表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/90

第六十五話 憧れの姿

ひさしぶりに戻ってきました

私生活に色々あったり、思春期でもないのに悩みまくったりで大変でした


メッセなどで続きを期待して頂いた「氷川丸とタグガールズ」またも書ききる事できずでもうしわけにゃーですぅぅぅ

許してやってくださいませ


今話はspecialthanks二等海士長先生でお送りします

「私達の魂を見つけて」


薄く膜を下ろしたように雲の間を彷徨うよに『こんごう』は微睡みの中を泳いでいた

上も下も天も地もない空間にな浮かびながら、四方から自分に向かい懇願を続ける声にむかって叫んだ


死にむかう狂気の海で戦った姉達が、残して行く愛する日本に託した願いがそこにあると魂達の声は木霊し続ける

雲の間を泳ぐように彷徨う『こんごう』に何度もの声が願いを問い続ける


「姉さん達…私はどうすればいいの?」


眉間をつねるような激痛

声はただそれだけを繰り返して頼み続ける

一人、二人の声ではなく多くの魂の女達はどれも悲しみの色を込めた声で答える


「心は日本に置いて行きます。三笠様の元に」

「三笠様…」

無位置の空間、夢と現実の中に浮く『こんごう』に願いを託した





「姉さん…」


自分が木霊する声に返していた言葉が、現実の声として耳に届いた瞬間に『こんごう』は目を覚ました

重く埋まるように沈んでいた頭を枕に預けたままゆっくりした動きで回りを見渡す

見慣れた灰色の天井が霞んでいた目の中で明確な形になった時、自分の顔を心配そうに覗き込む別の顔に気がついた


「『ちょうかい』…『ちょうかい』?」


慣れた景色を思い出した『こんごう』は顔を起こし、自分を見つめていた相手を確認するように普段でも尖り目の大きな瞳をさらに大きく開いた


「そうだよ、『ちょうかい』だよ、お姉ちゃん」


『こんごう』はまだ自由のきかない体を起せず、首だけを動かして妹を見つめる、目の前やっと目に生気を取り戻した姉の顔に『ちょうかい』は堪えていた涙を零した


「良かった無事で」


粉川には演習にて傷ついた姉の事について責める事はせず、そんな何事でもない、自分たちにとっての日常、有事のための訓練で良い成績を残せたことを誇ってみせた『ちょうかい』だったが、本当は頭脳に対する攻撃の痛みが尋常でない事は良く知っていたし、しかも今回姉に使われたそれが並はずれたものであった事を思えば本心は泡立ち、すぐにでも飛んでいきたい気持ちで一杯だった

眠り続ける姉の艦影のとなりで満たし続けた不安が、今瞳の中で涙となってこぼれていた


痛みの戦いを制した姉を誇りと告げながらも

心や体を痛めた姉をを案じ続けていたていた『ちょうかい』は、目からこぼれた涙に姉が不安を与えないように素早く拭うと、微笑みながら聞いた


「大丈夫、もう頭痛くない?」


『こんごう』三日ぶりの目覚め、沈痛の中に沈み続け、活動を止めていた体はすぐには動かなかい様子だったが頭を動かし、少しずつ体の各所に力を走らせていく

腕を動かし目の前に手をかざして指を動かしながら自分を気遣う妹に返事した


「心配ない」


水色の瞳を潤ませた妹の顔に、同じ水色の目が諭すようにこたえると妹の不安を飛ばすように勢い良く体を起こし

「よく眠った、もう大丈夫だ」と妹を安心させるために笑った


服を身につけない裸身の女神は自分にかけられていた布団を払うように落とすと大きく背伸びをした

真っ白な肌、茶色の長い髪が柔らかな丸みを帯び揺れる果実に添うように流れる前、自分より遙かに女らしい体を見せつけられ顔を真っ赤にした『ちょうかい』は目を反らしてしまう

目の前、布団をなぎ払ってしまった姉は上から下まで何も身につけない姿

さすがに姉妹、女同士でも直視はできない恥じらいが顔を下げているのに当の本人である『こんごう』は気にもしない様子で聞いた


「何日寝てた?私は?」

「三日、今日の午後から明日にかけて艦内の大掃除、明後日は最終調整をして、翌日には佐世保に戻る事になるよ」


『ちょうかい』の存在が自分の前にいる事で『こんごう』は自分が演習から向こう昏倒の状態で佐世保に戻らず、長崎にて修復になった事を即座に理解していた

流れ散らばった髪に手櫛を通しかき上げながら、もう一度大きく背を伸ばし、体の動きを鈍らせていた鉛を落としてゆくようにストレッチする


全裸で


理路整然と姉の今後の日程を話しながらイスの上で体を小さくして目を合わさないようにしていた『ちょうかい』は、姉の状態が自分が考えていた以上に元気である事を確認して安心すると同時に今目の前にいる裸の姿に思っていた事を聞いた


「なんで裸なの…お姉ちゃん、寝るとき服着ないの?」


それは長年『ちょうかい』が不思議に思っていた事だった

『こんごう』は自室にいる時はほとんど裸で過ごしているという事実

特に佐世保は基地内部、海近くにある煉瓦倉庫を寄宿舎とする生活だ。グループ分けされた部屋の中でさらに個人部屋に分けられているとはいえ、その中でも『こんごう』は裸で過ごしている事が多かった


部屋に入るときは必ずノックはするのだが相手が妹であるとわかると服を着ることなくそのままドアを開けて通す

最初はそれを普通なのかと思っていたが、他の魂達と過ごすことが多くなってきた現在それが姉だけの持つ特異な行動だという事に気がついた『ちょうかい』は一つ上の姉である『みょうこう』に聞いてみたのだが


「さあ姉様はナチュラリストなのでわ?」


とぼけた表情で的を得ない答えをかえされ

佐世保勤務で同室になった『はまな』にも聞いたが、『はまな』は極端に『こんごう』を恐れているせいか「しらない、何も聞かなかった事にしといて」と震える始末


どちらにしても護衛艦の魂の中で『ちょうかい』が知る限りでは、自室で裸で過ごしているのは姉の『こんごう』だけという事で、しかも自分たち妹の前ではそれが普通であるという事が気になっていた

他の魂がいるところではかっちりと制服を着こなす姉が…自室に来る自分たちの前で真っ裸なのはどうして?と


「着ないが…それがどうした?」

「寝てる時は別にいいけど…起きたらすぐに着た方が良くないかなって」


何を不思議な事を聞く?

そう言わんばかりの目が欠伸ででた涙を指に掬い眺めながら、裸のお尻をみせたままこたえる

立ち上がって首をならすという状態の中で、気押しされながらも多くの時間を姉と過ごす事もできず、今まで聞くこともできなかった事に、こんな機会はなかなか得られないのだからと心に思う『ちょうかい』は続けた


「私達の前でも裸だよね、どうして?はずかしくない…の…」

「なんで恥ずかしい?」


背中を向けていた『こんごう』は言葉の端を柔らかくするために崩しながらも質問し返した『ちょうかい』に向き直った

自分の裸身を見ることが出来ない妹が恥ずかしそうに体を小さくして上目遣いで懸命に顔だけを見ようとしているが不思議に見える


「恥ずかしいのか?」


念を押すように聞き返した姉の前、『ちょうかい』は首を大げさに左右に振って

「私は、その、裸ってあんまり他の人に見せるものじゃないと思うのね…」

「他人には見せてないし、外ではきちんと服着てるぞ」

「うん、でも部屋でも起きたら服着ていた方が良くないかな?と思ったんだけど、お姉ちゃんにはお姉ちゃんなりの考えがあって部屋では裸なのかな?と思って…聞いてるの」


自分の体をがんばって見ないようにしている妹の前で『こんごう』首をひねった

裸て寝ている理由は実は些少な事でそうなっていたのだが妹が不思議と考え込むような事になるなど、正直気がつかなかったからだ

細かな事情を話すのは恥ずかしい、『こんごう』は変な質問がやっかいな論議になった思い投げるように妹に聞いた


「裸で何が悪い?」


めんどくさそうに頭を掻く姉の問いに『ちょうかい』は困った顔で


「いや、その悪くないけど…そういうのがあったから粉川さんが、その、殴られたりしたわけで」

「あれは粉川がノックもしないでドアをあけるから!」


佐世保の艦魂達が住む寄宿舎であった粉川殴打事件

粉川が不審船事件の件で東京に戻る事になった時に催した送別会で起こった事件、前日に長崎に出てしまった『ちょうかい』ではあったが、その後同じ佐世保に席を置いている『はるゆき』が長崎に寄港した時に聞かされていた

日本護衛艦の艦魂達の間では最早有名な事件だ


「でも、通常勤務で寄宿舎にいる時まで、自分の部屋だからって裸でいなくても…とにかくどうして裸なのかなと思って?そりゃお姉ちゃんみたいにキレイな体してたら見せても恥ずかしくないだろうけど、反対してるわけじゃないんだよ、ホントにどうして裸なのかな…って思って」


尖り目が特徴の二姉妹、『こんごう』は妹が肩をすくめながらも懸命に話す姿を見つめる

『ちょうかい』は目の前にある女神の模倣ともいえる姉の体に羨みの目線を上げる


『ちょうかい』の目標の一つにあるもの、姉のようなキレイな容姿をなる事

現在イージス艦の姉妹の中で最新のベースラインを持つ彼女だが

魂の彼女は一番下の末っ子であり容姿の幼い歳である事も事実。彼女は『こんごう』のようにメリハリのあるスタイルの良い体に成長する事が魂の自分の目標だった


他にいる姉の『きりしま』は『なみ』姉妹系のスレンダーだけど背丈が小さく自分に近いし少し子供っぽい、目標としてはすぐに達成できるところにいるという判断をしていたし

もう一人の姉『みょうこう』は何故かいつも厚着をしている寒がり、あまり体のラインを見せる服を着ない人だが背丈は『こんごう』と同じぐらい


目標は高く


見える形としての目標、目の前にいる姉のように女として豊かな実りある体に成長したい

艦魂も少しは成長する、産まれて十年を目前とする歳になった彼女のその思いは強かった


憧れの姿


だからこそ、何故か惜しみなくその身を晒す姉の行動が不思議でならなかった

キレイな体なんだからキチンと隠していても美しさは伝わる、なのに裸でブラブラと歩く『こんごう』の行動が不可解に思えてしまっていたのだ


「裸でいるのを悪いとは言わないけど、そのもしもの時とか…困るでしょ」

「もしもとは?」


目線を四方に泳がせる『ちょうかい』

「だから突然の有事が起こったりする事だってあり得るのだから」

「そんな時まで悠長に構えていたりはしない」

当然の事なのだが、『こんごう』は職務に限りなく忠実な心をいつでも妹達にしめしてきている

「わかってるよ」


機嫌を損ねたようにトーンを落とした姉の返事に、少しでも姉との会話を楽しみたい『ちょうかい』は謝ってしまうかのように慌てて返事した

眉を下げてしまった妹の顔に、叱りつける気はなくても萎縮させてしまった事を感じ取った『こんごう』は修まりの悪くなった会話をなんとか良い感じで終わりたいと思いながら、自分が自室や自艦内の部屋で裸でいる理由というのを、自分の都合以外

理由で生まれて初めて考えて見た

可愛い妹を思えば、自分がしているそれが何なのかに答えを与えるのも姉の義務と思えた


「その、昔、誰だったか忘れたけど「武道家は裸である時が一番強くあるべき」みたいな事を教えられたような…」


頭をひねって思い出したのは、わずかにどこかに残していた過去の記憶で、それがどういう時に合った会話なのかは思い出せなかったが目の前でしょげている妹に告げた


「武道家?」


姉のひねり出したおかしな答えに少しの明るさを取り戻した『ちょうかい』は顔を上げた

「そうだ、私達は国を護るという艦の魂だろ、武装していなくても素の状態でも戦いに望むときは強い心でいなくちゃならない…そんな感じの教えだったような」

自分でも良く思い出せない『こんごう』は口に手を当てたまま弱くなった口調の中で自分を見つめる妹に懸命に話し続けた


「だから、その裸なのかな…」


結局自分に言い聞かすような説明になってしまった中、何時までも裸でいるわけにいかない『こんごう』は下着をベッドの下にある箱から取り出しながら

「誰に教えられたのかは覚えてないんだけど…とりあえずそれが理由かな」と困った目のままなんとか口を笑った形にして見せた


「そうなんだ」


『ちょうかい』もこれ以上姉に問いつめるのも悪いと思い、頷き納得の意志を示すと

「私も、今度から裸で寝ようかな」

「バカ!マネなんかしなくたっていい!」

説明してみると妹には同じ事はさせたくないと考えるもので、手早く下着を着けながら

「風引くからやらなくていいよ」手を振って止めておけという姉の前

シルクの生地も美しい下着に妹は目を輝かす、自分が将来なりたい姿の姉、その身を飾る綺麗なランジェリー

「私もそういう下着に替えてみようかとも…考えてるの」


憧れの対象

少しの休息で会うことが出来た姉に勤務の事以外で話しが弾むのは嬉しい事だ

『ちょうかい』は満面の笑みで普段は話さない、日常の会話、自分の事、姉のようにキレイに成りたいという希望を話していった

『こんごう』はいつもなら照れ隠しをして逃げてしまうところだが、勤務もない今、逃げる場所もないし不思議な事に逃げたいとも思わなかった


思い出す水の記憶の中

戦いの時代を懸命に生きた姉達の姿

大切に思う姉妹達の名を涙で叫び続けながらも地獄の海を、日本を護る戦いに散っていった姉達が見せた愛情を思い出しそれを実感していた

近いハズなのにどこか突き放し遠くに置いていた妹との距離を、やっと取り戻すように話しに耳を傾け続けた


笑顔がみれる距離で、今はとりあえずでもこういう緩やかで平和な時間を持てる幸せながある事に感謝をした





「夜に絶対に来てね!!用意して待ってるから!!」


昼過ぎに部屋に訪れていた『ちょうかい』は1500を過ぎたところで姉との楽しみのために夜の飲み会をする事を何度も約束と連呼しながら光の輪の中に消えていった


「粉川さんと一緒に来てね!!」


粉川と共に夜の宴に来てと告げ大きく手を振りはしゃぐ妹に、拒否の言葉はかけられない『こんごう』はこぼれ落ちる光の雫の向こうに消えた妹の姿から目をつむると一息吹いた

こんなに長い時間を妹と過ごした事がなかった。初めてづくしの疲れが溜息になってもう一度漏れたが、それは悪い意味のものではなかった


『ちょうかい』、後には佐世保の司令艦になるであろう妹は、自分の将来に置けるポジションと重責の事を良く知ってか常に堅い態度と規範となる姿勢を見せ続けていた

もちろんそれは彼女自身が護衛艦という魂に産まれた事から発生している責任ではあったが、彼女自身が思うところにはもう一つのものがあった


それは姉『こんごう』が自分たちにしてきてくれた事に対する恩返し、自分を愛し誕生前から自分に続くイージス艦という国防の盾の職務にスムーズに入っていけるようにという布石、その心遣いに対するお返しの形

口に出して姉に言うことはないが感謝の気持ちを責務の一つに加えていること


「それにしても…」

そんな妹の気持ちを少しでも理解しようと努めた『こんごう』だったが妹の頼んだ宴会への条件付けには少し複雑な思いを持っていたが、拒否はしなかった理由は別の思いがあったからだ


「粉川と話さなくちゃならない…」


現在護衛艦の魂達が知る日本で船の魂を見ることができる唯一の「人」である粉川に、『こんごう』は水の記憶を得たことで自分たちに託された思いを探すという使命を強く心に誓っていた


そのためには人の助けがいる事も、十分に理解していた





「遅くなってごめん」


1700を回った頃、イージス艦『こんごう』内部グループルームに粉川は足を踏み入れた

士官用の青服に首からタオルをかけ、充実した一日に満足な笑みをうかべながらも少しばかり遅れてしまった集合時間について謝った


演習から戻って3日目『こんごう』のシステムに起こったダメージや状況を解析、また修復のために乗り込んでいた技術技官の職員達は、システムの最終チェックを終えて下艦した


技官職員達は皆疲れた顔をメガネで隠しながらも東京都の電話帳三冊ではすまないほどのデータを黒いカバンの中にあるパソコンに納めて防衛庁に戻る帰路に就いていった

それを待って入れ替わるように乗艦したのは代休を消費した隊員達で、技官達が予定より早く帰った時間を使って艦内の大掃除に入る事になった


護衛艦『こんごう』は国の護りの要にもなるふね

それ故に常に緊張した任務の中おり、易々と休み続ける事など許されない。だから次の稼働を気持ちよく入るための助走をつけるように掃除という手早い作業が行われた


人が休みに入る年末年始だろうが祭日だろうがフル稼働を強いられる国防の盾は、年末の大掃除などと決まった時に全てを行う事が出来ない

だからこそ年末にはまだ少しばかり早いが修復期間として取られていた時間を有効活用とした大掃除は昼過ぎから開始しされた


特に今日は最初に戻った隊員達によって食堂区画を閉鎖しての殺菌と害虫駆除が行われていた

人出が少ない内にできる大仕事の一つに上がる害虫駆除は待ちの仕事ともいえ、大型のバルサンを直噴するタイプのものを設置して二区画を閉じて行うが、殺虫のガスが蔓延し効果を発している間はやることがない

なので外回りのペンキ塗りなどを行う、まめに見つけた仕事を手順良くこなして行く


いきなりフル回転の仕事に粉川は士官という立場にいながらも自ら飄々と参加していた

根っからの体育会系、体を動かしていないと気が済まない性分は、戻ってきた隊員達、特に若い隊員達を連れ回って掃除に走り回った

休みを堪能し動きの鈍った隊員達の間を率先して働く士官、まがりなりにも一等海尉の後を若者達はイヤもにべもなく付き合わされるように走り回って仕事した 


「ご苦労」


掃除が終わり真新しい青服に着替えてはいたが、顔には少しの汚れを残した顔で部屋に入った粉川にイスを二つだけ用意して座っていた『こんごう』は労いをかけた

帽子を目深に被った下の顔は、深まった冬がくれる乾いた太陽の光で日焼けしていた

乾燥した青空の下でかさついた唇を軽く舐めながら少しの遅刻を謝る粉川を『こんごう』は怒らなかった


写身の本体である自分の大掃除をしてくれたわけだ、むしろ礼を言うのも一つの作法

だが相変わらず厳めしい表情のまま、手を伸ばして


「座ってくれ」と粉川を自分の目の前に座るように導いた

粉川の方は久しぶりに顔色の良い『こんごう』を見られた事で上機嫌だった

作業で十分に暖気の聞いた体を少しばかり気にしながらも先に『こんごう』の体を気遣って聞いた


「どう、体の調子は良くなったかな?掃除もはじまったし少しは良くなっいてくれると思うのだけど」


目の前、嵐の前に自分の名前という話しで「日本国こんごう」と言いはなった時ぐらいに顔色は戻っている『こんごう』は言葉なく頷いて見せた


「良かった、本当に心配したよ」


口べたな『こんごう』

それが常である事を十分に理解できるほどになった粉川はタオルを首からとりながら

手を差し伸べたイスに座ることはなく、さらにテンションを上げるように元気よく


「さあ!じゃあ行こう!!だいぶんと『ちょうかい』ちゃんを待たせてるでしょ!」


逆に手を伸ばした

『ちょうかい』主催の宴は粉川もま一枚かんで決めたもの

姉の意識が戻ったら、一緒に呑みたいと考えていた『ちょうかい』の願いに粉川も同席させてもらうというイベントだった

イベントを楽しむためにも昼間惜しみなく働いてきた粉川の顔と、待っていると笑っていた妹の顔を思い浮かべた『こんごう』は粉川を座らせ会話をしたいと思い待っていたが、実際に集合の時間を遅れてしまっている事を思い出すと、押し黙った顔のまま焦って話すことでもないと心を落ち着けて一言だけ頼んだ


「宴が終わって帰ってきたら話しをしたい…そのつもりで泥酔はしないように気を付けてくれ」


真剣な『こんごう』の申し出に粉川は別の事を思い起こしながらも了解と返事した


『こんごう』とのキス


演習の最後、目の焦点を失ってしまった『こんごう』が自分にむかって下ろした唇は、官能を十分に表現できるようなデンジャラスなキスだった

血の臭いと、鉄の味わい、柔らかな舌が絡みつく夜を楽しむ合図のようなキスについての説明?

粉川は女っ気の薄い生活の中からそっちの方を考えて顔を緩ませていたが


「なんだ?そんなに酒が飲みたかったのか?」と『こんごう』は鼻の下の伸びた男の顔に怪訝な目線をくれた

真剣に話しをしていた側から見れば、そこまで浮かれる程酒が飲みたかったのかと思わざる得ない顔に嫌味も出る


「そんな顔でちゃんと掃除は出来たのか?」


苛立ちで険の立った声に、粉川は顔をぴしゃりと態度を改め大きく手を振って


「もうピカピカだよ!食堂なんて年末前に殺虫爆弾お見舞いしてカラッカラにしてやったんだから!」

「食堂…殺虫したのか…」


半日の中で一番の大仕事だった食堂の殺菌,殺虫の掃除を大仰に語る粉川の前、眉をしかめた『こんごう』、口元は何とも言えない苦みを噛みしめている様子で相手を睨むが

粉川の方は大変だった事を伝えたいが為に手を広げて続ける


「ゴキブリいっぱい出てきたんだから200匹ぐらいかな、大変だ」

「わかった!」いらついた顔が声を遮るが

断ち切る怒声にもめげず

大量に出たゴキブリを箒で吐き出す仕草をまねて見せる粉川

その手を今度は力で叩いて止めると『こんごう』は「わかったから止めろ!」と怒鳴った


だが粉川は話したかった

護衛艦の中でも、海の上でも何でもござれの台所の寄生虫、平気で生息するゴキブリ、それを殺虫し清掃する苦労は隊員によってはトラウマにもなる作業だ

半日でこれをこなした自分はむしろ『こんごう』に褒められても良いのではと思うほどの殊勲と話しを続けた


「ホントに大変な掃除だったんだから、どっからあんな湧くのかとね。あっでもね!もっとすごいの数を見たヤツもいるんだよ!僕の友達にね石川ってヤツがいてね『たちかぜ』さんに乗艦してるんだけど」


耳を塞ぐように立ち上がり会話から逃げようとする『こんごう』の前に笑顔でせまる

「『たちかぜ』さんは結構艦歴長いからだと思うんだけど、殺虫爆弾の後で掃除に入ったら1000匹ぐらいころがってたって」

「やめろ!!!」


笑顔で思い出話しのゴキブリまで語る粉川の前『こんごう』は顔を真っ赤にして怒っていた


「これから飯なのに、貴様というヤツは…」

「あっ…」


これから飲み会、確かにご飯前にはふさわしくない会話に相手が怒るのも無理無しと申し訳なさそうに頭を掻く粉川は謝った

「ごめん、大仕事だったからつい」

「わかった」


どこか焦った仕草の『こんごう』は急いで光りを現し粉川の手を引こうとした

瞬間


「あっ、ここにもいた」


『こんごう』の足もとを粉川が何の気なく指差した、やり損ねたという顔と始末しなきゃなという感じぐらいに気怠くなった声で

「食堂から逃げてきたな〜こいつ」と困ったと肩をすくめたポーズをして見せたが

歩を進めた『こんごう』は自分の足もとに鎮座してい黒い物体に一瞬で固まった。まるでドライアイスに当てられ白く凍ったバラのように赤く怒りに染まっていた顔から色が失せた。

その間にも殺虫のガスによって息も絶え絶えなのかいつもの俊敏な足裁きを見せる事のない滑りを帯びた黒い虫は銅像のように固まった『こんごう』の足もとにむかって動いた



「いやぁああああああああああああ」



耳を劈く大音響の悲鳴

一瞬で振り返った『こんごう』は粉川の靴、足の上に自分の足を重ねるように置いて叫んだ

「ちゃんと殺したんじゃなかったのか!!」

抱きつき足を床から離すために粉川の足を踏み台にして肩を強く掴んだ『こんごう』の目には涙があった


「あっ…ゴキブリ…駄目なんだ」

今更のように気がついたという顔の前、絶叫の女神は涙を振り飛ばして怒鳴る

「当たり前だ!!なんで陸地の生き物なのに海の上まで付いてくるの!!この気持ち悪い!!黒いの!!」


唖然とした顔をさらす粉川の前『こんごう』は自分の部屋が殺風景でスッカラカンになった時の事をを思い出していた、それは裸で寝る生活に入ったきっかけであり『ちょうかい』には言えなかった「裸」の本当の理由だった


元々『こんごう』は誕生の時に心を傷つけられた経緯から、演習や寄宿舎の生活がなければ常に自艦内自室に引きこもってしまう艦魂だった

現在ではそれ程多くの時間を自分の殻に閉じこもる事はなくなったが、当時は今以上の行動で引きこもりを敢行していた

しかし

誰と会うのも苦痛と考えながらも、ミーティングをしない事で演習で遅れを取ることを嫌い大量のデータを読んだり、本を持ち込んでは書き物をしてみたりなどはしていた


引きこもっていた頃の彼女は、ぶっきらぼうの不作法

投げ散らかされた本や書類に持ち込んだ色々な機材、さらには厨房からかすめてきた食品、缶詰などで今では考えられないほどに部屋を汚していた


当然制服も着たきり雀の状態

いくら休息を取って起きれば体をリフレッシュする事ができる魂とはいえ、あんまりな生活だった。が


「あいつ!!寝てた私の上に飛んできたんだ!!気持ち悪い!!服の中に入って来たんだ!!」


乱れた部屋の中で発生した悪夢の虫。浅い微睡みの中、自分の肌を這い顔の前までやってきたG

それ以来部屋の中に何も置かなくなった、目が届くようなところにあった全ての物を捨てやつらが隠れる遮蔽物となるものを一切合切太平洋に投げ捨てた

半狂乱のまま制服まで投げ捨ててしまった事件は今でも『しまかぜ』ぐらいしか知らない『こんごう』誕生一年目に起きたトラウマだった


だから裸だったのだ

服の中に潜られたあの感触が、堪えられぬ思い出として蘇り全身がカリカリに油揚げされたの鳥皮のようになっている

裸でいられるぐらい何もない部屋であれば奴らは発生しない『こんごう』は乱れた部屋と不衛生な生活からの脱却を期に奴ら黒光りの悪魔の発生原因をそれと決め、部屋に何も置かない生活に入ったのだ


廻る思い出に目を回し粉川にしがみついているうちにもGは最後の反抗かのように少しずつ足もとにせまっていた

「早く追っ払って!!!」

「落ち着いて!!『こんごう』?」

そうは言われども自分の足の上に乗ってしまっている『こんごう』しかも半端じゃない力でしがみついている相手をどこかに卸でもしない限り身動きできない粉川は苦しそうに返事するのが精一杯

「早くアイツをなんとかして!!早く!!」

「どいてくれないと、何にもできないよ」


「私にどこに行けって言うの!!」

ヒステリックのボルテージが粉川の鼓膜を乱れ打つ

「『こんごう』落ち着いて」

自分の顎下から睨む視線は涙でぐしゃぐしゃ、演習でも泣かない女がココであっさり泣き叫んでいる


「早くなんとかして!!」




「おばんでやんす」

「おばんでやんす」


半狂乱で熱を上げている部屋に

飛び込んできたのはお馴染みのご挨拶で両手を揺らすタグガールの菊と洋、それに『ちょうかい』だった


「お姉ちゃん…どうしたの?」

目の前粉川ときつく抱き合っているという姿もかなりショッキングな光景だったが何より驚きだったのは

姉『こんごう』の涙目姿だった

宴開催の定刻を過ぎても現れない二人を心配した『ちょうかい』はまたも二人がケンカでもしているのではと駆けつけたのだが、自分の予想の斜め上を行く展開に、姉にむかってかける言葉がなくなり、ただ呆然と二人の様子に目を走らせていた


そんな状況の中でも柳のように揺れ、騒ぎに乗じたケチャダンスを踊るタグガール

「呑み助〜〜〜なにしてるのぉ〜〜〜」

固まり姉と粉川のベーゼを見つめる『ちょうかい』をよそに粉川の前にせまった菊は、愉快犯よろしく口を横にひらいた笑みのまま聞いた


「菊ちゃん、そこのゴキブリ、なんとかして」


抱きつかれた状態で手だけを動かし床を指差す

我に返った『ちょうかい』はその先に見えるゴキブリを見ると、確認するように『こんごう』の顔を見た

妹の顔さえ見ることも出来ない姉、必死に頭を振り、そこが粉川の足の上だとわかっているのに地団駄踏んで叫んだ


「誰でもいいから!!そいつをなんとかして!!」


涙混じりの怒声に『ちょうかい』は


「お姉ちゃん…ゴキブリ駄目なんだ」


初めて知った姉の弱点、知ってもどうして良いのかワカラナイ妹の前

このまま宴の時間が押してしまうのも惜しくなったのか、刺された指の先にいるゴキブリに鉄槌を降したのは菊だった

大きな手袋のような手をそののままゴキブリに打ち付けると、何事も無かったかのように重ね付けしていた作業用手袋を一枚脱いでテラスから海に投げ捨ててしまった


「これでいい?」


ニカリコと満面の笑みで

一瞬で姿を消したゴキブリ

大騒ぎのピークをばっちり見られてしまった『こんごう』は顔を真っ赤にしたまま粉川の胸の中で俯いてしまい

『ちょうかい』は笑いを堪えて背中を向けた


「誰かに言ったらぶっ殺す」


同じく笑いを堪えている粉川に、いつもより強気なトーンがない涙混じりの声で、それでも必死の釘を刺す『こんごう』


「言わないよ、得手不得手って誰にだってあるからね」

苦笑いを天井に向ける粉川


『ちょうかい』は普段無口でキツイ目で護衛艦隊の魂達を恐れさせている姉『こんごう』の意外な一面に凄く驚きながらも、憧れの人が完璧ばかりじゃなくて可愛らしい一面を持っていた事に微笑ましくなった


「私もそういう可愛い部分もちゃっんともっておこう」と笑いを堪えて自分の胸に誓った




続く飲み会の中『こんごう』は粉川に他言無用を釘差し続け、タグガール達はそんな事は忘れたように呑み騒いだ

粉川もまた『こんごう』が可愛い部分を持った女の子である事を再確認した出来事だった

カセイウラバナダイアル〜〜ヘーロース〜〜


ロースは高いwww

近場に出来たステーキ屋さんに出かけてきたヒボシです、なんだかグランドオープンだったらしく帰りにパイナップルもらいましたw


昔から疲れを知らぬもの(ヘーロース)だと言われてきたヒボシですが

最近は心身共に疲れる日が多く…ババアになったなぁとwww自虐的史観ですよ


でもまあ

今まで取り立てて健康に気を遣ってきたわけでもないので、今更どうにかしようという気もありませんが


ところでG

内の家系では『こんごう』なみにテンパルのは母だけですね

ヒボシは菊ちゃんと一緒でどーって事ないです

花盛りだった頃からそうですw

「きゃーゴキブリ〜〜こわい〜〜」なんて、そんな事した事もありません

ゴキブリは怖いではなくキモイだ!!


今回護衛艦の掃除で害虫駆除の事を教えてくださった二等航海士先生に特別出演までして頂きました

粉川の友達で『たちかぜ』さんに乗艦している石川さんが、そうです

ちなみ出演の許可はとってませんが、すいません

なんか変わった形で小説に知恵を貸して下さった方を出したかったのです、だから許してやってください



それではまたウラバナダイアルでお会いしましょ〜〜〜

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ