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第六十六話 花の嵐

…相変わらず戦闘シーンは皆無の艦魂物語ですが、今話からさらにないですw

そしてこの先しばらくあるのは「愛」です

愛がないと視えませんwww

でも戦記です!愛は戦いだからです


さらにおまたせしました〜〜〜

氷川丸とタグガールズ、後書きに〜〜〜

ただこれも少し長い話しになりそうです…外伝として話し分けした方がよかったか?などともおもいますが、サイドストーリーは物語のtrafficですから、いろんなところともつながってゆくという楽しみ方をしていただけたら幸いです

『こんごう』が修復のために三菱重工長崎造船所に入港した日、同じ日に佐世保には鋼鉄の巨鯨が海を割り錨地に向けて入港を開始していた


佐世保湾内に入る最後の門、基地への入り口に見える小山の半島二つ


北寄りの一方高後崎、江戸時代ココは外からの取り締まりの為に番所の作られた山だった

まだ佐世保港自体は南蛮貿易などの利潤を挙げる程の価値はなく、閑散とした漁村だった時代だが、一大貿易港長崎港に向かう阿蘭陀や葡萄牙船の増加に伴い不法な密輸入が横行するようになった事から見守りの番所が立てられた

異国の船の乗員による漁村に対する略奪行為なども少なからず見られる形となったり、途中下船など怪しい動きをする船を監視するために見張り番所として作り上げられ、つねに数名の侍が詰めた


その後、江戸時代が終り世界への道を歩き出した日本国の一時平戸県となり後に現在の県名である長崎となった

新たな元号である明治三十年には帝国海軍の砲台が置かれ佐世保鎮守府を護る入江の基地と変貌したが、先の大戦後は朽ちた煉瓦の砲弾倉庫が所々に残り赤い色をすり減らし褪せたままの姿で草木の茂った山に埋もれるように存在しているのみの

何もない小山となっている


その小山の半島を向かって反対側の湾の口に存在する寄船鼻は佐世保港に寄港する艦艇を写真に納めようと並ぶ艦艇マニア達が集まる撮影ポイントになっている


大型の望遠レンズをしっかりと足で立たせたカメラを並べる彼らの目標である巨漢は、朝靄の中から静かに海の上を走り湾に向かっていた


秋空に凛と輝く太陽の日差しを受ける鋼の要塞、アメリカ合衆国海軍第八空母打撃群空母ドワイト・D・アイゼンハワー。合衆国海軍が保有する原子力空母の一つ


朝日を浴びる鋼の動城、その威容を護衛する海上保安庁船艇達



「こんなに大きいんだ、これに私達と同じ魂が一つだけだなんて信じられないよ」


入港に伴い先導をする海上保安庁船艇の中、最後尾に付くため中程で待機してい放射能調査艇『さいかい』の魂『さいかい』は、自分の前をゆっくりと進むアイゼンハワーの全景を見るため顔を上に、空を仰ぎ見るように背を反らしてみた


彼女は産まれて十年目に入る船齢、佐世保という日米両方が基地を構える港を勤務地としているため、湾を出入りする大型のアメリカ艦艇はそれなりに見ているし、日本の大型護衛艦『おおすみ』なども目にし、写身の全長が十八メートル程度しかない自分から見たら百メートルを越す大きな船の魂達も数多く存在するものだ理解はしていたが


今、ここにやってきたそれはこれまで知っていた船の大きさを軽く凌駕する事に目を回していた

見上げたまま戻らぬ姿勢で、だらしなく「は」と口を開けて

しかし小型船舶に毛の生えた程度の彼女からしたら無理もない事かもしれない


これまで見てきた大型艦艇の倍以上の大きさ、群を抜くアイゼンハワーの姿はまるで小山が動いているようにしか思えなかいのだし


昨日、米海軍原子力空母の入港の確認が入り事前に周辺の放射能の測定をした海域は開けた景色を見せていたのに、朝方まだ暗い内からこの空母の横に随伴する形で待機していた時には気持ちがひっくり返り、落ち着きを無くしてしまった


見えていた景色を遮る大きな灰色の壁が近づくや、急にココに現れた環礁なのかと目を疑ったが、朝日と共に姿を克明に現した時には、やはり信じられないものを見たという目になっていた


「本当に同じ船なの?」


自分が丸太に縋る蟻のようにしか思えない

写身の船である自分を何隻並べたらこんな長さになるのかと、端から端までを見るのに右へ左へと首を動かさねば見えない全長三百三十三メートルの巨大艦艇に愕然としながら、揺れるように後ろに付こうとしていた


「トッキュー!『さいかい』!ボケっとするな!!」


見たことのない巨漢に目を白黒させ、心定まらずの『さいかい』の姿は回りを囲む海保船艇の姉妹達に十分に見えていた

呆けた顔に甲高い声が平手を打つ


「このデカブツを錨地まで無事にご案内するんだぞ、しゃきっとしろ!」


佐世保に詰める海保の姉『ことざくら』が檄を飛ばした

今回の護衛船艇姉妹達の中では最年長、佐世保勤務歴二十年のベテランは姉妹の中一番身の丈も小さが声は大きい、短く切りそろえた黒髪の前髪を風に踊らせながら、先を行く姉妹達のさらに前を睨んでいる


「そうだよ!ココを通れる時間だって限られてるんだから!」


アイゼンハワー艦尾を左サイドの『ことざくら』の声に反対サイドを走る姉『つばき』は引っ詰めた長髪をなびかせながら、青の作業服の前で組んでいた腕を解くと前方を指差す


荒海の七管、不審漁業船団、徒党を組んで日本の海を荒らす者達と戦う七強き姉達

言葉は荒いが仕事に対する誇りは誰よりも高い魂達に叱咤をうけた『さいかい』は自分の頬をはっ倒して返事した

これ程の大型艦艇が入港するために、港には色々な制限がかけられている

時間を無駄にする事なく目標の三十五番錨地に向かわなくてはいけない


「はい!」


そして目前に迫る気配に目をくれる

『つばき』が指した先に見える者達に緊張が高まる

「しっかりしろよ!湾に入る前に平家がくるぞ!」

勇ましく自分の頬を這った妹と、前を行く姉妹達に『ことざくら』が顎あげのポーズで号令する


湾に入るための道を遮ろうとする数隻のボート達

『さいかい』も何度か味わった抗議の船駆る「人」達の姿

後方からも波を分けて近寄るボート達が姿を現す


原子力の船の入港に対し、原子力で軍人市民無差別の死を与えられた長崎県は決していい顔はしない。そこに住む人達をはじめ平和団体が小型のボートに乗り抗議に帆走を始める

制限水域に入る少しの間だが、朝の静かな水面を震わす拡声器の悲鳴が鳴り響きだした


「NO CVN-69 Eisenhower GoHome!!」


声をからし拡声器越しに怒鳴る、横断幕を振り大きく拳を突き上げて

手に手にプラカードと船に赤い旗


「でたな平家ガニ」


『ことざくら』は米海軍の空母や艦艇が入港するたびに起こるこの現象をそう呼んでいた

赤い旗は、侵入禁止、赤信号と色々な意味合いをもって掲げられていたが、彼女は趣味の読書で学んだものの名前を付けていた

平安時代の最後の徒花、源平の戦いの中で海の藻屑と消えていった平氏、その御旗は赤い旗

皆底の亡者が生ける権力に恨み節をぶつけに来る行為だと


「耳栓が欲しいですね、姉様」

耳に自分の手を当てて片目をつむる『つばき』の仕草

「まったくだ、半分は私達に対する罵倒だからなぁ」

『ことざくら』はすでに前方にてアイゼンハワーに近づかないようにと勧告を始めた姉妹達の背中を見ながらうんざりと肩をすくめた


今時の抗議行動では空母にぶつかってくるような過激な行動にでる者はいない、海保の護衛からも離れた遠巻きに反対の声をあげ怒鳴る、それが精一杯だ

そうなると届かなかった怒りの差分はどこにくるかと言えば、海保の船艇にむかって「米帝の原子力空母なんぞを護る非国民」と叫ぶ声に変貌し野次や罵倒が連らねられるという行動になる


力届かぬ空母への罵倒より、回りを走る海保への非難へと…

どちらが多いかと言えば海保に向けられる罵倒の方が多いのでは?というぐらいうんざりな話しだった


「おい!そこの船、ぶつかってくるなよ!」

『ことざくら』は調査船の『さいかい』をフォローしながらも、自分の前を走る抗議に参加した小型船舶の魂に注意をする


「しないよぉ、こんな大きな船にぶつかったらペチッとなってしまうよぉ」


船の舳先に座り、日差しのまぶしさを手を避けながら浮かぶ鉄壁を眺めるボートの魂は残った片手で自分の写身の船体を叩いた

「軽く、藻くずだね」と

低速で行くアイゼンハワーの横を護って走る『ことざくら』の注意に、スカイブルーと白のペイントも真新しいプレジャーボートの魂である彼女は答えた

彼女の後ろに並んでいたボートの船魂も肩をすくめて


「旦那様達がおかしくなっちゃわない限りは私達からぶつかるなんてないから」


秋風に揺れる白のストールをなびかせる栗毛も美しい彼女は、いつもの事に海保の船魂達の苦労も思って苦笑いしてみせた


同じように空母に併走して走るボート達は、自分たちに乗り抗議の拳を振る人とは全く対照的な態度だった

最初に『さいかい』がしていたようにポカンとした顔で皆アイゼンハワーの巨体を見て同じような事を言うだけだ


海に生きる船の魂達と「人」の世界


同じ世界にするのに人は闘争と抗議のために自分たちを駆り出す

だけどボートや船の魂達は争い事とは無縁な図


「大きいねぇ」

「どんな人(魂)なんだろ?」と世間話の領域だ


少し前の粉川がココにいて見ていたのならば、いかにもおかしな図だと首をひねった事だろう

だがそれこそが人が自分勝手に自分たちの存在だけを真ん中に置いている図でしかない


本来ならば

同じ世界に居ながら争いの心を捨てられない人と、争いを好め無い船の魂が生きている

各々の考えがありながらもお互い不自由の中で共生し、各々の領域に生きているだけ

だから人達はやかましく騒然とした海だと思っても、船達は大きな写身を持つ仲間程度にしか見ていないという図というだけだ


だから多くの船に囲まれたアイゼンハワーは魂達からはなんの罵倒も受ける事なく悠々と進む



「good morning!日本の友達ィ!!」


人達の罵倒が飛び交う海の上、ゆっくりとした歩で湾へ進むアイゼンハワーのハリケーンバウのさらに上、飛行甲板の真ん前で手を振る影が青空の下元気の良い大きな声で挨拶をした


「しばらくお世話になるわ!!よろしく!!」


甲高い声の主は、アメリカ合衆国海軍大将の制服を着こなした姿

緩いカールのかかった肩より下まで伸ばした金髪を風に揺らし、秋空の青を写したような碧眼を輝かせて手を振る


身の丈は小さく、年の頃も十代後半の『さいかい』は自分とあまり変わらない雰囲気の魂に目を開いて、手を振り返して良いのかと固まってしまったが

相手はまちがいなくこの巨大原子力空母の魂であり、アメリカ海軍艦艇団の頂点、その一角を担う大将である魂

しかし威厳を醸す重いものよりも朝日を伴った軽いテンションが、満面の笑みで投げキッスをしながら自分の回りを囲む船達に手をふる


「アイゼンハワーよ!!アイクでいいからね!!」と


元気のいい声に「原子力空母寄港反対」の横断幕を下げて走るボート達の魂は手を振り返す

「こんにちわ」とか「いらっしゃい」とか

ただの来客お迎えの風景に早変わりしているのに気の利いた反応が出来ない『さいかい』は変な顔をさらす

今まで自分は緊張してこの巨大な船の入港に備えてきたのがバカみたいに思えたのだ

何度か目を開け閉めして


「なんだあれ…」


誰彼構わず朗らかな声で愛想良く挨拶をするアイゼンハワーの姿を見て不思議そうに声を漏らした


「『ことざくら』さん、あれがこの船の方ですか?」

「じゃない」


何度もの入港を警備した『ことざくら』は覚めた目線をしながら、大声で反対を叫ぶ人達と、それらを乗せながらもアイゼンハワーの挨拶に手を振るボートの魂達を見ながら答えた


アメリカの艦魂達はどこか尖った印象しかもてなかった『さいかい』には新鮮過ぎて風変わりな光景だった


事実、同盟国としての日本の護りの一端を担う第七艦隊の艦魂達は港に入るたびに抗議行動などを見せつけられるという景色に大半が反感をもっており、警備につく海保の船魂に愛想良く話しをした事などなく、事務的な挨拶程度しかしない

軍務に関係のない船達などには絶対に声もかけない


なのに目の前の金髪娘は元気いっぱいで、ご挨拶演説の真っ最中だ


警戒を怠らぬよう視線を動かしながら、またも呆けてしまっている『さいかい』に注意を飛ばすと『ことざくら』は伸びをしながら教えた


「アメリカのさ、空母の連中は割と愛想がいいんだ」

「そうなんですか」

「そうなんだよ、まあ前に入港したキティホーク大将ってのはちょっと堅い感じの方だったけど、さらに前に来たAbraham.Lincoln大将ってのもやたら大きな声でご挨拶はしてた」


日本に来るアメリカの艦艇は皆寡黙だが、空母だけば何故か騒がしいと『ことざくら』は状況を飲み込むのも鈍くさそうな妹に教えた

「人」の世界でも空母は武力外交の一端を担っており、寄港が決まれば騒がしくなる存在ではあるが…

魂達の世界では空母の方がやたら明るく寄港を喜ぶのが普通だと『さいかい』は初めて知らされた


「まあ、張りつめちゃってるよりはいいんじゃないの」


そういうとせまる湾の入り口に最新の注意を働かせよと妹達を叱咤したが、見上げる先にいる騒がしさを超越した行動を続けるアイゼンハワーの姿に内心は不安あった


「こんな騒がしいヤツ…知ってる限りじゃあのビックEってヤツ以来だ、大丈夫なのかな」


日本における原子力空母の第二の寄港地とも言える場所は、日本に初めて原子力空母が入港した土地でもあった

その時の騒ぎは、海保の記録にも燦然と残されている

読書が趣味の『ことざくら』は自分たちの仕事の中、姉たちがこなした歴史に大きく残った事件を良く聞き知っていた


佐世保港原子力空母寄港反対の大暴動

民社、公明、左翼にさらには学生団体と市民団体、合わせて四万七千人もの日本人が原子力憎し!アメリカの行うベトナム戦争への前線基地化許すまじとぶつかった

新年明けたばかりの佐世保市は今では考えない非常事態の中にあった

C11機関車に満載に乗った寄港阻止の戦士達はヘルメットに顔隠すマスク、ゲバ棒に角材で武装した姿で隊を組みアメリカ軍基地に迫った

一月十七日平瀬橋での大激突で放水車及び催涙弾を発射するという大騒ぎになり、市民にも数多の被害を出す

その後に開かれた各党の抗議演説の広間には、今日のように赤い旗が無数立ち上げられた


日本を震撼させた暴動騒ぎの中、進取の精神を冠した空母は堂々と入港した

今日来たアイゼンハワーとなんら変わらぬ笑顔で


「good morning!日本の友よ」と


それに対してどう反応して良いか心の準備もできなかった当時の海自艦艇と海保船艇

人と同じく戦後の日本に産まれた護衛艦達もまた、アメリカの艦艇に対して良い思いを抱いてはいなかった時代に


人にも艦魂達にも大きな波風を伴い入港したビックEの記録


「人の騒ぎは少なくなっくても…私達には嵐を起こしそうなヤツだな」


前を行く、巨漢の魂

騒がしく挨拶を交わす姿に『ことざくら』は不安の溜息を漏らした





青天に恵まれた佐世保にも日差しの強さとは別に冷たい北風が届くようになっていた

水面を走る冷えた風、湾内の深い水深、濃い水色の上をアメリカの艦艇は次々に入港し

アイゼンハワーが三十五番錨地に止まると、続いて潜水艦の二隻、イージス艦一隻が基地に入り、各々の錨地と停泊のバースに付いた


後を追う形で『くらま』『いかづち』『ゆうだち』さらに潜水艦の姉妹二人それぞれのバースに付けられ、一通りの大仕事が終わったのは昼を回った頃だった


アイゼンハワーが停泊した場所は海自のバースからでは少し遠い、佐世保基地から真っ直ぐ南に下った口木崎の沖合にある錨地ポイントだ。原子力系の艦艇つまり潜水艦などもこの近くの錨地に停泊する事になる

原子力艦艇である事で佐世保港、町に近いバースに付ける事が出来ない事もあるが、三百メートルを超える巨漢を横付けできるバースがないのが本当の理由でもある


何処にも手足を付けられない海に浮かんだ形で佐世保湾に停泊するのは、せっかくの寄港なのにかなり寂しい形ではある

そんな相手を気遣うべく『くらま』は原子力艦艇の寄港があればいつもしているように相手の甲板に佐世保の艦魂達を揃えて歓迎の挨拶に伺い、敬礼と挨拶を交わしていた


「佐世保基地にようこそ。司令艦ドワイト・D アイゼンハワー殿、貴女方を歓迎します」


黒のダブルスーツに着替えた『くらま』は目の前、バラ色に舞い上がった満面の笑みで自分を見つめるアイゼンハワーに親愛の挨拶と敬礼をした


「ありがとうございます!!歓迎感謝ですぅ!」


アイゼンハワーは極めてご機嫌だった

演習が終わりしばらくココに居続けが出来るという事で身も心も有頂天の様子、待ちに待った愛の時間への暖気は十分行き渡った心と体、敬礼もそこそこに飛びつくように『くらま』の手を握ると


「ああっやっとアイクって呼んでくださるんですね!」

「そんな事を、部下達もいます」

「そうですわ!だから!早く二人きりになってぇ」


甘い声が唇からこぼれ出す指令艦の姿に顔を背けてしまう、駆逐艦カーティス.ウィルバー艦魂クーンと潜水艦シカゴ艦魂ミラー

我関ぜずの顔で微笑むだけの潜水艦コーパスクリスティ艦魂マリア

到着早々、司令艦の暴走を止める術がないアメリカ艦魂達の前、移動のための輝きは一瞬にして開かれ制止の声が光りの粒を振り払う勢いで飛んだ


「何を言っているのですか!!アイゼンハワー司令艦!」


へばりつくように『くらま』に迫り、危うい言葉を吐き出しそうだった所に割って入ったのはエセックスだった


「司令艦殿しっかりしてくださいませ!」


さらに隣には共に佐世保に居続けでアイゼンハワーやエセックスと同じく『くらま』を狙っているジュノーとハーパーズ.フェリー

階級的には中佐クラスの二人も控えた物言いと最敬礼をしつつも顔に鬼が宿ったかのように赤くなって

「日本海軍(海上自衛隊)の皆様が困っていらっしゃいますわよ」と渾身の釘をさした


「あら、出迎えはいらないって言ったのに」


迫る部下達の手前『くらま』から体は離したものの手は握ったまま、表れた佐世保駐留古参組の者達に不満げに口を曲げてアイゼンハワーは嫌味の挨拶を返した

「仕事が大変でしょうから挨拶にはこなくてよろしい」と先に電信していた事で警戒されたかと顔を歪ませて、自分にライバル心剥き出しの視線をくれるエセックスをにらみんで


だがエセックスもココでは負けてはいられない

相手が合衆国海軍の空母十司令艦、(艦魂物語ではまだGeorge・H・W・bushが誕生してません。原子力空母司令艦はRonald.Reaganまでです)とはいえ決して負けられない

日本に配備で、長くこの地に居続けた間に募らせた『くらま』への想いは半端じゃない

煮えたぎったジェラシーを封じ込め冷静な嫌味を切り返す


「いいえぇ、司令艦がおいでになるのに、ご挨拶もしないなんて共にステイツに尽くす艦魂として失礼じゃありませんか」


手を離さないアイゼンハワーを鋭角に突き上げになった心、見せない怒りを笑わない目ででエセックスが告げる


しかしアイゼンハワーだって負けられない

念願の麗人、東洋の麗人ナンバーワン『くらま』との逢瀬を手放せるわけがない

ただでせさえ合衆国を代表する司令旗艦の魂として一所に留まる事のなく世界を動き回る仕事、それも国家の護りとして厳しい規則の中での廻ってきた奇跡の大チャンス

これを逃して次があるなんて甘い考えは頭の片隅にも残ってない、むしろこれを最後と気を挙げて乗り込んだのだから


相手の冷笑の前、アイゼンハワーも冷徹にしながら愛嬌のよい丸い目の中に怒りの炎を宿したまま口だけで笑うと


「私はぁ、司令艦同士としてね、今回の演習を通して愛称で呼び合えるほど親しくなったの、だ・か・らぁ、部下の前でも遠慮なさる事ありませんのよ」


いつそんな事がと驚く海自艦魂達の前、微動だにせず切り返す『くらま』


「ええっ司令艦『くらま』と、何度も指導のために呼んで頂き演習中も緩むことなく気を引き締めさせて頂きました」と

すでに暴風圏の中、うかつな言葉は発せられないと警戒している『くらま』は目で回りにもう一度敬礼と指示をし注意をそらそうと試みるが

相手の艦魂達はヒットーアップ、花の嵐の戦いはココに並ぶ海自艦艇艦魂や、合衆国海軍艦艇がいる事など世界の果ての、端っこの存在で最早見えていない


ココにいるのは自分と『くらま』それを邪魔する恋敵

世界は『くらま』とアイゼンハワー、それにエセックスで回っているという状態


「そうでしたわね!!私ときたらエキサイティングしてしまい貴女の名前を何度も呼んでしまいましたわ!!それ程に演習は有意義で濃い時間でしたわ!ですから私の事を遠慮なくアイクと呼んでくださいませ!」


堅い態度を保ち平静を続ける『くらま』の姿もなんのその

まったく話しが通じていない

むしろそれによって濃い関係を深めたかのようなニュアンスに話しがすり替えられている


「さあ!あの演習の夜の時のようにお呼び下さい!」


意味不明な言論で自分より身の丈のあるエセックスに向かって胸を張って勝ち誇るアイゼンハワー

しかし相手も引きはしなかった


「そうですか、ですけどね、ええ。な・ら・ば、私はずっと佐世保にて日米の架け橋となって親好を育んで幾多の夜がありますわ!さあ演習から戻られた今は普段通り愛称で呼んで頂いてもかまいませんわ!司令艦『くらま』」


小さいくせに反れ返るほど顎挙げのポーズを取るアイゼンハワーに、言葉尻を掴まえたエセックスは自分の夢色に塗り上げた言動で切り返し小さな司令艦を除けるように体を近づけ


「さあ、リーバと呼んでくださいませ!」


エセックスの後ろには、自分たちの代表である彼女をプッシュしなからも本命は自分と目を潤ませるジュノーとパーパーズ.フェリー

火花散る愛の戦いは、ココに挨拶に集まった他の艦魂を置いてきぼりの状態でぶっちぎりの発進をしていた





「激しいわぁ〜〜〜」


薔薇達のゴールデントライアングル

蚊帳の外の護衛艦達の中、演習参加で前列に並んだ笑顔の混乱誘発者『はるさめ』は頭をフワフワと動かし上弦の月を横に並べた目で『うずしお』の顔を見た


「ええわ、司令…モテモテやで」


目の前、数多の艦魂に言い寄られる自分たちの基地司令『くらま』の姿を見る『うずしお』は感動に拳を震わせていた

モテモテ東洋一(潜水艦部門成立によって)を目指している潜水艦艦魂の『うずしお』は深く掛かった前髪の下で気を吐くと、目標に対する敬意を口にした


「ワシもなるで…絶対になったる…」

「お姉ちゃん…」


『うずしお』の隣には燃料補給も兼ねて横須賀に帰る前、佐世保に寄港した妹『なるしお』が、同じように長く顔に掛かった前髪の下で姉の言動、行動を見つめている


「『なるしお』…よう目に焼き付けとけ!いつか司令みたいにモッテモテになるんや!お前もワシとモテ道を走るんや!」

「はい…」


内気でしられる『なるしお』は演習帰還で前列に並ばされ、お熱い戦いを目と鼻の先で見ている事に心が追いつかないところに来て、姉の気ハイテンション発言で望んでないのにモテ街道を走しる事になりかねない自分の将来に足が震えている


萎縮した姿で首を小さく左右させながら助けを待つという可哀想な姿の妹だが姉である

『うずしお』は遠慮なく連呼する共にモテ道を共に走れと、あまりに滑稽すぎる並びだが、目の前で合衆国を代表する空母の艦魂がこんなままでは、挨拶行こうの会話が成立するにはまだ時間が掛かりそうな状態だった


「こまったわね」


そんな騒ぎを

一線後ろで見ていた『しまかぜ』は『くらま』を助ける船も出しようのない状態に軽めの息を一つ着くと、まだしばらくは続きそうな騒ぎを尻目に帰港してから一言も口を聞かない『いかづち』に声をかけた


「お疲れ様、大変な演習だったようだけど、よく頑張ったわね」


ショートボブの髪を揺らし、優しい笑みで『いかづち』の肩を叩いた『しまかぜ』はいつもなら騒ぎに飛びつく側の『いかづち』が落ち込み顔を下に向けて無言を守っている事を気にかけていた


「どうしたの?…『こんごう』の事心配してるの?」


覗き込む『しまかぜ』の顔を避けるように、小さく首をふって

「わて…わて…」

唇を何度も噛んで口ごもる『いかづち』


肩に手を乗せたままの『しまかぜ』は今回の演習が、実験兵器を使ったものでそれが『こんごう』に熾烈な戦いを強いるものであった事を報告ですでに知っていた

その場に立ち会った『いかづち』が演習の結果こそ「良」を出すことができたが、最善を尽くしながらも昏倒し倒れた『こんごう』の事を思って何も語れない状態になっているのだと考えていた


「大丈夫よ、『こんごう』も直ぐに戻ってくるから」

「ちゃうねん!」


励ましの言葉をかけた『しまかぜ』肩に乗せられていた手を『いかづち』は、はね除けた

「ちゃうねん、わては」

軽く跳ねられた手、相手の過剰な拒否反応に見開いてしまった『しまかぜ』の顔を見て『いかづち』は、声に出して自分の思いを叫んでしまいそうになった

粉川を好きになってしまった事を、だけどこんなところでそんな事をぶちまけられない

涙目の自分を封じ込むように、舌をかみ切らん勢いで口を閉じきつく唇を噛んだ

あのとき


見てしまった


『こんごう』と粉川の口づけを


そして感じてしまった

わずかにつながていた状態の中で『こんごう』の唇を介して自分の唇を濡らしたあの感覚を


それ以上の感情が流れ込む意識の濁流の中で


人を愛した艦魂達がいた事を知ってしまった

先の大戦を戦った姉達の記憶、焦がれんばかりの熱い想いと、裂かれんばかりの悲しみの別れとを

『いかづち』の想いは大きくなっていた、艦齢、人と船、色々なものを越えてでも愛し合える事を見た事で


これから三十年の間にもし、前の大戦のような事が起これば自分たちを想ってくれる人はいるのか?共に愛を持って戦ってくれる人はいるのか?


愛されない護衛艦なのに


でも近くにいてくれる人、自分たちをわかってくれる人に巡り会えたことに

粉川への思いは募っていた


私を見て欲しいと

私を愛して欲しいと


宙を彷徨う『しまかぜ』の手の前『いかづち』は目を合わせられない姿で


「ごめん『しまかぜ』はん、わてちょっと具合悪いんよ」


苦しすぎる言い訳をしたが、勘の良い『しまかぜ』を騙す事など出来ようもない失態の前で『いかづち』は小さく自分の身を丸めてしまうほど項垂れた

「『いかづち』」

『しまかぜ』は声をかけながらも『こんごう』と彼女の間に何があったか、そこに粉川が関係している事を咄嗟に感じ取っていたが、今ココで話す言葉はなかった

沈黙の重い二人、それを背中越しにしっかりと聞き耳を立てる『はるさめ』




「愛は誰にでも平等ですよ」


下がった『いかづち』の顔を、銀色の瞳はいつの間にか二人の間に立っていた

足音もなく、静かに流れる風のように立っている

神秘の存在のように赤のスータン、軍属とは思えない出で立ち黒髪の中に紫の影を写す長髪の彼女は、微笑みのまま背を丸めた『いかづち』の手を取ると


「貴女には隠しきれない愛が見える」


聡明さを十分に理解させる、透明感ある流暢な英語で語った

心の底を読む瞳に、顔を上げた『いかづち』の涙に濡れた目が合う、その涙を掬うように彼女は話しを続けた


「私にそれを教えてください」と首を傾げて

優しい笑みの前、相手の胸に小さく輝く階級章に気がついた『しまかぜ』は姿勢を正し敬礼した


「申し訳ありません!騒がしいことになりコーパスクリスティ大佐殿」

白銀の目は笑う

「貴女の愛も見えますよ」と

隠された心の想いを抉り出す言葉を『しまかぜ』にも告げた


「貴女の愛も、貴女の心の奥にある想いも是非に教えてくださいませ」

艶やかな唇に宿るもの


佐世保に集まる艦魂達に花の嵐は巻き起こる


艦魂物語,魂の軌跡〜こんごう〜外伝の外伝 港の働娘その2



氷川丸の思いは風の中に乗っていた

曳舟、タグボートの魂『ぽんぽん』の言葉に思い出したものは

あの時の日本


光の輪を表し彼女達のところに飛ぶ間に、時間の海をさかのぼってゆく




一九四五年八月十五日

日本は負けた、負けて何もかもを失ってしまった

その日を氷川丸は舞鶴で迎えていた

着慣れない海軍の服は最後の日まで自分の体にしっくりする事はなく、すすと汚れにまみれ色あせた自分の姿だけが絶望の戦いの終わりを聞いていた


「なんのために戦ったの…」とそれまでの道のりを、苦しみの中日本に戻った日の事を思い出していた


あの年の二月に氷川丸は戦争中三度目の死線をさまよっていた、十二番船倉に進水した海水、それを引き起こした船尾への触雷で背中を抉られ止まらぬ血と、肉に海水という塩を塗り込まれる激痛の中で

ただ日本を目指していた


体を重くする塩水は怪我に苦しむ氷川丸を何度も嘔吐させた、そのたびに意志は薄れ

入れ替わるように鮮明な

妹達の声だけが頭の中で響き続けていた


「私達は客船だよね」


シンガポールから日本へ

旅を楽しむお客様を乗せるという仕事ではなく、傷ついた兵士と未だ戦争の負けを認めない日本軍のために補給を腹に抱えていた

戦うための燃料も事欠く軍のために大量の重油缶を積み、食料を積み

純白の白鳥と呼ばれた自分をどす黒く汚し続ける血の香りの中で、何度も妹の声が響く


「姉さん、私達は客船だよね…」


一年前、トラック島の空襲で沈んだ妹平安丸、その死は簡単なものではなかった

アメリカ軍の空襲を受け、燃え続けて転覆した

あれほどに震え、行くことを恐れてたトラック島で

もう一人の妹、日枝丸もトラック島への物資を運んだが故に死んだ


特設潜水母艦となった二人の妹は、人ではなく武器を運んだ末に死んだ

それはもっとも望まない死であり、考えた事もない死だった


「そうよ…私達は客船よ…私達は、こんな事する船じゃない…」


客船だった

戦いを仕事とする船ではなかった、旅と人の喜び笑顔を運ぶのが生きる道だった


それが三姉妹の誇りだった

思い出に瞳が潤む中、移動の光が消え始めた





氷川丸が降りたタグボートの上はすでに大荒れの状態になっていた

何に荒れているかというと

タグガール達、彼女達特有の集団心理によって行われている「励まし合戦」で


彼女達は常からして元気がである事が生き甲斐の魂達だ

海の男に娘がいて、海が大好きで大好きで大好きだったらこういう子になるんじゃないかと思うほどに

だから誰かが落ち込んでいたりすると、あの手この手と使って励ます

そう、あの手この手と使って

そしてそれが脱線して大抵大変な事になり、泣く事になる…集団で


そうなると一時間は手がつけられない

集まったタグガール達の中に舞い降りた氷川丸は、急いで声を掛けた


「みんな、こんにちわ、ちよっと落ち着こうか」

幼稚園の保母さんよろしく、長身の自分より遙かに百四十センチ代小さな身の丈の彼女達の間を歩く

しかし、やはり氷川丸の到着は少しばかり遅かったようだった


並んだタグガール達は順番に『ぽんぽん』を励まそうと頑張り過ぎて…おかしくなっていた


「ひどいよ『ぽんぽん』悪いのは顔だけだと思ってたのに…頭もだなんて」


囲みの真ん中、小さく体育体育座りをして頭までを丸め込んでいる『ぽんぽん』に励ましのジョークを飛ばしたのは『みんみん』頭のてっぺんに引っ詰めを作った髪を大きな尻尾にして揺らしながら踊る


「ちょっと『みんみん』それ励ましてないでしょ!」

励ましの逆回転が始まってるのに気がついた氷川丸が注意するが


「ひどいよ『ぽんぽん』短いのは足だけだと思ってたのに…手もだなんて」

「それ励ましじゃないでしょ!!」

『みんみん』の後ろでケチャダンスを踊ってまっていた『きんきん』の言動は大幅に脱線していた


悪気はないのだ、彼女達は

なんとか励まそうとして冗談を考え過ぎて空回りを始めているのだ


「すごいよ『ぽんぽん』長いのは胴だけだなんて…足みじかいのに」

エスカレートしてゆく「励まし」相手の欠点なのか美点なのかも混同されていってしまう


氷川丸は懸命に一人一人に話しをしたが無理だった

もっと早い段階でここにきていればこんな事にはならなかったのだが、逆回転を始めた励まし合戦をとめられると彼女達は泣いてしまう、津波のように


「ひどいよ『ぽんぽん』なんで笑わないの…悲しいよぉ〜〜」

原点に返った

『ずんずん』の一言で津波は起きみんな一斉に泣き出した



こうして氷川丸は丸一時間の休憩に強制的に入る事になってしまった






次回をかくまえに一度氷川丸さんに合いに行ってこようと計画してます

この話しも楽しみにしてくださる方が多くて嬉しいですから

期待に応えられるように、彼女とお話してまいります

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