第六十四話 嵐の一日
自艦発砲率0%戦記は続くwww
いつになったら戦争になるんですかというご質問に答えてwww
今回も会話ばっかです〜〜〜
三菱重工長崎造船所から見る女神大橋の夜景は、暗く寝静まった海の上を走る光のライン
水平線に名残の写し身を、波の上に走らせる太陽の輝きとも
月の写す仄かな輝きとも違う。鋭利に輝く光の線は暗闇の空に穴を開け別の次元に導く入り口のようにも見える
ほろ酔い加減で貸し付けられた部屋の窓を開け放し、暑くなった自分を冷やすように風を浴びていた粉川はつぶやいた
「人とは違う領域で、同じ世界を生きる魂達」
光の入り口に見える端を目を細めて見つめる
同じ空間にいても、違う世界層があるのは本当だと思える
人間だけがこの世界にいると考えて終えば艦魂など信じることも出来ない
時間は0時前
大酒飲みの粉川に会わせて酒を煽った『ちょうかい』とタグガールズは21時には酔いの波間に沈没していた
「お酒は成人(20歳)になってから...そんな規約は彼女たち船の魂にはない」
見た目16歳の『ちょうかい』をはじめ同じぐらいの歳で曳舟として大仕事に徒事するタグボートの彼女達、彼女達が背負っている仕事の重さを考えれば理解できた事だった
現在の日本国で人として生きる十代の少女が船舶の中心である責任ある仕事に就くことはない
成人してすぐにだってあり得ない
だけど魂達の住む領域では違う。産まれてすぐ船の中心、無くて船が浮かばないという重荷を背負う
そこに十代であるとか、女であるという事は関係なく常時の日本国では大人が背負うような責任を持つ。それが誕生の意味でもある
大人と同じ責任職にあるのだから、「人」的感覚で言うのなら人の大人と同じ権利を持つお酒を飲むことだって彼女達にとって数少ない快楽
そこまで思って粉川は首をふった
「数少ないなんて言ったら怒られそうだ...」
当たり前の日常と理解すべきと。
社会人になれば仕事の後に一杯の酒を楽しむ
彼女達の行為はそれに似ている産まれたときにすでに十代半ばという姿を持ち、船の魂として生き、学校に行くこともなく知識を持ち、
普通の少女達が若き日々を楽しむという行為を得ない代わりに、幼くとも人の大人と変わらぬ楽しみを謳歌する
「自分本位にものを考えるのは「生きた人間」の悪い部分だな」
粉川は頭を小突いて父の言葉を思い出していた
母が死んだときの事で父とケンカした事があった
青年になり、物事のあり方を理解し始めたとき、自分の進路を決めた息子に父親から
「普通の仕事を選んだ方がよくないか?」と尋ねられた
粉川は父の発言が自分の人生を失敗したと考えているのではと思い、母を思っていたら何故に海に出た?聞き逆らった
「父さんが近くにいない事でお母さんは寂しい思いをしてた」と
だが父は言った
「思い出を語るように、死んだ人の口を語るのは良くない。自分の思うとおりだったと考えるのは生きた側の人間の悪い癖だよ」
いつでも理性的だった父
生きている父が、その考えに至った理由がまるで艦魂と関わりを持った事があるようにも思えた
そのぐらいに自分が一方的な考えにどっぷりと浸かっていた事を思い知らされた『ちょうかい』との会話だった
窓辺にて秋から冬に変わって行く冷えた海風を浴びていた粉川は背伸びをした
まだしばらくココに居続けする事になるのだから、今日を精一杯はしゃいでしまった事をもったいないと思いながら。造船所の中、橙色の照明がみせる赤い風景を見回していた
『こんごう』は夜の景色の中で物言わぬ牙城として浮かんでいる
灰色の艦体、ステルス構造の角張った威容からは彼女の可憐な容姿は想像出来ないが、あの艦、日本を守る楯たる艦『こんごう』が生きるために必要である少女『こんごう』はあそこにいる
いつも機嫌の悪そうなへの字、だけど笑えば可愛らしい顔
酒は『ちょうかい』と比べれば遙かに強いし、その席での負けん気いっぱいの話し方は三笠によく似ている
「休みになったから修理の間に一度は酒盛りが出来そうだな」
彼女達が飲酒についての規約を持っていないことがわかった今は楽しみ事が1つ増えたとも言えた
ご馳走になるばかりは良くないし、『こんごう』が用意良くお酒を持っているタイプにも思えないと考昼の時間を使って買い出しに行ってこようと笑った
同時に
彼女達の世界観に強く興味を引かれた
普段どういう時間をプライベートとしているのか、通常勤務の中ではつねに乗員300と大所帯、しかも100%男という中でどうやって心安らがせているのかを考えた
『こんごう』の部屋は思い出すに、艦体の基礎部分のような剥き出しの鉄板に囲まれた素っ気のない部屋だった
女の子らしい装飾など一つもなく、真ん中に鎮座する大きめのベッドだけが彼女のプライベート領域なのかと
女しかいないとされる艦の魂達は男に見られるという事がないから部屋についても無頓着なのかもしれない
ほどよく酔った頭で粉川は造船所内に目を走らせながら
「でもみんな結構な美少女美人系ってのは...もったいない気がするねぇ」と粉川的一番人気の『しまかぜ』を思い浮かべてみた
「あれ?」
酒に酔った『しまかぜ』は、などと少し邪な思いを馳せていた粉川の目に灰色とは違う船の姿が目に入った
『こんごう』を係留する岸壁の向こう、ドックの中、先の方に詰めるように入れられている影、工事用の立て込みとともにある船は海上保安庁のカラーを纏っているのが確認できる
白い船体、艦首付近に甲板を波風から保護するナックルライン...
「巡視船だよね」
目を凝らす、酔いで霞んだりしがちな視線をきつく合わせて青い字で記される船艇名を見つけると緩んだ声を漏らした
「『りゅうきゅう』さん....」
一ヶ月前、日本を揺るがせた不審船事件で頭に負傷をおった海上保安庁巡視船『りゅうきゅう』
その魂『りゅうきゅう』長い柔らかなウェーブヘア、少し垂れ目の優しい笑みを持った彼女は船の頭脳である船橋を機銃掃射によってぶち壊されていた
係留先の物陰で良く見えないが、船橋付近には足場と囲いが付けられているようで影が少し大きく見える
「頭を撃たれた」
『しまかぜ』はそう言っていた
事故の中、『りゅうきゅう』は魂として出来ることをした。乗員を生きて返すという大仕事と引き替えに自分が破壊された。それは見るのも辛い姿だったと
その彼女はココの産まれで、あの事件で負った傷を治すために里帰りしていたのだ
蘇る苦い記憶に粉川の酔いは瞬時に覚め、窓に寄りかかった
『こんごう』の苦渋の姿の前にあったもの
演習であそこまで戦ってしまった彼女の思いの先には...きっと『りゅうきゅう』への思いもあったに違いない
護りの楯として産まれた自分への重すぎる責務の中、それを実証する事と、そうする事で海を行く仲間達を安心させたいという願いが、少しの奇跡を起こし『こんごう』は演習に打ち勝った
粉川は頭を抱えてその場に座り込んだ
魂達は責任を取っている。佐世保での修練走と言う形で、でも海自と海保の間では「人」の責任という話し合いはまだついていない
そして魂の彼女に頭を下げる「人」もいなかったハズだ
「明日、挨拶に行こう」
粉川は、急に出来た休みの中にも運命を感じた
窓を閉めると、朝早くから活動するために素早く眠りに入った
長崎造船所は他の造船工場に比べると風光明媚な所だ
関東圏にあるIHImarine Unitedなど工場地帯から海を見る事は出来ても、美しい景観を持っている訳もなく不揃いなレゴブロックのような林立するビルや工場の煙突という和まない場所でしかない
だがココは日本の造船所の中では珍しく眺めの良い土地だった
直ぐ近場には森林公園があるし、工場も景観に留意している部分が多く、外回りを囲む赤煉瓦の壁なども見受けられる
裏手に続く山、稲佐岳には展望台を望むスカイウェイなども整備されており、独身者の隊員などが暇つぶしに出かけるにも調度よい場所でもある
自然との協調
そういう珍しい場所でもあった
昨日と変わらぬ秋晴れの空の下、粉川は自衛隊員として恥ずかしくない早起きをし許可証を胸に下げ、工場で借りた車で対岸にある五島町まで買い出しに行き
そこそこの酒の肴と、秋の花の代表であるコスモスとマリーゴールドを仕入れ昼前には戻って来ていた
護衛艦の隊員達と違い有給消費とはいかない粉川にも、退屈な待機任務に変わる事が出来きぼんやりと日を送らねば成らなかったのは苦手だった性格には調度良かったとも言えた
お見舞い
『りゅうきゅう』に花束を贈ろうと
工場内を歩くために必要であるヘルメットを着用すると、立神岸壁『こんごう』が係留されている向こうにある第2ドックを目指してゆっくりと歩いていた
『ちょうかい』の話しでは『こんごう』は休息を必要とする長い眠りに入っていると言う事で外に姿を現す事はない様子だったし、今日も防諜のために締め切られた艦内に上がる事は出来ない。かけられている乗艦用の階段の前には警備が立つという物々しい雰囲気
少しの日陰を縫って歩く粉川の顔にも刺さる視線をくれる程に厳重な警備の中で姫様は熟睡している
物々しい男達の囲いの中で、そういうものに邪魔されず休んで欲しいと思いながら
海自に続いた不祥事から当たり前といえば当たり前の荊の処置を横目に第2ドックの前の方に詰めるように寄せて入れられている『りゅうきゅう』に近づくが1つ問題があった事に首を右に傾げたまま固まっていた
『りゅうきゅう』の容姿は知っているし、なにより彼女を見ることが出来るのだが。呼び出す方法までわかっているわけじゃない
声をあげて「『りゅうきゅう』さーん!!」と呼ぶという手もあるが...それは痛い
事件からの復旧作業で船橋部分とその下、船腹の傷を治すために立てられた櫓と電気配線が鈴なりに並びそこに職人達が上がっているし
ドックの中は海水が排出されたドライの状態にされ船の下部の損傷なども集中した右舷の処理のため幾重もの足場がたてられ、同じく多くの工員達で占拠されている場で...呼べるハズもなく
だがココには多くの船がいるし『りゅうきゅう』の本体である船体の傷も大方の部品が外された事で痛みからは解放されたと考えれば本人が船の上に立っている事も考えられると見回すが魂らしい影はどこにもない
「人」と違う彼女達は見えないことを良いことに不用心に人の前を歩いている事も多いのだが、見た限りそういう人物はいない
見舞いと挨拶をしたい
思い立ったら吉日で行動してみたものの彼女に会うずべは、夜を待って『ちょうかい』に運んで貰うしかないのか?
困った唸りで左に首を傾げるが、それは良作とは思えなかった
それが希望だったら最初から『ちょうかい』に頼みにいけばよかったのだが、海自と海保の仲の悪さを考えるに彼女に負担になる事はしたくないし、自分の意志で『りゅうきゅう』に会いたいとも考えていたから...しかし実際は会うにはどうやら魂達に頼るしか方法がない
頭をひねりながら借りた作業用のつなぎに手をつっこんた粉川はひらめいた
大きな船だけでなく小さな船も多くいるココならではの仲介人がいる事に
ドックの端から向こう、締め切られた所から海風を浴びて走る。女神大橋が見える側に進んで行くと小さな係留場所がある
作業小屋などはいっさいない少し開けた場所がには、旧1.2ドックがありその前にこじんまりと作られた空間に小型の船舶がつながれている
「いた!!」
丸いお尻を並べたタグボート達
造船所が保有するタグボート達は今日の勤務がないようで綱で結ばれたままキレイに並んで、ピアノの鍵盤が順番に上下するように波に揺られていた
昨日一緒に呑んだ子達がいれば『りゅうきゅう』の自室に運んで貰えるのでは粉川は考えたのだ
彼女達はとても人当たりもいいし、「人」に自分たちが見られたからといって驚いている様子もなかったのだから頼みやすい
早足で近づき見回すと案の定。一つの船に集まって揺れている女の子達が目に入った。
造船所職員がきる上着にハーフパンツという得意な出で立ちの彼女たちは、一番波打ちに係留されている一隻のタグボートの後ろ、狭い部分に集まって何かに熱中している。
見えない人達には何も聞こえないだろうが、かなり大きな叫声を上げゲームに興じているようだった
その騒ぐ声にむかって回りに人がいないのを確認した粉川は声をかけた
「おーい!!菊ちゃん!洋ちゃん!!」
粉川の呼びかけにまるでプリーリードックの群れが一斉に顔を向けるかのようにタグガール達は顔を向けた
「人...」
「生きてる...」
「動いてる...」
みな似たような顔、まん丸な眼を向けて、手を振る粉川を珍しそうに見たまま固まっている
粉川も、昨日はすんなり自分と飲み会をした存在が今日は固まっているというのに振る手の動きが鈍ってしまいそうになったが
「粉川だぁぁぁぁ!!!」
固まった集団の中からスプリングのように跳ねて菊が手を振った
同時に洋も立ち上がってワイワイと返事を返すと今度はそれにならうように集まっていたタグガール達がみんなで一斉に手を振る
「人!!人!!」と
やはり陽気な彼女達、手に花札を持っているのはご愛敬の姿
賭け事だって「人」の規則であって普段を真面目に働く彼女達には関係のない事だから
「どうした飲み助〜〜〜」
陸地に近い一番端に係留してあるタグボートに次々と転移ししてくる彼女達の中、昨日一緒に呑んだ菊が粉川につけたあだ名を呼んで話しかけた
「実はね頼みがあって『りゅうきゅう』さんのところに僕を送ってもらえないかと思って」
粉川が手に持っている黒いカバンを見る菊は
「食べ物?」
目が輝く集団『ちょうかい』に聞いた話では彼女達は力仕事が常である事からも食べ物に目がなく
それに重労働に比例した甘い物が大好き
酒飲みの甘い物好きで、漁船の魂達から頂く旬の魚までをも食すというまさに美食家であるから、頼み事は食べ物ですると喜ばれるらしい
「アメでどうかな。カバンの中はお見舞いの品だから」
ポケットに隠してきたアメ玉を取り出すとタグボートの後ろに満載に乗った彼女達は目をさらに丸く輝かせて
「いいの...もらって」
粉川の手に乗ったアメに心からの喜びの顔を浮かべる
大型の船を押し引きする重労働を行う彼女達にとって甘いものはお宝級のご馳走
だからみんな首振りぺこちゃんのように揺れて粉川の返事を待っている
「連れて行ってもらえれば、少ないけどお礼にと」
どうやら交渉はうまくいったようだ。みんなコクコクと頷く
「みんなで連れてってやるぅ〜〜〜」
大人数で押しかけるというオマケまでついてしまったが、ココの事は彼女達が良く知っているのだろうからと成り行きに任せた
「なんでそんな大勢でくんだよ」
タグガール達と一緒に転移で『りゅうきゅう』の自室に現れた粉川達に棘のある声をかけたのは『はやと』だった
短く刈り込んだ頭に、シルバーの三連ピアス
渋谷アタリにいるパンクのねーちゃんのような彼女の睨みはかなり怖いが、タグガールズにはあまり通用しない様子
手に手にアメ玉を持ち、女子高生顔負けの黄色い声の集団に呆れたように溜息を落とす
あの事件で負傷した船艇のもう一人である『はやと』もまくたココで修理を受けていたのだ
「いいじゃない、嬉しいはみんな来てくれて」
白い壁に木目調をあしらった部屋
窓のない部屋の中には置き棚がキレイにアレンジしてかけられている。デザインマンションのハッチスペースのようなつくりで区切られた格子の壁の向こう側に、まだ包帯のはずれない『りゅうきゅう』がベットに座っていた
「こんにちわ、粉川と申します。お久しぶりです」
小さなタグガール達の中、ひときは大きな男は自分を見てイスから転げ落ちそうになる『はやと』のとなり、目まで包帯で覆いおおよそ顔から見えるのは口まわりだけという状態の『りゅうきゅう』に見えなくとも礼儀正しく挨拶した
「「人」ぉ!!」
驚きを隠しながらも一人イス事うしろに下がってしまった『はやと』だったが『りゅうきゅう』は静かでおっとりした返事を返した
「ああ、合同演習の時に会議室にいらっしゃった人ですね」
口元だけが優しく微笑む、粉川には辛い笑みにも見える
傷を負った右半身、さらに美しかった顔にまで被弾という怪我をした彼女を目の前にして声が止まってしまいそうになる
「見舞いに来ました」
つい、よそよそしくなってしまった声の下で粉川は抱えていた黒いバックを開けると、水袋をくくり体裁を整えた小さな花束を差し出した
ホントは目までを包帯で覆っている彼女を見た瞬間、秋の色鮮やかな花などを差し出しても嫌味になってしまうのではと考えたが、このまま手ぶらで挨拶だけなど出来ないと思い直し
戸惑いながらの見舞いを前に出した
そんな相手の微妙な変化を感じ取るように
「受け取って、コスモスとマリーゴールドですね」
問い面に菊に用意されたイスに座った粉川を、少し尖った視線で見ていた『はやと』を急かして『りゅうきゅう』は花を素直に受け取とった
「前に『しまかぜ』が持ってきてくれた花を用意してくださったのも粉川さんですね。ありがとうございます」
『はやと』から手渡された花に顔をつけ香りを味わう姿に、やっと一段落ついたと感じた粉川は聞いた
「目は...大丈夫なんですか?」
見えなくても彼女達は日本に咲く季節の花を良く知っている。かぐわしさに一息を楽しんだ『りゅうきゅう』は顔を上げると
「目はもう大丈夫なんですけどね、まだモノクロにみえるしチカチカするので保護のために」
そう言うと包帯を上げて少しだけ目を見せた
人間の傷の負い方とも彼女達は違う。目の玉が薄い灰色になったままでさらに上の方、額にかかる部分にはまだ黒ずんだ焼けたままの怪我が見える
一見すると人形の目に入っている光のない飾り玉のような目に粉川は少し引いた
生気のある人間ならばその状態の目は確実に失明を意味する焦点の無い色に
「ごめんなさい、おどろいちゃいますよね」
粉川の顔を光のない目と動かぬ目線はしっかりと捉え、すぐに包帯を下ろして隠した
「いいえ、そんな事...」
改まった粉川は両手を膝の上に置くと深く頭を下げた
「あの時は...お役に立てなくて、貴女に大けがを負わせてしまって、本当に申し訳」
「謝らないで」
前に出なかった護衛艦、最後は不審船を見逃してしまった海自、責任を感じて修練走をした『こんごう』達
自分の目から消えない不審船に涙した『こんごう』魂達が背負ってきた思いも込めての謝罪に『りゅうきゅう』は手を挙げて制止を求めた
「謝らないでください。私達も同じなんですから」
真面目な声がそういうと、今度は反転したように軽い声を挙げて笑い出した
目の前口元しか見えない彼女の顔だが、謝罪を断りしんみりしそうな場を急転させる笑い声に粉川ととなりに座っていた『はやと』も唖然としてしまった
「きっとそういう事を言いに来たんだと思ってました」
回りが自分の態度に驚いているのを理解した彼女は笑いを止めると
「私がココに入ってすぐに、彼女の妹『ちょうかい』さんも、そうやって謝りに来て」
ベッド脇『りゅうきゅう』のとなりに座った『はやと』が気恥ずかしそうに
「謝るなって、怒鳴ってやった」
「怒鳴るのは駄目よ」
素早く注意の切り返し指を『はやと』の鼻に当てて、そのまま粉川の向けると
「とにかく謝らないで欲しいんですよ。謝る事で間違えて欲しくないのです。私達は船の魂でも護られる側に産まれたわけじゃないんです。私達もまたこの国を護る船として産まれたのだから同じ使命を持ち同じ覚悟を持っているんですよ」
そういうと
「確かに人の目から見たら、海上自衛隊という日本を護るための大看板を背負っている彼女達が前に出なかった事に思うところもあるだろうけど、私達海上保安庁だって国を護る看板を背負ってるのを忘れて欲しくない。同じ使命を持って努めてるのだから、私が傷つく事もあれば、彼女達が傷つく事だってある、今回は私が楯になっただけ」
粉川はただ聞くだけに徹した
自分が口を挟めない世界観の差はこういう部分も出ていた事を実感しながら話しを聞き続けた
不審船を見逃したことで心に痛い思いを持ったまま自分の看病に当たってくれた『しまかぜ』や、涙の中で追う事の出なかった不審船をずっと睨み続けた『こんごう』を悪いと彼女は言わなかった
「私達は時として相手を撃ちのめす覚悟を、どの船よりもしなくてはいけないのですから...痛い思いも覚悟してますよ」
「そう言って頂けたのならば幸いです」
粉川はつくづく人間は身勝手な生き物だと、自分にむかって卑屈な笑いを浮かべた
自分たちが常に世界の中心にいるという考え方から脱却できない自己中心的な生き物である人間は、つねに自分達と言葉を共有しない人になんらかの思う心を持ち、他の生き物に意志や尊重する思いがあるなど理解もしない。
魂という身でも「人」と変わらぬ姿を持つ彼女達はしっかりと自分たちの世界を持っている
「護る事に戦う覚悟ある『りゅうきゅう』さんにお会い出来たことは僕らとっても励みとなります」
粉川は同じ責任を持つものして素直に感謝を表した
「でも、聞かせてください。だとすれば相手を撃つ事を心苦しいと思った事はないのですか?」
職務についての話しであれば、一つの疑問もあった
船の魂達は、海を行く船をみな仲間と断言している中で、相手を撃たなくては行けない時がある事に辛くは無いのかという、聞いて良いのか迷う話しだったが、粉川は自分本意の考えを改めるためにも聞いてみた
不意の質問に『りゅうきゅう』の隠された目が伏せられたように頭が下がったが
「たしかに私達は海を行く、どんな形の仲間とも戦いたくない...その気持ちを持っているのは事実です。たとえそれが不審船と呼ばれる者であったとしても。でも私達を必要としてくれる国を侵す者を許す事は出来ない、共にいる人の業に寄り添う事を選びます。私達は私達を愛してくれる国のために相手を屠る事もある、その覚悟もやはり持っているという事ですね」
同じ船の魂を撃つことを不憫と言わせない
『りゅうきゅう』の話しに粉川は深く会釈し
「自分も、同じ血を持つ人を時として日本を守るために殺めなくてはならないという覚悟を持っています。お話良くわかりました」
同じ責務を別々の世界で担う者達
粉川は女性に対して、こういう形の親睦の証を求めて良いのか迷ったが、気持ちに素直に従い右手を差し出した
『りゅうきゅう』もお互いの気持ちが通じ合っている事を確認できた事を素直に喜び手を伸ばし握手を交わした
「これから先も私達もまた頑張っていきますからね」と言う
昨日の『ちょうかい』が言った言葉と同じ「一緒に頑張ろうね」と言ったように
「それにしても羨ましいわ、海自には職務を同じくする「人」が多くの魂達と話しの場をもっているなんて...とても羨ましい」
優しい唇がツンと立ち、心に残る思いに馳せていた
別々の世界
でも同じ場所に立つ者として『りゅうきゅう』は浜田船長という理解者を得ていたが、残念な事に浜田船長は自分しか見られない人だった
それがどうしてなのかを考えた時、たくさんの魂が見える人がいたら、人が本来持っている優しい心がバランスを崩す事につながるのではと考え、他の魂達には告げなかった
浜田が、今回の事件で傷ついた自分を抱きしめて泣いた姿を見せた事でより思ったのだ
人は本質的に優しい
だけどこういう殺伐とした任務がまだ必要とされる世界で、船の魂と深く親睦を持つのは難しいのではと、そういう意味では『りゅうきゅう』の深遠な思いは『しらね』のそれと似ていた
小さな船で、主と二人海を行く魂であっても良かったと
見せぬ目の奥であの時の事を思いながら、ああいう場合で魂達を助ける人がいる事が奇跡だと微笑んだ
「粉川さんがいる事で海自の子達も頑張っていこうって、元気を頂いてると思いますよ」
謝罪を忘れさせるほどに自分を励ます『りゅうきゅう』の返事に粉川は照れながら頭をさすると
「でも海保にも理解者がいるじゃないですか」と褒め競れすぎて照れた苦笑いの目で『はやと』を見ると立ち上がって握手を求めた
「驚きました、ココに来るまで海保で艦魂を見られる人がいるなんて思ってなかったんで。挨拶が遅れました粉川と申します」
出された手に驚く『はやと』
『りゅうきゅう』の口元は懸命に笑いを堪え
粉川の後ろに立ち沈黙の『はやと』がどう対応するかを見ている菊たちタグガールズ
粉川は目の前、『りゅうきゅう』の隣に座っていた『はやと』を海保の男性職員と勘違いしていたのだ
「あのな」
まるで男の友情を確かめるかのように手を伸ばす粉川の前『はやと』は自分が男と勘違いされているという自体に小刻みに震えた
確かに女の象徴ともいえる艶のある長髪は持っていないし、眉毛だって棒みたい...
だけど顔は女だろうという思いに口が歪む
「私は『はやと』って言うんだよ!!女に見えなくて悪かったな!!」
顔の真ん前に飛び上がるように立ち上がる『はやと』
粉川は自分の顎に届く長身の彼と思っていた人物が実は魂の女である事に今になってやっと気がついた
「あっ...えっと..いやぁ、そうなんですか職員の方かと思ってました。なんていうかその凛々しい方だったので...」
彷徨う言葉の中でちゃっかり『はやと』の胸を確認
どちらかというと『ちょうかい』よりも薄ぺらい感じの胸元と、吊り上がった眉毛に
「まちがえちゃいました...」
時既に遅しの弁解
動いた目線の行き先から、自分が女らしい体をもっていない事にコンプレックスをもっていた『はやと』の怒りは絶頂に達していた
短く刈り込まれているが故によく見えるおでこに、逆撫でされた怒りの道が動いている
「粉川さん、『はやと』の事、海保の職員だって思ってたんですか?」
爆笑を堪える『りゅうきゅう』は口元を抑え
タグガールズ立ちも真似するように口を押さえて、前に立つ粉川の背中側で全員が両手を挙げてケッチャダンスをしながらニヤリと笑っている
「呑み助〜〜〜爆沈〜〜〜」小さな合唱が『はやと』のテンションを上げる
「いや...ちがうんです、ココ暗かったかな?」
どうにもならない言い訳、目の前に光る怒りの眼はどこか『こんごう』のそれに似ていて
身に覚えのある、恐怖の光となっていた
「ごめんなさい」
やっとで出た謝罪の言葉は、下から突き上げる見事なアッパーに語尾を告げる事なく吹き飛んだ
それを皮切りに笑いながら菊や洋が粉川に群がり体事ぶつかりもみくちゃにされた
何かわからなくても騒ぎが楽しい彼女達に囲まれる事で『はやと』からの凶悪な次弾をうける事はなかったが、結局大きく腫れ上がった顔をさらす事になった
「すいませんでした....」
口からあふれる血反吐の中
それでも頑張る粉川は『こんごう』停泊中に一度は飲み会しましょうと約束だけは取り付けた
色々な事に反省した嵐の一日はまたも過ぎていった
カセイウラバナダイアル〜〜夜長〜〜
この不況なのに途切れる事なく仕事のある会社にて着かれているヒボシですぅぅぅ
仕事がある事は良いことなのですが、日がな一日事務所に座ったままでいると...
正座しているわけでもないのに足が痺れますwww
マジで
そんなヒボシのとなりで零戦のプラモデルを作っている事務職の野郎がいます
ヒボシが木工で船を造っていたのを見て自分もやってみようと考え始めたそうですが...
ディアゴスティーニから出ているシリーズをちまちまやってます
たしかに精巧につくられたパーツ
アルミの削りだしなどホホゥと見るものはあるのですが...
部品点数を考えて行くに恐ろしい事に
一部で買うと創刊号790円で、約月一部で部品が出続けるわけですが...
次号からは一部1590円です
で....何部で零戦になるのか
恐ろしい事に全100部だそうで......
合計、15万8200円....恐ろしい!!!
途中で挫折なんて出来ない価格だぁぁぁ怖いよぉぉぉぉ
ちなみにこの会社とは違うメーカーで200/1ビスマルクをつくるというのもありますが...
やっぱり完成する頃には同じぐらいの価格になります
恐ろヒィィィィ
200/1といえばヒボシはペーパークラフトの400/1の図面から倍率ドンで200/1の瑞鳳と伊勢を作ってますが、価格するとおそらく2万行きません
まずかかる費用の大きな物は設計図であるペーパークラフトです
伊勢は3500円でした
瑞鳳は新たに書き起こされたものでしたが3300円でした
これら400/1を200/1にするためにコピーをする
最近では自宅のプリンターでやっているのでランニングコストで考えても全部で1000円もいきません
そして船体をつくる木材の値段
バルサ板は1ミリの物ならば80ミリ×600で150円ぐらいですw
2ミリでも200円ぐらいだっと思います
瑞鳳は初めて作ったので全部のパーツが1ミリで出来ていて(結果やたら軽い、1メートルもあるのに)
艦体部分だけでキールから組んだとして5〜6枚使ったことになり...
しかし値段で考えれば1000円行きませんwww
これに飛行甲板が1ミリ2枚つかって、合算してもおおよそ1万行ってません
接着剤は木工用ボンド、形の形成のために木パテ
これらも2本ずつしか使ってないから....
やっぱり1万行きませんwww
さらに瑞鳳用の迷彩のカラーを買ってきても1万行きませんwww
こだわってエッチングパーツとか使い出したら1万なんて簡単に越えそうですがそれでも完成したらビスマルクの10/1以下の値段で作れるという事になります
ヒボシはディアゴスティーニは買わないぞ!!!
さてそんな高価な零戦を作っている彼の好きな戦闘機は
35ドラケンというなんか変わった戦闘機だそうです
いつか木工で骨からつくってやると息巻いている彼が、途中で投げる事なく高級な零戦を完成させてくれる事を楽しみにしてますwww
秋の夜長を楽しむには良いかもしれないプラモデル
そんな日々でした
それではまたウラバナダイアルでお会いしましょう〜〜〜