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第六十七話 一つの光

一ヶ月オーバーのブランクにて本伝再起動〜〜

今年もがんばりますぅぅぅ

今年中に完結をめざしますよぉぉ〜〜

護衛艦『くらま』の後部ヘリ甲板から見る佐世保市内はすっかり寄るの彩りに変わっていた

クリスマスの前哨戦となるこの季節は寄るの景色に赤や緑の花を輝かせる

佐世保駅の前町になる万津町は新年を迎えれば朝市ぜんざい会を催す活気のある場所だ

近年では少しコジャレタカフェなども建ち、口コミ情報などを発信していたりもする

当然そういう場所が増えれば彩りの花も増えるというもので、寒さの中をクリスマスという楽しみに加速する風景は誰の目にも楽しく写っていた



係留された場所から見える景色は米軍の赤崎貯油所、真横にアメリカ海軍古参の艦艇であるゼウスが付けている

その向こうには佐世保重工の巨大クレーン達が光らせる白い輝きが星と重なって見える

さらに目を町に向けていけば護衛艦達の並ぶ立神桟橋、その向こうの岸壁はアメリカ軍が占有する佐世保基地が見え

並ぶ艦艇


「お疲れ様でした」


海保基地、自分の止められた場所から護衛艦達の長い影を見つめていた『ことざくら』に陶器で出来たピンクのマグカップを差し出したのは『ちくご』だった


マルハ物流など真っ白なコンテナ型倉庫の多い海上保安部の間の絵に並ぶ、白の船体

ココ佐世保に詰める巡視船の中では大型の部類に入る『ちくご』は350トン級の巡視船だが、昼間『ことざくら』が目にしたアイゼンハワーに比べたら小さな船としか良いようもない

差し出されたカップを受け取りながら

「いつもの事だけど…疲れました」

素っ気ない声で返事を返す『ことざくら』にストレートの長い髪、前髪を眉頭に切りそろえた『ちくご』は聞いた


「似ていた?アイゼンハワーさん、ビッグEに?」

薄いピンクの唇が嬉しそうに

短く神を切りそろえたボーイッシュな『ことざくら』は姉にどうぞと、自分の隣を開けて


「ビッグEは見たことがないですよ、写真で見るのは艦体だけですし」

「顔は見たでしょ、今日来た彼女は」


隣に座った『ちくご』はビッグE入港を経験した事のある巡視船で、この佐世保保安部は元より海自でここに詰める船の中では最古参の船艇

ちなみに次点はなんと佐世保基地の色恋ヒットメーカーである『いそゆき』で、その次が『くらま』という順番だったりもする


『ちくご』は星空に目を細めながらビッグEが来た日の事を思い出していた


あの年のあの日、彼女には佐世保湾内に出動待機がかかり三十五番錨地付近まで出ていたた

350トン級、いえば満排水量600トンの写身うつしみである船体は当時の日本沿岸を警備する船としてはそれなりに立派な体躯だったにもかかわらず

自分が子供のように見えるほど巨大だった原子力艦艇の申し子エンタープライズの姿に今日の『さいかい』以上に目を丸くして呆然としたものだった

姉の昔を懐かしむ横顔に、察しの良い『ことざくら』は思っている事を言い当てた


「子供みたいなヤツでしたよ」と


沖合、海保の保安部が詰める港からは遙かに遠い三十五番錨地に目を向ける『ちくご』に肩と首を鳴らせて、先輩の苦労を実感しましたと見せながら


「『さいかい』とかわらないぐらい子供でしたけど、大声でご挨拶演説をかましてましたよ」

「『さいかい』と同じぐらい?でもけっこういい歳なんでしょ」


思わず顔を見合わせて笑う二人

船の魂達は容姿と年齢が一致しない

良くあることだが、結局姿だけで中身を判断する事が出来ないのだから余計に混乱する

「あぁだいぶん向こうの方が年寄りですよね。二十は軽く上の歳だって書いてあったような」


アイゼンハワー入港前に資料のチェックをしていた『ことざくら』は人差し指を揚げて思い出したように答えた

『ちくご』は笑いながら


「佐世保護衛艦隊司令艦の『くらま』さんよりも十一歳も年上なのよ」

「そうなんだ」


意外だっという顔は目を見開いて立神に並ぶ『くらま』に目線を移した

海保と海自は同じ港に身を浮かべているのにそれ程仲が良いわけでもなかった

ただ、一時の昔に比べればお互い日本国に籍を置く者同士として挨拶などはきちんとかわしていた


今回も演習に向かう前の日に『くらま』は海保の保安部船艇の代表である『ちくご』の元に訪れていた


「入港、出港に際し色々とお願いする事あると思いますがよろしくお願いします」


礼儀正しく頭を下げて挨拶に来た姿を『ことざくら』も見ていた


年に何度か挨拶にくる護衛艦『くらま』、その魂である『くらま』の姿には海保にもそれなりにファンがいた

なにせ長身、180を越える身の丈ではあるが荒々しく筋肉質という事はなく、スマートな紳士的な態度と言動

キレイに纏めたオールバックの髪に美しい顔


国防という最上級の仕事につき日本国の船達にとって頂点の者である『くらま』だが、一度として海保の重鎮、特にこの保安部の長老である『ちくご』を自分の元である寄宿舎の執務室に呼びつけるという事はしたこともない姿勢に目どころか心を奪われる者が多いのも仕方のない事


そんな紳士的で大人な『くらま』より年上のアイゼンハワーの幼い姿は対照的すぎた

身振り手振りから、区別無く自分の周りを走る船立ちに挨拶をしていた姿などを『ことざくら』は愉快な出来事だったと語る


「結構の年寄りなのにね、落ち着きのない感じに見えましたよ」

「アメリカの空母で、まともな性格の人は今のところ横須賀のホーク大将だけね」


緊迫した現場の中に怒った喧噪に『ちくご』も笑みを浮かべた

そうはいえども全ての大将に出会ったわけではないけどと付け加えながら

前に入港したAbraham Lincolnの事などを思い出し、大仕事だった割りにふざけた相手の姿をマグカップの盃に笑い話を続けた


「good morning 日本の友達ときたもんです、ご挨拶なもんですよ。まったくいい気なもんです、原子力空母がくればこちとら夜も眠れぬ大仕事だってのに」と、まだ熱いコーヒーに息を吹きかけながらうんざりと手を挙げてみせた


「good morningか…」

思い当たる言葉に顎に手をおく『ちくご』

「姉さんの時はもっと大変だったんですよね」

物思いに沈みそうだった姉に、自分以上の苦労を味わったであろうと年を越した気遣いを示す『ことざくら』


「そうね、あれは本当に大変な出来事だったわ。でもね私達以上に大変な思いをしたのは海自の艦艇達だったわ…」


『ちくご』の言わんとせんことに『ことざくら』は目を閉じた


1968年、前の戦争から23年目に日本にやってきた原子力航空母艦エンタープライズ

原子力により市民、軍人共々に死を与えられた日本、長崎にとってこれを迎えるのは耐え難い出来事だった

そして、その出来事に直面した再生日本国の海の防人達と、船達


1945年大日本帝国は世界に敗北し、日本国民の誇りは根底からへし折られた

帝国海軍が滅亡し国家を護る全ての機能が剥奪された年から、この海洋に漂う島国の護りが再び創設されたのは復員作業をしながら海を開く掃海業務を経て1948年、海上保安庁として発足する


細く小さく、何もかもを失ってしまったこの国の

四方の海を護るには至らなくなってしまった船達


日本には国土を護る船はもうどこにもいなかった時代を過ぎ


1952年、大戦から7年の時を経て海上自衛隊の前身である海上警備隊が創設された

多くの帝国軍人がそのままスライドする形でこの組織の中核をなし

米海軍のお古である艦艇を駆り、日本を、日本国の海洋を護る組織は立ち上げられた

その年に海保と袂を分け、1954年正式に防衛庁として創設された


当時の海自の艦艇はアメリカ海軍からの出向組で魂達はみなアメリカ人だった

それも日本を愛してココに来たというわけでもなく、ただ払い下げられた貸し付けの旧式艦艇達はなかなか言うことを聞かなかった

なれない船に四苦八苦しながらも国の護りを勤めた「人」達と、アメリカという母国を持ちながらも余剰として払い下げられ敗戦国の艦となった「魂」達の溝は大きかった


それが国産船艇を揃えた海保の魂達と、海自の間に出来た最初の溝にもなっていた


「大変な時代だった事、よく教えて貰ったわ」


『ちくご』は思い出の姉達の姿に俯いた

姉達の名前は統一性のないバラバラのものが多かった

随時「人」はそれらを分別していき、業務別の区分けはすぐになされたが

誰も彼もが元をたどれば所属も業務も産まれも歳もバラバラで船体さえ統一されない寄せ集めの者達ばかりだった


全てに統一感がなくバラバラだった理由は

当時海保の船艇として働いた者達が、帝国海軍の鎮守府などに残された小型艦艇の多くで成り立っていたからだ

本当に小型のものばかりで、上はせいぜい300トン級で下は港に入る軍艦の曳舟だった者達や陸軍の持っていた交通船などがメインだった


大戦を生き残った魂達が懸命に日本の海と港の仕事に徒事していたのだ


なのに新たに創設された海軍(海自)からは弾き出される形となっていた

しかも占領軍から来た艦艇達は戦後すぐに日本の港を占拠し、数こそ少なかったが生き残っていた帝国海軍戦艦や巡洋艦の魂をいたぶり倒すという暴挙を侵した者達の仲間

そういう思いから決して相容れる事は出来るはずもなく


人の思う防衛と、魂達が求めている絆は本当に途切れたのだと誰もが実感した出来事だった


「そういう思いがまだいっぱい、どこの港にも残っていた時代に彼女はやってきた」


帝国海軍を滅亡へ走らせたアメリカ合衆国海軍航空母艦七代目エンタープライズ

鬼人のごとく働きアメリカ海軍太平洋艦隊旗艦としてミッドウェー、南太平洋戦線、フィリピン海戦、硫黄島、沖縄、ついに日本本土を敗北に追い込む切っ先として働き続けたビッグE


その彼女が1960年に解体され魂は消え

翌年原子力空母八代目エンタープライズとして産まれ1968年に佐世保にやってきた


戦後23年、防衛庁創設から14年足らず。外来艦艇の間を縫うように作られた国産艦艇である『ゆきかぜ』そして日本の護りの要として作られたミサイル護衛艦『あまつかぜ』と出会った時

彼女は臆する事なく姿勢正しい敬礼して言った


「good morning日本の友よ」と



「心配ですか」


思い出に顔を俯かせたままの『ちくご』に『ことざくら』はマグカップを下ろして聞いた


帝国海軍の正統後継者である事を自負する海上自衛隊

それが故にのしかかる重責と過去に対する想い


栄光の帝国海軍艦艇戦艦や巡洋艦の魂達

戦勝のアメリカ海軍艦艇達との激突

占領軍の艦艇達からの執拗ないたぶりに合わされうえに、あれほどに護ろうとした人には役立たずの海軍の遺産と罵られ鉄くずに変えられていった者達こそが


自分たちの姉であると信じる海自の魂達


この思いが、もし現在の護衛艦達に受け継がれているのならば

今でもアメリカ海軍を許すことは難しく

本当の意味で国民を護る艦として存続する自信を持てているのかは闇の中だった


こぼれた自分の髪をかき上げて『ちくご』は悲しそうな目をした

「心配しても仕方のない事よね。私達はこうやって生きていくしかないのだから」

袂を分かっても同じ職務にある仲間、その意識は『ことざくら』にもあった


「ええ、私達の仕事が変わる訳ではありませんから」


二人は立神の桟橋T2に付けられている『くらま』に目を向けた

騒がしかったアイゼンハワーの入港、今日は彼女達の歓迎会が行われる

今は昔の事を海自の艦艇達がどう思っているのかを知る術はないし、聞くのは勇気のいる事だ

現在も国防の矢面に立つ彼女達が、現在の同盟国であるアメリカの艦艇達と過ごす時間をどうしているかなど、考えても仕方のない事だった






「改めまして佐世保基地への寄港、心より歓迎致します」


整えられたテーブル席

佐世保基地内にある艦魂達の寄宿舎の一階はアイゼンハワー寄港のパーティーのため彩りを変えた素晴らしい会場と化していた

飲食の必要性は本来ない魂達だが、食べることも呑むことも余暇の楽しみのように出来るのは良いところであるし

海外の艦魂達は早い時代からこういう事を取り入れ、お互いの親睦会のように使っている事もあり国際的にも軍事的にも多くの艦艇が行き来する佐世保では必ず行われていた


同じように横須賀では国際港横浜と遜色のない程に『しらね』が歓迎会を催す

同盟国や多くの艦艇の出入りがある横須賀では、それに似合った歓迎会と共にもてなしの心を大きく震った場所は海外艦魂にすこぶる評判が良く日本につけば、横須賀か佐世保は必ず行きたい港だという海外にも名のとおる場所になっていた


ただ、佐世保に寄港したいと願う艦魂達の理由には別の思案なども多分に含まれていたが


「乾杯いたしましょ〜〜」


それほど呑んでもいないのにすでに自分の中から発生する甘み潤滑剤で呂律が緩みまくっているアイゼンハワーは、目の前に立つ『くらま』に後少しで抱きついてしまうような距離


彼女の隣にはエセックスが笑わない目のまま司令艦の背中を、服を引っ張るように座っている

さらに隣にはパーパスフェリーは目だけでそれを追っている


面前の貴賓席で起こっている異常事態に『むらさめ』は乾杯から向こうなごやかムードとは別のテンションに喜劇でも見るような気分になっていた

アイゼンハワーの何度目かの乾杯要請の前、『くらま』は姿勢も態度も崩すことなく乾杯し続ける


「ああやって酒に強くなってくんだろうなぁ」


歓迎会なので一応制服をきちんと来ているが、すでにネクタイの根っこを弛めている『むらさめ』は日頃から酒に強くなりたいと考えているが

歓迎会の酔いつぶし作戦を実行するアイゼンハワーを見ながら

我らが司令艦がどうして酒に強いかのか?その一端を見ていた


面前の席がそんな感じなので後の者達は割と自由に飲み食いをするスペースの中

『いかづち』は一人俯いたまま壁を背に立ちつくしていた

大食いはあまりいない艦魂

そのため少しの料理を貴賓用に仕上げ後は適当に用意するという仕事を『ゆき』姉妹達と仕上げた彼女は終始元気のない態度だった


演習から戻ったばかりだったので料理の担当は外して貰えるハズだったが買って出た

少しでも時間があいてしまえば『しまかぜ』に、心の奥にしまい込んだ思いを見つけられてしまうのではという恐怖があったからだ


事実、演習から帰って以降元気のない『いかづち』の何かに気がついた『しまかぜ』は早期の問題解決のために動こうとしていた

それを『はるさめ』がのらりくらりと逃がしてくれ

実直なミサイル護衛艦らしい彼女の行動から逃げるためにも料理を一手にまかなった


今はその『しまかぜ』が貴賓席『くらま』の後ろに付きっきりだ

姉である『むらさめ』は例の「粉川が好き」という告白を聞いて以来できるだけそういう話題には加わらないようにしているのか、『いかづち』の顔色から何かを察したように近づいては来なかった


『いかづち』は見てしまった


そのうえ「人」のいう機械的リンクの中で『こんごう』の見た世界の片鱗を見、さらにつながった頭のままで粉川との口づけを、自分の唇に感じてしまっていた

下ろしたグラスの縁にのこる自分の唇の跡

何度も指で触ってみる


あのとき、粉川の唇を感じてしまった

自分たちとは違う、「人」その中にある男というものの体を初めて自分の体で受け止めた感覚的に脳が停止してしまうのではないかという衝撃を受けた

平常心を装って『こんごう』を彼女の部屋まで連れて行けたのは奇跡的な自尊心のおかげだったが、思い出すほどに心に募る思いと


想い故の闇は広がり続けていた



「わて…どうしたら良いのかな」

「貴女の愛は深くて淡い」


背中を壁に一人グラスを持ったまま俯いていた『いかづち』の顔を覗き込む銀色の瞳

「はっわっ!コッコーパスクリスティー大佐!!」

近すぎる顔に頭を壁にぶつける程の勢いで姿勢を正し『いかずち』は敬礼した

思いに没頭しすぎ気配の微塵にも感じなかったとはいえ、これ程に近くにいる者に気がつかなかった驚きでぶつけた後頭部の音は鈍く響く中での返礼


「マリアで結構ですよ。Miss lightning」


泡を食っている『いかづち』の姿に動じることのない相手

銀色の髪のした、同色の目というよりも灰鉄の輝きの目は黒目の部分が浮いているようにも見える

睫毛は雪を乗せたよツリーの枝のよう

驚く『いかづち』の前、司教座の衣装のままのコーパスクリスティーは口だけが微笑みを讃えているようにも見える


「あの、わてもその『いかづち』でお願いします。そういう横文字の名前ってどうも馴染めなくて自分やあらへんように思うんですよ」


落ち込んだ自分を隠すように、ぶつけた頭をさすりながら

アメリカから来た艦魂にしては身の丈がそれ程高くもなく、むしろ自分と変わらないぐらいのコーパスクリスティーに返事した


「そうでしたね、もう演習は終わりましたし気兼ねなくいきましょう」

「はあ、」


大勢の艦魂達が集うこの場にて何故に自分に話しかけてきたのか

『いかづち』は戸惑っていた

むしろ姿を隠すよう壁の一番端にて「待機」しているようにしていた自分に話しかけるコーパスクリスティーを訝しく思っていた


「そんなに私は疑わしい者にみえますか?」

自分より上位階級の者に対して(『いかづち』は二尉)ぎこちなく、距離を取った位置に立つ『いかづち』に不可思議を具現化したような灰鉄の目が言う


「私は貴女の悩みの助けになれます」

手を広げ、まるで自分の中に招き入れるように


「貴女の愛を私に知らしてください。私はきっと貴女を導く事ができる」

迷いに対する導き

確信を全身で現す者の前に『いかづち』の選べる道はなかった

まるで吸い寄せられるように、前を歩くコーパスクリスティーにただ従い会場から姿を消していった




波の上に揺れる夜景

輝きはいくつもの形を表しては海に漂う

静かな時の中で『いかづち』は自分の艦体に初めてアメリカから来た魂を迎えていた


「私達魂を感じる事のできる「人」を愛してしまったという事ですね」


逆らうことの出来ない瞳の前で『いかづち』は粉川を想ってしまった事を吐露していた

「どうして良いかわからへんの、です」


姉である『むらさめ』にも、自分の背中を押すと笑っていた姉『はるさめ』にも言えなかった本心、その全てを初めての客人であるコーパスクリスティーに話した後、とまどうような口調に戻っていた


「愛は誰にでも平等ですよ。貴女の感じた想いを彼に告げれば良いではないですか」

終始俯き、波に目を向けたままの『いかづち』にコーパスクリスティーはよどみない意見を告げた


「貴女が彼を大切と思うのですから問題ありません。むしろ告白によって貴女に与えられている時間を幸せに変えることも出来るというものです」

「でも」


押しの一手であるコーパスクリスティーの意見に『いかづち』の中には別の悩みが浮かんでいた

聖人的な彼女がまさかこれほどに自分に「恋せよ」と言ってくるとは考えていなかった

もちろん、強い力で自分を後押ししてくれる者を望んでいたし、自分の思慕を認めてくれる事が自分の中にある想いを駆け足にする大切な事である事はわかっていたが…

直情過ぎる意見故に隠されていた疑問の闇を自分で見つけてしまっていた


『いかづち』は頭のつながった状態で『こんごう』の起こした波乱を体験していた

それが本当に『こんごう』の意志で行われていたのかを、それとも何か別の意志、あの破滅の海で見た帝国海軍の魂達の意志によって行われた事なのか計りかねていた


不確実だった事実の中で

自分もまた不確実な人との関係に進もうとしていた事に気がついたのだ


「でもさ、船の魂は人と恋とか…たとえば関わりを持ったとしても、何かが変わるわけやあらへんと思うんであって」

「不安を感じていらっしゃる?」

頷く『いかづち』

更なる不安を自分で巻き起こした『いかづち』の前、コーパスクリスティーは変わらぬ表情のまま近づき手を握った


「貴女はご存じないと思いますが、私達アメリカの魂達も人との関係を持っています。それはとても深くとても長い時間の中で私達を今も導いてくれています」

初めて聞くアメリカの「人」の話しに飲み込まれる瞳

『いかづち』は言葉の続きを待ち


「その方は私の師でもあります。人との関わりを持つ事は悪い事ではありませんよ」


かなり高い基準からの答えだった

恋する『いかづち』の人との関わりを考えれば適切ではない発言だっが

盲目の中をさらに模索の闇を行く者には一つの光となっていた


「間違ってない…ってこと?ほな、わては」

「間違っていません。人と関わることで貴女はきっと幸せになれる」


「間違ってはいない、でも正解でもないという事ですね」


二人が意見を確かめあい、携えた手に力を入れようとした時だった

『いかづち』の後ろに立った『しまかぜ』は睨む視線をコーパスクリスティーに向けながら近づいた

不意の出現にたじろぐ『いかづち』

現れた侵入者に動じないコーパスクリスティー


「コーパスクリスティー大佐、大変有用なお話しなのに盗み聞きをする形になってしまった事をお詫びします。でもこれだけは言わせて頂きます」


自分の恋を聞かれた事で逃げたい気持ち一杯の『いかづち』を尻目に『しまかぜ』は自分より背の低い神父を見据えて


「大事な事を省いた情報はただの危険な怪情報にすぎません。貴女は『いかづち』の恋心をまるで戦略に必要な行動のように語っています。同時に私的件論として言わせて頂きますが、人との関わりは流れの中にある一時のものとして受け止めるのが私達魂のあり方、深く関わるのも「恋愛」でない事が望ましてと私は考えております」


『しまかぜ』は二人が会場から姿を消した時に「嫌な予感」を感じていた

歓迎会の貴賓達の目的が『くらま』に集中している事を良いことと二人の後を追いかけていたのだ


そうでなくても『いかづち』は演習で『こんごう』との間に何かあった事を隠しているし

彼女の姉である『むらさめ』もまた触れたくない事のよう意見をつぐんでいた、さらに不敵な『ゆうだち』の態度も気になっていた


「恋いをする事と、人との関係を持つことを同一視した意見はおかしいです。間違っています」


自分を押しのけた『しまかぜ』の激昂

恋愛を否定する発言に驚きに身を引いていた『いかづち』は前に戻ってきた


「ほな、わてらは誰かを愛したりしたらアカンの?」

「粉川さんにそれを言って、困らせたいの?」


いつになく手厳しい切り返しに怯むことなく吠えた


「せやけど、『こんごう』には仲良うせえって『しまかぜ』はんがそう言って二人を押して」

「それは、課業を滞りなく遂行するために、争う事を避けましょうという意味であって」

「うそや!!」


真正面からの否定は悪い方向に舵を切っていた

自分が恋する気持ちを否定する『しまかぜ』だが、『こんごう』には再三にわたって人である粉川と仲良くする事を進めてきていた

たとえそれが艦隊運動に支障を来すことから『こんごう』の癇癪を反らすための言動だったとわかっていても今は受け入れられなかった


それが実った形として、『こんごう』は人である粉川と口づけを交わしたと結論づけてしまう程に

身体全体がえも言えぬ感情に震え、涙はメガネの向こう側で溢れていた


「『こんごう』には良くて、わてにはなんでダメなんや!!」


まさかの反抗、しかも何かを取り違え冷静さを失ってしまった『いかづち』に『しまかぜ』は驚いた

目の前で両手をあげ拳を握りしめたメガネが光る


「『いかづち』…落ち着きなさい」

「いやや!!『こんごう』ばかり!!DDGやからって大事されて!!わてらだって、わてだって大事にされたい!!愛されたい!!人に近くに居て欲しい!!」

「『いかづち』!」


明らかに混乱している『いかづち』の手を取ろうとする『しまかぜ』だが、反抗が突き放すように逃げる


「わてらだって国を護ってんねん、やのになんで『こんごう』ばっかが可哀想なの?そんな事あらへんで!わてらの方が可哀想や、有事が起こったらわてらは最初に死ななアカンのに」

常日頃から『しまかぜ』は『こんごう』寄りの態度を示していた

誕生の時に傷を付けられた彼女を優しく見守る姿は、どこか子供を甘やかす母親の姿にも見えていた事

ちまたの人々は自分たち護衛艦を愛してはくれない事

ミサイル兵器の固まりである『こんごう』には色々な意味で心を助ける者が必要とされていたが…


自国の国民に愛されないという意味では『こんごう』だろうが『いかづち』だろうが変わらなかった


愛されない護衛艦

その中で出会った奇跡の人に傾く心



「撃たなかったでしょ」



『はるさめ』の言葉が電撃を受けたように頭の中を走る


この国の専守防衛という国防標語に基づけば、誰かが撃たれて初めて戦いを開始するという事になる

誰かが撃たれる

その時最初に撃たれるための数合わせとしているのがDDだ

反撃は最大の力を持つDDGが請け負う、だから最初に自分たちは死ぬための船なんだよ、と


一度は姉の発言を自分で否定した『いかづち』だったが自分の恋心を真っ向否定された事によって

自分たちが一番に何かを思ってはいけないのではという

いつまでたっても『こんごう』の後ろに隠れた二番手の存在で、なのに最初に死ぬための船として準備された存在で


「なんでわて、護衛艦なんかに産まれたの…」


『いかづち』は涙を止められない姿を晒していた


「彼女の勇敢な心を否定してはいけません」

『いかづち』を落ち着かせようとする『しまかぜ』の背中にコーパスクリスティーの冷徹で凍った声が掛かった


「彼女により、貴女達日本海軍(海上自衛隊)は帝国海軍の時に持っていた人との絆を取り戻す事ができるかも知れないのですから」


高みを見るために

コーパスクリスティーの発言は『いかづち』の恋を推し進めるためのものではなかった

それを『しまかぜ』は理解していた


別の何かを見つけようとしている会話に危機を覚えたからこそ、恋心を否定するように間に割って入ったのだ

涙に顔を伏せ蹲る『いかづち』に背を向け視線を向ける『しまかぜ』は怒りも露わはコーパスクリスティーに迫ると


「絆?人との絆によって何がわかるというのですか?私達海自の艦艇が探しているのはの、かつての帝国海軍との絆です。人など関係ありません。魂は私達の絆をさがして」

「探しているのですか?貴女が?」

入れ替わる厳しい感情の糸、言い逆らう『しまかぜ』の言葉を絶ち、不敵な笑みと灰色の目は下から睨みを効かすように


「貴女は探しているふりをしているだけでしょう。貴女はそれがみつからなくても自分艦生に後悔するような事のないよう、身を任せる相手を持っている。違いますか?」


『いかづち』には聞こえないような小さな声で耳うつ刃に『しまかぜ』の心は刺し通されていた

「何を…」

震える口から問いただしてはいけないと、苦しげな反抗がこぼれる


「貴女は本気で絆を探していた「あの人」とはまるで違う。貴女の敬愛する姉の意志を貴女は踏みにじっている」


冷や汗の顔

視線をそらせない二人

「『あまつかぜ』姉さんを…」

「存じております」

静かな返事


「だからこそ、この機会に私が絆に向かう飛躍を促す役を請け負ってさし上げたのです」

自分の行動に自信をみなぎらせる瞳

「貴女ではとてもそこには届かないでしょうし、貴女は間違った優しさで日本の艦魂達の進歩にストップをかけている古い考え方そのものなのでしょうから」


固まってしまった『しまかぜ』の背中の側、涙に崩れ泣いている『いかづち』を見つめる


「私は貴方に命じたではないか、強く、また雄々しくあれ。貴方がどこに行くにも、貴方の神、主が共におられる故、恐れてはならない、おののいてはならない*1」


横顔からでは点を浮かべたような黒目の下でコーパスクリスティーはつぶやくように言うと


「少し直接的な言葉ですが、貴女のように逃げている者にはわかりやすいと思います。貴女の姉はそういうものから逃げず、全てを共にあるものとして受け入れた素晴らしい人でしたから」

苦渋で顔を歪めた『しまかぜ』は声を絞るように


「止めてください、そんな事で私達を乱したりしないで下さい。私は姉のことは、だれよりも」

「わかっていなかった。そうですよね」


苦しみに優しさを示すことのない冷ややかな声の主は、両手を挙げて星を誘い込むように笑った

「奇跡は待つものではありません。私達はそれを起こす力を持つものである事を忘れてはいけません。そしてこの海にはその想いを残された魂を感じるのです」


そういうと佐世保の港を見回した

「私は全てを前進えと促す神の使徒マリア。友よ『あまつかぜ』よ、私は来ました」

宣言は誰の耳に届けるでもなく星の闇に消え

『しまかぜ』と『いかづち』の中に嵐だけを残した


それは『こんごう』と粉川が戻ってくることで更なる嵐として巻き起こる事になる

カセイウラバナダイアル〜〜英語〜〜〜


お久しぶりでございます!!

佐世保争乱編やっと本伝に戻ってまいりました

色々迷ったりしながら書いてますからねぇ

大変ですよね


外伝もチキチキ書いてますからよかったら呼んでやってくださいませ


さて今話ではコーパスクリスティーが大暴れ

彼女は自分でも言っていたように嵐を起こすためにやってきた神の使徒です

そして新事実なんと『あまつかぜ』姉さんとお友達だった人のようです

このあたりのくだりがどこまで書けるのかは謎ですがwwwがんばっていこうと考えております〜〜〜


*1の聖句

これは旧約聖書ヨシュア1章9節の言葉で

出エジプトからユダヤ人を約束に導いたモーゼの後を継いだユダヤ人指導者ヨシュアの「聖戦による聖断」を描いた章の言葉です

この章は聖書の中てもかなり暴力的な章で、普通の神父さん牧師さんは説法に使いたがらない章です

理由は神の名による征服を記した章だからです

エジプトの奴隷労働から解放され、神の約束された地に向かうユダヤ人達ですが、当然示された肥沃な地には先住民が住んでいるわけです

それを「討伐せよ、われヤハウェの名において」と神の名による虐殺を行い征服してゆく課程が描かれている

マジで壮絶です

前話に書いた、ダニーのエリコ(ジェリコ)の城壁の話しもそうですが、町ごと撃滅、女も子供も容赦なく殺してゆく

それが延々続く章

聖書は意外と包み隠すことなく神の名の戦争を堂々と書き綴っている本です

その中で前任の指導者だったモーゼの後を継いだヌンの子ヨシュアですが、当然大きな任命に心が揺らぎ当初は迷いまくります

そこで神は前序のように言われる

「貴方が何処に行くにも、神は共にあると」

コーパスクリスティーが『しまかぜ』さんにこれを言ったのは

『しまかぜ』さんの心内をしっかり見抜いていたからでしょうね

『しまかぜ』さんは希望を探している、その根底にあるのが『あまつかぜ』姉さんの存在です

勇気を持って物事に立ち向かう時の支えとして死んでしまってもそばにいる存在としてあるべく『あまつかぜ』さん

しかし、『しまかぜ』さんは時間の流れの名がで半信半疑になっているところがあると同時に現状に甘んじ波風を立てることを恐れているところがある

だからみんなの仲裁者でもあったわけです

ですが、壊れてしまわなければ先に進むことが出来ない時が来ている

「人」との関わりこれが艦魂達の探す絆にどうかかわってるのか

深いのか、浅いのか?

どんな形にしろ友達だった『あまつかぜ』の意志を遂行しようとしているコーパスクリスティーはある意味アイゼンハワーよりやばい人ですね

これからどうなるのか、楽しみですがヒボシはハードルがあがる一方の自分の小説設定にくじけそうですwwwがんばるぅぅぅ


さて

メッセの方でビッグEの愛称「エリー」についてちよっとした抗議がありました

どう言っていいのかまよう話しなのですが、曰く

「なんで先生のエンタープライズは愛称がエンターじゃないのですか?艦魂の作品も愛称を統一してくれると読みやすいです。他の先生はみんなエンターなのでそうしていただけませんか?」というものでした

ヒボシはこういってはなんですが、日本語の間違いは抜群にあります

小説書いてるのに間違え放題だし、正しく日本語をつかってない時も多いとも思います

まったく改善のいる部分と反省しておりますが

英語もよく間違えますwww

ですが、意味を取り違えないようには努力をしています

英語の意味を取り間違えると大変な事になるのでwww

さてエンタープライズの愛称がエンターでないのはヒボシに言わすのならば当然のことなのです

エンタープライズとはそれだけで完成された名前です

前話で書いたようにその意味は「進取の精神」です

ウィキでしらべるならば、冒険心、計画、事業、企業に付随する名前です

しかも伝統的な名前です

ですから「エンター」と途中で斬ってしまうという事事態がまずおかしいのです

エンターとエンタープライズでは意味が違ってしまいます

愛称ですからそれでもいいか、ともおもっていた時期が俺にもありました(バギ風に)

エンターは基本エンタティナーであり機械でいうのならば「入り」です

IT用語のenterkeyじゃあるまいし、へたすりゃスラングになっちゃいますよその愛称

しかもその場合は大抵悪い方向へのスラング化にされますから

一昔前、日本でリサイクルショップが流行った頃

「let's recycle」という看板を見て、黒人の友達大爆笑

意味は「中古の女が新しい旦那を捜すために自分を安売りする事」

こういう方向性ですからエンターなんて名前のついた女の子がいたら

「安売り少女」とかって方向にされる事はまず間違いないです

とはいえスラングは回転率の高い流行語のようなものですから、いつまでも同じように残っているものはなく1年もしないうちに消える言葉でさして問題にはなりませんが…

どちらにしろ由緒正しいenterpriseという名前を寸切りするような愛称はあまりないという事です

ヒボシが艦魂小説を書き始めた頃には他の先生の作品ですでにエンタープライズの愛称エンターは定着化していました

だからそれをいまさら説明するのは失礼にあたいすると思い書いて説明する事はなかったのですが、何通も同じメッセ、しかもどこから来たのかわからなくなる形で書き込まれるのは大変にこまり返事のしようもないのでココに書き込ませて頂きました

最後に

では何故家の小説でのエンタープライズの愛称がエリーなのか

それは単純にエンタープライズの艦魂がそういう人だからです

人からもらう彼女の愛称は例のビッグEです

それでは女である艦魂にはちょっと可哀想、というか彼女が嫌だったんでしょうね

だからこういうわけですよ

「エリーと呼びなさい、可愛くね」

ようは女の子に多い名前を勝手付けたって事ですね


それではまたウラバナダイアルでお会いしましょ〜〜〜


今年もよろしくですぅぅぅぅ

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