表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/90

第五十九話 電子の冠

色々あって疲れ気味ですが

なんとか頑張っております

後書きに外伝の外伝を書きました

サイドストーリーはそれなりに本編に絡んだりもしますがネタバレもそれほどないので暇つぶし程度に楽しんでいただければ嬉しいです。

今回は短編で長くても後2話もないと思います


でわ〜〜〜


色々あって疲れていたのはホントみたいです...

どちらにしろ対潜訓練編はもう一度色々な見直しが必要なようですぅぅぅ


ちなみにH.link15Jは実際の自衛隊にはありません

またHekatonchires.systemもありません

ヒボシが創作したものです

機関部が圧力釜の音を高める響き

水の壁を破る勢いの旋回が続く海

昏倒のまま光のない制止した目をうかべた『こんごう』の肩を抱いた粉川にも振動は容赦なく伝わる

雨足も不安定に水面を動かすのか護衛艦『こんごう』が激しく揺さぶられる感覚の中、通信が入った

粉川は胸ポケットに入れていた通信機のけたたましい音に手早く「入り」を押すと 


「そろそろ終わりですか?」


察しのいい答えを間宮に聞いた


「そうだね。そろそろ終わりにしようと思ってね、今からフェイズド.アレイ.レーダーを回復する。少し騒がしくなるからねそのつもりでいてくれ」


間宮の声には緊張感が無くなっていた

というか

緊張はより、尖り戦う為に精錬化された自分たちの熱気を喜ぶように弾んでいる


「待ってください!急にオープンにしたら」

「H.link 15jとの連携が必要なんでね。勝つよ、この戦い」

「H.link 15...それってまだ実用では」

「実装しているんだから出来るさ」


自信に溢れた声は粉川の反抗をまるで聞くことなく通信を一方的に切ってしまった

言いたいこと一切を伝えられないままの状態で通信機を握った粉川は


「待って....そんな事...」


反抗が空気が抜けた風船のように力無く口からこぼれる中で、自分の腕の中にいる少女に視線を落とした

弱い息が微かに開いた唇から抜けた音を不規則に続け

顔は白いというよりも青に浸されたように色をくすませる中で小刻みに、痺れるような震えを繰り返している


「『こんごう』...」


耳元に呼びかける

柔らかな栗毛の髪、頭を抑えて

痙攣の中で微かに揺れる光のない目に


「どうしたらいいか...わからない、どうなるかも「目」が開いて君が無事である事だけを...」


船の魂がここにいる

それを声を大にして間宮に言ったところでどうなるわけでもない

不可思議な事と通信を切られるだけだし

粉川自信にもある種の覚悟が事もあった


こんな事で国防を止める事は出来ない


これが実戦ではない

だから諦めていいという事は絶対になく

実戦を模した戦いだからこそなおさらに負けられない

至る有事のために用意された艦がその実力を示す事がこの海を隔てた赤い国に対する


強い日本という意思表示


自分自身も国防の盾である事を心に刻み込んでいるように

この『こんごう』に乗船する全ての者達が盾となって今置かれている挑発に対して心に鬼を宿して

勝とうとしている気持ちは粉川も変わらなかった


だから逆らうような返信は出来なかった

かわりに手の中、力無い体を強く抱きしめ、はっきりとした口調で励ました


「どんな事があっても大丈夫、僕がついてる。頑張って」


グループルームの窓に叩きつける雨粒

風に乗った破裂の音の中、戦いは最後に向かって加速していた






「勝ったな」


自らも太い指をも使いパソコンに叩きつけるようプログラム解除の手伝いをしていたダニーは顔を上げた

薄暗い部屋全体に打音は続く

詰めたメンバーの全てが現実的画像のにない映像の世界と戦っている


1分32秒


メインの潜水艦であるマーシアハ,石龍以外の戦闘機能再起動にこぎつげたダニーは成功の裏側を良く知る片口の笑いを浮かべながら


「こっちは後30秒で起動だ。Miss diamondは?」

「回避運動をしつつ....ルーアハに目標を定めてます」


メインモニターを見張るアイザック少佐は自分のモニターと目の前のブルーバックを交互に忙しく睨みながら背中で答えた


「1つは、やもえんか....それでも正確にアクティブをかけられる事はないだろう」


正面に鎮座するモニター内、後数秒でアクティブを受けてしまうであろう1つの艦影を睨むと

囲いの位置からは一番後方で今のところマークされていない艦にも攻撃の合図をする


「レーダーの反射は」

「ありません」

「ではヘリはこちらに向かっているな....」


モニターに映る影はない

フェイズド.アレイ.レーダーが生きているのならば反射による残像を確認する事は可能だが、相手が「無」であればそれで確認する事は出来ないが

他の方法は何通りかある


余裕のあるダニーは一息つくように

メインモニター右側に浮かぶ青い画面の中を飛翔体を表すアイコンが走り『こんごう』とマーシアハの間に入ってきたのを確認した


「目と...目をつなぐか」


ダニーの隣、両腕を組み瞬きもしない鷹の目石上はつぶやいた


「フェイズド.アレイ.レーダーの代わりにヘリの目とlinkを重ねるのは良い方法だったが正確無比とは言い難い...後、初めてなんだろ?最初のキスは優しくタッチが基本だ」


少しの余裕が出来たダニーは石上を冷やかしながら背もたれに体をドッカリとあずけると

ほどよく解れた緊張感の中でジョークまでとばしていた


「aegissystemを無敵にする為には百の目であるフェイズド.アレイ.レーダーが必要、作動にはそれを見渡せる目を動かすにたるものがあってこそ無敵の楯だ...やり方は凄かった実戦的じゃない」


この後の結果に響くであろう出来事を持論の中で自慢げしゃべると

鼻に掛かったメガネを指で軽くなおす


「実戦的か....」


理詰めで自分を諭そうとするダニーの目に石上の尖った視線は


「実戦はいつだって突然やってくる。出来ない事と出来ることの差ぐらいはわかっているよ」

冷静すぎる答え

それがまるで石上の体の中にある「負けん気」の発露のようにもみえるのか

少し疑うようにダニーは聞いた


「君は勝てると思ってるのかい?一度切ってしまったシステムを立ち上げるりのはそれなりに勇気がいる。それに立ち上げられたとしても新たなlinkに同期させる余裕はないと思うが...」


あまりに冷静な相方である石上の顔に、少しの怒りと困惑を眉に走らせた顔は睨むが

「そういう事態が起こる...それを実戦っていうんじゃないのか?」

石上の目はいつになく厳しい

見逃さないように見つめ続ける先にあるのは『こんごう』のアイコンのみだった







「やってみるだけだ」


CICの安藤から「どうなるかわかりません、電気系の負荷までは」と忠告を受けた間宮だったが、自信に溢れた態度が揺らぐ事はなかった


「今までの艦体行動では使う機会がなかっただけだろ、H link 15 J....こういう時のためにある装備を使わないでどおするよ」

そういうと手元の要項をなぞって

「大丈夫、数の上では成功してるんだ。後は艦を信じるのみ」

そういうとキャプテンシートを軽く叩き時間がないと催促した


「しかし....最初の圧力でフェイズド.アレイ.レーダーに何の被害もでていないとはいいきれませんよ」



最初の攻撃でシステムにかかった負荷を考えれば「見えない」なんらかの攻撃がレーダーを蝕んでいた可能性は高い、心配する安藤

伊達で何年もこの機械とつきあってきたわけではない

再起動で壊れる可能性も考えなくてはいけない状態だが...

さすがにここまできて「白旗」は自分も許せないし『こんごう』の乗員的にも停止はありえない


蒼の光とオレンジの瞬きの中、CICのメインデスクで間宮の言葉に目をつぶっていた安藤は踏ん切りをつけるために鼻から一息抜くとやっとで返事した


「わかりました...やってましょう」


そう言うと自分の周りに座した隊員達を人にらみして

「やるぞ」と目で合図する

インカムを右手で調整

最後の大仕事に入った


「フェイズド.アレイ.レーダー再起動、同時に15linkに接続」

「フェイズド.アレイ.レーダー再起動はじめ!!」

艦内に響く声

最後の戦いに発動された声はダニーがシステムの再起動にこぎつけた時間とほぼ同時だった






赤と青

曇り空の下に幾重にも色を重ねる情景は一つとして同じではない波のように押して引き

姿も香りも変えて激しく動き

マリアの空間からまっすぐに海を割って飛ぶ『こんごう』の意識は天井に輝く光りに向かって飛びだした


「『こんごう』!!!」


目覚めは激痛と口の中にヘドロのように溜まった血を吐き出すという強烈なものだった

飛んでいた意識は本体の頭の中に合致した瞬間、走った火花は『こんごう』の全身に

神経に荊を走らせ微妙に揺れていた力無い体は跳ねるように起きあがらせた


口から吹き出した血と、耳鼻をつたう血

およそ端正な顔を持つ少女に似つかわしくない生々しい飾り


反動で跳ねた体を支えていた粉川は突然電源の入った『こんごう』の姿にブリッジがフェイズド.アレイ.レーダーを再起動させた事を確信した

そのままゆっくりと引きつった顔のまま立ち上がった上半身の彼女に呼びかけた


「『こんごう』!『こんごう』?」


唇を彩る血の雫の中、唇は感電の下で小刻みに震えながら

粉川の問いとは別の答えを返した


「想い必ずや果たさん」


尋常ではなかった華奢な体はゴムをねじ切ったように跳ね返りの後

今まで目の玉を無くしていた暗黒の瞳が

粉川に支えられる腕の中で目の中に赤いラインを発生させ輝かせている

八角の輝き、フェイズド.アレイ.レーダー復活の証

その目が粉川の、自分を覗き込む目を初めて確認する


「粉川...」


自分の問いに初めて名を呼んだ彼女に粉川は顔をよせて労った

「もう終わる、もうすぐに、後少しだけ」

「私は戦う」


少女の見るからに危険な状態に気を遣った彼の言葉を遮る意志


「私はこの海で逃げたりはしない」

言葉は強いがそれを鵜呑みには出来ない傷


「でも」


『こんごう』の姿はあんまりなものだった

粉川の前にいる魂はボロボロで色の白い肌は薄暗く明らかに具合の悪い顔になっている

赤い血と吐き出した嘔吐の汚れは栗色の髪を汚していて

ただ目だけが強靱な意志を表している状態


「護ります....必ず」


フラフラした足が起き上がる。何かに覚悟を決めた姿が粉川の手から離れようとする


「『こんごう』もういいんだ!!もうすぐに演習は終わる。ココに座ってゆっくりして」

「力を貸してくれ!!」

輝く目とは反比例するように不安定に揺れ続ける体は今にも仰向けに倒れてしまいそうだった

それを支えるために『こんごう』は粉川の肩を両手で掴んだ


自分の前、膝を着いたままでいる彼の肩に


「ここで逃げない、絶対に....」


強い意志を継げる『こんごう』だったが粉川には我慢がならなかった

中身の破壊に足もおぼつかない彼女をこれ以上戦わせるなんて事は出来なかった


「君はよくやってる、だけど艦の魂は何ができる訳でもないだから」


ふらつく体は懸命に肩に手を通わせなんとか自分を立たせている中、粉川はついに言ってしまった

だけど

そうしてでも『こんごう』を止めたかった

見ているのが辛く成る程に血反吐と嘔吐にまみれた彼女の体は揺れ続け

危険域である耳からも未だに止まらず流れ続けている血に


何も出来ない存在なのに怪我をする


不可思議な事だっがこういう事があるという話しは三笠からも聞き及んでいた事で

悲しすぎる現実に打たれてしまっていた

何も出来ないのに国民の過剰な期待を背負っている彼女は、無敵と言われるシステムを搭載したが故に失敗の許されない...だから今も自分を奮わせていると思えば可哀想でしかなかった




見つめる目

真面目な粉川の目が八角の輝きの瞳に告げる

「もういいんだ...何も出来ないのに傷つく事はない、後はココで休もう」と、しかし彼女の答えは違った

肩に置いた両の手は相手の「人」に理解を示しながらも


「それは違う」


『こんごう』は睨む目がはっきりと否定した


艦魂は

「船の魂は船に住まうだけで何か出来るわけではない」

長年言われ続けてきた事

魂を知る「人」にも、魂自身もそう思って生きてきたハズの事に

不安の顔で自分を見てそれを口に出してしまった男にはっきり毅然とした声は違うと告げた


「艦は私達がいるからこそ生きられるもの、目に見えぬ力は全て私達の「側」のものなのだ」


そう言うと頭の上に小さな光の輪を表した

「この宙を舞って訪れた痛み、これこそが私達の世界の痛みであり私達が生きている証なのだから」


自分の中身に痛みを走らせた物、それは「人」には見えない力だったがだからこそ『こんごう』にはわかった

見えない力は自分たちと同じ、「存在として近いもの」である事に


片手が自分の口から吹いた血に触れる

手に乗った赤い、生きる者達の証である鮮明な命のカラー、深紅の滴にうなずく


「私達もまた生きて戦って、護る者なんだ」


確信の口調に粉川は三笠の言葉を思い出した



「神話の時代を具現化できる「船」は「戦艦」しかいない」



三笠は現代なればそれは「護衛」という名を持つ魂達だと言っていた

そして今神話は粉川の目の前にその姿によって具現化されていた



海神の暴威を「人」と共に盾となって戦う「神々しき女神」はココに姿を現していた


たとえ自分で立ち上がる事が不可能で、粉川の肩に手を置くことで奮い立たせた姿であったとしても、すでに死んでいた目はなくなり

輝く目と頭に輪を持つ姿は強く叫んだ


「『いかづち』!!私の目となりつながれ!!」


声は荒れ海を割って彼女の頭に響く

驚愕の事態のまま膝をついている粉川の前、頭の上に光る輪を拡大しながら『こんごう』は自分の後ろを走っている『いかづち』に電信した


その頃

『こんごう』重篤の状態から一人艦に戻っていた『いかづち』は、とても艦首に立つ事が出来ず部屋で蹲って震えていた所だった


「『こんごう』....大丈夫やの?」


突然耳に届いた声に抱えた膝の間に沈んでいた顔が挙がる

ついさっきまではまさに虫の息を零していた『こんごう』の声はみなぎる力のまま続けて


「接敵する!!続け!!」

「せやけど...もうわからへんで、もうどうしていいか」

今までなかった事態に膝を抱えたままの『いかづち』は混乱した様子で弱い声を返すばかり

何故、倒れていた『こんごう』が復活しているのか?それさえも頭の混乱を助長していた


「もう...ええやん痛い思いはしたんないよ」


苦しんでいた彼女を気遣うように。自分の弱さにくるまろうとする『いかづち』だったが


「『いかづち』!!!この海で私達は負けられない!!」


相手の弱気の鼓動までを鷲掴みにするかのように『こんごう』は叫ぶ

お互いをつなぐ電子の光が小さなプラズマのように空気に光を踊らせる


「せやけど演習やで..もう終わるて」


相手のの姿が見えなくても

声の調子から紛れもなく回復している事だけはわかった『いかづち』だったが

今まで味わった恐怖に、この時間が早く終わってくれる事だけを願っていて

とても戦おうというテンションに自分を持っていけないと首を振った


「ほっといても終わるねん、もうええやん『こんごう』だって怪我して」


「このまま終わっていいのか!!この海で!!ココで死んでいった姉さん達が、見てるんだぞ!!」


泣いた自分の言葉に怒鳴る声の返事『いかづち』は背筋に力が入った

思い出さなくてもわかる

ココは東シナ...かつて帝国の領土を護らんと戦った姉達がいた

自分の死など顧みることなく手を伸ばし戦った姉達がいた


この場所からそれほど遠くない場所を終の棲家に沈んだ魂達


震える手をきつく握る

立つことはまだ出来ない中で『いかづち』は答えた

「わかった、がんばる...がんばるで、わてのできる事で...がんばる」


姉達は死んだ。でもきっと見ているそれだけは理解ができたから



粉川の肩に手を置き体を支えられた形で立っていた『こんごう』は叫んだ


「link15 J接続!!フェイズド.アレイ.レーダー再接続、Hekatonchires全接続!!aegissystem all clear」



艦を操るに必要とされる言葉とは違うのだけど

それが何をしているかは十分にわかった

粉川の目の前、女神は体を感電の痺れのように振るわすと一瞬で頭にかかっていた輪が大きく広がり金冠となった

細かな情報が光の輪の中に浮かび上がり

link15.Hekatonchires.aegisの全てに光の文字が浮かび接続し

輝く目の中の八角もまた同期してゆく


金冠は流れる髪に光りの粒を纏わせる

それはローブを纏う女王のように

電子の冠(tiara)を身に戴冠した女神は言う


「全ては大御心の示すままに」








「つながった....」


CICの安藤は数秒と間をおかずにつながった全システムの状態に目を大きく開いていた


「できるもんだな」


オレンジに輝く円形モニターを配したビジョンから

それ以外の全体モニターを確認、冷える冷蔵庫の部屋の中

各隊員も目を丸くして各々の前に置かれたシステム状況に驚いていたが、チェックを怠るほどに惚けはしなかった

すぐに目の前のデスクと項目に目を光らせながら


「チェック!!!」


CICの隊員達に檄を飛ばした


何もかもが変則の戦いの中に今もいる

不都合ばかりが先行した戦いの中システムは正常に動くのか?


厳しい表情が画面を流れる情報に目を光らす


「どうだ?」


機動から寸間も置かぬ間宮の声に


「イージスシステムに問題はありません。ただフェイズド.アレイ.レーダーの復旧率は62%で現在も先ほどの規模ほどはありませんが干渉を受けています」


半分と少しの可能性の目

だが安藤の顔は苦悶の色に染まることはなかった


「ですが問題ありません!link15ならびにHekatonchires全接続に成功!!


CICに熱気が走る

行動中にフェイズド.アレイ.レーダーを解除して再起動には新型linkも合わせるという荒技に『こんごう』の頭脳は応えた事に

確かに実験の数の上では出来ていた事だが、いざ現場でそれも不足の事態が起こった状態の中で成功するかは賭けに近かったからだ


だが艦は応えた

急場の戦いに『こんごう』は気持ちで負けていない事を示すかのように



立ち上がった頭脳、自身の持つ目を片手落ちの状態と不通を生じさせたままだが、それを補うシステムHekatonchiresの接続が大きな力に変わっていた

集まる情報に安藤はうなりながら


「すごいなHekatonchires...これほどとは...しかし...」


それでもシステム全体に出ているストレスは「人」の考える以上のもので、安藤もその事はよく理解していた

新たに目を補うために使われたシステムの重さは半端ではない事


「システム各所の負担は完全に解消は出来ないか....フルで使って10分ぐらい....保つか?」

あごに手を置き考えるが

あらゆる角度で十分にそれを検証する時間はない


決める...限界の時間を

「10分....」

自分の考えるリミットをつぶやくと

即座にブリッジに叫んだ

時間に猶予がない事だけが事実で、今はまだ戦場にいる事を思い出して


「こちらCIC全システム「とりあえず」接続完了!!」

「ブリッジ了解」


待ちかねた応えにブリッジに詰めていた隊員達の覇気は一気に熱を上げた


「やりましね」


間宮の横に立って状況に肝を冷やしていた和田は大きな溜息と共に緊張を吐き出していた

大男のほぐれた緊張

少しばかり笑ってしまう姿を横目に


「さすが『こんごう』よくやった」

 

間宮の手は軽く船体を叩くと拳を固めて


「さあ!!仕上げだ奴らの度肝を抜いてやろう!!」

目指す結果のために士気をあげた







「アクティブ!!かけられました!!」


石上を不敵に見ていたダニーの耳にアイザック少佐の声が響いた


「意外に我慢強くはなかったな、ミサイル回適時間測定、ルーアハ2にて迎撃、1にて攻撃」

簡潔に指示30秒のセットアップを調度クリアしたところで迎撃はギリギリの状態だっが、それに動揺をみせることは決してしない態度

隣でずっと両手を重ねたままモニターと睨めっこをしている石上を見ると


「手こずった...だが良い経験になった」


軽めの口、最後は自分達が勝者であるという笑みだったが

石上の視線は彼の顔を見ることはなかった


睨んだままのモニターに向かって「終わってないぞ」薄い唇から白い息と一緒に意見を吐いた


「大佐!!ルーアハ1とマーシアハ完全にロックされてる恐れがあります」

それは各艦が百目によってロックされた音が届くことで現実となった


余裕の目が固まる

アイザック少佐が示すモニターに目を向ける


「目が開いた...フェイズド.アレイ.レーダー.....まさか?ハ・シェムの干渉値は?」

「レベル1の状態を維持しています」


ダニーは首をかしげた

「干渉を受けてるのに攻撃に転じた?」

「再起動に成功したんだろう」


石上の不適な顔に頭の回転を速めた

冷凍の部屋の中、スタッフジャンパーを脱ぎ捨て熱くなる思考の中身はめまぐるしく答えを探していた

最初のレーザーによる電子の攻撃で『こんごう』のイージスシステムにはそれなれりの「負荷」を与えていた

相手はそれを嫌ってシステムに大きな負荷を与える部品となった「フェイズド.アレイ.レーダー」解除、代わってヘリの目による攻撃に方法を移した


「最初の攻撃のダメージがわかっていたら...もう一度立ち上げて曖昧のうちに攻撃するなど事ありえない」


自分ならば...これほどに負荷の掛かる状態からさらに再起動プラスlinkを足すという方法で目を増やしてフェイズド.アレイ.レーダーを使ったりはしない。ともすればシステムの一部を壊れてしまうかもしれないのに


「馬鹿な....」

「無敵の楯...百の目....」


固まる姿勢、背中に向かってかけられた石上の言葉にダニー唇を噛みしめた



「まさか...アレを?」

否定の顔の前

石上の目は『こんごう』のアイコンを逃さぬように見つめる

今まで凍りのようにただ傍観者として椅子に座っていた石上の顔に「挑戦」が浮かび上がっている事にダニーは気がつくが

それさえも視界に入れる事なく


「それでいい」とつぶやく



「いや...しかしだとしてもこんな使い方はしないハズだ」

ダニーは石上にむかって冗談だろという顔で聞いた

フェイズド.アレイ.レーダーを含むイージスシステムは大変高価な兵器だ。

演習程度で失えるものじゃない



「使い方?実戦でそんな事は言ってられないだろう。望み通りの最小限の艦艇での戦いは目の前で起こっている。現実の実戦はまってくれない、違うか?」


「だとしても!!」


実戦は待たない、そんなことはイヤと言うほどに知っている事実。故郷イスラエルは隣接するパレスチナからいつだって待ったのない攻撃を味合わされてきた

実戦が待ってくれない

いや不意と思う時にしかこないものである事はダニーの方が了解済みの事

反射する青い光、メガネの奥で温和だったダニーの目が尖り眉間に皺をよせる


「だとしても、中身(システムの負荷)が保つか保たないかまで考えれば新しいシステムを加算するなんて...」


「もちろんだ。自艦に損害がないとは言い切れないが、ココを戦場だと決めた奴らにそんな選択はないだろ。待てば敵は待ってくれるのか?」


「まったくだ」


終始背中に向かって冷静な意見を通した石上に、向き直ったダニーの顔には怒りがあったが顔に登った怒りとは別に静かで冷静さをしっかりと取り戻していた


「アイザック少佐、ルーアハ1へのアクティブはそのままでいい、Miss diamondによりルーアハ1のミサイルが迎撃されたら即時ルーアハ2から魚雷2発発射」

イスに座ったダニーは手早く指示

「マーシアハはどうしますか?」アイザックはすでに勝敗がかなり自分たちに不利な事を感じていた

このまま撃ち合いになっても...そして事は許さない者がいる


「Miss diamond!!アスロック発射!!マーカー出てます!!」


モニターに新たに映った飛翔体を示すマーカー、実弾ではないにしろ模擬線の攻撃は相手によって先に刺された

「どっちに!!」

「ルーアハ1へ向かって...発射弾数2発間10秒」

「大佐!!」


このままルーアハ1を見捨ててミサイルの発射するか?迷いはなかった

アイザックの目が尖る


「ルーアハ2、魚雷発射!!」

モニタに叩きつけるように叫ぶダニーに、向かい全面の指揮していたアイザックの悲痛な声返る


「Miss diamondアスロック発射、発射弾数2発間10秒!目標マーシアハ!!」


本隊である潜水艦に先手の一発が発射

「ルーアハ2、魚雷発射!!何してる!!」

「間に合いません!!」

「Miss diamondに一人勝ちさせるつもりか!!撃って防げ!!」


ただで撃たれたのでは話しにならない

ダニーは時間の差をしっかりと見て次次に発射の合図をくだした


同じ頃、間宮も仕上げの拳を振り上げていた


「負けん!!!」



激突の海にお互いを標的と構えた者達、間に響く大きなブザーが鳴る

艦魂物語,魂の軌跡〜こんごう〜外伝の外伝 港の働娘



その日、氷川丸は秋の日差しやわらかな心地に誘われてプロムデッキの端に用意した小さなテーブルと椅子に紅茶を用意して港を眺めていた


内燃機関は日本国以外のもので作られたからか

襟足を肩で切りそろえた黒髪、なのに緑の色の瞳を持つ彼女は

すがすがしい空の下で思い出にひたっていた


横浜港、ココに係留されて40年近くたつ

あの大きな戦争を過ごし、もう二度と客船には戻れないのではという辛い思いをしたのが嘘のように

あの後,復員の仕事に徒事し、さらに再び客船に戻れた時...泣いたものだった


アールグレイを口に今はゆっくりとした時間をただ優しく見つめる日々

横浜を訪れる世界の客船達は必ず彼女に会いに来る

「人」と楽しい旅を添う魂達はいつも優雅でおしゃべりだ

10年と少し前には「クイーンエリザベス2世号」が大桟橋に寄港し

長く滞在した

クイーンを冠する彼女は上質なキングス.イングリッシュで紅茶の嗜みから最近の話しまで...

たくさんの話しをした


氷川丸はカップから唇をはなし秋の空を流れる雲に目を細めた


「またたくさんのお客様が来るシーズンになったわね」


真夏の終わった季節

熱くない水面に恋人達が写真をとったり、船に遊びに来たりしてくれる姿をみる事だけでも楽しい

そういう姿を見るために海を走ったのだから当然とも言える。

お客様を今も待つ氷川丸は今日も日本郵船の制服をキレイに着こなし空を眺めていた



「氷川丸さ〜〜〜〜ん」


そんな優しい思い出に浸っていた彼女にデッキの下から大きな声がかけられた


「あら『ずんずん』こんにちわ」


氷川丸が停泊する桟橋の向こうに並ぶ船

港に出入りする大型客船から作業船などを桟橋近くに付けたり、出したりの仕事を頑張るタグボート達が丸みを帯びた可愛いおしりを並べて止まっている


その端っこ、自分の船尾で氷川丸を呼んだ魂は手を振っていた

癖毛いっぱいの赤毛に黒く日焼けした丸い顔立ち

今年から統一したのか作業員が来ている赤のジャケットにハーフパンツと原寸の足を大きく上回る作業靴と、もっとも特徴的である大きな手

大きいといっても手自体が本当に大きいのではなく

例のアレ...浦安に住んでいるネズミ王国の国王のような大きな手袋をしている


身の丈小さな彼女はこの港一働き者の「タグガール」港の働娘達の一人


名前はけっこういい加減なのか彼女は自分の事を『ずんずん』と称していた


「元気そうね、今日はもう仕事終わり?」


デッキの上から話しかける氷川丸に『ずんずん』は大きな声で


「もりもり運びましたぁぁぁ!!」と彼女達タグガールの口癖を返した

彼女達は働く事が大好きな女の子達だ


困っている仲間や船がいるととにかく励ます

そうしないと自分達が悲しくなってしまうのか、一生懸命に励ますし


仕事の時はより元気いっぱいだ

「もりもり運ぶよ〜〜〜」

「もりもり引くよ〜〜〜」

「もりもり押すよ〜〜〜」がきまったかけ声、黄色い声を上げて楽しく働く


特に報酬を欲しいなどとは言わず働く彼女達だが、甘い物が大好きなので豪華客船の魂などはチョコやアメをプレゼントするようにしている

彼女達の押し引きで桟橋に着くことが出来るのだからお礼みたいなものだ


そんな裏表のない元気者の彼女達なのだがわかることもある

今日は最初の挨拶以降『ずんずん』は元気がな事


元気がないとすぐに悲しい顔があらわれてしまう。隠し事の出来ない子


「『ずんずん』どうしたの?元気ないみたいだけど」


長くここに係留され、港の娘達をよく知るようになった。そういう気持ちをよく察せるようになった氷川丸は目の前で俯いていた彼女に優しく声をかけた


「あのね、『ぽんぽん』が元気ないのです」


『ぽんぽん』とは彼女たちのリーダーにあたるタグボートの魂だ

いつも『ずんずん』と二人で「もりもり」を競っている彼女は黒髪短髪ドングリ眼の可愛い子


「どうしたの?体の具合がわるいのかな?」


氷川丸も『ぽんぽん』の元気ぶりはよく知っていたので心配になった


「『ぽんぽん』昔、悪い事したって、しょげてる」

「昔....そんな事ないでしょ『ぽんぽん』はずっと働き者じゃない」


少なくとも彼女より前からこの港にいる氷川丸

昔といってもまだ5,6年程度の船生の彼女の行動は最初から見ていて、悪い事をしていたところなど覚えがなかった


「もっと昔の事みたいなのです」


氷川丸の問いに『ぽんぽん』は自分でもよくわからないという顔をしながら



「昔、戦艦長門をアメリカのために運んだって、泣くんです」


それは彼女達年若い船魂にはとうていなじみのない名前

だけど氷川丸にとって忘れる事の出来ない魂の名前


氷川丸は顔を空に向けて上げて息をついた

あの日

あの大戦が終わった港の空は....ちゃんと色のある空で、今日のように穏やかだった。


「覚えていたのね」


悲しみに少しゆがんだ眉

そういうと『ぽんぽん』の元に『ずんずん』と共に秋色で透明度を上げた空を舞い転移した

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ