表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/90

第四十一話 太陽の人

災害派遣編終了

どこか中途半端な章になってしまいましたが

この章では艦魂の抱えている問題

『ひえい』という鬼司令のもつ問題や

少しの伏線を書くことが出来ました。。。。フィ〜〜〜

南海の空は晴れ晴れしい

熱を持った空気はこれからくる,さらなる熱き日々を予感させ

そして

空に比例するように深い青をたたえた海に「死」を流した大地が近づき始めていた

日本の近海では見ることの少なくなったエメラルドとシアンを混ぜ合わせた海の色に。。。

たくさんの命が飲み込まれた被災地に向かって護衛艦隊は走っていた


輸送艦『おおすみ』の中では各隊が上陸に際してのレクチャープログラムに入り

整備の隊員達などが裾がしく走り回り

艦魂『おおすみ』も課業に合わせ出入りの多い自艦艦内にくまなく神経を尖らせ不備なく事を進ませるために集中の時間に入っていた




「『ひえい』は,こないんか?」


上部甲板に並べられていた愛車の「疾風」の中で車内チェックをしていた鈴村の隣,当たり前のように助手席に座った『きりしま』,後ろの座席に座った『はまな』

2人とも作業用青服(幹部タイプ)を着た姿に向かって

チェックボードを手にした彼は,第三者的には少し気味の悪い笑みを浮かべて聞いた


「こないよ。。。。」


昨日一日,目の回る出来事で振り回され続けた『はまな』は相当泣いたのか目の下を赤く腫らした状態で口を尖らせて答えた


なにしろ大変な日だった。護衛艦隊が洋上でそろい踏みをするのも一つの課業として大変な事なのに。。。。

朝一番に集中力一本勝負の課業,補給業務に入り3時間

本来ならそれで『はまな』の課業はおわり

後は久しぶりの友達『きりしま』を囲んでの食事会になるハズだったのに。。。。


鈴村という陸自の「人」に興味を持った『きりしま』の奇行で

男まみれの艦内を徘徊する事3時間。。。。

『きりしま』の思う言い分は十分にわかったとしても。。。。そもそも内気で臆病な彼女にはリアル肝試しみたいな拷問の時間が続き。。。

やっとでご飯会になったと思えば

ココでの初の海難者救出作業が夜の早い時間に発生

なんとかならないものかと思案の末に「人」の助けに縋る事になったところから

出遅れてしまった

孤独との戦いの末,泣きながら『きりしま』達の後を追って走り。。。


事件解決と共に合流,疲れ果てたところに,次の大波が襲う

『ひえい』司令の傍若無人な命令の前『きりしま』が連れ去られるという非常事態,無力に友達をただ見送ってしまった自分の弱さに泣き

『きりしま』が無事に帰って来られることを祈って泣き

戻ってこられた3人の姿に泣き


『きりしま』に抱きついて。。。非力で心が弱くて友達を救いに行けなかった自分を許してと泣いた


泣き続けの初日だった


その日は,独りで寝るのが怖くて『きりしま』の部屋に泊まった

ベッドの中で何度も謝る『はまな』に『ひえい』司令に,さんざん張り倒され赤くなった頬のまま『きりしま』は笑って言った


「『はまな』もう大丈夫だから!」


そんな友達の優しさに,また泣いた


枯れることなく泣き続けた結果は,ものの見事に目を腫らしメガネ越しでもわるほどに赤い

その目がバックミラーに写る鈴村を睨んで


「絶対にこないから」と


怖い司令が自分たちの前には出来るだけ現れて欲しくはないという願掛けのこもった返事を返した


「忙しいわけじゃないだろ?」


ダッシュボードを開き,備品の点数をチェックしながら

どこか陽気な声の鈴村はとなり座った『きりしま』の顔を見ながら

「2人ともヒマしてるぐらいなんだし」

手に持ったチェックボードを『きりしま』の膝に渡して嫌味を返した


「ヒマじゃないけど!!。。。「人」とは仕事の仕方が違うだけ。。。」


珍しく『はまな』は突っかかる

よほど前日のように事を乱されたくないという気持ちが前に向かって突っ走っている様子

ミラー越しに目が合わない程度に睨み続けるぐらいの元気はあるが

『きりしま』の方は元気がなかった

あれほど「人」との会話というものに終着して張り切っていた顔が今日はまだ見せてなかった


「鈴村さん。。。。聞いていいかな?」


手渡されたチェックボードの項目に目を通しながら,続かない喧噪の間

少しの沈黙の後で初めて『きりしま』は口を開いた


「どおしてボクには『ひえい』司令の気持ちはわからないんですか?」


やけにしょぼくれていた『きりしま』の態度を少しばかり気にしていた鈴村はボードを取り返すと,前方で他の車のチェックをしている梅酢達の姿を見ながら


「そんな事気にしてたのか?」


顔を合わせることなくボードに書き込みをした

『きりしま』は昨日の最後に言われた言葉の答えをずっと探していた

『はまな』に泣き謝られる時間で寝るという気分はなくなり

眠ることなくその事を考えていた


「ボクは。。。司令の気持ちもわかりたいと思う。。。きっと」


あの時には見えなかった『ひえい』の心の影を知ることで力になりたいという気持ち

努力したいという思いを伝えたかった



「『きりしま』ちゃんよ。。。。あれは個人の問題だからほっときゃいいんだよ。無駄に首を突っ込んだって解決なんかしねーよ」


鈴村はアッケラカンとした態度でタンブラーに入ったスポーツドリンクを飲むと


「アイツが生きてきた時間と『きりしま』ちゃんが生きてきた時間が違うように,アイツにはそれだけの思いがあってだな。。。。それがちょっとばかりめんどくせー事になってるだけだからよ」

「でも!!わからなきゃイケナイような言い方だった」

「わかる歳になりゃわかる」


手をヒラヒラとさせ余裕の表情を見せられることに『きりしま』は苛立ったように反抗した


「ボクは今それを知りたい!!知って。。。もっと力に」

「『きりしま』ちゃん。。。知っても力になんかなれねーよ」

「知らなきゃ。。。僕たちは独りじゃなくて。。ちゃんとこの仕事を共をする「人」もいる事を知って。。。がんばらなきゃ」


思い詰めたような顔に鈴村は苦笑いを浮かべた

司令官の中にある暗雲は自分たちに対する国民の態度が元になっていて

それが自分たちが,この職務に向かう事の意味を破壊していて

。。。。

悲しすぎる結論だったけど

それでも共に働く「人」もいるという事実までも握り潰してしまえるほどの「心の闇」を持っているのならば。。。。

共に自分も立ち向かって。。。少しでもお役に立ちたい


職務に向かって忠実である事を大切と想う『きりしま』の態度に鈴村は大きくシートをリクライニングさせると

周りから自分の姿を隠して



「任務の事はよくわからんが。。。強いて言うならな,『ひえい』は『きりしま』ちゃん達みたいに強くないんだよ」

「強いよ。。。。」

寝転がった事で顔の見える一に座っていた『はまな』は小さく首を振って否定した

なんと言ってもコワイ『ひえい』司令というイメージしかないから

そんな御子ちゃま『はまな』を見ながら



「『きりしま』ちゃんには自分を守ってくれた人ってのがいただろ。。。きっと。。そいつの背中を覚えてるか?」

ふいの質問

『きりしま』の頭に浮かんだ背中


「姉さん。。。。」


頭に浮かんだのは姉『こんごう』の背中

新たなミサイル護衛艦として産まれた自分たちを一番に抱きしめてくれた姉

姉自身は誕生の時に大きな傷を付けられて。。。。なのに自分たちを大事に思って色々と根回し,頭を下げてくれていた『こんごう』の姿を『きりしま』は思い出した

基地勤務に入ってから,その事を聞くようになった時。。。『きりしま』は泣くほど感謝した

姉が自分たちのために作ってくれた道に


その顔を確認したようにもう1人に顔を向け


「御子ちゃま(『はまな』)にもいただろ?」


漠然とした質問だったからこそ単純に自分を大切にしてくれた人が思い浮かんだ

寂しがり屋の『はまな』にとって最初の背中は姉の『とわだ』であり,心細くて仕方なかった配属先の舞鶴で護衛艦という中でも補給艦という格下と見られがちな自分に快く相部屋までしてくれた『はるな』司令だった


イスに座った2人の顔を交互に見ながら鈴村は寝不足だった頭を叩きながら


「そういうヤツがいると「強く」なれる。。。。『ひえい』には,そういうのがいなかったんだろうな」


「だったらボクがそれに成ります」


あくまで生真面目な返答

でも大切な事だったとわかったからこそ,そうなりたいという希望を語った『きりしま』の頭を鈴村はグリグリと撫でるというか抑えると口に大きな笑みを浮かべて


「そりゃ無理だ」


自信満々の顔は続けて胸を叩いて

一生懸命の決意を告げた『きりしま』の顔に


「『ひえい』に必要なのはオレだからだ」


またしてもの驚愕の回答に呆然とした子供2人の顔を見回しながら鈴村は念を押すように


「子供じゃ無理なんだよ,オレのような大人の男じゃないとな」

満面の笑みを浮かべた顔に窓越しから


「バカかオマエ」


言葉を無くした2人の前で自慢げな面を晒していた鈴村に横から罵倒を投げたのは仕事を終えた『おおすみ』だった

作業用の青服に着替えた『おおすみ』はデコッパチな額に汗をかき

腕まくりをした姿で力説していた鈴村の顔を睨むと


「どっちにしたって,もう二度と司令に会うことなんて出来ないんだから。バカな事言ってると恥ずかしいよ」


昨日の出来事

『ひえい』の激怒と,鈴村の仰天の行動を一部始終見ていた彼女は冷静に考えてものを言った

どう見ても

自分に抱きついてきた男の前に,怒りの『ひえい』司令がもう一度会う事など考えられない


「あんな行動とっといて何言っても説得力ないよ」

「なんかあったの?」


戻ってきた『おおすみ』にやっと呆然の世界から意識を戻した『はまな』が聞いた

メガネの下の泣きはらした腫れは十分に見える

純粋培養の『はまな』にあんな事件を話していいものかと腕組みの『おおすみ』の隣,鈴村は持論を押し通すように


「バカ!!抱きしめられて嬉しくない女はいねーだろ!」

一瞬で真っ赤に染まった『はまな』はフルフル震えながら鈴村を指差すと


「司令に抱きついたの?」

涙目になりながら聞いた

そんな事実があったとするならば,とばっちりを受けるのは目に見えている


「しんじらんないよ〜〜非常識人間!!」

鈴村の手にもっていたチェックボードを跳ね上げ

イヤイヤと首を振りながら昨日で枯れたはずの涙まで浮かべた『はまな』の行動に


「オイ!御子ちゃま!オレはスケベ心だけで抱きついたんじゃねーつーの」

「どっちも一緒だよ!!私達の身になってよぉ!!」


言い分はもっともだった

鈴村は上陸してしまえば艦内で起こる出来事にはノータッチの状態だから被害が及ぶことはないし,そんな無礼な「人」に『ひえい』自身が顔を合わせにくる確率もないのだから

やったもの勝ちで逃げられるというものだが


艦魂として海に残る『はまな』にしてみたら

この先何ヶ月かを司令と共に過ごさなくてはならないのに。。。。

最初の日からフル回転だったうえに。。。ココから続く日々がずっと灰色に染まってしまっていると知ったのだから

泣きたくもなる


騒ぎ出した『はまな』に『おおすみ』は手で肩を押さえて

「落ち着きなって。。そんな事ないからさぁ,はーちゃん」

「そんな事言って司令が来たら」

その言葉が乾かない中ではっきりとした声が



「『ひえい』司令。。。。」



立ち上がり敬礼をした『きりしま』の姿に『はまな』は失神寸前になって固まり,『おおすみ』はゆっくりと自分の後ろに振り返った

嘘とか悪質な冗談と思いたかったが

メンバー1,くそ真面目な『きりしま』の目線の先,夏服のスーツスタイルの『ひえい』は凛と立っていた


「邪魔よ」

冷たい声は有無を言わさぬ圧力で『きりしま』達を退場させようとしていた

「司令」


「あんた達。。。。子供の所にようがあるんでしょ。。。さっさと行きなさいよ」


スロト達,漂流していた兄妹とお爺ちゃんは今日の午前,タイ国に入る前にインドネシア海軍に引き渡しが決まっていた

入国審査もままならないタイ国に負担をかけないための配慮であり,インドネシア海軍もその事をよく理解して行動は早かった


これから彼らの見送りに行こうとしていた事も事実だったが『きりしま』は

昨日,鈴村に攻撃を加えようとしていた司令を知っていたからこそ動くことは出来なかった

だが鈴村は手を振って


「ほら,会いに来ただろ」


笑うと行けと手を振った

「鈴村さん。。。。」

立ち上がり『ひえい』の前に進む鈴村の背中に心配の声をかける『きりしま』に

「心配するなって」

大男はそう言う言葉に3人はその場から退場した





司令と鈴村を残したままという不安を抱えながらも

迫る別れの時間に会わせた3人は

インドネシア海軍の艦に乗り移ったスロトの前に走ってきていた

『きりしま』は相手の艦魂に挨拶を交わし彼の事情も説明を手早くし終えたところだった


インドネシアの艦艇『ディポネゴロ』艦魂『ディワ』はインドネシアに籍を置く艦魂だが栗毛も美しい白い肌のオランダ人だった


「わかりました英雄の土は私が預かります,艦を降りるときにお渡ししますね」


気だての優しい彼女は兄妹の事もよく理解し

『きりしま』の頼みにも十分に応じてくれた


「ミス.キリシマ。。。。我が国も大変な被害にあっております。。日本が早くに助けに来てくれたこと国民に変わり感謝致します」


かつて

かの戦争で植民地を求めた白人社会の象徴としてオランダは君臨したが

今は違うこと。。。。そして自分の護るべき国の事をよく理解している『ディワ』は深くお辞儀をして示してくれた


「良かったねスロト。。後は『ディワ』が見てくれるよ」

艦魂達に囲まれたスロトは先に運ばれた祖父と離れ最後の挨拶に『きりしま』の前に立っていた


「ありがとう『きりしま』」


最後まで笑顔を絶やさなかったスロトは自分の手に付けていた手紡ぎ糸のリングを手渡した

「あげる!!お守り!!」

それは紡ぎ糸を幾重にもつないだ土着のままの自然な色で作られた小さなリング

細い手にすんなりと収まった宝に『きりしま』もお辞儀をしてお礼を言った


「ありがとう!スロト,ユリ」


お礼を交わした

その時,今までスロトの腕に引っ付いて落ち着きの無かった妹のユリが口を開いた


「お兄ちゃん。。。。今は誰としゃべってるの?」

自分の周りをクルリとつぶらな瞳は不安げに見回す

そのまま兄の背中に隠れようとする姿に


「ユリちゃんはボク達の事が見えてなかったんだ」


『きりしま』は2人共が自分たちの姿が見えていたものと思っていたのでかなり驚いた顔をした

その顔にスロトは困った顔をした


「見えてないけど居ることはオレが話してあるから」

「うん。。大丈夫」

変な不安を感じさせてしまったと改まった『きりしま』に『ディワ』が


「妖精(艦魂)は女の人には見えないものらしいですよ」

顔をまじかに寄せても気がつかないユリを見つめながら教えてくれた

「「女の人」には見えない。。。。」


それは『きりしま』にとって初めてしる事実だった


「でもオレ達は感謝してるよ!!」

あまりにあっけにとられた顔をした『きりしま』を気にしたスロトは妹をかばうように声をかけた

『きりしま』は小さなスロトが自分に気を遣ってくれている姿に,今ココでそれは考える事でないと割り切り


「わかってるよ!!」と微笑んで見せると,手を前に差し出した

「握手しよう!!スロト!!君とユリちゃんに会えてボクはとても良かったとおもってる!!」


小さな絆を結ぶ握手

一歩後ろに並んだ『おおすみ』と『はまな』にも

スロトとユリそして『ディワ』が握手をして別れの時を迎えた

それは艦魂にとっても「人」にとっても小さな優しい絆が結ばれ

また各々の世界に戻って行くという儀式だった

離れて行く『ディワ』とスロト達に『きりしま』達は今を精一杯に手を振った







「来てくれると思ってたぜ」


『きりしま』達を追っ払った鈴村は

車のチェックを終えウェルデッキの最後部

自衛艦旗の揺れる前で『ひえい』と対面していたが,すぐに顔を歪めイタズラっぽく続けた


「どうしたんだよ。。そんなかっちり頭纏めちゃって?メガネも似合ってないぞ」


目の前

昨日とは別人のように

例を挙げて言うのなら「教育に熱心な女教師」のような姿になっている『ひえい』を見て鈴村は似合わない姿だと笑って見せた

そんなふざけた対応を気にもとめず

冷たい声は自分の要求に針を仕込んで投げた


「盗人,私の部屋から持っていった物を返しなさい」


めげない男,鈴村は両手を挙げると片手に持った階級章を見せて

「昨日はガキどもに引っ張られての退場だったんだぜ。。。わざと持ってきたわけじゃねーよ」


金色に輝く海将の階級章

肩につける二組のものの1つ


「丘の人間は手癖も悪いのね」


乱れる事のない髪と,細身の冷たい感じを増幅させるメガネの『ひえい』は口だけを緩く動かし手を挙げ

陸自という存在を邪険にするような言葉を放ったが

鈴村は右から左という涼しい顔


「返しなさい」

「まあ,まてよ。。。せっかくココで会ったんだ話しぐらいしようぜ」

「話すことなどないわ」


のらりくらりとした鈴村の態度にも昨日のように乱れた姿を見せない鉄の女に鈴村は真っ直ぐ向かっていった

「オレにはあるんだよ。。。話すこと」

そういうと階級章を人差し指と中指で挟んだままヒラヒラと風に煽って見せた


「もうガキどもをいじめんのは止めろよな」

「陸さんの分際でわたしに命令するつもり?」


メガネの裏では風にサラされる階級章を落ちつきなく見つめながらも態度はいつにもなく高圧的

「命令じゃねーよ,オレのお願いだ。。。。いい女がそんなみっともねー事するなって事だよ」


そういうと鈴村はさらに前に出て自分より一回り小さい『ひえい』に触れられる距離に立った

この距離に立てば幽霊(艦魂)が持っている,あやかしの力でなんらかの攻撃を受ける可能性がある事は十分承知していた

知った上での行動


「どうしても恨みたいってんだったらオレの枕元に立てよ」

少しばかりの無精髭

がっちりとした体の作り,自分とは違いすぎる「人」の突拍子もない発言に『ひえい』はわざと卑屈な笑い声をあげた


「あんた。。。バカなのね,頭がおかしい「人」なのね」


そんな彼女の笑いに鈴村の反応は意外だった

笑って見せた,肩をすぼめ降参と示すと

はにかむように柔らかに


「まったくバカげた事だよな。。。。幽霊を好きになっちまうなんて我ながらどうかしてる。。。だけどオマエほどいい女なら悔いも残らねーよ『ひえい』」


そう言うと躊躇うことなく目の前の細い腰に手を回した


「だからオレで我慢しろ。。。オマエの未練が尽きるまで愛してやる」


鈴村の認識は相変わらず官魂は幽霊であり

『ひえい』の心うちは理解しつつもそれを表す的確な言葉が見あたらなかった結果「未練」と行ったわけだが

それはあながち間違いでもなかった


本気の手に引き寄せられた『ひえい』は昨日とは違ってそれを突き放した

心には十分な動揺があったが今日ここで飲み込まれる訳にはいかないという硬い態度が怒鳴った


「気安く触らないで!!汚らわしい!!」


息の上がる高揚感の中

相手に怒りを焚きつける怒声を発し

強烈な拒絶を示したのに男の方は変わることなく冷静に見つめていた


揺れる視界,見覚えのある景色

前にも『ひえい』はそうやって相手を拒絶する「マネ」をした事を思い出した


何にも動じない自分の意志を継げた目。。。。かつてのあの人に似すぎていた


熱い潮風

真夏の傍観者達

目眩の中『ひえい』は首を振った

フィードバックされる思い出


「本気だぞオレは」

「止めて!!」

鈴村の言葉に溢れ出した過去が重なろうとする

熱かったあの時の。。。。。大切な告白


木々の音



あの日


伸ばした手

目の前に移り変わる思いに紫の光を現し,この場から逃げようとする『ひえい』に鈴村は

手を伸ばすことはしなかった

あまりに弱々しく揺れる彼女の姿が可哀想に見えたから

かわりに大きな声で


「オレを忘れるなよ!!!」

覚悟の言葉を連ねた

その声は『ひえい』の耳に別の声色を乗せていた


「忘れないでね」


大男の前に現れた思い出の影は

太陽の人



「どうして。。。。。」

最後の雨が降り注ぐ中

苦い灰色の景色の中で別れの罵倒を飛ばした相手は手を大きく上げて微笑んだ

溢れる光に囲まれ消えて行く姿に鈴村は告げた


「『ひえい』!!また会おうな」


「また,会おうね」


鈴村の前

『ひえい』は頭を抑えたまま光の輪の中に姿を消していった

膝を抱え込むように強く自分の耳を塞いでメガネの奥に涙を湛えて





「現地の困窮を力の限り助けよう!!!行くぞ!!!」


エルキャックに乗り移った陸自の隊員達は班長の怒号に拳を振り上げた

開かれた輸送艦『おおすみ』のウェルデッキの上

鈴村を乗せたエルキャックを見送る『きりしま』『おおすみ』『はまな』

その隣に並び敬礼を送る海上自衛官達


お互いが協力してこの任務を達成する


青天の下大きな風切り音を響かせたエルキャックが海に浮かぶ

見渡す限りの破壊に打ちのめされた海岸線の砂浜に向かって


「ご無事で!!よろしくお願いします!!」


『きりしま』はエルキャックの後部に乗った鈴村に手を振った


「騒がしい「人」だったね」

『はまな』は離れてゆく船を見ながら高く上がった太陽の日差しから顔を守るように手をかざした


「『はまな』。。。。鈴村さんがね,ボク達はやっぱり「女」であるべきだって言ってたんだけど」

「ただのスケベやろうだ」

『おおすみ』は日焼けもなんのその前髪のないデコに汗を浮かべて軽口を叩いた


「帰ってこようって思えるんだって」


『きりしま』は自分の。。姉に比べたら小さなふくらみの胸に手を当てた

まだ

彼の言う事

『ひえい』司令の事,わからない事がある中で

自分の髪に大きな手を置いた鈴村



「ゆりかごだって船なんだろ。。。だったらやっぱり船の幽霊は女であるべきだな」


男は笑うとエルキャックの登場に向かいつつ


「女でいろよ。。。。『きりしま』ちゃん」と手を挙げて見せた姿に心の奥が熱くなった


海を護る護衛艦艦魂達の敬礼は続く


救難という戦いに男たちは大荷物を担ぎ進んで行った

太陽高き熱波の国に


その姿を艦魂達は長く見つめ続けていた

カセイウラバナダイアル〜〜増殖編〜〜


ちゃ〜〜

朝こんな時間にアップ。。。。大人はいったい,いつ寝ているのでしょうか


そんなヒボシは前に『むらさめ』を買いましたと報告しましたが。。。。ふぅ

『こんごう』と『おおすみ』も買ってみました!!!

700分の1はシリーズが多いので一通りの護衛艦は集められそうだし

『ひゅうが』の発売も待ち遠しいです

これに

かつての帝国海軍の艦艇を厳選して縮尺比のために並べてみようと考え中です

『おおすみ』はかなり大きなプラモで

『むらさめ』と比べると巨大な艦という事がわかりますが。。。。

この『おおすみ』でさえかつて日本を護った帝国海軍の艦にしてみたら小さいという事実にかなり驚きました


大きい=強いという事ではないのですが

かつての日本人はそういう物をつくり上げたんだという誉れを感じました

ちなみに

『おおすみ』全長178メートル

戦艦大和は263メートルあったわけですから

いかに巨大な艦だった事か。。。。。


最近になって呉市の企画で

戦艦大和を海底から引き上げようという話しがあるそうですが。。。

ヒボシ的にはあまりそういう事はしない方がいいと思ってます

そんな事をしたら元乗組員の内田さんなどの気持ちはどうなってしまうのかと。。。

あれは

悲しいけど海の墓標であるべきだと思ってます

彼処に護国の鬼として眠った英霊達と私達は言うけれど

のこされた家族の気持ちを考えれば引き上げたいというのもわからなくもない。。。

複雑な気持ちでいます




ところでみてみんに「長門様」の絵を掲載しました新章ででるか?まだわかりませんが(藁)

よかったらみたってください(爆)



それではまた〜〜

ウラバナダイヤルでお会いしましょ〜〜〜

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ