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第四十三話 神話の国

<要注意事項>

この小説における「艦魂」という存在は筆者である火星明楽が諸説とは別に創作したものです

ですので

原初正しい艦魂設定を愛する方には不快な部分が多々ありますのでご注意下さい

誤って読んでしまったとしても一切の責任はとれません

今章「艦魂編」で艦魂そのもの「正体」探る部分が出てきますが

以降書かれる「艦魂」の設定は 

私,火星明楽の個人史家としての研究の元に書かれております

故に,この設定は私個人の物であるため,他所で使うことを厳重に禁止します

(私の著作,権利とします)

理由としましては

個人レベルで調べられた「民俗学」を基本とした仮説で話しを構築しているため,本来あるべき民俗学や考古学の発展の妨げとなってはいけない事,不必要な誤訳,誤解を世に広めてはいけないと,考えているからであります

また,これから艦魂小説を書こうとされる方に無用な混乱をさせないための処置と理解してたください

けして占有を目的としての禁止事項でない事をご理解ください


これはあくまでこの「艦魂物語」内での設定としての存在でありますから,事実とは一切の関わりはなく,実在の民俗学にも考古学にも一切関わりはありません

あくまでこの小説内における仮説に基づいた設定である事をご理解ください


また

設定の作成に関わった「民俗学」等々の資料に関するご質問にはお答えできません

それらを元に誤解,誤訳を増やすことを望んではいないからです

色々と堅苦しい注意書きとなりましたが

純然に物語として楽しんで頂ける事を心から願います


艦魂物語,魂の軌跡〜こんごう〜

筆者

火星明楽


三笠の部屋

粉川がココに入るのは1年ぶり


三笠はプライベートを仕切って部屋には入れない,なんて事は絶対にしなかった

粉川がまだ半ズボンのガキだった頃から

学校が終われば自分の所に通って来るようになり

部屋に入れるのは通例化した


記念艦三笠は一応三笠を保存する会事,財団が管理している

小学生のうちは「入場料」というものがかからないにしろ毎日ココにくる小学生を大人達がどんな目でみているのか?と考えれば必然的に三笠は外ではなく部屋へ粉川を導かなくてはならなかったからだ


自分の下まで息を切らして走ってくる小僧の足音

船首に近づいた彼を艦魂の力によって部屋に移動させるそんな日々が続いたものだったが。。。



なにせ

その力を使うのがひさしぶりだった三笠は,何度か粉川をそのまま海に落としたりした事があったため

中学に上がった頃には夜の遅い時間に,粉川は自分でよじ登るという方法に変えた


「光は止めて。。。コワイから」


自分を頼らず艦内に上がってくるようになった小僧からその事実を聞かされた時に「老い」を感じたものだったが

決して

口が裂けてもその事はいわなかった

代わりに監視カメラの記録だけを改ざんした

今日もそうだ




「三笠はさ。。。長く生きてるじゃない?そういう風に長く生きると,後で産まれる艦魂に「お母さん」とかって呼ばれなかったの?」


前をあるく三笠は今は年に何回かしか帝国海軍の軍服を着ない

今日は至って軽装でフレアスカートに秋物のベージュのジャケット

まるで妹の後を追うような姿


両腕にいっぱいのビールを抱えた粉川は部屋に向かう艦内通路で些少な疑問を投げかけた

三笠が前の大戦の時には既に艦齢としては長寿の域に入っていた事を思い出したからだ

艦としての生涯が30年と言うのなら1900年の進水式で産まれた三笠は大東亜の太平洋を廻る争いの時には40歳近くになっていた事になるのだから

太平洋戦の時に産まれた「大和」や「武蔵」からしたらお母さん的存在であってもおかしくないと思った



「小僧。。。。。」


梅ヶ枝を抱え前を歩いていた三笠の足が止まった

展示室の間を縫った場所に酒瓶を下ろした三笠は間接照明の下で怒りの顔を見せていた


「何度も言っている事が,わかっていないようだな?ああん?」


不機嫌を露わにした声

振り返った顔に浮かぶ怒りの口元

思い出したように体がすくんだ粉川だったが両腕に抱えたビールを落とす訳にもいかない

「待って!!」

「待たぬ!!」


ヒステリックというより凄みのある三笠の声

そのまま出された光沢で整えたネイルの指先が粉川の顔面をがっちりと掴まえた


「小僧。。。それじゃ何か?妾はそこらを歩く太ったおばさんにでも見えるのか?ああん?」

「ちょっ待って!!そうじゃなくって!!」


少年時代。。。粉川は虚弱な男の子だった

今でこそ身長180に近い大男になったが,三笠と初めて会ったときなどガリガリの牛蒡ごぼうのような体だった


それを鍛えたのが三笠であるのは言うまでもない

毎日毎晩自分の所に来る前に走らせた

当時公園のゴミ箱にあったスポーツ新聞の紙面を飾った「プロレス」を良い教材と粉川に教え込んだのも彼女だ

「妾に合いたかったら強くなれ!!」

自分に甘えるように近づく子供を叩いて鍛えた彼女は。。。。。もちろん格闘技マニアだ


「待って。。。マジで」


骨の髄までしみこんだ「スパルタ教育」を忘れたことはない

「許さん!!出でよフォン.フリッツ!!!」(注.1970年代有名なプロレスラー,得意技はアイアンクロー)

「待って!!エリック,ダメ!!!」


聞く耳持たぬ凶刃な手がめりめりと顔面を締め上げる

体こそ粉川の二回り以上小さな三笠だが,宿る力に衰えなどまったくない

むしろ年々上がっている気がするぐらいに強い

苦悶を浮かべ,汗を浮き出した粉川の顔に向かって三笠は怒鳴った


「言え!!妾はなんだって!!!」


軋む顔面

頭蓋に直接痛みが響く中,粉川は缶ビールを落として悶え苦しんでいる今,

声を出すのも難しいという顔でタップを試みるが聞き入れられる事などない


「言わんか!!!」


小さな女の子に顔面を引っ張られそのまま引きずられるように膝をついた粉川は叫んだ


「三笠様は17歳!!!永遠の17歳!」

「大きな声で!!!」


膝どころか上半身まで通路の下に着きそうになりながら

「スイマセンでした!!僕が間違ってました!!!三笠様は永遠の17歳!!万歳!!!」


掴まれた指の圧力の跡から煙りが出るほどの痛み

必死の言葉にやっと手は顔面から離れた

言葉にならない苦痛に転げ回る粉川は


「艦魂。。。。暴力的だよぉ。。。」


見えた艦魂が三笠だけだった時はこんなもんか?と思っていたが,今思えば『こんごう』もたいがいの暴力的だ。。。

合った初日にアトミックパンチをくらい佐世保に着いてからも。。。。コミュニケーションは拳なのか?


涙目の粉川は思った

艦魂は凶暴な生き物だと


「なんか言ったか?次くだらない事ぬかしたら,アンディ.フグ降ろすからな!!」


這い蹲った顔が拒否と揺れる

こんな硬い鉄板の船の上で踵落としなんかくらった日には骨が折れる

「スカートで踵落としは止めた方がと。。。」

「武道家は裸である時が一番強くなくてはならん!!!」


仁王立ちの三笠は酒瓶を持つと悶える粉川を残しスタスタと部屋に向かった

しばしの冷却の後

このまま閉め出される訳にもいかない粉川も,ふらつく足取りで後を追った




艦長公室の奥,長官公務の部屋がそのまま三笠の部屋になっている

とはいえ

普段見られる部屋とは違う


これもまた艦魂の力なのだろう『こんごう』達がグループルームを持っているのもその力だとすればわかりやすい

個人で持つ部屋の大きさとしてはかなり大きい。。。と言っても粉川は『こんごう』の自室しか見たことがないので比べる程の事はないのだが,彼女の部屋を基準に考えるのならばゆうに3倍以上の大きさであり

現代の艦艇には絶対に無いだろう木製のダイニングが部屋の真ん中を占めている


その隣

スターンウォークに出るドア

学生時代はココをよじ登って三笠の部屋に入った事を,まだ目眩のする頭をさすりながら粉川は思い出していた


すでにテーブルに座った三笠はぐい飲みで遠慮なく酒のピッチを上げている

「三笠。。。酔っぱらわないでね。。。話し続けるんだから」

遅れて着座した粉川は自分のビールをテーブルに並べると


「さあ。。。教えて「艦魂」って。。。どういう存在なの?」

時間は22時

朝までの時間はまだあれど大事な事を聴く前に酔ってしまったら意味がない

手帳を前に粉川は改めて質問した


梅ヶ枝の瓶を横に立てたまま三笠は


「その前にオマエの初見を聞きたい。。。。オマエに「艦魂」は何か?というのを調べたさせた事があったハズだ?答えは出たか?」



艦魂は何者なのか?



実は粉川がこの質問をするのは今回が初めてできなかった

現代の艦魂を見ることの出来ない三笠

その事を聞かされた時以来,大戦以降を孤独に生きる彼女の姿が寂しく見えた

いつか。。。。今のこの国を守る艦魂達と合わせてあげたいと思った粉川は学生時代にこの質問をしていた


何者であるかがわからなければ「絆」を取り戻す方法もわからないと思ったからだ

だが

その時は三笠は「わからない」と答えていた


それから図書館の本を借りる日々が続く

一方で進路に向けて学業にも力を入れなくては成らなかった粉川は,三笠からの貸し出し願いを持って艦を行き来する日々だけが過ぎ

現代に至るまで答えは出ていなかった


「三笠。。。僕は色々と調べはしたけど,わからなかったよ」


粉川の返事はどこか引っかかりのあるもの

「何かに気がついた?そう言うことも無い?という事か?」


酒を注ぐ手の速度を弛め

真正面に座る粉川の目の奥を睨む,隠し事など出来ない相手


「正直に言うよ」

握っていたビールを離すと粉川は膝に手を置いて


「僕にとって三笠は母親代わりの人だよ。。。僕がそれを暴くようなことは出来ない」


答えを探すたびの途中粉川は,いわゆる神秘の存在である艦魂三笠が「何者」であるかがわかったら消えてしまうのでは?という恐れを持っていた

まだ少年だった頃失ってしまった母の事が重なって

学業に打ち込むと言う口実の元,答えを曖昧にしていのは粉川のほうでもあった


「フン。。。。くだらぬところで男はロマンチストだな」


そういう事実をも見抜いた目は笑って言った


「それがわかったら妾が消えてしまうとでも思ったのか?小僧?」

泳ぐ目

いつでも三笠は心を見透かす

薄暗いランプの下それ以上相手を責める事はしなかった彼女は飲みかけの一杯をグイとやると


「という事は妾の持論だけが全てと言うことになるな」

そういうと手帳に書かれた疑問を読み上げた



何故,艦魂は女なのか?

何故,艦魂は産まれるのか?

何故,艦魂は姉妹ばかりなのか?


「艦魂が何者であるかが,わかったとして根本的な「断絶」というものを解決する答えになるかはわからない。。。。それでも知る必要があるか?」


三笠は艦魂は何という質問に昔「知らない」と答えてはいたが,粉川は知っていると考えていた


「原因を見つけるためにはどんな些末な事でも提示する。。。。艦魂自体の存在に何らかの問題があるとするなら起源を知る事は大切だと思うよ」


まじめな目線

性根を曲げることなくまっすぐに育った「人」を好ましいと三笠は片口で笑うと



「前序の質問の答えは,全部「存在の起源」に起因するものだ」

そこまで言うともう一度聞いた

「小僧「艦魂」を調べなかった。。。だが,調べなかったとはいえ「何か」という考えはあるだろう。。。言ってみろ」


話し合い

疑問に対する質疑により,より正確な答えを導き出す方法

粉川も一口のビールを喉に注ぎ込むと思いをただして答えた


「物に追随する霊体を総じて「九十九神つくもがみ」というところから。。。。その一種では?」

「Fだな。。それではテストには受からんぞ」


頬こそ赤く蒸気しているが三笠の水色の瞳に酔いはない

「九十九の神であるというのならば,小僧オマエは「車」の魂を見たことがあるか?「飛行機」の魂は?「鉄道」の魂も見たことがあるのか?」

「いや。。。いずれ見えるようになるのかも。。。」


三笠は酒で乾いた唇を舌で舐めて


「そもそも九十九の神は100年の月光を浴びなければ「悪霊」としてしか物に着くことが出来ない存在だし,妾達,艦魂は。。。。小僧の言うように長くても30年しか生きないのだぞ」


艦魂事,戦う戦船で現在で100年を生きている者は「三笠」をはじめアメリカの「コンスティチューション」イギリスの「victory」しかいない

100年を得ないと艦魂にならないというのなら『こんごう』達の存在は何かわからない


作り手の情念が宿る

次はそれを説明したが,三笠は笑いながら。。。それならば艦魂は作った人間の別人格という事になると返した

それに

もし作り手の人格が遺伝した形として艦魂になるのなら「女」である意味がわからない


また

生前に無念を残した人の死がそこに宿るというものも的を得ていない

一律「女」しかいないとされる艦魂

念が宿る事が原因ならば,むしろ「男」でも良いはずだが

三笠の弁では艦魂は女しかいないのだから

どう考えていいのかわからない


自分の持ってきた持論を看破された粉川は頭を抱えながら乾いた喉に酒を流し込んだ


「つまり九十九神ではないという事?」

「そんなものではない」


困る小僧の顔を見たまま三笠はスターンウォークの窓を見つめた

通常なら磨りガラスの入ったドアには,透明なガラスが入っており海の上に浮かぶ月を見ることが出来た

繊細な指ときれいに整えられたネイルの輝きがガラスをなぞる


「艦魂の正体を探った者は,前の大戦の時にも何人かいた」

粉川は姿勢をただした


「じゃ大戦中に艦魂が見えた「人」は,いたって事?」

「見えたかどうかは知らぬが。。。。存在に気がついていたヤツはいたな」


三笠は指折り数えながら名前を挙げていった

南方熊楠,柳田圀男,秋山真之,折口信夫。。。。。東郷平八郎

学業は優秀でそれなりに調べ物にも堪能ではあったがあげられた名前の半分しか知った人がいなかった

むしろ軍属として東郷平八郎と秋山真之はわかった



「海軍の士官から水兵まで。。。。見えるヤツ感じるヤツ。。。色々いた」


振り返り挙げた人物がわかるか?と眼で聞く

「半分は。。。」

情けない返答


「勉強不足だな,この中で艦魂が何か?という研究に没頭した者は4人,だが途中で脱線した者も多い。。南方が最初に脱線な,これの後を継いだのが柳田圀男と折口信夫だったが,柳田は「山」の事を書いたために脱線。。。折口は詰まるところ母性偏愛のはけ口としての研究の一環としてしかみていなかったから脱線」

「秋山参謀は調べた?」


人差し指をたてた三笠は粉川がよく知る海軍参謀の経歴に笑った


「秋山は。。。。。軍人には不向きな人種だった。頭が良すぎて破滅したタイプだが,彼奴は妾を見れたハズだ」

「じゃ。。。何かも知っていた?」


三笠は首をふった

少しばかり悲しい眼差し


「彼奴は。。。。妾が見えてしまった事で壊れた。。。それだけだ」

「壊れた。。。」


杯に口をつけたまま三笠は


「前に話しただろ。。日本海海戦の話を。。。あの時に壊れた」

粉川は思い出した学生の時,三笠に聞いた日露戦争と日本海海戦の話。。。

頷きながら


「結局誰もわからなかった,そういうこと」

話の終局が不明で終わりそうな雲行きに顔を曇らせた粉川の前,三笠はうれしそうに


「スケベ平八郎だけが,艦魂は何かを直感で理解していた」


粉川は顔をゆがめた

三笠の話の中では,いつもそうなのだが東郷平八郎はスケベと決まっている

やたら女にだらしなかったという話しは耳が痛くなるほどに聞いていたが

少年時代は「元帥」として崇敬の念もあった人を貶められた気分にもよくなったものだった

そんな小僧の顔を気ににもせず三笠は続けた




「それが妾が己の起源を確信した出来事であり。。。ココは神話の国だという事を知らしめた事につながった」


そう言うと手の中に泡沫の光を走らせた

紫の輝きは月明かりを受け細かな光の泡は宝石の滝のようにテーブルに落ちては消える中

手の中に現れたのは焦げ茶色の分厚い本


三笠は手の中に現した本を粉川に向かって投げた

投げたといってもスローな艦魂の力でゆっくりと流れるように前に届けられる本を粉川は受け取ると背表紙にある本の題名を読んだ


「日本書紀 巻第七」


「これに答えがあるの?」


男の粉川の手の中にあっても重い書物

日本国成立3桁代の頃それ以前の日本史を編纂した古文書


「少なくとも日本の艦魂についてはこれで答えを出すことができるが,世界を見ても同じような「神話」によって成り立っていると思われる」

「世界規模では当てはまらないなら三笠はイギリス出身だから答えには成り得ないんじゃないの?」


渡された本を丁寧にテーブルに置いて些末な疑問を打ち消すための質問を繰り返した

「とりあえず読め。。。。「船」の歴史はどれも大して変わらないから,そこはさして問題ではない」 


そう言うと本に挟まれている羽根のしおりを指差した

粉川は分厚い本の中程を開いた


日本武尊やまとたけるのみこと。。。」

「そうだ。。そこから先を声に出して読んでみてくれ」


古語の混ざる文献

粉川は月明かりの中で指された文章を読み上げた


すなわち海中わたなかに至りて,暴風忽ぼうふうたちまちに起こりて,王船漂蕩みふねただよひて,え渡らず。

時にみこに従ひまつるおんな有り。

みこまうしてまうさく,

「今風起き(いまかぜふき)浪沁なみはやくして,王船みふね沈まぬとす。これ ふつく海神わたつみしわざなり願わくは卑しきやつこが身を,みこの命にえて海に入らむ」

とまうす。

言訖まうすことをはりて,すなわなみおしわけて入りぬ。

暴風,すなわち止みぬ。



「これが答え?」


たどたどしいながらも古の言い回しである歴史書を読み上げた粉川には実際内容の全てを理解する事が出来なかった

「よくわからないのだけど」

三笠はカラになった器に酒を注ぎながら小さな溜息をついた


「その中にある「王に従ひまつるおんな」。。。。。それが艦魂だ」

粉川は自分の読んだ箇所をもう一度確認すると


「王に仕える女?」

「この日本武尊とは「国」を表している。。。なにせ彼は倭武天皇やまとたけるのすめらみこととされる者であり,我らは国に仕える后であったという事だ」


最初のビールを飲み干した粉川は古書とにらめっこをしながら


「その皇后は海に身投げして。。。」

「良いところに気がついたな」


立ち上がった三笠は月明かりの下に向かうと


「国家に迫る「海神わだつみの暴威とは「外世界からの圧力」とし。。その危機に際して皇后は身を挺して「国」を救う。。。それ故,我らも誕生とともにし「入水」する」



「進水式で生まれる。。。。。そういう事?」

「そうだ。。。。国のために身を挺し入水し,女神となって祭られる者。。。。それが艦魂だ」


粉川は首を振った納得できる,できない?は別としても今ひとつ要領を得ない答えに顔を曇らせる


「死からの再生により女神になる」

「長い年月の中でそれは忘れられていったが。。。。ある時に思い出される事になる」


ガラス窓から差し込むつきの光の下

ブルネットに紫の深みを持った髪が白く銀色の輝きを増しながら外を眺める


少しは頭の回転を柔らか思考に向けたい。。。新しいビールのプルを開けた粉川は泡立つ酒に口をつけて話に耳を傾けた


大きく酒をあおった粉川は質問した

「ということは元は皇族でそれが霊体となり女神となったものが艦魂という事?それにしても。。。。こは「神話」であって実話はないのでしょ?」


「神話は。。。。きれい事の世界のように書かれていて,創作だなどとぬかす者も多いがこれだけの文章を創作するのは難しい,皇室の出生を語る部分が出る以上,都合をあわせた改ざんはあっても全てが夢物語ではない。」


つま先から静かに進む足

月に輝く髪は白く色を変える

相変わらず硬い頭で物事を捉えようとしている小僧の頭を三笠は叩いた


「我らは進水式の時,神のくびきから引き離されて産まれる。これが例の入水にあたるのだが。。。この儀式は神話に基づいて行われている。覚えがないか?」

粉川はやっと自分の知っている事が出てきて思い出したように顔を上げた


「銀の斧。。。」


「そうだ三貴子みはしらうずのみこ文様を入れし魔除けの銀の斧,(右面に天照大神あまてらすおおみかみ,月読つくよみ,素戔嗚尊すさのおのみこと,左面に四天王を現す文様あり)により海神わだつみの暴威を納めるため,国のために入水し皇御孫命の為に蘇る。。。。海を行く者達を守るために」


進水式の時に精霊として誕生する

それは「一度の死」という世界から神の国の者に変わるための儀式という事になる


壮大過ぎる話に粉川は拍子抜けした顔になったがその頬を三笠は勢いよく張り倒した


「つまり我らは神世の時代より国に寄り添う女神という事だ」

なぐられた頬を抑えながら反論した


「でもそれじゃ世界の方はどういう事なの?」

「だから言ったであろう。。。ココは神話の国だと」

三笠は杯にもう一度酒を注ぐと


「世界にも「水」によって魂は分かたれ天神の仲間入りをする話しは五万とある。。。ただ正確な国の歴史として記録が残っているのは「日の本」だけなのだ」


人と神の入り乱れる世界を克明に「国家の歴史書」として編纂できた国は日本しかない

万世一系のなせる最大の事業であったともいえる


他の国にも「船」による存命や死からの復活を描くものはあるが抽象的だし

国としてそれを奉じたものは一つも残っていないのだ


逆に外殻化して残った物は多く存在していた

変形した形の顕著なものがローマカトリックなどが実戦する「バプテスマ」などがそうであると三笠は説明した


バプテスマとは訳して「洗礼」である

それまで現世の中に生きた「原罪」を水の中に身を沈める事によって洗い流すという意味がある

同じ固有の物体が水という世界の境界をまたぐことによって昇華されるプロセスは実によく似ているが

洗礼者はJohannesという「人」であり「神との御霊」はそこにはないのだ。。。常に「人」と「人」の間で行われる儀式化したものでしかない



三笠は器に満たした酒に映る月をみながら


「国,(皇子)を守るために海に入り,そして海を行く物の守り神となった女。。。それが艦魂だ。それ故に我らは「女」しかおらず,国に寄り添う海の守りとして生まれる」


「それが艦魂の正体。。。。つまり女神の「末裔」という事?」


写しの月に伏せた眼差しを向けたままの三笠は少しの沈黙を守った


「。。。。そういう事かな」


「東郷元帥はその事を知っていた?」

「知るわけがない。。。だが彼奴はきっとそうだと思っていた。事実,彼奴は我らを祭る社の再建を手伝っている」


三笠は窓から向こうを指差した

観音崎を目指す指の先

すっかり暗くなった海の向こう,東京湾の入り口にある祠,走水の社



「その女神の名前は」


背中を向けたままの三笠の顔が今何を思っているかは粉川には見えなかった



「名か。。。。」


躊躇いか,少しの沈黙



「我らの名は「弟橘媛おとたちばなひめ」である」

カセイウラバナダイアル〜〜〜否定でなく編〜〜〜



今回

艦魂とは何者かという「一部」を公開しました

大部分の引用を「民俗学」と「考古学」「古文」などから後はヒボシの頭脳にある妄想をミックスしてつくったものであるため

実際のものとは遠く「学術的価値」は一切ありません

また

本編上にある日本書紀の抜粋は

物語の展開のためさらに一行だけ抜き取りをしています

その箇所は「弟橘媛」の名前が出てくるところなので抜かせて頂きました

それ以外は「訳版の日本書紀」をそのまま()の中をヒボシが訳して載せてあります


でもって

今回

三笠様が「車や飛行機,電車に魂は無い」というニュアンスの言葉を発しておられますが。。。。

ヒボシはこの艦魂のジャンルで登場する「飛魂」も「士魂」も「車魂」も個人的には一切否定しておりません

むしろ!!

柔らかな発想に感服するばかりなのですが。。。。



ココでは

この艦魂物語においては「否定」させて頂きます

じゃないと

本編の理由にまとまりがつかなくなってしまうので




ちなみに

今回「一部」と書いたのは。。。。

実は設定に関わる事もあるので多くは言えませんが

三笠様の問題でもあるという事をご理解ください



大仰なお題目をあげたのに

たいした事じゃなかったと思われた方

ヒボシはその程度に思ってくださればホッとしてます。。。根掘り葉掘り聞かれても答えられない事が多いのでwww


後,へんに現実的な部分を今回にかぎりだいぶんと省きました

これによって民俗学を曲解される事を恐れたからです

でも

今回ココに上がった事を元に

物語はさらに進んでいきますから!!


心広くしてこれからもよろしくお願いいたします!!!



それではまたウラバナダイヤルでお会いしましょ〜〜〜

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