第五十八話 心の欠片
水面に幾重にも広がる波紋は震えていた
大海原に立ち上がった黒煙の柱は太く、天をつく雷鳴と共に暗雨の空を突き抜け上昇した先で彼女の破片をまき散らした
巨大艦艇として産まれ、帝国海軍最大の戦艦として形あった彼女はもういない
全てが破壊され手も足も顔も…全てが粉とチリに変わり砕け散った
「ああ…」
1945年4月7日14時23分
帝国海軍と強き日本の象徴として産まれた姉は死んだ
よもやその出来事を水の記憶を遡るという事によって眼前で経験する事になるなど…
繰り返したくも見たくもなかった歴史の真ん前に『こんごう』は呆然とただ涙を流して立っていた
どんなに手を伸ばしても
行かないでと叫んでも自分がただの歴史の傍観者で
変わり様の無かった過去が鮮やかすぎる現実を見せつけただけ
海に浮き
帝国海軍の終焉を見続けた『こんごう』は力なく顔を落とし
激震の余波に揺れ踊り続ける海を見た
だけどわかった事もあった
文章や写真でみるよりも、心を抉るように激しく辛く、想像を絶する程の悲しみの中でそれでも「護りたい」という心を前に立て「人」と共に死への道を走った姉は
最後まで
最後まで
逃げず、退かず、沖縄に住まう日の本の民を護らんと手を伸ばし続けた
自分が死ぬことなどわかっている。度外視の戦いの中でただそれを願っていた事だけが理解できた
同じように矢矧も魂の火を燃やし戦い
愛する人が生きることを願って死んだ
「矢矧姉さん…大和姉さん…」
矢矧とは体を寄せて言葉を交わすことができた
だけどそれが愛した人の影なって見えていた事である事を姉は理解していたのかはわからない
でも
最後の時まで「生きて」と言い続けた姿
軍服の形こそ違ってはいたが黒髪の白い肌は
今を生きる『こんごう』達と同じ船に住まう魂の女
両足を失い腹を裂いた痛みの中で…「ごめんなさい」と謝り続けた姉
そして全ての大任を担って争いの海を走った姉大和
荒れ狂う鷲たちが支配する空の合間
ほんの一瞬見えた姿
肩まで伸ばしていたであろう髪を引っ詰め七生報国の鉢巻き
血という彩を纏った顔は、自分と変わらないであろう少女は誰よりも真剣な眼差しで自分の進む道を睨み
そして
愛する人に心を託して死んだ
海の上、『こんごう』は崩れるように体を丸め泣いた
少なからず頭の中にある混乱
愛するから…死ぬことも厭わなかった?だけどこんな最後なんて
何度も頭を掻きむしる思いは口からこぼれていた
「どおして…そんな思いに…」
手や足にまで走った振動の余波と自分の心の奥の願いを砕いた痺れが全身に小刻みな震えを伝え続けている中
生暖かく戦火によって温度を上げた海の上
まだらに灰色をちりばめた空の下に
爆破の赤い炎を揺らす水面と黒煙の空は無惨な情景を惜しむことなくさらし
嫌味のような色合いを濃く世界に広げ
高く天を突くように立ち上がった破裂の柱から、彼女の体だった部位を海に投げ落としていた
「大和司令……」
『こんごう』が水面の上で泣き伏せたように
司令艦を失った事に顔を真っ青にしたまま立ちつくしている艦魂達がいた
激震地の水面から押し寄せる波動の波の中、まだ走り続けていた姉達は黒煙の空に涙も出ない顔を晒していた
最後の連合艦隊
最後の作戦に意地を奮った姉達に行くも帰るも希望はなかったが
自分たちを待つ日本の民達に救いの手を届ける事も出来ずに
荒鷲に啄まれ骨も残さぬ撃沈の果てにあるものは
虚脱感などという形式張った言葉でかたづけられないもの
一時の自失の後、傷だらけの自艦甲板に手をつき
声も挙げられない程の押し殺した涙の姉
大和が死んだ水面のまわりを何かを探すように走る駆逐艦達
同じように尻餅を着くように甲板に崩れ、目の前の光景に首を振る姉
「嘘だ、嘘だ……」
手を胸の前で重ね、目に焼き付き心に募る真実を否定するように泣く姿
駆逐艦雪風、艦魂雪風は回避運動で大和の周りを防御陣形とは言い切れなくなった状態でも懸命の護衛を務めていたが…
同じく姉妹達である初霜と冬月共々喪失に満ちた悲しみの中にいた
爆風と熱の風
敵を食い散らかした勝利に、羽の悪魔達が何度も撃沈の海を眺める
影も形も無くなった。最強を謳った戦艦は死んだ
今まで共に戦ってきた巨大艦はもう海の上にはいない
羽音の響く空の下、戦いが続いている事などもうどうでもよかったのかもしれない
駆逐艦の姉妹達は力なく周回を重ねていた
目に見えていても否定したくても
残された物は炎と爆破に食いちぎられた体の部品ばかりで、それに縋るように体を寄せる総員の姿と
死んだもの達の屍
青い海に垂れ流しにされた大和の体液である黒く澱んだ重油の波
ココにはもう「生きる」という意味を見いだせる者はいなかった
風が変わり
景色が早回しされる
時間は通常よりも滑らかに場面を流す
嗚咽に導かれるようにまたも『こんごう』は時間の中を飛び
立ったまま泣く雪風の対面にいた
先ほどまでは高く上がっていた破滅の柱の絵は既に何処にもなくなり
夕暮れを通り越した暗闇が日本海軍の全ての幕引きを演出する中で、雪風の前には輝く短刀が並んでいた
機銃掃射の後が残る甲板に肩を寄せ合うように寒さに震える大和の乗員達の姿
全ての景色を目に焼き付けるかのように大きな瞳が見回す
日本は逃れられない決定的敗北に向かい
最後の力は全てが失われ
国民を守れる者はいなくなっていた
この先に明るい未来など見えない
暗闇の中並べた短刀に引っ詰めていた黒髪を解いた雪風は先に逝った者達を思い出して
「大和司令、矢矧…浜風、霰、磯風」
各々の名入りの短刀のニブイ輝き....戦地にありながらも磨かれキレイに扱われてきた帝国海軍の一員である大切な証の前で、今はもういない司令と姉妹達の名前を震える唇は呼び跪くと
「各位の心、気高き魂のために必ずや三笠様の元にお届けします」
自分の胸に同じく抱いた短刀に誓った
「心…」
悲しみの中にも聞きたい事
『こんごう』は雪風に向かって声をあげたが
声はまるで見えない壁に仕切られているかのように届かなかった
ただ雪風の正面に立つことだげが今はできる
雪風は短刀を胸に抱きしめたまま作戦中止となり佐世保に向かう岐路から
争いの海に散った花たちの墓標に敬礼した
「大日本帝国海軍最後の一人になっても私は戦います、戦って戦って!!必ずや仇を」
そして時間は駆け足で廻る
南海から吹き上げる風、夏本番の到来を告げる7月の海の上
あの日進んだ死出の道の近くを雪風は「中華民国」の旗を掲げて走っていた
向かっていたハズの日本の景色が遠く離れて行く
賠償として愛した国から払い下げられた姿ではあったがまるで新しく建造された艦のように磨き上げられた艦体
美しい艦影を青い海に写しながら
風に揺れる旗は日輪いろどる日章旗ではない
もう
その国には居られなくなった
「……」
無言のまま離れる日本を見つめ続ける雪風
その横に影のように立つ『こんごう』
引き渡しのために乗船したかつての兵員達は雪風最後の航海に複雑な表情と無言の作業を続けている
大戦が終わった後、雪風の兵員達は復員の仕事に徒事し南方を駆け回った
延べ人数にして13000の日本兵を祖国に運び
戦中以上に滅私奉公の働きをした
その仲間達とも、もうすぐ二度と会えなくなる最後の旅路の中で
戻れなくなった故郷に敬礼を捧げていた
「三笠様、私の魂への道筋、心は……心はお預けしました。必ず受け取ってください」
小さく消えて行く国土の姿を最後まで姿勢を正し見つめ続けた雪風だったが
全てが水平線に飲まれきえたところで崩れた
「ごめんさい…もう、こんな形でしか日本を守れなくなってしまった私を許して下さい」
流れる時間の中
『こんごう』の心は固まった
雪風の言葉に
「それでも日本を愛してます。この身を賠償として他国に使わす事で祖国の傷を癒する事ができるのならば本望です」
大戦に負け海軍を解体させられ
残った姉達が辿った運命を知っていた
国民に親しまれ羨望の軍艦だった長門は米軍に接収され不名誉の証である「星条旗」を立てられ南の海で藻屑となった
日本に帰ることができず外国の港で終戦を向かえた姉達は海没処分という標的となり愛する国を想いながら撃ち殺された、壊され、死んでいった
雪風もそうだが
「人」が生き長らえるために、賠償として首輪をかけられて、そうしてでも護って戦った日本国を後にした姉達がいた
苦難の年月を共に戦ったのに「人」は生き
魂達は死んだ
簡単な死ではなく人の起こした戦争に準じ苦しんで死んだ
その後、奇蹟の復興を果たして日本の姿を思えば
大戦で死に、復興のために死だけを与えられた姉達にとって、どこまでも不公平で理不尽な結果だったと『こんごう』は思っていた
なのに雪風の心にあった言葉は違った
理不尽を怒り、罵るなどという事は決してなかった
慈しみの瞳は涙をいっぱいに浮かべながらも「人」が生きてくれること
日本が生き続けてくれる事に最後まで心を遣わしていた
涙の『こんごう』は聞こえはしないが雪風に聞いた
「恨んでいると思ってました」
答えは明快で見えないハズの『こんごう』の目と、その後ろに消えていった祖国に向かって
「日本復興の礎として喜んで参ります」
たくさんの本を読んだ『こんごう』の出していた結論はココに覆されていた
そんな惨めな最後を与えられたのなら自分には堪えられないであろう事態の中で....それでも
「人」を愛し
どの姉も
心の底から「日本」を愛していた
今を生きる自分たちには信じられないほどの強い絆を持って「人」と共に国の存亡をかけて戦い
負けて…
千切られる思いで日本を離れる事で「賠償」という戦利品となり、敗戦の苦しみにいる人を助けた
「心だけは日本に置いていきます。必ず私もこの国の海に戻ってきます」
深く頭を下げてお辞儀した雪風の前に立つ『こんごう』に姉は念を押すように
でも
柔らかい笑みと暖かさで
姿は霞のように消えて行く
「次を生きる「魂」に私達の想い、託します」
願い
願いを『こんごう』は聞いてしまった
「あああああああああ」
頭を抑え顔を隠して声を挙げた
涙を制御している機能が壊れてしまったかのように止められない
場面はかわり雪風の姿は消えて、回りは海の底のように暗い中
もがくように倒れ
顔を濡らし続け叫んだ
「あああっごめんなさい、ごめんなさい」
姉達の想い
どおしてこんなにも大切な心を残していってくれたのに、何一つ自分は継げなかったのか
怒りと悲しみ
それ以上の情けなさ
暗転した舞台の中、只一人で泣き崩れる『こんごう』
今まで「護衛艦」として世に出て以来「人」とは溝があった
戦争アレルギーがそうさせたのか自国を護るという重大な責務につく艦として産まれたのに「人」は自分たちを愛してはくれないという中にいた事を恨み
そういうものだと思って生きてきた
艦魂としても溝をつくり何もかもに線引きをして生きてきた自分がちっぽけで
一生懸命生きた姉達に託された思いを無意識に踏みにじっていた事に
されども
そう思えど
「私は、何も継げなくて、ごめんなさい」
顔を覆う手からも溢れ出す程の涙の中で、これ程に自分の不出来を呪った事はなかった
姉達の残した思いに心からの謝罪と後悔で
「ああ…ごめんなさい」
「貴女は答えに近づけましたか?」
波の音に揺れる冷然とした問い、銀色に輝く髪を逆巻くように揺らす影は問うた
暗闇の場所は消え
最初にマリアと会った水面下に続く無限の箱庭の中に変わっていた
涙に歪んだ瞳を上げた『こんごう』の前にはマリアは腕を小さく前で組んで、首を傾げてみせ
「私には……」
「答えへの道はありました?」
意識が動転する程の時間を旅してきた『こんごう』に対して「何か」を探すように矢継ぎ早い問いつめをするマリア
「私には何もわからなかった!!何も継げなかったのに、こんな事……」
座り込んだまま子供のように癇癪を起こしている『こんごう』の手をマリアはすくい上げた
「いいえ、道は示されましたよ」
「道…?」
うずくまっていた顔を起こした『こんごう』の前、マリアの目もまた潤んでいた
水の記憶を共に辿っていたのだから共に魂の死に心を痛めていた
「辛い記憶を遡った果てにあったものは「悲しみ」ばかりでは無かったはず」
優しく手を引いて『こんごう』の体を起こすと
「貴女達「日本海軍(海上自衛隊)」は誰も「魂を引き継いだり、受け継いだり」は出来なかったと言うけど、引き継ぐべき魂と、その道への心は何処に預けられたの?」
マリアは強烈な時間移動によって得た知識によって『こんごう』が、ただ混乱して見てきた物事に泣くだけなんて事を許す気はなかった
確実に答えに近づく必要を救いの探求者として誰よりも使命感として持っている彼女は、一つの思いに、答えへの道に至る記憶を『こんごう』自身が忘れぬようにと問いつめる
「どこかにある?何処に預けた?」
冷静で落ち着いた目と乾いた口調
湖水のような薄い色合いを通り越し白銀に輝く目は『こんごう』に冷静さを取り戻させるには十分の効果があった
「三笠様……」
「元帥三笠?」
それでも止まらない涙を手の甲で払いながら
『こんごう』は矢矧や雪風の言葉を思い出していた
「私の心預けましたからね、お願い生きて三笠様に届けて下さい」「お心、魂、必ずや三笠様の元にお届けします」
短刀とともに語られた言葉
帝国海軍の魂はそこにある....
「心は……三笠様のところ」
死出の最後に魂は思いを日本に置いていった
「心」を
「絆への道に必要なお方、元帥三笠が答えの道を知っている」
「無理だ」
自分の顔を覗き込むようにする輝く瞳に『こんごう』は首を振ると同時に退かれていた手を振り払った
距離を取った位置から
「三笠様は…いる、だけど誰にも会ってはくれない…らしい」
「それでいいんですか?」
実際に『こんごう』は三笠の元を尋ねた事はなかった
それは戦艦金剛の魂を継げなかったという負い目がそうさせていた
心を貫く視線の相手にそんな弱さまでもを握られてしまったかのように後ずさりをしながら
自分では行かなかった場所の話しを思い出してみるが、護衛艦の魂は誰も三笠に会えた者がいない事は『しまかぜ』から聞いて十分に知っていた
だが相手の銀の矢である視線はもっと上のほうに思いを見つけているのか
迫るように近づくと
「『はるな』さんはお会いした事があるそうですよ」
この空間を知るという舞鶴の司令艦の名前
だが『こんごう』は聞いたことはなかった
『しまかぜ』も『しらね』も一度は訪ねているそうだが、気配はある?または「何かがいる」という事だけがわかるだけで誰も会ったことがないという話
なのに、『はるな』が会っていたなど、おそらく今まで誰も知らなかった真実とも言えた
立ち上がりマリアの対面に顔を合わせて、遠回り過ぎるやり方と息を巻いた
「だったらなんで『はるな』司令に」
「彼女ではダメだからです。だから会えることも誰にも言わなかったのでは?」
誰にも告げられなかった事
なにかがダメで『はるな』にも出来なかった事?『こんごう』は訝しげに顔をしかめる
マリアは、相手の睨む視線の前でもひるむことのない意志で近寄ると
「これは貴女にとって大切な事ではないのですか?他の誰かなど問題ではありません」
揺れるスータンの裾と銅牌の瞳
問われる責務に『こんごう』は顔を伏せた
「私に、できる事なのか?」
「貴女なら、届くかもしれないと私は思いますよ」
思いを見透かす瞳の前で誰にも出来なかった事に向かえと言われる『こんごう』
だが、他の魂達より不出来で何もかもが足りず「魂の引き継ぎ」さえも出来なかった自分にそれが出来る自信はまるでなかった
「私には…無理だ」
「いいえ貴女がやるべきです。貴女は強い魂なのですから」
息の弱い返事にマリアの射貫く視線は即答だった
「貴女こそが、その道を進む魂であると私は確信しています」
「どうして?」私はなにも継げなかったのに」
「いいえ、貴女に想いは託されたのです」
細い指が最初に水を投げた時のように『こんごう』の額を示す
「それを捨てて、逃げたのならば帝国海軍の想いは誰が継ぐの?」
ゆっくりと額を示した湯時が顔の前を降りてゆく
毅然としたマリアの前、まだ心の定まらない『こんごう』を響く声が押す
「この海に残った心、貴女は心の記憶を手に入れた。絆への鍵」
マリアの指が顔を過ぎ下へ降り『こんごう』の胸ポケットを指す
光り輝く温かなものはそこにあった
七色に輝く油玉のようにも見えるがプラチナを混ぜたように硬質な輝きもある
「これは…」
矢矧が自分に向かって投げた短刀は思い出の中では雪風が持っていた
だが
「思いの欠片はそこに託された」
取り出した手の中に光る球体
「でも、どおして私に?これは何?」
水の記憶を遡っただけで自分は何にも手を加える事の出来なかった世界
矢矧は自分ではなく愛する人との会話がシンクロしたところで出会い、愛する人を生かすために突き放し、短刀に心として与えた
事実しっかりと雪風の手に渡っていた短刀の…これが何かがわからない『こんごう』はマリアを見た
相手を追い立てるように
張りつめていた流れの中で、キツイ輝きを増していたマリアの目が和らぐと
吊り上がっていた眉をおろし
本当に羨ましそうに
「お姉さんはきっと見えていた。遠い未来の日本を護る貴女の姿が、だから「心の欠片」を貴女に託した」
「生きて」
手の中に輝く奇蹟
矢矧の託した想いが温かく輝く
「今度こそ、その想いに知らぬ顔はしないで」
少しの問答に引いていた涙はまたもこぼれて
手の中に包み込む欠片にしみこんでゆく
「矢矧姉さん、わたしに…」
矢矧はあの時、自分を確認するように一度目を見開いて
『こんごう』は首をふった
そんな動作で自分が見えたかどうかを計るのは愚行だ
答えはココに「欠片」として託されている
同じように雪風も自分に託したのだとわかった
「次を生きる「魂」に私達の想いを託す」
あの言葉きっと自分の影から向こう、今の日本守る護衛艦の魂達に与えられた言葉
「貴女達は偉大な姉達に日本を託された魂」
マリアはそう言うと上に顔を向けて「時間」が来た事に顔をしかめた
今まで暗かった水面は薄い水色に変わり始めていた
「いかなくちゃ」
明るく水底を照らし始めた光、手の中の欠片をしまった『こんごう』はマリアを見た
「私に、何が出来るかわからないけど。私はただの艦の魂だけど」
「Miss diamond忘れないで、私達は船に住まう魂だけれど、何も出来ないわけじゃないのよ。出来ることがあるからこそ私達は船の魂として生きているのよ」
マリアは全ての魂が持っている迷いの根元を払うと
指を高く上に
輝く水面の天井に向けて
「私達の出来ることは目に見える事だけでは無いはずです」
そう言うと光の真下、水の天井に道を開いた
「またいつかココで、お会いしましょう」
輝きの幕の下立ち上がった『こんごう』は頷いた
「ありがとう。マリア」
光の渦に包まれた『こんごう』は今度は気を失う事はなかった
見開いた目のまま
今を戦う海に向かって飛んでいった




