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第六十九話 事の突端

仮面ライダーWの仮面ライダーアクセルってのをヨウツベで見ました

加速だぁぁぁ

おへそで鳴らす暴走グリップ


ただただ爆笑でした

曳舟達が声を挙げる

菊に洋それにハーフパンツ姿の小さな彼女達の陽気なかけ声が、三菱重工長崎造船所に響き渡る


空は薄い青色、天高く澄んだ空気の下

太陽が昼を回る少しまえである1000、護衛艦『こんごう』は修復を終え佐世保に向けて出港となった

休みの間、隊員達の手により磨き上げられた艦体が本格的な冬に向かう乾いた空気の中、煌めきの太陽の光に造船所桟橋から見送る工場作業員達の目を細めさせる


久しぶりに機関に火を入れた『こんごう』の身体は桟橋から放されるとゆっくりと方向を変える

数少ないイージス護衛艦の出港を見ようと、遠く向かい側に並ぶ町から撮影をする人達の姿も少なからず見える

絶好の撮影日和ともいえる海の上で『こんごう』は『ちょうかい』としばしの別れをかわしていた


「お姉ちゃん、粉川さん、気を付けてね」


制服ではなく、青服の姿の『ちょうかい』は満面の笑顔で、硬くない柔らかな敬礼をしていた

基地勤務であればあり得ない姿だったが、目の前で自然体の笑みを見せる妹の姿に『こんごう』は注意をする事はなかった


今まで自分に似なくても良いところを習ったかのように硬い態度をとり続けていた妹、たまにしか見せなかった歳に見合った姿を今、自分の前で見せてくれている事が微笑ましく思えたからだ


名残を惜しむ笑顔の妹に手を伸ばす


「『ちょうかい』クリスマスには帰ってこられないようだが、気を落とさず」


髪を撫でる

今回、突然の『こんごう』修復作業が入った港

そのせいもあって『ちょうかい』の改修準備作業は遅れをとっていた

改修の準備が終われば本改修への計画行程がわかる

それが終われば一時的に佐世保に帰港できる予定だったが完璧にずれ込み、クリスマス返上での本改修に入ることが決定された事を『こんごう』は申し訳なく思っていた


「ううん、大丈夫。ちょっと早かったけどサンタさんはプレゼントをくれたもの」


姉の優しい手の下、『ちょうかい』は明るい声で


「お姉ちゃんと、ご飯も出来たし、お話もいっぱいできた。突然だったけど嬉しかった」

急な修復が無ければ、姉と出会えるのはもう一ヶ月は遅れていた

だが、『こんごう』の修復が入らなければ引き続きの本改修に入ることはなく、これから先半年以上仲間に会えなくなってしまう事もなかったハズ

明るく健気な切り返しをする妹の前、それを思うに『こんごう』はやはり申し訳なさそうな目で見つめる


「嬉しいの」


言葉の少ない姉の見える目の想いに『ちょうかい』は自分の髪を撫でる手を取った


「お姉ちゃんと、こんなにたくさんの時間を任務以外で過ごせた事…」


続きが巧く出ない、唇をつぐむ『ちょうかい』の想い

言ってしまったら姉はまた硬い昔の姿に戻ってしまうのではという迷い


姉は変わった気がしたのだ

今までは自分たちの為に前を切るように歩き続けた姿

背中ばかりを見せ続けてきた姉は、この修復で出会った時どこか変わっていた


つまらない質問にもぶっきらぼうながら懸命に答え

実はゴキブリが大嫌いで泣くほどだったところを見せ

なによりの変化は

洋や菊たち、タグガールをまじえた宴会に文句も言わずに参加してくれた事に


いつもなら勝手知ったる仲間との宴会でさえ参加を渋る姉が、二つ返事で一緒してくれた事は大きな変化だった


それでも目の前出港への最後の時間、自分を見つめる目が優しく変わった今、後ろ向きにになってしまうような態度はと思いつづも「お姉ちゃん、変わったね」とは口に出してはいえない事でモジモジしている『ちょうかい』の前

心を汲むように『こんごう』はこたえた


「『ちょうかい』、佐世保に戻ってきたらすぐに修練走がある。だから…、それが終わったら一緒にお風呂に入ろう。なっ」


妹の手を握りかえした

なれない言葉に目を泳がせる『こんごう』だったが『ちょうかい』の願いが一つ約束された瞬間でもあった

今まで佐世保に、同じ基地に籍を置きながらも距離は誰よりも遠かった姉妹

修練走の後、何度も姉をお風呂に誘った

姉妹で背中を流す仲間達を遠目にいつも見て、羨ましいと感じていた


「ホント?」


耳を疑い聞き返してしまった妹

「ああっ、背中流してやる」


姉の手はもう一度妹の髪を撫で、『ちょうかい』は喜びにうなづき少し涙ぐんだ





「喜んでたね、『ちょうかい』ちゃん」


快晴の下、女神大橋を過ぎ佐世保への航路に乗った『こんごう』

相変わらず航海時にはやることのない粉川はグループルームにてコーヒーの支度をしながら、窓辺から向こう遠くなって行く長崎港を見つめる『こんごう』にタンブラーを見せる


「買ってきたんだ。海の上だとこういう物の方が便利でしょ」


簡易テーブルに自分の物と真新しい赤のタンブラー

波の世界に生きる彼女に、波にも負けない蓋付きのタンブラーは確かにふさわしい


「『しまかぜ』さんや『いかづち』ちゃん達のも欲しかったんだけど、一度にたくさん持ち込むのは難しいから、とりあえず『こんごう』の分からね」


慣れた手際でインスタントの補充もすませると、煎れたばかりのコーヒーを窓辺から離れない『こんごう』の元に運んでいった


内部捜査官である粉川だが出港の日、『こんごう』乗組員の一員として港で見送りをしてくれる工事関係者に手をふる事ができた

もちろん基地での「帽振れ」に参加する事は今でも許されないが、造船所の職員にならば許されるし

休みの間、隊員を引き回し艦体の掃除をし、クルー達からも一定の信任を得た粉川に対して間宮が特別に許可した出来事だった


おかげで出港してゆく『こんごう』に向かい『ちょうかい』を始め港の働き娘であるタグガール達が出揃っての見送りを最後まで見届ける事ができた


『こんごう』本人も自艦艦首にて最初に正しく敬礼を

その後は、妹が千切れんばかりに振る手に答えるように手を振り

大きな手袋のタグガール達にも挨拶し、しばらくは世話になる妹の事をよろしくと頼み、笑顔で自分を見送りを続ける全てに答え続けた

その姿を粉川は終始微笑ましく見守る事ができた




「『こんごう』、心配してる?大丈夫だよ。菊ちゃんや洋ちゃんんもいるし」


足を組み方肘で、すぎた海を見つめていたまま沈黙していた『こんごう』は粉川の言葉にテーブルの側に姿勢をかえすと

「心配はしていない、ただ…」

「ただ?」


離れた港、共に表情を曇らせた『こんごう』に粉川は勤めて陽気に話しかけた

今度の出来事で彼女に少しの変化が起こったのを実感したのは何も妹の『ちょうかい』だけではなかった

元々すました態度で、人の話などすぐに返事を返すことも少なかった『こんごう』だったが、あの演習から目覚めて以来それまで以上に本当に妹を大切にしているという態度を見える形で良く示していた


宴会などいつもなら『しまかぜ』に背中でも押されなければ参加しないような事にも文句も言わず付き合い

長崎に居続けになる妹の事を曳舟達に頼むと言葉をかわすなど、今までの姿勢からは見られない部分を多く出していたが


それでも元来の彼女の持っている雰囲気から堅さは消えておらず

『ちょうかい』との時間が終わった事でふさぎ込んでいる姿は心配にもなる

せっかく良い変化を見せた『こんごう』を引き続き良い姉で居させるのは勤めと粉川はいつもの調子を保ちつつ会話を続けようとした


「何かあるの?心配事が?」


軽い表情で、いつでも相談に乗るよと笑う

出来るだけいつものように


「いや『ちょうかい』の事は心配してない、あそこには良い仲間がいるから安心だ」


対面に座り笑顔を見せる粉川にタンブラーを受け取った『こんごう』は口を付けようかと一度迷った仕草をみせたが、静かにおろし

覚めた眼差しでおもむろに口を開いた


「粉川、お前聞きたい事がある」


ブラックを飲めない粉川は瓶詰めのクリームを取り出したところで、尖る視線に少し戯けた返事をした


「何かな?例の事は言わないよ。誓って」

「例の事じゃない!!」


例の事

護衛艦の大掃除にてゴキブリ駆除をした時に起こった事件

まさか、護衛艦隊切っての強面である『こんごう』がゴキブリ程度を恐れ涙するとは考えもよらぬ珍事だった

本人も自分の事を良く知っているのか、それはとても恥ずかしい姿だったようで

今後誰にも言わないようにと厳重な約束を粉川にさせていたが


粉川にしてみたらずいぶんと可愛らしい出来事だったため、つい顔も緩むが緩ませ続けて余計な一言を発したら頬が無くなるダメージを負いかねない事も良く承知しているため

いきり立つ『こんごう』に冗談と手を広げて見せた


「とにかく、その事じゃない」


粉川の余裕の前、『こんごう』もどこか落ち着いた反応を見せた

前なら怒り任せに話しの腰をへし折る鉄拳制裁を加えたあげく、むくれ顔をさらしたまま聞く耳持たぬの一辺倒になっていたであろう彼女だが今日は違った

立ち上がった自分を律するようにイスに戻し、気恥ずかしそうに咳払いをすると


「粉川、おまえはいつから艦魂が見えるようになったんだ」


改め落ち着いたトーンは、粉川にとってもっとも聞かれたくない質問をした


「いつから…」


不意の質問に驚くが、直前の問答からの切り返しで体制が整っていなかったのは『こんごう』の側でもある

恥ずかしそうにコーヒーに口をつけると、質問に少し動いた相手の眉を見ながら矢継ぎ早に聞いた


「まあ、見える事はわかってるからいい、それより粉川は戦艦三笠の魂を見たことがあるか?」


艦魂が見えるのは何故という質問もかなりしんどい事で『いかづち』に聞かれたような「妖怪説」などで巧く切り抜けようと思っていた矢先、確信を突く新たな質問に思わず顔に何かが出てしまいそうになったのを隠すために粉川は舌をだした

コーヒー熱いとのゼスチャーをしながら、今まで以上の言い訳を作るため瞬時に色々と考えた

沈黙を守る約束の相手である「三笠」を隠すため返せる答えは多くないが、慌てず大人らしく不可思議という顔をつくりながら別の切り口で聞き返した


「『こんごう』こそ、見たことないの?同じ艦魂なのに?」と


相手の微妙な動きから離れない尖り目は当然聞き返されるであろう言葉に対し、よどみなく自分がこれからしなくてはいけない事の突端をひらいた


「私達は、海自の護衛艦の魂は、誰一人として三笠様に会ったことがない」


自分の聞いた限りではと釘を刺しつつ続けた話は

『しまかぜ』が粉川の送別会で語った事そのものだった


現在を生きる国防の盾である彼女達は、かつてこの国の難事に立ち向かった戦艦である三笠に会ったことがない

日章旗を掲げ、海からほんの少し切り離されたところに記念艦として生きる彼女だが

生きているからこそ、魂の彼女達である海自の艦魂達はそこに足を置くことが出来るという事実の前で、なお姿を見せることのない者


元帥三笠


一通りの話しをした『こんごう』は黙って聞き続けた粉川に自分の決意を告げた


「私は会ってみようと思っている」


今まで魂の仲間の誰も会えなかった存在に、きつく結んだ唇は強い意志を見せる

発言に驚く粉川は


「でも、今まで誰も会ったことがないんでしょ」

「だから、お前に協力して欲しいんだ」


さらなる唐突な申し出に戸惑い隠せないと粉川は首を振り少し考えてから、今『こんごう』が話した事を以前に『しまかぜ』から聞いたという事実を告げた

真剣な目である『こんごう』の前『しまかぜ』から聞いた話までを知らぬとは言えないと感じたからだ


「ずっと願っている『しまかぜ』さんでも会えなかったのに、ぼくが居る程度で会えるとは思えないけど?どうやって?」


相手をさぐる発言

艦魂達が各々で三笠との接点を求めているのならばそれを知っておくのも、三笠の願いを叶える一つの乗法と粉川は考えた

そんな粉川の前『こんごう』は思い出したように首を傾げた


「確かに今まで誰も会ったことはないと聞いている…いや、一人だけ会ったことのある人がいる」


返されたこたえは粉川にとって思わぬ発言だった

突然の申し出の中にも少しの余裕を見せていた顔に、本気の焦りか背筋にまで衝撃を受けたように固まる


粉川は三笠との会話で「会いに来た者はいる」「だが見えなかった」とだけ聞かされ、実質面前と向かって会話をした事がある者の存在など初めて知る事だった


「会ったことって?」

唇に少しの震え、隠すように押さえながら


「聞くに、会話をした事もある人らしいのだが…」


三笠と会い話をした事のある艦魂がいる?

いよいよ本格的な焦りが顔に表れてしまった粉川は、表情を隠すために眉間を押さえるふりをした

その下で自分に今まで知らされてきたことをフル回転で遡る


誰にも見えない途切れた絆の下、孤独を歩み続けてきたハズの三笠が現役の護衛艦と会ったことがあるという事。廻る記憶の中にもなかった出来事に対する言葉がなかったのは当然の反応で、声は濁ったまま


「だれが、会ったの?」


取り繕いながら質問をし遡るように自分の記憶を漁るが何度もの三笠との会話を思い出すのは、「誰とも会えなかった」という言葉だけ、呆然とした目を両手で隠しながら額を叩く

本気でどういう事かと首を傾げながらさらに聞き返した


面前の粉川の焦燥に気を遣ったのか『こんごう』の声も問い詰めるという感じではない


「舞鶴の『はるな』司令だそうだ。マリアがそう言っていた」

「マリア?って誰?」


飛躍する話しにさらなる困惑、顔を見せないのが精一杯の配慮になってきた粉川は、自分が三笠の前にいた時にはなかった出来事が、あったのかもしれないという結論をようやく引き出していた


人より長く生き続けてきた彼女は、自分より多くの何かに出会っていたかもしれないと

それでも、自分にそれを言わないなどあるのか?という疑心


思案のために頭を抱えている粉川の前

ある意味混乱はもっともな事としていた『こんごう』は、自分にかけられた想いを胸に抱くように手をあてて海に視線を向ける

長崎から離れ、島々の間を縫うように青いラインを繋げる海、その向こうに先週演習してきた東シナ海があり


そこで死んだ姉達がいる

その姉達の願いは


「私達の魂を探して」決意を宿したキツイ目線は、しばし見つめた海より顔を戻すと前に座る粉川に、募り続け考え抜いた話を始めた



「粉川、私はこないだの演習の時、あの海で死んだ姉達に会った」



追いつけないほど飛躍して行く話、しかも今はいない帝国海軍の艦艇に出会ったなどどういう事か取り付きようもない事態だが『こんごう』が冗談や茶化した物事を語るタイプに決して見えないし、指の間から追う彼女の顔の真剣さから下手な二の句も言えない粉川は、苦しそうに聞いた


「姉さん達って…」

零した粉川の声に真顔の魂は続けた


「あの日、演習中に私は気を失った先で「水の記憶」というものを辿った」


あの日…

実験演習による電子戦の中『こんごう』は倒れた

文字道理憤死の様相で倒れた時に意識が飛び、そこに引き込まれた事をゆっくりと思いだすように記憶を辿った順に語っていった

波の音だけが響く部屋の中、粉川は何も言わず初めて知る世界の話を懸命に聞き続けた


演習の海で『こんごう』が味わった水の記憶による世界は、普通の人ならば夢見事程度にあしらわれそうな事だったが、粉川は艦魂達の持つ世界観をそれなりに知ることのできた長崎での思いに照らし合わせながら、知識を働かせて堪えて冷静に聞き続けていたが


坊ノ岬を戦った最後の連合艦隊、戦艦大和を始めとする帝国海軍の魂達が願った言葉を聞くに至って

いつもの余裕は無くなっていた、鮮やかな空に反比例するように暗く沈んだ声で


「心は三笠のところ?」


鍵となるであろう言葉を聞き返した


「そうだ、心は三笠様のところに預けたと姉さん達は言っていた。私はそれがどういう意味なのか、真実を知り姉達の魂を見つけ出したいと考えている」


よもやこんな形で聞くことになるとは思わなかった母親代わりの人の名に

粉川の心に動揺の波は高く渦巻いた


いつもとは逆転している二人

多くを語らない、仏頂面をさらしていた今までの『こんごう』はココにはいない

真剣に、あの海で得た知識に乗っ取り、今までどの護衛艦も達する事のできなかった真実に近づこうとする姿が、誰の目にもわかるような明らかな変化につながっていた


逆に、事の重大さと信じる者への不信の種を得た粉川の表情は暗かった

三笠の言う事を信じてきた少年だった。なのに今心の中に、三笠が語らなかった真実があるのではという事に気がつかされて


「粉川!!力を貸してくれ!お前は艦魂の見える唯一の人かも知れない。だからこそ三笠様に一緒に会いに行って欲しいんだ」


絡まる考えで茫然自失の顔を下げたままの粉川の肩を『こんごう』が強く掴む

「待ってくれ、もう少し話しを順序立てて詰めないか?突然すぎてついて行けない」


らしくない切り返しをした

三笠が自分に何かを隠しているなど考えられないという疑惑に『こんごう』の話す言葉への理解力が低下している事を自覚したからだ

手を振り、自分の頭脳に掛かった靄を払うように


相手の混乱を顔色で察した『こんごう』は肩から手を放すと質問はもっともな事と頷きイスに座った

「何から知りたい?」

「その、マリアってのは何者?」


間のない会話、なんとか取り繕うような粉川は最初に出た『はるな』の名に関わる不明の名についての説明を求めた


「マリアは今回の演習に参加していたアメリか合衆国海軍の原子力潜水艦コーパスクリスティーの艦魂の事で、マリアという名は愛称だ」


初めて聞く海外の艦魂の名


「なんで海外の艦魂が『はるな』さんや三笠の事を知ってるのかな?」

「彼女は私よりずっと前から生きているし、『はるな』司令ともどこかで会った事があるのだろうと思う」


粉川の質問に一方の『こんごう』も思い出し思い出しのたどたどしい返事だった

思い立ったら吉日で話しを始めてしまい、まだ纏め切れていなかったのだ


「『こんごう』は『はるな』さんに会ったことは?」

「ある、DDHの司令艦には演習があればどこかで必ず会うからな」

「その時に戦艦三笠の話はしたの?」


当然の質問だったが『こんごう』の眉がさがり曇った

『はるな』が三笠と会っていたというのはマリアから初めて聞かされた事だった

だけど、司令艦である『はるな』には所属基地は違えども今まででも数十回は顔を合わせている

なのに三笠と話をした事など一度も言わなかった

考えたくない無言の理由にDDGとDDHの隔絶があるとするなら、この道は険しいと気がついたからだ


「いや、してない。というか聞かされなかった」


重い舌が、自分の中にもまだ理解の及ばぬ物がある事を探し当てる

見つめる粉川に、不確定な申し出を訝しがられていると勘違いしてしまうほどに

だからこそ声を大にした、前に進もうという想いは止められないところまで来ていた


「細かいことは追々話す、とにかく力になってくれ。人の力が必要だと私は思うんだ」


強い意志の背中を押している者は、亡き姉達への想いであり

今まで自分が無位にしてきた物

さらにそれに届かなかった今までの護衛艦達


『こんごう』は本気の瞳で頼んでいた


一方で、三笠を疑った事のない粉川には踏み込む事を恐れる領域への懇願だった

『こんごう』の話しだけでは何が真実かもワカラナイし彼女の見聞きした水の記憶が正しいとも言い切れない


迷いが簡単に返事をさせない

粉川の浮かない顔に『こんごう』は、自分たちの中にもこの事にアプローチを続けてきた者がいる事を告げた

先に粉川が話した『しまかぜ』のも長年探している一人であり

曖昧ながらも、見えぬ絆に対してそれぞれが自分の出来る方法で探求しているという事を

そして今まで見つけられなかったのは「人」との関わりが欠けていたからではないか?という事を


深く護衛艦艦魂達の前に残っている絆への想いというものを熱く語った


「姉さんは(『しまかぜ』)はずっと「魂の引き継ぎ」というものを探していた。だけど具体的に何かが見つかったという事はなかった。私のしようとしている事がそれとどう関わってくるのかも今は解らない。だけど私は私の得た知識でこの国を護った姉達の魂を探し出しその意志を完遂したいと考えている」


もう一度掴まれた肩に並々ならぬ力を感じた粉川は大人らしく冷静に振る舞った


「わかったよ、来年横須賀に立ち寄ったときに一緒に行こう」


前に向かおうとする『こんごう』の姿に同意を示した

だが一つの釘を刺す事も忘れなかった

聞かされた事は粉川にとって、少年期の思いまでを揺るがす大変な事件だった


自分の友、それ以上に母として慕ってきた三笠が、自分には言わなかった事があるという話

だからこそ、秘密裏に真実を知りたいという心は、形を変えて向かい合う『こんごう』に約束して欲しいと頼んだ


「まだ全てが確定された事じゃないから、だからこの事の真実が確実に見えたときにみんな知らすという方向で行きたい」


粉川の提案と約束に『こんごう』は「わかった」と簡潔ながらもしっかりとした返事をした

『こんごう』にしてみれば遅まきの絆への探求は大手を振ってみんなに言えることとしてはまだ情報不十分である事でもあったし


『しまかぜ』の想い『あまつかぜ』への気持ちは近くで自分を励ましてくれた姿を考えれば半端なものでない事を知るのは容易な事だった

「今の自分を作ってくれたのは『あまつかぜ』姉さんなの」とそう言って憚らない『しまかぜ』を思えば


水の記憶を辿った程度で得た知識で

今更自分も『あまつかぜ』の日記に関わりたいなど安直な気持ちでは言えない

粉川の提案に『こんごう』は自分の方法でのアプローチへと歩を進める覚悟を決めて頷いた


「わかった。真実がわかるまで二人で探していこう」


前進に力強く覚悟を決めた『こんごう』だが、粉川は戸惑いと混乱の中で歩を進めるという形になった

緩い波の間、斜陽の光をテラスに受けた部屋の中。佐世保に向かう『こんごう』にてベクトルの違う嵐が二人の心に舞い降りた時だった





「『い・か・づ・ちぃぃぃ』」


午後の日差しの下、夕刻には港に入る『こんごう』の迎えのためチラホラと立神の桟橋に集まり始めた艦魂達

桟橋の遠目に見る側、煉瓦倉庫の木陰で一人蹲っていた『いかづち』の背中に巨大な脂肪の塊を二つをぶつけてきたのは、姉の『はるさめ』だった


制服も黒の冬服に替わった二人

『はるさめ』は押されて潰れて行く妹にくすぐりをいれるという念の入ったイタズラぶりで声を挙げるが『いかづち』の反応はまるでない

暖簾に身体事押しの状態だ


いつもならココで「『はる』ねーはん重いって」と邪険な態度をする『いかづち』だが今日は自分の想いに潰されると同じように反抗もしない


ぺったりと膝に顔を埋めてしまった妹の姿に

背中に頬ずりをしながら


「『いかづち』〜〜〜こたえてよ〜〜無視されるとぉ、『はる』ちゃん泣いちゃうよぉ〜〜」


相手のテンションなどお構いなしの『はるさめ』は睫毛とメガネの下で『いかづち』が目を腫らしている事を良く知っていた

だから耳元に顔を近づけると


「『はる』ちゃん、『いかづち』を泣かす人許さなぁい〜〜」

「ちゃうで…」


姉の言葉に、やはり力無い反抗の返事

四日前、合衆国海軍空母アイゼンハワーを佐世保に迎えた歓迎会の夜の事件を『はるさめ』はしっかりと目に納めていた

会場から姿を消した妹と会話をしていたコーパスクリスティー

その後を追った『しまかぜ』との間で起こった少しの喧噪

妹の嘆きの声


「わてだって大事にされたい!愛されたい!人に近くに居て欲しい!」


「大事にして欲しいよねぇ〜〜わかるよぉ〜〜」


緩い声は妹に意見しながらも、周りを憚るように笑い目を鋭く輝かせて続けた

「恋しましょ〜〜〜ねぇ〜〜〜」

「姉はん…わては…」


聞かれていた声、だがそれに焦る事も出来ない程に『いかづち』は自分の発言に後悔していた

酷いことを勢いに任せて『しまかぜ』に投げたと、蹲ったまま顔を隠して



あの夜

コーパスクリスティーは恋愛云々より、おそらくもっと高い基準での人との関わりが貴女達海自に必要という話しをしていたハズだった

だけどそこをすっ飛ばしてしまうほど、自分恋心への否定は衝撃的な出来事となっていた


真っ正面に立った『しまかぜ』に涙ながらに言った


「有事が起こったら、わてらは最初に死ぬ」


あれほど自分でそんな事は昔の逸話と否定してきたのに

恋愛でなくても優先される『こんごう』の立場に強く嫉妬し吐き出してしまった

粉川に自分の側に向いて欲しいという気持ちを、自分から粉川を引き離そうとするように見えた『しまかぜ』に


それ程に日常的であった『しまかぜ』の粉川に対する『こんごう』への配慮の結果が許せないと心の奥底では思っていた事に気がついてしまった


あの演習の時だって、結局『こんごう』有りきの実験だったからこそ、常日頃『こんごう』をよろしくと頼みますとの『しまかぜ』の言葉を尊重した粉川がいたと

結果、自分を省みて貰えなかったのだと

粉川が懸命に『こんごう』の身体を支えるのも『しまかぜ』からの頼みに乗っ取ったから

実戦まがいの演習で恐怖に震えている自分を気遣った欲しかったのに


なのに自分の元に戻れと激された


『こんごう』には再三にわたる励ましがかけられたのに、自分には「大丈夫?」の一言さえ貰えなかった


あげくに感じた唇の熱さ


それもこれも、今まで『しまかぜ』が『こんごう』の事を大事と粉川に頼んできたからだと考えてしまう

惨めだった、なんで自分が中途半端な護衛艦に産まれてしまったのかと涙がこぼれる

自分がイージス艦だっのなら、粉川はもっと自分事を思ってくれたかもしれない

あんな不器用な感情をさらけ出すばかりの『こんごう』より自分の方が幾ばくも向こうに可愛らしい姿を見せてあげられたと思ってしまうし


『しまかぜ』だって自分を押してくれただろうと、反省とは別に入れ替わる悪意に『いかづち』は疲れ始めていた


現実から離れる思慮に、何度も膝の間で首を振る「違う」と


全てを黒く塗り替える程に落ち込む『いかづち』

冷静であろうとすればするほどに

募る自分の気持ちを蹴飛ばされたと怒りが擡げ顔を見せられない


「『いかづち』は悪くないよぉ〜〜〜悪いのは『しまかぜ』さんだぁ〜〜」


妹が自分の気持ちを蹴飛ばした相手として、それでも思いやりからの発言だっと迷う中を縫うように『はるさめ』は確信を言い当てた

「でも…」

そう思ってしまったら、今まで通りでいられるか?横目で心配を見せる顔に『はるさめ』は人差し指を立てて


「絶対に『しまかぜ』さんが悪い〜〜、『いかづち』は立派に護衛艦してるのに、半端者の『こんごう』ちゃんの肩持って幅効かせるなんてずるぅいよぉ〜〜ねぇ」

「ねーはん…」


『こんごう』に、いや言えばDDGに対してあからさまな不快感を嘘っぽい緩い声が発したのに思わず顔を上げた『いかづち』

その目に『はるさめ』は顎で桟橋の方をツイと指した


帰還する実験演習の殊勲艦である『こんごう』を迎えるために桟橋に並ぶ魂達

本来はこんな事はしない、たかだか演習から帰って来るだけの事に

しかも実験後に昏倒して修復に長崎に行かねばならなかったような『こんごう』の為にと


イベントの中身はアイゼンハワー達が連夜のパーティーを楽しみたいがための悪ふざけの延長の形だった


「殊勲の方『こんごう』一佐をきちんとお迎えしたいです」という申し入れがあったからやむなく会されるこの行事でさえ腹が立つ


その迎え衆の中、黒の制服のチェックをして歩く『しまかぜ』

いつでも前に立つものとして、みんなの姉として公平にあるべき本来の姿の者が率先してそういう事をするのは?


現実的に『しまかぜ』は『こんごう』に甘い、『はるさめ』は暗にそう言って見せている


「『いかづち』やっぱりぃ恋愛もぉ五分の戦いをしたいよぉねぇ〜〜『しまかぜ』さんは私が押さえといたげるよぉ〜〜そうすれば『こんごう』ちゃんもバックなしで正々堂々戦う事になるから負けても文句言わないよぉ〜〜」


姉の提案には納得できるものがあった

冷たい風が向こう側の桟橋に向かって走って行く、行き着く先に見える『しまかぜ』の姿

日頃から全ての護衛艦達にとって良き姉であらんとする姿を『くらま』司令は見習えと豪語している


見習うべき存在が同種艦である妹だけに良い思いをさせようとしているのは、ルール違反だ

『いかづち』の心に薄暗く燃え続けていた嫉妬の炎が「正攻法」らしきを勧める姉の言葉で大きく燃え上がった

光を取り戻しメガネの下で尖る視線を確認したように『はるさめ』は


「『いかづち』は良い所いっぱい持ってるからぁ〜〜不躾者の『こんごう』ちゃんになんか負けないよぉ〜〜『はる』ちゃん保証しちゃうから〜〜」


妹の火に煽りの風を入れた




意を決したように一人桟橋に飛んでいった『いかづち』を見送った『はるさめ』は満足の笑みだった

風が揺らす栗色の柔らかいカールがかった髪の下で


「そうよぉ、恋愛するのよぉ『いかづち』後は『はる』ちゃんに任せといてぇ〜〜」


イタズラっぽく下をチロリと出し唇をなめる


「『こんごう』ちゃんなんか、『しまかぜ』さんがいなきゃただの盆暗よぉ〜〜」


ふくよかな自分の胸に手を重ね、目を細める

指を絡ませながら

「後悔なんか忘れるぐらいに恋愛するのよぉ〜〜」

栗色の肩口に巻く髪を、季節を肌に知らせる冷たさを運んだ風に湯らしい

妹の敵、その敵の背中を押す者、桟橋でみんなの姉として働く『しまかぜ』の姿に大きくベロを出した


「大っ嫌いよぉ〜〜『しまかぜ』さん〜〜〜」と

カセイウラバナダイアル〜〜加速〜〜


いよいよ艦魂物語もターニングポイントを超えて後半戦に向け加速します!!

今話もっとも違和感を感じたのは『こんごう』の姿でしょう

今まで『こんごう』はどちらかと言えば言葉少なく、主人公として物足りないところがあったと思います

ぶっきらぼうすぎで仲間との関わりも上手ではない彼女が今話からまっしぐらに走っていくキャラに変わったという感じですが、違います

元々『こんごう』は思い立ったら突っ走るというキャラでした

ですが、誕生の時の傷から今まで、一歩下がったポジションで生きてきただけなんです

当たらず障らず、だけど自分の妹は大事にする姿勢からも一本筋の通ったところももっていた彼女は

水の記憶からかつて国家存亡を戦った姉達の願いを知った

今まで自分はなんとなく護衛艦として生きてきた

『しまかぜ』が色々探している事だって知っていたけど協力してきたわけでもない

それを反省した海だった

そして火を付けられた

「私達の魂を探して」と願う姉達に答えるため『こんごう』は突っ走る

それこそ今まで以上に色々なものにぶつかりながら


去年の10月から連載を始めたので、今年の10月までにはキレイに追われるよう頑張って行きたいと思います!!


それではまたウラバナダイアルでお会いしましょ〜〜

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