカ)から長旅をしてココに寄らせて頂きますでしょ!なのにお泊まりの場所はあんな寂しい場所ですもの〜〜〜、一緒に踊ってくださった『あさかぜ』司令の事を聞いた時には感激もひとしおでしたわ!!」


自分ペースをがっちり掴んだアイゼンハワーは擦り寄るように『くらま』の手を引くと

しおらしく、酒の力を最大限に使った頬を赤く染めてピンクの唇を尖らせた


「だからもっと派手に触れ合えると、長旅をしてきた甲斐もあると言うものです」


「派手?」

蛇がごとく腰をくねらせ巧く話題を合わせて羽目を外ずそうと誘う発言に、『こんごう』は一瞬目を見開いき頭の中で考え込み『くらま』はやられたと目が泳ぐ


要はどうしたって羽目を外したいのだ

アイゼンハワーは、Lincolnが自艦甲板で踊り狂ったと聞いたとき、自己ピーアールで勝利したのだと確信し羨ましいと思い戦術の一つとして取り入れるべきと感じていた


しかし、状況は芳しくなかった

あの時、Lincolnの起こした騒ぎに同乗してくれた『あさかぜ』が今回ココにはおらず、逆に恋路の敵対者であるエセックスが居続けという圧倒的に不利な状態の中にあって一日も無駄にすることなく『くらま』を狙わなくてはいけない


だから『あさかぜ』の話題をだして自分たちにも派手なイベントが欲しいとどうやって押そうかと考えていた

そこに不器用『こんごう』が挨拶としてやってきた、これを巧く利用する手はないと作戦実行に踏み切った


押しても引いても微動だにせず自分をかわし続ける『くらま』の毅然とした姿には、若すぎる歯止めのきかない魂をぶつけるのが一番と考えたのだ


何せあの未知の演習を突っ走りきった魂だ

自分が遠路はるばるやってきて演習という苦楽を共にし、なのに寂しい錨地にいる

もっと親睦を深める派手なふれあいを望んでいると聞けば、がむしゃらなテンションで道を開いてくれると、策を弄した


「遠い海を渡って出会えた奇跡の出会いなんですよ。私、なのに寂しいんですよ、あの錨地で限られた日々を過ごすのは、だ・か・ら心に残るイベントが欲しいんです」


片方で『こんごう』の心をプッシュする悲しげな目を見せつつ、ここぞとばかりに『くらま』の胸に絡みつく司令艦の指は真ん前のテーブルにのの字を書いている



『くらま』は目眩の嵐、逃げ場が断崖と化した前、アイゼンハワー期待の桃色吐息の夜に直行便かと泡を食った時、『こんごう』は目覚めた

アメリカからやってきた司令艦が、心に残る日本での日々が欲しいという願いを叶えられると、渦中になった『くらま』とアイゼンハワー、上官の不正規作戦行動に制止と飛び出しそうなエセックスの前に雄々しく進むと


「お任せ下さい!!一つでも派手な思い出作り、お手伝いさせて頂きます!!」


渦巻く各人の欲望の渦に鉄砲玉は飛び込んだ

声も高く目を見開き、テーブルにめり込むほどの勢いで琥珀の力水をたたえるbourbonバーボンを置いて


「呑みましょう!!」


アイゼンハワーの振ったサイコロは思わぬ方向に転る、しかし必然の作戦失敗でもあった

それは『こんごう』の不器用さ加減を見誤っていた事と、本来ならマナーの厳しい食事会を自分たちで盃合戦として破綻させていた事で

『こんごう』の提案条件は見事にマッチしてしまった


「いや、あの…」


アイゼンハワーの服を掴んでいたエセックスはジョークとアメリカ特有の振りでかわそうと、酒瓶を持つ若き奇人に目を向けるが

口を鉄の棒で括ったかのように真っ直ぐに結び、前しか見えない競走馬の視線は深く頭を下げ

正しくお辞儀すると


「不肖私『こんごう』が出来ることはただ一つしかありませんが、皆様が大好きな乾杯合戦、心ゆくまで存分にお手伝い致します!!どうぞ!!」


かがみ込んだ背から、両腕いっぱいの酒瓶を積み重ねると

自分の振った賽の目に、目を点にしたアイゼンハワーの前、幅広のカットグラスを用意

アメリカ海軍上座の司令艦達分を並べて

断ることなくストレートを注ぎ込んだ


「どうしてこうなったの?」


呆然の進展の中、するりと『くらま』から放されアイゼンハワーは自分の服を掴んだまま固まった笑顔のエセックスに金の髪を頭と連動左右に振りながら聞いた


「貴女が振ったんじゃないですか」

背中を反らせ、力の入った顎でエセックスは切り返したが、アイゼンハワーは「えっ?」と額に手を当てて

「私そんな事言った?」


「そう解釈したのでは?」

エセックスより後ろで事の成り行きを見ていたジュノーは茶色の長い髪を指でクルクルとこね回しながら、自分は関係ないと言わんばかりに『こんごう』から顔を背けて

「呑むの?」と自分より前の司令艦達に聞いた


「呑みましょう!!」


返事は上座の誰からも返らず、青い目の中に本気の八角を輝かせる『こんごう』がジュノーにグラスを渡した


「私もなの…」

この並びの中では唯一赤毛のジュノー、かすかにのこるそばかすの顔が横並びのアイゼンハワーとエセックスを見る

何とも言えない沈黙の間、『こんごう』はグラスの海に静かな波でも走れば溢れてしまう程に注いだWild Turkeyを高く掲げ


「乾杯!!!」


底なしの滝に放り込むように一気に飲み干す、鼻から煙りが出ても不思議じゃない急なアルコール度の中、さらに注ぐと

目の前で引きつった笑いを見せるアメリカ艦魂三人衆に目でどうぞと押した


『こんごう』は『くらま』籠絡のために続けていた盃合戦を見るに彼女達が望む派手な思い出を本気で、お酒を呑み続ける事だと勘違いしていた

ならばせ徹底的に呑む事に付き合うのが礼儀だと自信満々の顔に輝く八角の瞳


「勝負ね」


固まった三人の中、怒濤のテンションに乗ったのはやはりアイゼンハワーだった

転んだサイコロが出した目さえ自分の運気の側に引き寄せようとするように拳を高く挙げ

立ち上がると愛嬌の良い丸い目に闘志を燃やした顔でエセックスとジュノーに向いた


「この戦いに勝ったら日本滞在最後の日までの優先的に『くらま』様を頂くわ!!」


『こんごう』には聞こえないように脳内に走る声だが、チャンスに向かって一直線の瞳には声以上の意志が電撃のごとく突っ走る


「何言ってるんですか!!私は明後日から沖縄行くんですよ!!私にチャンスがあったっていいじゃないですか!!」

顎の方からアイゼンハワーを刺し睨むエセックスは歯を食いしばった返事をするが


「あらあら、米軍佐世保基地に居続けの長なのに、今まで戦果の無かった人が自分の都合を振りかざさないでくださいよ!!」

腹をくくったジュノーは勝負とは無関係に涼しい眼差しで言う

待てば明後日には脱落のエセックスという条件下で、さらなる拡大のチャンスが自分にもありと見るや平常心に似せた目を、ゆっくりと輝かせて


「呑み勝てば、階級に関係なく優先権を頂けるんですよね」とアイゼンハワーに向けて翠の目で返事した

アイゼンハワーがココを去った後、エセックスが戻ってくる間に『くらま』との間に誰よりも一歩リードの愛の架け橋を作れるのならばと息を巻く


こうなればやった者勝ち


譲れない戦いと化した盃合戦、アメリカ司令艦達がお互いの欲得をぶつけ合う間にも『こんごう』は二杯目をカラにして、気合いの号令をした


「楽しみましょう!!」

「ええっ!!是非とも!!」


欲望という名の列車は新幹線

『こんごう』の意気込みとは別に、ハードルの高く上がった『くらま』争奪杯は多くの艦魂達が見守る中デッドヒートの夜へと加速する


景品という立場ではあるが難を逃れ、騒ぎの上座を涼やかな目で見た『くらま』は戸口に控えていた小さな給仕の肩を叩いた

「酒が必要だったら惜しむことなくお出ししろ」と

一時の騒ぎで乱れた髪を手で撫で躾ると、がんばる『こんごう』の背中を見つめる


「これも強さか?」


アイゼンハワー達に押され皺になった制服を襟と共に正すと、軽めの敬礼を向こう上面にした


「私はしばらく他を回って挨拶をしよう、くれぐれも酒を切らすなよ」


言いつけに走り、封切りしていないバーボンを持ち返った給仕に「箱で持ってこい」と尖った目で念を押すし、自分は颯爽としながらも凝った肩をならしてロビーの側に歩いていった





「アホだ」


『いかづち』が『はるさめ』と会話して会場から走りさっいったのを確認してからしばらく、部屋で顔をつきあわせていた二人だったが

『むらさめ』は、いつ粉川を外に返そうかと外に考えあぐね乾いた喉のためにジュースを所望し、扉の向こうに控えさせていた給仕を呼ぼうとした矢先の珍事

いつの間にか少しだけ開いていた扉に、壁にイス事もたれかかった状態で会場を見ていた『むらさめ』は腹を抱え転びそうになりながら、扇風機の羽根のように忙しく手を動かすと粉川を呼んだ


「見ろよ!」


粉川は『むらさめ』が見ているドアの下側、かがむようにして顔を出しロビー中央で行われている呑ませ合戦を見た途端に頬をふくらませた


「何あれ?」

「笑うなよ!他のヤツに気がつかれるとめんどいから」


自分の下から見るよう指示した『むらさめ』は人がココにいる事でさらなる事件を起こすのはイヤだったが、あまりの珍事に自分が先に大笑いしてしまいそうなほど身体が愉快さ加減にむず痒く震えていた


同じように不意に艦魂達の集まるパーティー会場を目にした粉川も

見慣れた背中が反り返る勢いで酒を煽っているのに笑みがこぼれる


「すごいな、ハハ、さすが『こんごう』って感じだ」


粉川は床に手をつく形で腹を奮わす笑い、低い位置から仰ぎ見るオンステージは

他の艦魂達も釘付けの見せ物となっていた

がっちり仁王立ちにして腰に手をおく『こんごう』の姿は、湯上がりのコーヒー牛乳を煽る子供のようにも見えるのがさらに笑いを誘う中、前に並ぶ金髪艦魂には見覚えがなかった


「あれは?」

上に並ぶ『むらさめ』の顎に向かって粉川は指差して聞いた


「はっ?」


吹き零したジュースを拭いながら、トーテムポールのように扉のスキマに顔を並べていた『いかづち』は下の粉川が乗り出しそうな事にクロスを被せると


「ありゃアメリカの空母だ、こないだ『こんごう』と一緒に演習しただろ。ドワイト・D・アイゼンハワーってお偉いさんだ」

「あれが?」


上下で目を合わす二人、思わず確認しようと前に、手に力の入った粉川を蹴飛ばす

「外にでるなよ!!」指を立てて注意しながら


「これ以上騒ぎがでかくなったら困るってんだよ」とイスに座った

いくら周りの目があそこに集中しているとはいえ、自分たちを見る事のできる人の存在ほど珍しくもない、と


軽く後ろに蹴られた粉川は恨めしそうに締められたドアを見つつイスに戻って

「あれが原子力空母の艦魂なの?」と聞き返した

一瞬だったが『こんごう』の背中越しに見えた金髪は、人形とも言えるほど小さな物体だった

どちらかと言えば給仕をしている魂達とかわらない感じだったが、確かに制服の胸元には高位階級を示す派手な色紙が海苔のように張り付いていた


「あれよ、おおっあれがだよ。まったくおどろくよなぁ、アメリカの空母はみんな変なヤツばかりだぜ」


ドアを閉めたことで遠慮の無くなった笑いは足までばたつかる

そも規則厳しい修練の港佐世保、だがひとたび事件が起こると大きい事でも有名だった

そして大抵その事件はアメリカの艦魂が絡んでいた


「でも、前に横須賀で会ったキティホーク大将は普通な感じの人だったけど」

テーブルを押されてこぼれそうなグラスを取り、粉川は極めて常識的だった空母の艦魂を思いだした

「おっ、キティホーク大将に会ったことあるんだ」

「うん、『しらね』さんの紹介で、一回東京に帰ったとき横須賀基地のフェスティバルでね」


苦手とする『しらね』の名前にピタリと止まった笑い、ストローを加えたまま口を尖らせた『むらさめ』だったが、とりあえず文句は返さず頭の後ろで手を組むと


「たしかにあの人だけはまともだよな、他に何人か会ったことあるけど原子力空母のひとは変なのばかりしか見たことねーしおぼえてねーな」

「そうなの?」


「おうよ」


粉川は意外と思った

横須賀であったキティホーク大将はスラリと背の高いスレンダー系、ただ痩せているというわけではなく骨格も東洋人ではあり得ないしっかりとした鎖骨のライン

軍装も肩幅の十分にとれたスーツを着て、胸から腰、そして足先に流れる隆起の激しいビーナスラインには見とれた程だった

どちらかと言えばスーパーモデルのようなボディに、磨きの掛かった白い肌、ピンクの唇と高い鼻

プラチナブロンドのショートボブに芽吹きの翠を深く忍ばせた青い瞳に、成熟した大人の女の色香をビシバシと叩きつける風のごとくに感じた


なのに今見たアイゼンハワーはまるで子供のようだし

原子力空母の魂はみんな変だと『むらさめ』は言い切る

ずいぶんと格差の大きい魂だと、また一つ艦魂の不思議を知った気持ちになり

手元の水を一口飲んだ



「ところで粉川、『こんごう』とはヤッたのか?」


口に入った水は噴水のごとく吹き出した

グラスを持ったまま直立に、むせた粉川は目を開いた顔で


「何を?」


思わず真顔で聞き返していた

ストローを銜えたままの『むらさめ』は口元を緩いカーブに笑わせながら顔を近づけると

「エッチだよ、したんかって聞いてるんだよ」


言葉につまる粉川

何がどうしてこんな会話にやっとグラスをテーブルに下げ、一寸深く息を吸う


「そんな事するわけないでしょ、突然何言うの」

「だってさ、演習から返ってきて以来『こんごう』の吹っ切れ振りは尋常じゃねーぜ。そんだけ変わったんだからよぉ、粉川としたのかなぁって思ったんだけど」


粉川は短い髪の頭を掻きむしると

「なんで?いくらずっと一緒にいてもそんな事はしないよ。大人をからかわないで」

やましいところはなくても懸命に否定したくなるのは大人の性なのかもしれない

国家公務員と少女の交際なんて、世間的にも笑いのネタにもならない

そうでなくとも国防の盾たる仕事につく自分、そういう下の方の放しには十分注意を働かせている


「でもよぉ、あんなに変わるなんて」


『むらさめ』は口からストローを吹き飛ばすと、今回『くらま』の評価が出る前から、どこか背筋からして変わり、険しい顔と無口が売りだった『こんごう』が険しいながらも引き締まった真面目な視線を持っていた事に変化の根元を探していたと言いながら、顔をしかめた


「『こんごう』はタイプじゃないって事か…」

「『むらさめ』ちゃん、頼むよ茶化さないで。『こんごう』とは良き友達だよ」


口は悪いが姿はそれなりの美少女である『むらさめ』を前に、粉川は手を広げて振ると違うとゼスチャーする

目の前の細い指は、人差し指を空に踊らせながら狙い定めたように粉川の鼻を突くと


「じゃあ『いかづち』はどうだ」

「『むらさめ』ちゃん!!なんの話?」

「だから、アイツは料理もうまいぞ」


鼻を突かれたまま天井を仰ぐ、肩を落として大きな溜息で


「『いかづち』ちゃんなんて僕からしたら娘みたいなもんだよ」


今年三十五歳の粉川はなんで二十歳も行かないであろう女の子にからかわれるのかと肩をすくめた


「じゃあ『しまかぜ』だったらどうだ?」

そんな粉川の姿を目の前にしているのに『むらさめ』の態度は変わらず

諫めているのに続けられる問答だったが、さすがに『しまかぜ』を子供という事は出来なかった

粉川は少しくちごもり


「『しまかぜ』さんは大人だろ、恋愛の対象にはなるよ」


少し素直な答えを返した


「選ぶとはやっぱり違うな」

姉として粉川に想いを寄せる『いかづち』に脈はあるのかを聞いたつもりだったが

そこはかわされたなと、小さく舌を出した『むらさめ』は顎に手を置きながら


「護衛艦がモテないだけか?」

「いやいや」

粉川は目をつぶって首を振った

彼女達は護衛艦に産まれた事で色々な悩みを持っている、先に『むらさめ』と話した生きている意味とか、使命の重さとか、存在の根幹に関わる悩みもあれば、魂として…


「モテたいの?」

突飛な会話だと思いながら問答に付き合ってきた粉川は微妙な違和感に気がついた

それは『むらさめ』の次の言葉で確信に変わった


「やっぱり「普通に私達が見えてる人」は抱きたいとか、したいとかって感覚がないのかなぁ」


下世話な言葉の混ざった返答

つまらなそうに席を立ち、広間の騒ぎをのぞき見しようとした『むらさめ』に粉川は聞いた


「ねえ、「普通じゃない状態なら」君達が見える人がいるって事なの?」


今まで考えた事のなかった事だ

艦魂が何故見えるのか?三笠が見えた時にそれを聞いた事はなかった

その後、護衛艦の魂が見えるようにもなるだろうと教えられたときも考えた事がなかった


「いるらしいな」


素っ気ない顔と声、何事でもないような言い振りの返事は、粉川に新しい一歩を進ませる事になった

カセイウラバナダイアル〜〜倫理観〜〜


今回、『むらさめ』が結構にきわどい事を言ってます

このあたりからわかるように、艦魂の生態系は「人」の倫理観とはつながっていない部分が少しずつ顕著になってきます


なにんでそうなのか?ときかれれば

人と魂は別の世界の生き物だからです。としか答えられません


なので、恋愛にまだ若い方とかには不向きになってくるかもしれません

一つ言えるのは現実の世界でも聖母である者は、最高級の娼婦でもあるという事

そういう表裏の見方をどこで決めるかが今後の争点になるかもしれない


だけどきわどい性描写が出るわけではありませんのでご安心をwww


そしてふ今回はさらにダブル掲載!!

疲れたよぉぉぉだけど期間的にも今頑張らないと本伝とのトラフィックが難しくなるのでがんばりました!!


ではどうぞ、前話は七十一話からどうぞ


艦魂物語,魂の軌跡〜こんごう〜外伝の外伝 港の働娘




「話を整理しよう」


部屋の温度はそれ程高くない、氷川丸内部温かなアールデコ様式を持つ貼り天井の下の談話室、片隅を囲うビロードと別珍のイスで顔をつきあわせていた面子の中でも一人涼しげな態度を続けた日本丸は

「考えが煮詰まった」という思いで通路に続く窓を一つ開けた


長い髪を冷たい風の中で揺らし

頭を冷却するように左右に振る、かつて海風を帆に受けていた時のように手を広げる彼女は


「まず、氷川丸、君の思い出から行こう」


軽い口調で日本丸は振り返るてどうぞと手を向けた


「そこからが一番近いと思うんだよ」と、苦く顔を歪めた氷川丸を指差した

「私より日本丸さんのほうが、存命の二代目がいらっしゃるわけだし…繋がりをさがしやすいのでわ?」


どうしても過去を思い出したくないという気持ちが顔を曇らせる

白い額に歪みの道が現れる

長い睫毛に翠の瞳、氷川丸は日本丸の側から吹く風に髪を煽られ冷たさを唇に感じて首を振る


「うちのマーク2や群青さんに聞いたって何も出てこないよ、顔だけ似てる姉妹だもん」

「群青さん…は、わかるんですけどマーク2ってなんですか?」


こじんまりとしたテーブルに置かれたバスケットの前で、足をブラブラと揺らしたポンポンはひたすらにアメを舐めていた

その頭を撫でながら日本丸は


「群青は海王丸の事でしょ」

キョトンとした糸目の顔が、バスケットにのこるbitterchocolateの粒をつまむと

「マーク2は日本丸二世の愛称、で海王丸二世の愛称は昴なのよ」

もはや撫でるというよりはポンポンの髪わもみくちゃにして遊ぶ日本丸の返答に、氷川丸は折り目正しく着た日本郵船に制服の胸を押さえて


「前から思ってたんですけど、日本丸さんのネーミングセンスって…酷いですよね」

美しい眉の下、心苦しそうに言う氷川丸の顔の前、日本丸は糸目をかっぴらいて


「そうかな?初めて言われた」

顎を引いた驚きの顔は悪ふざけをしている子供の顔と一緒

日本丸の顔をポンポンも真似する始末の中、氷川丸はこの姉をもつ下三人の愛称(?)あだ名は酷いといつも思っていた


金唐事日本丸は復興著しかった登り調子の日本の中で若者が取り付いた音楽、フォークソングが大好きだった

特に吉田拓郎、谷村新司を愛し

中でも谷村新司の事は「群青のお禿様」と声高く崇拝していた(そういうふうに見える程のファンである)


「群青さんや、昴さんはわかりますけど、マーク2ってのはちょっと」


「だってあれは私のマーク2だもん、ねー」


日本丸二世は何とも吹こうな愛称マーク2を拝命していた

しかも一人だけ吉田拓郎側から


この酷いネーミングセンスはそのまま実はポンポン達にも付けられていた

老朽化した曳舟、あたらしく入れ替わり横浜にやってきた赤いタワーが目印の彼女達が到着するたびにあだ名を付けていった

いわゆる名付け親


手元に座っているポンポンも彼女の命名だ

グリグリと只でさえチビの彼女の背を頭のてっぺんから押しつぶす程撫でる

「ぎゃあああ!!金唐さん!!頭もえちゃうぅぅ」

マッハで手のひらを回転させ糸目の日本丸は笑う

「焦げてしまえ!!」


跳ねる人形に、容赦のない日本丸

呆れた顔で見つめる氷川丸は日本丸本人が自分に付けているあだ名についてもクエスチョンマークな程の変わり者


金唐

自分の写し身である船体艦首を飾る金の唐草文様から付けたと彼女は言う

シルクロード渡ってきた、繁栄の文様から

海を渡る自分にふさわしいとつけたあだ名だが…安直過ぎてなんとも言えない


騒がしい間の二人をよそに、氷川丸はブレンドコーヒーを用意して少なめのミルクを赤い闇に浮かぶ星のように降らした


「そんな事より思いだした氷川丸、もう一人の君の事?」



溶けて行くミルクの前、氷川丸の呼吸は止まっていた


「お姉さん…お姉さんと呼んでよろしいですか?」


昭和19年、海戦から向こう勝ち続けた海軍はもはや見る影さえも失い始めていたあの年に、氷川丸は彼女に出会った

オランダ生まれの彼女は、日本の艦艇に比べれば背も高く鼻筋もキレイに通った美しい人だった

だけど、どこか弱々しく自分を見失っていた


彼女は元々客船だった

それもオランダの名を「オプテンノール」と言ったそうだ


氷川丸と初めて会ったとき彼女は三度目の改名をされていた

日米開戦の直前にオランダは日本に対して宣戦布告をした

このころすでにオランダ海軍の病院船として働いていた彼女は破竹の勢いで太平洋を暴れる日本海軍、天津風に拿捕され、日本の横須賀に連行された

そこで改装され一度は天応丸という名前をもらうが、この名の響きが天皇に似ているという事から、わずか一年たらずで「第2氷川丸」という名に変わった


戦局につまる日本

資源の確保のためには艦隊以上により多くの輸送船団が必要とされた

そして悪化する泥沼の戦いの中、病院船も決して安全ではない時を過ごしていた

だれもが震えていた

「はるぴん丸が沈み」

「ぶえのすあいれす丸が沈み」

日本郵船の多くの仲間達が死んでいった

最後の夏が近づく中で妹の日枝丸、平安丸も返らぬ者となった


傷つき内地に戻った氷川丸にはもはや生きる気力はなかった

帰り着いた港は見回す限りの傷ついた仲間達、誰も口をきけない状態だった

自分のデッキの片隅で負傷兵が残した血糊を呆然と見つめていた氷川丸の前に彼女は現れた


「あの…子は…」


コーヒーの赤い闇に薄く白い雲と鳴ったミルクの水面

ほんの一瞬の間、忘れたかった過去は鮮明に思い出されていた


「あの子は、それまで幽霊みたいで覇気のない魂だった、それが君と出会って変わったよね」

煎りたての湯気の前、氷川丸は泣いていた

翠の瞳を隠すように伏せた睫毛に雫は枝を流れる朝露のように落ちた

声にだせない苦しみ、生き残った苦しみに


その顔にポンポンは困り果てて

「金唐さん…氷川丸さんが…」

まん丸な目がつられたように涙を溢れさせる、それを日本丸が押さえる


「ポンポン、泣いたらダメ、ちゃんと聞いていて」


「あの子は一生懸命だった」

涙で上げられない顔のまま、思い出さなければならない苦痛の作業の中へ


「申し訳ありません私ごときが、高名な氷川丸さんの名前を頂きまして」


第2氷川丸という名を頂いた彼女は身よりを無くした迷い子のようだった

拿捕され日本にやってきたという経歴から、戦時旅団の者達からは疎外されていた

普段ならば旅客だったり資源の輸送をする彼女達は、同じく客船だった者を無視したりはしないハズだったが

時がそれを許さなかった


悪化の一途の戦道いくさみち、武装もほとんど持たない輸送船は為す術無く海行く標的として沈められてゆく日々

荒む心が彼女に辛くアタリ、時として暴力を奮う者まで現れていた

彼女は行き場なくし、心を壊し始めていた

その中で挨拶に着たのだ


やらなければまた言われ無き暴力を受けるかも知れないという恐怖で


悲しいほどに窶れた顔に氷川丸は手を伸ばし抱きしめた

「そうね、貴女は私の妹だわ、それでいいわ」


たくさんの仲間、最愛の妹を失った

これ以上争いを身近に置き、心を見失ってしまいたくない

震えていた彼女を引き寄せた


「がんばりましょ、がんばって生き残って、また客船に戻ろう」


夕日のプロムで迷い子だった第2氷川丸を抱きしめた

お互い涙で


「彼女は君に会って変わった、まるでもう一人の君が誕生したかのように」


懸命に涙を堪え歯を食いしばるポンポンの隣、日本丸は本論へと話しを導いた


「彼女は「氷川丸」という名前を得て、生きる意味を取り戻し、君の半生を自分の心に取り入れた」


それはあの泥沼の戦いの中で見られた、混乱の奇跡だったのかもしれない

氷川丸と第2氷川丸

魂達の繋がりの奇跡は、思わぬ悲劇へとつながっていった

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