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第六十三話 人の幸せ

暑い日々がオワター

秋の味覚を楽しむぞぉ!!財布と相談しながらwww

「こんごうは右利きだったか?」


秋風がより強くなった季節

車の押す風の中を徒歩で登庁した羽村は、スーツから出た自分の首根っこを両手で押さえたまま、調査部の今泉から出国前の最後の詰問を受けていた石上に、佐々木も気にしていた彼の左頬に残る拳痣を見ながら聞いた


昨日に引き続き青天となった市ヶ谷

もうしばらくすれば冬の空にかわるであろう薄く突き抜けた冷たい空の下で

国防に暑苦しい男達はそれぞれの仕事のために朝から熱を上げている真っ最中に、前を通りかかった羽村は突っ込んだ


「茶化さないでください、羽村局長」


不祥事続きだった海自と

不慮の災害派遣、演習帰りの技術技官の腫れた顔

その他色々と渦巻く事件の調査の多くを任されている男は一糸の乱れのないオールバックの髪を振り乱さんがごとくの勢いで羽村に詰めた


「聞いてみただけだ」


壮年でそれなりに丸みを持つ羽村の顔に、刃物のように尖った顎を近づけた今泉だが羽村は、彼の堅さの象徴である糊のきいたスーツを払うように、まるで意に介さないまま石上に続けた


「海の上じゃ良くふねとぶつかるそうだ。だから聞いた」


今泉の詰問に答える気がなく、出国の時間を気にしていた石上は首を右に傾げながら自分に向かってきた鉄拳の事を思い出していた





「これは、オレからの土産だ」


実験演習終了後、DDG『こんごう』はイージスシステムにかかった負荷など外傷とは別のシステム点検のために長崎の三菱重工造船所に向かう事になった

演習とはいえ実戦にかなり近い、実弾を使わなかった以外本気で電子戦を演じたわけだから当然すぐさまのチェックが必要となっていた


CICに詰めていた安藤二佐は海上でもデータの編纂をしていたのだが

そこに本職の石上が乗り込んできたことで事件が起こった

誰よりも早く『こんごう』が味わったであろう実戦のデータを欲し、石上がヘリで『こんごう』に到着。CICに入ろうとした時に浴びせられた間宮からの洗礼

CICに響く大きな音は狭い通路の壁に当たり石上をノックアウトしていた

誰もが顔を真っ青にしてしまう暴力事件の前、倒れた石上を鋭く睨んだ間宮は何事もなかったかのように背中を見せると


「オレを試すな」


それだけ言って姿を消した

となりにいたのはダニーの代わりとしてやってきたベニーだったが、突然の雷撃に呆然とし

さらにそれさえどうでもいいという態度で口から流れる血を拭いもせずCICに入る石上

開かれたドアから流れ出す寒気の中で言った


「日本人は過激な挨拶をするんだね」と目を白黒させて

「熱烈歓迎なのさ」


若いベニーの面白くもないジョークに石上はCICのコントロールボードを開きながら答えた。過酷な演習だった事を物語るシステム室の冷機のおかげで白い息を吐きながら


「暴力が横行する海軍は良くない」


自分より年上の男達が、年甲斐のない殴り合い(とはいえ石上は一方的に殴られたのだが)スマートである事を心がけているハズのシーマンシップの中にあって見たこともない暴挙に呆れながら、ベニーはマシンボックスを開いて言い返した


石上は流れ出る血を飲み込みながらベニーのうっすらと痘痕の残る顔を見ると

「ダニーと殴り合いが出来るようになればわかるかもな」と肩をすくめた

「そんな事絶対にありえない」

尊敬する上司と殴り合い、わけのわからない物言いだと、青とオレンジの光の部屋でどんなジョークと顔をさらすが、年季の入った石上の目は輝くと


「まだまだだな」

痩せた横顔が子供の質問をはぐらかすようにほくそ笑む

ベニーは自分に足りないものがあると思われている事に突っかかろうとしたが、石上は手をあげ機械に集中しろと指さし


「痛い思いをしなきゃ、自分の背負ってるものに気が付けなかっただろ?」


ムキになった顔に冷静な指摘

オレンジのパネル照明の下、持論の勝利に輝いた顔は失点を被った彼の心に届く答えを与えた

「ヤー...」

思い出しても痛い経験にベニーは俯いた

「ベニー、現場で起こった痛みを自分に刻み込む覚悟がなきゃいつまでたってもダニーには追いつけないぞ」

項垂れた若者の肩を叩く、頑張れと

「OK.わかったよ...」

本当にそれがわかるように成るのはまだ先の話しだが、今は石上の言葉に逆らわず聞く事にした

言い逆らわず諫言を聞く耳を持つことができたという事だけでもベニーは一歩前に進んだことにもなる。そして理解しつつもアメリカ人らしいジュークも忘れない


「だけどその怪我はどう説明するの?実験演習に腹を立てたふねに殴られたとでも言うのかい?」


小生意気な顔に鼻で笑った石上

それを思い出していた





「ええっ『こんごう』は右利きでした」


我に返った石上は羽村を真正面に見てきっぱりと答え、いつの間にか羽村の後ろに立っていた佐々木は頭を抑えた

「バカな事を!」

石上の答えに今泉は睨み叫ぶが


「そうか」

まるで聞かない顔は納得したと頷く羽村に石上もまた会わせるように答えた


「かなり機嫌が悪かったようで」

「機嫌が悪かった...『こんごう』は機嫌が悪かったのか?」

「はい」


まるで意に介さない二人の会話に今泉は声を荒げ自分と同じく細面の石上の胸ぐらに掴みかからん勢いで怒鳴った


「馬鹿な事を!!「人」か何かと勘違いでもしてるのか?貴官は誰に殴られたかと聞いているんだぞ!!」


本庁のロビーに響く激怒の声

アメリカ帰りの技術技官が実験演習のためにあの手この手と尽くし国防の第一線に立つ艦艇を使った実験だって、危うい方向に転がれば何億以上の損失があったかもしれない。

しかしそれについては「上」の意向というものもあるから黙って見過ごすしかなかったが、いざ報告のために本庁に戻った彼の顔には拳の跡がくっきりと残った腫れた顔...


明確に発生している暴力事件である


生真面目で通ってこの仕事をしている今泉にはジョークでもこんな会話が素通りする事などない、書類を片手に石上の頬を指差すと


「艦は...こんな明確に拳とわかる跡をのこすんですか?」

いまだ腫れ上がった頬に残る拳痣を自分の頬に手を当てて聞く

「石上一佐、貴官とぶつかったの艦は殴打もできる器用な姿を?」

「そういう波があったと言う事になりますね」


あっさりとした返答に力の抜ける音がする

今泉はがっくりと肩をおとし書類を手から零し、声をつまらせたまま止まってしまった

そんな彼を尻目に羽村は片方の眉を愉快気にあげて


「そうか...『こんごう』は右利きか」

今泉に背を向けて笑った

それに合わせるように玄関に向かって歩く石上もまた


「見事な右ストレートでした」


最早追求する気力を失った今泉の肩を佐々木が叩く

身に覚えのある会話に苦笑いの表情を浮かべたまま手から落ちた書類を拾い上げると


「海自じゃよくある事らしい、気にするな」

ささやかな励ましにも答えられない今泉に佐々木は玄関を出て行く二人の姿を見つめながら、仕方のないことと軽く息をついた


「よく黙してくれたな」

ロビーを出た出入り口の所まで石上を導くように歩いた羽村は背中越しに聞いた


「優秀な艦長を育成するのは大変な時間がかかりますが、理解や解決を深めるための蟠りをうめるのは拳一つ一瞬ですみますから」


振り返った羽村の前に自分の拳を見せた

「そうか」

そっけない回答、その顔に石上は敬礼する

「日本を頼みます」そう言って


靖国通りに消えてゆく石上を、外に出た事を良いことにタバコに火を着けた羽村は煙の中で見送った








演習の期間中開くことなく続いた秋雨が嘘のように晴れ、水面が鏡のように優しい顔をみせる中を護衛艦『こんごう』は朝を待って長崎港に入港を開始していた

女神大橋の下をゆっくりと航行して行く、夜にこの下を通れば光の羽を広げた金冠美しく輝く女神への道を見ることも出来たであろうが今回はそれはお預けで、太陽の笑みの元に港へ進む

雲一つ無い天気の下冷たい冬の風が山からも海からも吹く事を除けば心地の良い快晴の日


今回の入港は隊員達にしてみれば不意の出来事でありながらも嬉しい勝利の後でもあり、さらに有給を消費する休みの期間まで出来た

満足のゆく結果をだせた後の上陸となれば、気持ちの良い休暇も楽しめるというもの

だからか艦内はどこか明るい雰囲気でもあったが、艦橋から近づくタグボート達を見る粉川の目には快晴とはほど遠い正反対のよどみ、不愉快が宿っていた


長崎から奈良尾、福江に走る汽船ラインを避け八軒屋岸壁の前についた『こんごう』に押し船達が取り付くと手早い動きで立神の岸壁に近づける

隊員達も引き付けの作業に声をあげる中で、粉川とは別の冷めた視線を間宮が動かしていた

本来ならば三菱重工長崎造船所に7000トン以上もの船が予定外の入港で簡単に入れるハズもない

なのに

何事もないように立神岸壁は開けられている事に


「準備の良いことだ」


双眼鏡を覗く事で苛立ちの視線を隠した間宮は、岸壁に並ぶ業者と技官達に今回の実験演習が前もって組み込まれていたプログラムだった事を確信していた。操艦を和田に任せたまま舌打ちする


誰にも聞かさない怒りと微妙な理解で


艦橋につめる二人の種類の違う苛立ち、粉川も視線をきつくしたままだったが間宮のように上に対する理解というのはなかった

『こんごう』が朝を待つ間、長崎港の沖合で停泊待ちをしていた頃、やっと本土との通常通信のとれる一にきた事で本庁と連絡をとっていたのだが、返事は

「報告書のみをおくり、ドックにて修復の期間を過ごすこと」という簡潔な回答だったからだ

どんな事でもよかった今このドックに留め置かれるのが粉川にとって苦痛に変わり始めていたからこそ

本庁のこの回答は納得できなかった


ゆっくりと接岸してゆく『こんごう』の中、「痛み」の記憶はただ大きくなり続けていた



久しぶりの上陸

岸壁に身を預けた『こんごう』に入れ替わりで上官したのは技術技官達

作業青服に着替え、片手に大きなトランクやブラケースに入れられたマシンキットを次々と乗せ、この演習の結果をシステムの状態を精密に計り修復に当たるために乗り込んでいった


防諜のため艦を降ろされた隊員達は有給の消化のため三日ほどの時間が取られていたが、皆帰ってきたら『こんごう』の外回りの改修や厨房の害虫駆除をやるのが決まっている事もてつだって、大いに羽を伸ばすために駆け下りるように艦を後にしていた


同じく粉川もまた技官以外という事で三菱重工の仮宿舎に閉じこめられていたが、納得いかない本庁の判断に大人しくしている事など心から無理で、食事もそこそこにして外に飛び出し夕暮れの艦影をうつす『こんごう』の近くをぶらついていたが

近づこうとはしなかった


粉川はあの演習後『こんごう』とは会っていなかった

血反吐と鼻血、耳からの出血、人間だったら重傷に違いない怪我の中、艦を統べる魂として新たなシステムを自らに鞭のごとく叩きつけた結果は「人」の目にはとても素晴らしい結果をのこしたが、粉川には...日を追う事に罪悪感が募るばかりになっていた

自分で立つこともままならない彼女を『いかづち』が部屋に戻して以来...どうなってしまったのか...


「私はこの海から逃げたりはしない」


吹き上げた血反吐の中、演習が終わるのを待とう呼びかけた粉川に『こんごう』は強い意志をつげて戦い

「人」の持つ使命感に上乗せされた魂の意志が実験とはいえ「敵」とされた相手を打ち落とすという大金星を上げた

勝ったのだ、その時はは粉川もそれを喜んだ。だが後になってわき出してきたものは疑問と苦しみの嵐だった

実験終了とともに倒れた『こんごう』が発した言葉

「私達の魂を見つけて」

そして今までただそこにいる艦の写身うつしみであるだけの彼女の唇が起こした波乱

「人」が交わすそれと変わらない激しい口づけに、『こんごう』の中身が本当に壊れてしまったのではという心配が増す


「でも...僕に何ができるんだ」


同時に、戦いに際して彼女達を思いやるなど出来ないという現実

望まぬとも有事が起これば彼女達は戦いの矢面に立つ国の楯


「人」と変わらぬぬくもりと、柔らかな体を重ねる事のできる存在が、艦の魂であり戦いの命であるという前で自分ができる事など...何があるのかと

気がついてはいけなかった事に、気がついてしまったという気持ちの中に渦巻くのは三笠の言葉だった


自分にいつか護衛艦の艦魂が見えるようになるかも知れないと教えた人は、見えるようになったら自分と彼女たちの間をとりもってくれとは一度も頼まなかった

不思議な事だった

かつて帝国海軍を代表する戦艦の魂は現代の魂と出会う事をのぞんでいない、当時はそれが彼女の強がりだと思っていた


「見えるようになったら僕が絆を探してあげるよ、かならずみんなに会えるように」


三笠と今を生きる護衛艦達との絆を探すと初めて宣言した時

彼女の反応は冷ややかだった

そんなものを探す必要などないと投げ捨てるように言った顔は寂しげだったのを覚えていた

高校生、修学旅行から帰った粉川に話した「日露戦争」の話し、それが進路を決めるきっかけになり、同時に三笠と魂達の絆を探す事を決定した重大な事だったハズなのに...頑張るを連呼する自分に三笠が告げたのは


「いつかお前は後悔するかもしれない」


ただの一度だけの嫌味、酒に酔った戯れ言だと思っていた言葉は、こういう形であらわれてしまうとも思わなかった


「人」とは違う者達、なのに優しき魂の女達

船の魂である者達に粉川の心は言い得ぬ不安に揺さぶられていた


「どうしたらいいんだ」

海に太陽が飲み込まれる時間、解決のない思いに粉川は八軒屋岸壁の前を何度も行き来し頭を抱えていた




「こ...が...」


長崎造船所『こんごう』から距離を取った八軒屋岸壁を何度目かの往復を続けていた粉川の耳に聞き覚えのある声が、少し遠い位置から叫ぶ声が聞こえる


「粉川さん!!粉川さん!!」


軍事艦艇が入るドックにふさわしくない女の子の声に粉川は思い出したように顔を上げた

ココには『ちょうかい』が入港していたのだ


一ヶ月と少し前、不審船事件の後すぐに護衛艦『ちょうかい』はMD計画に基づいた改修のために長崎三菱重工造船所に入港していた

八軒屋の突堤をまっすぐに向かった第三ドックに浮かぶイージス艦、同型の艦影

緑の屋根を持つ大型作業倉庫の向こうのドックに身を任せている護衛艦『ちょうかい』の航海艦橋の上で青服をきた艦魂『ちょうかい』が千切れんばかりに手を振っている


「『ちょうかい』ちゃん...」

久しぶりに会う『こんごう』の妹、ホントなら元気よく手を振り返すハズの粉川はただ目の前まで走っていった





「申し訳ないことをしたと思ってるよ」


導かれたのは護衛艦『ちょうかい』のグループルームだった

白木を基調とした作りで『こんごう』の持っているグループルームに比べると視線の低い作りになっている

平テーブルと座卓のようイス、靴を脱いで上がるようにネオ和室のような部屋の中、テーブルを挟んで向かい合った粉川は実験演習という戦いで彼女の姉を傷つけた事に謝っていた


いつもなら明るく話す粉川のしなだれた態度の前に『ちょうかい』は昆布茶をだしながら


「あやまる事じゃないですよ、私達はそういう事が本番になった時、役立つためにいるんですから」

そういいながらお盆にのせた煎餅をだして

「演習で良い結果を出せたのなら、お姉ちゃんだって良かったって思ってますよ」


粉川には意外にも思えた

どちらかと言えば「お姉ちゃん子」の『ちょうかい』の返事は異常に冷めて見えたからだ

むしろ

今回の演習で大切な姉を傷つけられた事に対する怒りを自分に向かってぶつけてくるのでは、それを自分は受けるべきだと考えていた粉川には拍子抜けな反応だった

そんな事より久しぶりに自分のところに「人」が来てくれたことを楽しもうとしている姿が不自然で、何か辛い出来事に面と向かわないようににしているようにも見えた


「今会いに行ってもぐっすりだろうし、技術の人達が降りたら会いに行こうと思ってます」


冷めて見える『ちょうかい』に姉に会いには行かないのと試すように聞いたが、やはりどこか落ち着いた返事

罵倒が先にきてくれた方が落ち着けたと思う粉川は、差し出された煎餅に手は伸ばして見るものの口には運べない状態で、部屋の中を見回し褒めるなどという上等な台詞も出てこなかった

だから

心に渦巻いていた思いを口に出した


「君達はさ...君たち船の魂は、船が生きるための魂として産まれた事を理不尽だと思った事はないのかな?船の上でしか生きられないうえに、護衛艦なんて戦いのための船の魂になっちゃった事...イヤだと思うんだよね、僕は」


ココまでくる間でため込んでいた事

同じ船の魂なのに海保とは亀裂をつくり国民からも愛されない護衛艦

『しらね』の苦痛に満ちた独白

『しまかぜ』の思いを曇らせ続ける自分たちの存在の価値

なのに戦い続けた『こんごう』の痛みの姿


相手がまだ十代子供のような『ちょうかい』である事を忘れる程に、つまっていた痛みが吹き出していた

純真な瞳が見つめる前で、大の男は肩を震わしてテーブルに思いを叩きつけんがばかりの勢いで、吐き出してしまった


「君たちは自由じゃない、なんでこんな隔絶された世界に君たちは生まれてくるんだ!可哀想じゃないかって...思うんだ」


吐露する思いの先には、そこには三笠の姿があった

生きて100年、変わらぬ少女の姿なのにその身に受けた傷は数知れず

戦いのために建造され日本に尽くし、敗北により数多の姉妹を失い自らも蹂躙され、それでも生き続ける姿

それが血にまみれながらも戦い続けた『こんごう』の姿と重なってしまった


三笠は

「国を守るために妾は戦った」と言い

『こんごう』は国防の盾として試される実験の戦いに、自らの中身を破壊する戦いの前に日本防衛の威信を賭けて倒れなかった


あの時自分の前で

「想い必ず果たさん」と立ち上がったのは誰のためか?

船に住まう魂は何もできない存在なのに、「人」に気がつかれる事もない存在である事が大半なのに、人の楯として戦い傷つき生き続ける


「どうして君達は自由じゃないんだ......」


不覚にも粉川の目には涙があった

戦い続けた『こんごう』の姿が三笠の背負ってきた過去を知らしめた

三笠への思いと『こんごう』への想い

自分たちで生を選べず、一生を船に縫いつけられて生きる、時世の流れに身を任せながら

強く握った拳を自分の胸に叩きつける、何度も胸を締め付ける想いに頭を下げて


「粉川さん、「人」はそんなに自由ですか?」


粉川が声を殺してしまったのを見計らったように『ちょうかい』は聞いた

純真な瞳は自分の前で項垂れてしまった人に元気を与えるように


「私達は「人」が考えているより自由ですよ、だっていつも空と海の元にいられるし、「人」が縛られている制約だって私達にはほとんど無い」


そういうと煎餅を全部粉川の前に差し出した


「本当ならご飯も、お水もいらない。だから働らいてご飯代稼がなきゃ飢え死ぬなんて事は絶対にないし、お風呂もダイエットも美容もいらないし、お化粧だっていらない何時までもキレイで若いままでいられる」

そう言いながら自分まだ薄い胸を触って微笑みながら

「もっと大きくなるからね、少しは成長するから」

「でも」

顔上げた粉川の疑問を『ちょうかい』は言い当てた


「変わらずに産まれ、変わらずに死ぬ、一生を船の魂として生きることは不幸と思いますか?」


答えられない疑問

「人」である粉川には一生を同じ場所で生き死ぬのは不幸にも思える


「もっと自分の足で遠くに行きたいとか、地上を歩いて見たいとか...思わないかな?」

「粉川さん、それは人の幸せという考え方でしょ」


そう言うと部屋の窓から見える夕暮れの赤い空から紫に切り替わる時に輝く明星を指差した

「人だって自由に歩けるといってもそれについて回る労苦を回収する事はなかなかできないでしょ、空を飛ぶ機械があっても、飛んで遊びに行ってもお金がかかる、歳を取って体を痛めても治せなくなる時もくる」


『ちょうかい』は笑いながら対成る(ついなる)自由と不自由の差を話した


「変わるために産まれ、変わり続けて死ぬ、一生を地上に生きる人は不幸ですか?」

「そんな事は...」


「人」は自分が想っている程、自由ではない生き物だと

そして

「人」が感じているほど自分たちが不自由な生き物でない事を


「私達はとりあえずでも平和な時が続けば世界の海を行く事だってできる、世界中を見て回れる、たくさんの仲間達が今もこの海の上を生きていて、たくさんの話しもできる」


「でもずっと船にいなくちゃならないし自分では何もできないだろう。辛いと思わないかい?」

吐き出しきれていない事を心苦しそうに聞く粉川の前、『ちょうかい』は反対側の窓に視線を移した

立神岸壁に係留され明日から本格的な内部改修をされる姉『こんごう』の姿を見ながら


「私気がついたことがあるの。きっとお姉ちゃんも気がついたと思う」


そう言うと粉川の方に振り返って自分の青い目を指で開いて大きく見せた


「私達この目をもった事でいままで護衛艦の仲間達が忘れていた事、自分は何も出来ないと思っていた壁を破ったの」

目の中に輝く人とは違う輝きの形

八角のラインの入った水晶に、『こんごう』の見せた戦いの顔をが重なる


「見えない力は私達の側のもの...」


演習時電子戦の最中に言った言葉を無意識にのぼる


勘の良さそうな『ちょうかい』は今回の演習で粉川が何かに気がついたのをよく察していた

深く悩み何度も独り言を口にしては舌打ちする粉川の姿を実は早くから自分の艦橋から見ていたのだ


「そう、私達は「人」の目に見えない力の側の存在、だから私たちはその力に自分の意志を乗せる事ができる。なんでこんな簡単な事に気がつかなかったんだろうって思ってたんだけど......」

少しずつ話しを理解しようとする粉川の前で、理解は二の次のように話し続ける『ちょうかい』は幼い容姿の中にある英知の膨大さを十分に見せつけていた


「人」が自分たちの英知で生み出して来た力は

必ずしも自分たちの理解しうる力とは限らない、原理がわかっていてもそれが何者かという形で理解するのが難しいものは山のように溢れている

元々は自然界にある「力」だったのかも知れない

自然を疑似する形として、自分達の手の中に自然界のなせる業を手にいれた「人」、それが作り出した見えぬ力は古代の原理にもどり、魂達の側に通ずる力となったと


そして

海を行くという未踏の世界に踏み出す時に古代の「人」達は祈ったように、自分たちを未来有る事をそれに少しの力を貸す者、そう言う者を味方に付けることのできる器が「船」でわないかと


それを拡大させた形としての者

国を護るという強い意志と祈りを納める器として産まれた魂達の生きる場所は不自由ではないと


粉川はなんとなく自分の中で納得した

無限でなく、有限の世界に自分たちと同じ視線を持ちながらも別の領域で生きている者達がいる事

それらの者達の幸せを自分たち人間の視点で計ることは愚かなことだったと


同時に人は確かに自由じゃない事にも気がついた

自分を見ればわかること、八方ふさがりな国防という仕事に徒事と、息苦しい中で生活する。どこにでも歩いて行くことは出来るけど、どこにも行けない日常と仕事の中にいる自分のどこが彼女達以上に自由なのかと、沈んでいた気持ちがバカバカしくなった


「そうだね、僕たちの考えばかりで君達を見るのは間違ってる...確かに」


艦に生きる彼女達への理解を少しだけ深めながら、それでも気にしていた事を

「でも...同じ船に産まれるのならば、もっと小さな普通の船に産まれたかったとか思わない?護衛艦なんて...辛いだろ」

「粉川さんは粉川という家に生まれたくなかったって事ですか?」

「なんで?」

煎餅を口にしたまま素早い切り返しの『ちょうかい』に粉川は顔を上げて

「どうして...」不意の質問に困惑した


「だってそういう事じゃないですか、誕生先を自分で選ぶ子供なんていないでしょ」


アッケラカンとしたまん丸な目

粉川が自分自身が逆らいようのない時の流れにまで抗おうとしていた事に情けなくなり、そして...つまりすぎていた思いの浅はかさに笑ってしまった


「まったくだ、そうだね!!」


同時に思い出した言葉があった

初めて『こんごう』に乗艦し佐世保に向かう中で「名前」の話しがあり、その時に『しまかぜ』が言った事

「最初に貰った名前が一番、赤ちゃんが自分で名前をつけるなんて事はない」

一緒の事

出生を選べる赤子など、とりあえず艦魂にも「人」にもいないのだと


「それに、『しらね』司令の言葉じゃないですけど、国を護る仕事は私だから与えられたんだって思ってますよ」


薄ぺらい胸をドンと叩く可愛い笑顔

「だから粉川さんも一緒に頑張りましょうね」

小さな護衛艦魂の笑いに粉川も曇った顔から解放された笑みを浮かべた



「おばんでやんす」

「おばんでやんす」

やっと晴れた思いに、出されていた煎餅に大口を開けた粉川の後ろ、グループルームの扉を開けて入ってきた珍入者は甲高い大きな声で挨拶をした


「いっらっしゃい」

煎餅を口にいれたまま振り返る粉川の前、自分の手三倍は大きな手袋をした二人組、三菱重工のユニホームを来てはいるが下はハーフパンツ。というどこかひたすらに子供っぽい二人、ココに入ってこられるという事はおそらく艦魂である事はわかるが


突然の出来事に目を丸くしている粉川の前、彼女達船魂は柳のように揺れながら


「夜でごいすぅ〜〜」と嬉しそうに

仕事を開けて遊びに来たという事らしく、二人に同席するよう『ちょうかい』は部屋に呼び


「ココについて以来の友達なんです。今日もお姉ちゃんを押してくれたんだよね」

「もりもり押しました!!」

浦安のネズミ国王がつける手袋のような手を頭の上にあげてパタパタと遊ばせる

「つまりタグボートの子達なんだね」

こたつのような四角四面のテーブルにそれぞれが座った席で、さすがに魂達との対面には慣れている粉川は察しよく聞いた

長崎造船所には海自のタグボートもいるハズだが、今回は急遽の入港だったため三菱重工の曳舟達が働いてくれていて、彼女達は今日『こんごう』を岸壁に着ける仕事をこなし、さらに一日の仕事をして帰ってきた所だった


「おばんですぅ」


二人とも「人」に物怖じしない態度で軽い自己紹介をしながら手に手に夜のご馳走を持ってきていた

「菊ちゃんとようちゃん、いつも来てくれるの」


そういえばご飯時、粉川はお腹の音を軽く響かせた。悩み事に朝から何も口に入れられなかった事を思い出して、回りを囲むように座った彼女達に申し訳なさそうに

「ずっと食べてなかったから...ハハハ」

「ココで食べましょ、彼女達はいつも新鮮な魚を持ってきてくれるんですよ」

食べなくても平気な彼女達は、食べることまでを楽しむ事もできる、粉川はそういう楽しみも彼女達のもつ自由なんだと納得した

曳舟の二人はすでに刺身に下ろしたヒラメを大皿にのせて大喜び

「天然物でごいすぅ〜〜〜」

さらに酒漬けにして片栗粉をまぶし油で揚げた飛魚あごを小鉢に分ける


お酒のつまみにはもってこいの上等な料理

びっくりする旬の魚料理に粉川は

「どっからもってくるの?これ?」とつい聞いてしまった

「漁船の子達にわけてもらう〜〜〜」ひたすら陽気な二人

隣に座った『ちょうかい』はお酒を一升瓶でテーブルに出す「じゃがたらお春」

長崎特産と大きく金印された乙女心の焼酎は、九州地方に多い癖のあるお酒の中ではあっさりした飲み口が特徴で女性にも人気の高い焼酎、アルコール度も低くい

窓からのぞく一番星を餌に楽しむには絶好の時間


「いいですよね、秋の夜長ですから」


何事もなく楽しい宴会の準備が進む中、粉川だけが我に返った

「いや、護衛艦の中で酒盛りはヤバイでしょ」

最新鋭のイージス艦の中で焼酎片手に、秋の味覚を楽しむなど普通ではありえない事で、あってもいけない事。さすがそこは大人の粉川、両手を挙げてストップと表示するが

『ちょうかい』は笑うだけたし、曳舟の二人は仕事明けの親父がごとくかなりテンションが上がっているのか、乾杯を今か今かと大揺れになって待っている


「大丈夫ですよ、部屋には私が転送してあげますよ」

「いやでもね、それに『ちょうかい』ちゃんもそうだけど、みんな未成年でしょ」


自分の歓迎会で『こんごう』と酒飲み合戦をしたのはあの場の雰囲気と、相手の『こんごう』が幼くは見えなかった事もあったが...さすがに妹『ちょうかい』はまだ幼すぎて酒を酌み交わしていいものかと大人の理性がダメ出ししたが、笑う『ちょうかい』はお猪口に焼酎を注ぎながら


「それは「人」の規則でしょ、私達にはそんなのないから」


産まれた時からすでに若くても十代半ばの容姿を持つ彼女達

同じ地球に住むのに違う世界観にいる彼女達

問題なしと粉川にお猪口を渡した『ちょうかい』は久しぶりに自分のところに来た人を歓迎して音頭をとり乾杯と宴の開催を告げた


粉川は明日自分が海にでる事はない、それで気持ちに区切りをつけてお猪口を取った

せっかくの歓迎にこれ以上水を差すのは良くないと


「粉川さん、私達は可哀想でも不自由でもないからね。そんな事お姉ちゃんに言ったらぶっ飛ばされちゃいますよ」

ほんのりピンクに頬を染めた『ちょうかい』は姉の想い人が失言をしないように釘を刺した

「言わないよ。ぶっ飛ばされちゃうから」

ピッチをあげ酒を楽しむ粉川は彼女達、魂の真実に少し近づき気持ちを新たにした

「三笠、僕は後悔はしないよ...絶対に」

そう自分に誓うと明日の為に宴を楽しんだ

外伝の外伝はお休みでごんすぅ〜〜〜

その割りにはタグガールが本伝、外伝とも登場www


カセイウラバナダイアル〜〜浅はかな者〜〜


この頃はすっかり夜が涼しくなって過ごしやすくなって

英気を養っているヒボシです

日本の未来を決める選挙もおわり

色々名事に杞憂しながら日々をあるいておりますが、結局のところ私は無力で身の程をわきまえぬ部分があったという事を思い知らされた夏でした


出来る事を

出来る業で


おもしろいことで昔から渡しは年上の女友達から

「業の深い女」と言われていてwww

まぁ

それがこの歳になるまで何かよくわからなかったという事でしょう


しかし!!!

そんなに欲張りでもないし、努めて倹約している今日この頃それを言われる筋合いはないのですがw

(当方きわめて清貧www)

ただ

心や気持ちだけはいつも...なんというか...

人の事もよく、出来るだけ理解をとしてきたのですが

それ故に相手をつぶしてしまう重荷になったり、相手の傲慢を助長したり、反省のよい機会を私がつぶしてしまったり、また私が十分に理解してなかった事に気がつかされたりと、人生失敗談みたいなものは山ほどですわ

だから

身の程をわきまえろという事だったのだろうと

自分の身の丈以上の夢を見て、自分が寛容でよくできた人間だなんて思い違いをしないようにと


そんな夏を過ごしました

大きく政治の世界も動き不安を変え得る者も多い事を学び

草の根運動的な事もやってます

各党、自民、民主、公明に今年にはいりメールを何回かおくってます

自民一党だった頃の政府にも

これから政府として働く民主にも今日送りました

どこかに愚痴を書く日記はやめ、こうした活動をするのもそろそろ三年ほどになりますが

少しでもこれから先の日本の役に立てたらよいなぁと思っています


困難な時代が近づいているというならばこそ、少しの年寄りでるヒボシに出来る事をと



それではまたウラバナダイアルでお会いしましょ〜〜〜〜

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