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第五十一話 暗転の空

specialthanks二等海士長先生

対潜訓練について教えてくださってありがとうございました

ちょっとしかつかいこなせなくってもうしわけない事になってしまいましたが創作の励みになりました!!!

雨は降り続いていた

合同演習に入って2日目,心にまで曇り空を引き連れてきたと思われる石上一佐のアクションは見られなかったが

天気は敏感にその事を察していたのかもしれない


上空を早く流れる厚みのない雲は白く

吹き溜まるように重さを感じさせる濃い灰色の雲は海の上にのしかかり続けていた

本格的な冬を近づけるために何度も艦体に波打つ雨も準ずるように遅い足取りで気温を落とし始めていた


艦にぶつかる水の固まりはニブイ音をこの2日やむことなく響かせている

時として破砕的な刺激を打ち付け目を覚まさせる

海の顔を振るわす波は大揺れとまでいかないまでも,艦内を歩く足にストップをかける動きも時より見せる中で「対潜訓練」は滞りなく続けられていた


波に負けない怒声は密閉された艦内に何重もの凡音となって通路を走っていた


「ソナー探知!!」

続く大きな一息である声

「きょーぉれんたいせんとぉー!!(教練対潜戦)」


図太い声は波の残響をぶん殴る程の勢いで発せられる,近くで聞いていたのなら耳が痛くなるように轟音の中さらなる音が混じる


魚雷回避運動を開始する『こんごう』の艦体に波をねじ切る力が加わり巨人がドアをノックするような「濁音」の連打が乱れ太鼓のように始まる

繰り返す衝撃と艦が体を回す圧力が艦橋に立つ粉川にも伝わる


初めて海に出るような背広組であったのなら艦が割れてしまうのでは嫌な汗と,動転しながらも同じ自衛官という意地で頭の中に算式を浮かべて危機を脱しようとするだろうが

粉川にとっては久しぶりの海

ぶつかる波の衝撃と吠える海を切り裂く音を立てる『こんごう』の乗り心地は心を躍らせるものにしかならず


顔にも挑戦的な笑みを浮かべ続けて


「やっぱり海はいい...」


自分の心や体が久しぶりの荒れる海を堪能している事を喜んでいた

艦橋の内張であるむき出しの鉄枠を手で掴む

じっとりくる冷たさ....結露に近い冷たい露と心地よく上昇した自分の体から出る汗の感覚


急旋回に伴い緩やかな雨も艦橋の窓ガラスに音を立てて叩きつけられる

小さく手を打つ拍手のような音が続く中

前方から真横の窓に目を移せば

今まで走ってきた海の道が引き波になって現れている


「早いですね」


粉川は自分のとなりキャプテンシートに座った間宮に嬉しそうに聞いた

自分が前に乗っていたDDとはまるで早さが違う

いや本当はそれ程変わりはないのかもしれないが久しぶりの高揚感と間宮率いる『こんごう』の隊員達の乱れのない操船術に感心したままに聞いた


「評価はAにしておいてくれると嬉しいね」


目深に被った帽子の下,口だけは軽快に返事する

目は深く曇った海を見つめると同じように思慮の闇の中にある

本心を見せない目を粉川は察している


「アスロック攻撃用意」


それでも声のトーンは緩い

轟音に揺れる艦橋の中を飛び交う伝達系の中にあってもっもともストレスのない音で指示を出す姿

粉川はチラリと横に座った優男の顔を見ると思った相変わらずな「曲者」ぶりと

窓を叩く散弾の向こうを睨み続け微動だにしない間宮


「アスロック攻撃用意!!目標漢級潜水艦2,発射弾数2発!!」

「目標位置,35.68north,139.76east」


各所からそれそれのオペレーター達が「答え」をだしてゆく

天候など見えない暗闇の世界から荒れる海の全てを白日に晒すCIC,落ち着いた応答が攻撃目標の位置が読み上げらた


「アスロック発射用意よし!!」


少しの滞りもなく指示は流れてゆく中

用意の調った返事に間宮の顔色も態度も消して変わらない

動くことさえ不躾と思っているかのように構えた中にいる


「あたりまえのように」「あたりまえの有事」に備えた動きに指示を付け足すのは野暮とも言えるし横から口を挟むのも空気の読めない扱いを受けるというもの

粉川はだまったまま耳を最大限指揮系統の声だけに集中し目は海の上を走らせる

聞くに限ると自分に納得の笑み

手慣れた動きは無駄なくそつなく乱れもない,それに続く声の羅列は鍛えられた証拠で安心さえ感じられる


「アスロック攻撃開始,一番発射よし」


それぞれの部署が各々の声で全てを整えお手本のように発射を告げた


「てぇ!!」





午前から続く演習

2機の対潜ヘリを飛ばし四方哨戒のまま慌ただしく活動をするアイゼンハワー飛行甲板のフライトオペレター色とりどり派手過ぎる程の制服は無彩色の海には良く映える


手際の良く動く空母勤務の兵士達の姿を見ながらキャプテンシートから立ち上がり窓の外を同じように見つめている間宮は少し緩くなった雨に相変わらず考えを押し込めた目をしている


「アラート出ませんでしたね」


自分たちの演習を終えた間宮に気を利かせて粉川はコーヒーを運んだ

最近は波の荒れ具合もあるのでタンブラーで運ばれる事が多い

間宮の名入りを目の前に差し出すと

目深に被っていた帽子の鍔をあげながら


「実戦にならなくて良かった...ってとこかな」

「そうならない事のために存在するのが世界中の軍隊の勤めですよ」


当初は予定を小幅ながらに押していた演習だったが

ココまでは問題なく消化していた


「明日の対空戦闘プログラムが終わったら.....」


すっかり自分が監視官である事がおざなりの粉川はそれでも手放さずに持ち歩いていたファイルを開くと目に見えて頬の色まで高潮するような笑みを浮かべた


「どおしたの?」


深く思案にくれ心を解かなかった間宮もさすがに聞いた

目の前でこんなに嬉しそうな顔をしているのだから聞かざるなかったといったところかも知れないが


「やっとです!!!やっと僕『こんごう』でカレー食べられるんですよ!!」


ファイルの方が気になっていた『こんごう』船務士の和田は近づきながら180の巨漢におそろいの大きな声で


「なんだ!!粉川一尉?ココまでの間で何回も食べられただろうに?そんなに気に入ったのか?」


和田は同じくチェックボードを持ち

人一倍汗をかいていた顔を仰ぐと


「少なくとも3週間はあっただろう?」と太い眉をしかめた

その顔につられたように粉川も眉をしかめて


「カレーの日に何か起こるんですよ....初めて乗った日には「売り切れ」にされてたんですよ僕...」


「そうだったけ?」


カレーのを食いっぱぐれている事が諸々の事件と重なっているという粉川の弁に間宮は軽く吹いた

確かに思い返してみたら粉川はカレーに運のない男だ

最初は乗艦した日は監視官という同業者の憎まれ役であったせいか

食堂から追い出しを食らっていたし

次は例の「不審船事件」に巻き込まれお流れ,次は東京への呼び出しをくらい何故か次の日顔面を腫らした状態で上京....


「そういえば.....色々重なってたね」

「僕カレー大好きなんで,ものすごく楽しみにしてんのに!!」


まるで子供のような言い方

思い切り溜を作って吐き出すように元気な返事

とても30歳を越えた男の言い分とは思えないが,叩いて終いたいとも思えない満面の笑みは,人差し指をあげると


「そういやもう,ココにいなくてもいいんですよね」


間宮に断るまでもない粉川は監視員なのだから変な部屋に入りたいとかCICを視察したいなどと言わない限り,作戦行動中でもなければ拘束する言われもない


「僕!!食堂に予約いれときます!!今度は絶対に食べてやる!!」


そう言うとタンブラーとファイルを抱えラッタルに走り器用に降りていった


「予約.......」

あまりに子供じみた姿に和田は少し怒った顔になっていたが

間宮は張りつめていた自分の気持ちをすっかり引き延ばされたのか笑って


「予約....入れなくても食べられるだろうにね」

今まで堅さを護った自分の顔が緩んだことを隠すためか窓の方を向いて肩を振るわせた

あまりに滑稽で,すんなりと人を和ませる正直な男を少し羨ましく思いながら


「カレーの日か....」


緩んだ口を押さえながら

「明日も何もなければ,おかわりもできるよ」と15時を回った空を眺めた

日の短くなった海は暗い影を雨の元,急速に広げ次々に白の余白を塗りつぶしていた



「明日....何もない事を願うよ」

間宮は笑った自分の顔を写す艦橋のグラスエリアに自分の願いを託すようにつぶやいたが

あまりに自虐的な自分の姿に別の笑みを浮かべると


「石上....明日,動くつもりだろうけどな」


と本音をもらした

予感はそこに集約されていた

それを助長するように天気は腫れる事のない風景を奥行きの見えない闇と共に遠くまでつなげていた

雨は明日も止まないだろう,夜は速やかに黒の幕を下ろした






「やっとで.....楽しみにしてたんだ!!!」


護衛艦『こんごう』内部にある艦魂達のグループルーム

小さな包みにアメを入れた粉川は演習前と変わらず1人で雨の水面を眺めていた『こんごう』に用意良く運んできたポットとコーヒーのセットを支度してい


「食べてなかったっけ?」


顔を向けることはなかったがガラスに映った『こんごう』は首を傾げて聞いた

続いた演習に速く眠ってしまおうかとも思っていたが....


ベッドに足は向かわずこの部屋でぼんやりと過ごしていたところに,今や当然のように粉川がやってくるのはわかっていたが....『しまかぜ』がいない演習はいつも静かすぎて心が落ち着かなかったせいも手伝って粉川を待っている形になっていた


そんな粉川はついて早々の素っ気ない『こんごう』の対応に大きな声で

「食べてないよ!週末最後の楽しみなのに3週間はお預けになってるよ!!」


大好物を食いっぱぐれた

粉川の言い分はどうにも子供ぽいが本気のようで

身振り手振りも大きい,わざとなのかと勘ぐるように『こんごう』は細めた目で続きを見ている


「ホントはね乗艦した日に食べられる予定だったのに「売り切れ」とか出されててさ...なんていうか,そりゃないよねぇって気持ちになったよ」


手際よく準備したコーヒー

インスタントオンリーだがポットがあれば缶コーヒーなんかと比べ物にならないぐらい美味しい


「これ!!このポットは僕からのプレゼント!!ココでみんなで使って」

そう言うと

入れたてのコーヒーを『こんごう』が足を組んで座るテーブルの前に運んで


「間宮艦長曰く!カレーは我が『こんごう』が一番だって!!監修したの?」


直ぐ隣のイスに座った粉川はこの艦に乗ったとき自慢げに間宮に言われた台詞をそのまま聞いた

「監修?.....ていうかあれは『いかづち』が雑誌に載るからて騒ぎ出して」

「『いかづち』ちゃんが監修したの?」


覗き込む視線にめんどくさそうに目を反らし

「どうやって監修するんだ?私達が?」

言われてみれば当たり前な答え,艦魂である彼女達が厨房に立つことなど出来ないのにと粉川も手元のコーヒーをすするりながら


「どうやって味付けに協力したの?」

「だから....紙に書いて厨房に「要望」扱いで張っておいたり...した」


自分の顔を覗こうと右左と首を傾げる粉川を避けるように背中を向けた『こんごう』だったが,ガラスに顔が写っている事にも気がついてしまって俯いたまま小さな声で答えた


「なるほど!!じゃ味見はしてたんだ!!」

「たまにな」

小さな返事

粉川は自分の息を手で抑え吐いて見せて


「ひょっとして僕,息臭い?」

口を押さえたまま困った顔を少し離して見せた

「はぁ?」

「いやだってなんか顔を避けられてるからさ....口臭?結構まめに歯磨きはしてるんだけど」

「違うわ!!バカ!!」


目の前口を押さえ何度も自分の息を確認する粉川の姿に『こんごう』は顔を上げて


「オマエ.....ホントにバカ....」


上げた顔は粉川の困った顔を正面から見て笑ってしまっていた

「違う....息は臭くない.....」

思わず笑ってしまった『こんごう』の顔に粉川は安心したように

「良かった!!そろそろ加齢臭とか言われる年になったかなぁて気にしてたから」

そういうとイスを近づけた


「やっと笑ってくれた」

愛嬌良い瞳が自分見つめて何かに納得している姿に『こんごう』は顔が真っ赤になった

「オマエが変な事言うから!!」

近づいていた粉川から距離をとるように立ち上がる


「なんで可愛いよ!笑った顔,いつもへの字口だから新鮮っていうか」

「バカ!!オマエ!!ホントにバカだろ!!」

立ち上がって逃げようとする『こんごう』の姿は本気でうろたえている

あやうくイスを蹴倒しそうな勢いだったが,粉川は落ち着いてイスの背を押さえると


「待って!!オマエは言わない約束でしょ!!『こんごう』座って」


余裕のある態度で促したが

まだそのアタリの余裕のない『こんごう』は逆ギレの状態で


「うるさい!!粉川の分際で!!」

「ちょっと!!粉川なのはしかたないでしょ!名前なんだから!!」

「それは名字だろ!!バカ!!」

細い指を真っ直ぐ顔に向けていつものへの字口を見せた


「それ言う?だったら『こんごう』の名字はなんていうの?」


珍しく切り返しの早い粉川の質問に慌てていた『こんごう』の言葉が止まったが

おかげで

少し落ち着きを取り戻したようでイスに座ると顎を挙げたスタイルで


「日本国『こんごう』だ」


飛んだ答えが返ってきた

「日本国....『こんごう』.....」

吹き出しそうになった答えに粉川は息を止めた,笑ってしまったら今度こそ本当に『こんごう』はココから出て行ってしまいそうで

しかし

それに答えるいい返事も見あたらないまま緩む口元を抑えたまま復唱した


「当たり前だろ!!私達はこの国の「物」として産まれるんだ,ただ私達が「物」じゃなくて「者」なだけだ!!」


言われてみればそうかもな答えに

ニヤケかかっていた粉川は目を丸くして考えた

日本国の国家予算の中から「国」のための護りとして作られる護衛艦艇

その魂として産まれるのだから「日本国」という名字を持っているのは当然とも言えるし


逆にそれぐらいしかしっくりくるものもない


「佐藤とかじゃないんだ」


理屈を理解した上で粉川はふざけた答えを返した

「バカ!!バカ!!ふざけるなよ!!そんな平凡な名字のわけないだろ!!」

「いやいやそれも結構驚くし!!イヤ!!ダメだよ佐藤さんに怒られちゃうよ!!平凡だなんて!!」


向かい合って座った2人は顔をつきあわせて怒鳴り合っていた

ココが艦魂が見える者しか入れない部屋であった事がこのバカげた会話をすべてシャッタアウトしてくれていたのは粉川にとっては良い条件かだった


なかなか自分の感情を表に出さなかった『こんごう』がムキになって反論する姿はさっきの笑顔よりどこか可愛く見えるもの


「これだからオマエは」

「だから,オマエじゃなくて粉川でしょ!僕は一度言われた事はちゃんと守ってるよ」

すでに何段も上手の会話をしている粉川にしっかりペースを奪われてしまっている『こんごう』は頬をふくらませていつものようにキツイ目を向けながら


「それは名字だろ!名前ないのか?」

腕組みしたまま睨む

「名前で呼んでくれるの!!照れるなぁ」

「名無しか!!わかった!!!」


テレテレと頭を掻く粉川の姿に立腹したのか真っ赤になった顔のままツンと顔を背けてしまった

「冗談,僕の名前はね,お爺ちゃんから一字もらった由緒正しい代々続くものなんだよ!!」

「しらん!!粉川名無しだ!!それで十分!!」

「怒らないでよ!!教えるから!!」

「いらん!!」


まるで痴話げんかな空間に光の輪が一瞬で広がった

素早くテーブルから離れる『こんごう』と粉川の間に輝きの粒を落として入ってきたのは『いかづち』と『はるさめ』だった



例によってテーブルの横に並んでいたイスをなぎ倒す勢いの登場だったが

粉川も『こんごう』も感が働いたのか各々のカップとタンブラー,アメの包みを手にもって部屋の端に飛んで逃げていた


大きく広がっていた水色の光の輪は一瞬で弾けると割れた中から

いつものようにコックの姿に見を包んだ『いかづち』と『はるさめ』.....『はるさめ』は湯上がりなのか湯気もあいまって普段以上にフラフラしながら


「雨の日のハイライン辛いぃ〜〜〜」と何事も無かったかのようにイスにへたり込んだ


「だいぶん僕も鍛えられたね」

咄嗟の自分の判断に感心しながら粉川は手に持っていたタンブラーとアメの包みを降ろすと

「そう思わない?」と自分を囲んだ艦魂達に聞いた



「もっと普通にこれないのか?」


自分が横っ飛びしたせいで壁際まで飛んでしまったイスをもどしながら尖った目を向ける『こんごう』に相変わらずな返事の『はるさめ』はトロンとした目を輝かせながら


「ごめ〜〜んぼけちゃってぇ〜〜〜」


まるで反省のない声

反省してない事の意思表示のように粉川がテーブルに置いたアメに手を伸ばす

「『はるさめ』!!『いかづち』!!少しはしっかりさせろ!!」

怒鳴る『こんごう』は自分と『はるさめ』を間に挟んで注意を無視する『いかづち』に近寄ろうとしたが目の前に『はるさめ』がイス事倒れた


「いったぁぁぁい〜〜〜酷いよ『こんごう』ちゃ〜〜ん」


いきなり言われ無き容疑に困惑顔の『こんごう』を掴まえると


「態度で示す前に言葉でいってぇ〜〜〜わかるからぁ〜〜〜」

割り座にになった『はるさめ』は自分の真ん前でキレそうにになっている『こんごう』の足をしっかり掴まえたまま

悪戯な目で妹を見た


姉の合図に顔を『いかづち』は顔を赤くしたまま粉川の前に駆け寄った

「ごめんな!!またやってしまって!!」

謝る手は震えているが

粉川は避けられた自分に満足したように大丈夫と笑ってみせると


「『いかずち』ちゃんも座りなよ,コーヒーでいい?今はインスタントもコレしかないんだけど」


自分が避けて引っ張ってしまったイスを元の位置にもどしながら『いかづち』の手を引こうとしたが強張ったように距離をとった彼女は少し裏返りそうな声で


「粉川はん!!明日な,わてカレー作って持ってくるから.....食べてぇな」

「カ..カレー?」


いつになくテンパッた『いかづち』の声は震えていたが

自分を奮い立たせるように拳を握ると粉川の顔に少しでも近づくようにかつま先立ちして


「味はな自信あんねん!!わては料理大好きやから!自分で全部作ってんねん!!やで...」

「でも明日は『こんごう』でもカレーだよ?」


粉川の不思議そうな顔と素っ気ない答えに

いつもはおちゃらけている『いかづち』の真っ直ぐな目が癖毛まで撓垂れるように一緒に力を失って,つま先だちからペタンと足を着く


「ほな....ええわ」


力無く落ちる顔を落とした姿に粉川は両の手で『いかづち』の肩を掴むと

「ココに持ってきてくれるんでしょ!!楽しみにしてるよ!!大丈夫カレーは何杯だってたべられるから!!ねっ」

「ほんまに!!」


「『いかづち』ちゃんが料理の旨いのは良く知ってるよ!!カレーも色々なのがあるから明日は贅沢な食卓になるなぁ」

粉川は笑顔を取り戻した『いかづち』の前で自分の腹を叩いてみせた

「カレーで太るなら幸せって事でしょ」と

その言葉に『いかづち』の落ち込んだ顔は一気に華やぎ頬をピンクに染めて


「期待してて!!わてめっちゃうまいのもってくんね!!」

「よろしく!!」


両の肩を粉川に止められたままの『いかづち』

その姿を『こんごう』はつまらなそうに見る

それを嬉しそうに『はるさめ』


鈍い粉川の気がつかない感情がグループルーム交錯した瞬間だった







モニターの前,石上は何度も『くらま』やヘリなど多くの目によって撮影された『こんごう』の姿をrepeatしていた

冷たい氷結の青色を発する機械室だが

解析に熱を上げる温度を抑えるためにさらに吹きかけるような冷気がめぐらされている


注文通りのオーダーを華麗にこなした『こんごう』の姿は美しく見えるのか

何度目かの映像を細い指が止めると,青白いモニターの状況を変える数字の前で見えない姿とは別の物,デスクトップのアイコンに向かって小さく拍手を送った


「素晴らしい.....実に良い」


周りを囲む青い目達はモニターの反射で目の玉を無くしたような顔のまま

口笛を吹いたり,ならうように手を打ったりして『こんごう』のマニュアル通りの美しい演習を讃え始めたが


衆群の動きに反するように

彼は目の前のパソコンのキーを叩く

常に前を走るように作業を繰り返して行く


「これにて全行程を終了となります」


隣に座った小太りの軍服,アメリカ軍戦技術研究室のファイルを目の前に終了という言葉に反するようにパソコンに向かって打ち込みを続けていた

手元に置いたタンブラーを揺らすほどに大きなストローク,太い指が器用にキーを滑るがそれは情報を機械に叩き込んでいるようにしか見えない


「ダニー,どうだい良い「獲物」だろう」


細かな手を止めた石上は自分とは対照的,とりあえず健康的肥満度の中にいる短く刈り込んだ頭の刈れに囁いた


「キレイ過ぎないか?パターン化した攻撃などすぐに破綻するよ」

「でもそれが現代の戦術だよ」

石上の英語は訛りのない清流のような音でダニーの耳に入る


「良くない兆候だね.....ハリウッドではあんだけ派手な反逆劇を描くのに,現実は地味なものだ」

片口を笑わした彼はそこまで言いつつ打ち込みを終了し背伸びがてら

横に座った石上の顔に


「でも今まで一番いい動きの艦だった.....Miss.diamond....明日はどこまで頑張ってくれるかな?」


石上は血の気の薄そうな顔に青の光を浴びながら自分のパソコンのモニターを倒した

「頭が壊れてしまったら....どうするんだ」

ダニーは自分のこめかみに拳銃を向けるポーズをとると眠たそうに欠伸をしながら興味の無い質問をした


「イージスシステムは無敵なんだろう?国防省技術技官殿」


メインのモニターを残して火を落とした部屋

オペレータ達が静かに耳そばだてている中でも2人は動じる事なく話しを続けていた

閉じていたタンブラーの蓋を開け鈍った湯気の中に香るコーヒーを喉に流し込みながらダニーは

「そんなものは世の中には存在しないよ」

そう言うと嬉しそうに笑って


「完璧だと言われる物が壊れる......これは美しい」

太った顔の中にあるメガネの奥の細い目が青白い光に不気味に見える

彼の言葉に合わせるように石上も笑って見せた


「明日は実戦ですよ......間宮一佐」と目を細めて





「特別演習プログラムの実施を会す」

翌日総員起こしよりも前に出された指示は暗転の空の元に開始される事になる

カセイウラバナダイアル〜〜トンデモかも〜〜


対潜訓練編もいよいよ佳境にはいってきたのですが

今回の章で使った訓練ようのかけ声などに関しては二等海士長先生にご教授して頂きました!!

ありがとうございます!!


ここまではよかったのですが

次話ではちょっぴり飛んでもなところもでてきちゃいそうで先に断っておきますね

実際にそういう実験をしたり

そう言う演習になったりという事は無いはずですし本題であるイージスシステムの中身をヒボシが正しく理解しているかも未知数なところですが

できるかぎり勉強を積んでも国家機密ですから簡単な答えには至れないという事で....



多少,トンデモな感がただよったとしてもゆるしてやってくださいませ


ヒボシ的には出来る限りを現実にfittingしたものとしてやりたいと心がけてますが

艦魂の存在もまあ謎な部分も多い物ですから

ちょっと優しい目でみてやってください!!


それではまたウラバナダイアルでお会いしましょ〜〜〜

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