第二十一話 その距離
慌ただしかった佐世保基地帰港第一日目が終わり
開けた朝
透明度の高い青い空の下を「総員起こし」の号令の下,課業開始,朝食と続き護衛艦船員上陸組はグラウンドを走っていた
ココは修練の港
昨日,粉川の後ろを追い走った船員達は今日もまた走る
護衛艦の上では「訓練事項」に添い艦内待機組の総員達が的確にこなしてゆく
毎日の課業
昨日は,あの日以来。。。「悔しさ」に澱んでいた総員達だったが今朝には何処にもなかったかのように晴れた顔になったいた
高く青い空に同じく清々しさを取り戻した隊員達は声も高らかに課業をこなす
そこかしこと走る男たちの姿はどこにも濁りがなくっていた
昨夜の珍騒動
帰港を迎えたばかりの隊員達が夜の最中にグラウンドを走った
寄宿舎管理の所長が何事?と問えど返事はなく
あえてあげるのならば
「明日のために」
と言うへんてこな答えだった
いつもなら課業外勤務という事で「おしかり」を受けそうな夜の激走
所長は正しく事の次第を基地司に告げたハズだったが
司令の宗像からはなんのお沙汰もなかった
それどころか隊舎の玄関には習字で書かれた達筆な月間標語が書き直されていた
「良く励め!!」
何に?とか書かないあたりが宗像の心苦しさを現していたが
言いたい事は良くみんなに伝わっていたかのように,全てが秋の晴れた空のよに澄んだ気持ちで動き出していた
「おはようございます!!」
ご多分に漏れる事なく。。。。
背広組の一員である粉川は「何故か?」隊員たちの課業に混ざってグラウンドを走っていた
事務方である粉川の奇異な行動は見る者を選ぶが
ココの隊員たちには心強いものに映っていた
防衛庁内局の人
それは現場仕事を理解しない人。。。。体を張って「戦わない人」
そう言うイメージをぶっ飛ばす存在
走る粉川の姿に艦艇の上で課業を続ける隊員達から挨拶がされる
粉川が示した「責任」に感化された隊員達には,彼はただの「内局の人」ではなくなっていた
共に走り
共に「悔しい思い」をした人。。。それを頼もしいという目が見ていた
ある意味防衛庁内局のイメージを良くするという絶大な効果を現した彼に
その官位にふさわしく,みな敬礼の挨拶をする
「おはよう!!」
走りながらも返礼する粉川がそれに気がついているかは別として
一通りランニングをすませた粉川は玉粒のような細かな汗を散らしながら,自分にあてがわれた隊舎に向かって歩いていた
「気持ちいい。。。。」
もともと海自に席を置き日々を海で過ごしていた事のある粉川にとって課業は習慣ともいえたが
自分の体を熱くさせる事が自分の一日を良くする事とも学んでいた
子供の頃から培った自分に対する教訓
昔から「母親代わりの人」が自分を鍛える事に手抜きを許さないという教育を施していた。。。それは今の粉川という人格を作り上げた「賜物」になっていた
隊舎に向かう途中煉瓦倉庫が見る
そこに「艦魂」達が住んでいる事を知っている粉川は多くの艦魂達が外に集まり
「人」と変わることなく課業に入っているのを見た
中央には昨日と変わらず『くらま』が立ち倉庫の周りを走るという,まさに「人」の訓練に準ずる練習が行われていた
。。。
昨日とは違いみんな「青服」を着用している姿は粉川の目には新鮮だった
衆群の中,断トツのスピードで走る『こんごう』の後ろを『むらさめ』と『しまかぜ』そして『ちょうかい』が入っている
後には『なみ』姉妹と『あめ』姉妹の二人『きり』姉妹の『さわぎり』達
前を走る姉達に比べるとかなり小柄な『ちょうかい』は足数の多いピッチ走行をさらに早回しにした感じ
フィルムでいうなら前の集団が普通なのに『ちょうかい』だけは4分の1スローみたいな早さ
一生懸命に姉についていこうとする姿を見るに,粉川は微笑ましく思った
前日
『くらま』と初めて会ったとき「敬礼!!」と自分を怒鳴りつけた時は彼女の姿をじっくり見る事はなかった
走り終えて息を整えるために膝に手を置いた姿
ショートカットの黒髪に姉と同じ青い瞳を持つ
『こんごう』に比べると姉妹といってもあまり顔立ちが似てはいない,背丈も一回りは小さい背中がスピードの速い持久走を終えて揺れる
「どりゃ!!」
遅れてゴールにに入った『いかづち』と『はるさめ』にプランチャーをかます『むらさめ』
ココに来て初めて見る艦魂の姉妹達
「おっそい!!魂込めろ!!」
先に走り終わった『むらさめ』は,なぎ倒す勢いで横っ飛び
走り終わったばかりの二人が避けられるハズもなくそのまま崩れる
「ぐわぁぁぁ」
二人より遙かに鍛えている『むらさめ』は受け身も巧い,妹達はそのまま押しつぶされてダウンする
『いかづち』のとなり『はるさめ』は『あめ』姉妹で言う次女だが直ぐ上の姉にはやはり体格等々全体はあまり似ていない
肩に届く程度のショートポニーの茶髪は目を回して倒れていて
似ている唯一の部分は垂れ目な事
「おネエ〜〜痛い〜〜〜」
緩いしゃべり方が悲鳴まで緩くあげる
「おネエゆうな!!」
腕まくりの長女は遠慮なく二人を起こす
「気合い入れろ!!!護衛艦たるものが!!!」
スパルタな発言と共にタオルを顔にぶつけるとゴシゴシと力任せに顔を拭ってやる
「痛いて!!痛い!!」
右で騒ぐ『いかづち』と,されるがままの『はるさめ』は
「痛いよお〜〜おネエ〜〜痛い〜〜〜」と相変わらず緩くトロい悲鳴
その後ろをやっとでゴール,お互い手をつなぎ肩で息した『きり』の姉妹である『さわぎり』と『あまぎり』
事件の時には顔を出していた『ゆうぎり』はすでに大湊に帰ってしまっていないが
全体を通して似ているのは,体が小粒な事,護衛艦の中では『ゆき』姉妹達の次に小さな体の艦であるからなのか?
ちなみに『きり』姉妹の八人の中では『あまぎり』が四女で『さわぎり』は七女になる
到着と同時にヘタレた『さわぎり』に姉は水の入ったボトルを手渡すと
「ゆっくり飲んで」
すぐに水を喉に注げないほどに上がった息を整えるために背中をさする姿はこれまた微笑ましい
激走の後,怠らぬストレッチに入っていた『しまかぜ』の元には『たかなみ』と『まきなみ』の『なみ』姉妹が揃っていた
『なみ』姉妹と言えば,横須賀の『すずなみ』を思い出す
潤んだ大きな瞳に内巻きに入るシャギーの美脚少女
『なみ』姉妹は割とお互いの外見が似ているようにも見える
二人とも黒目の大きなぱっちりお目々で均整のとれたスラリとしたプロポーション,髪の長さにいささかの違いがあるが顔付きはよく似ている
いかにも「お姉様」という感じの余裕のある態度で,上の姉である『しまかぜ』とストレッチに入る
「追いつけませんでした。。。。」
イタズラっぽく舌をチョイと出したのは『たかなみ』,姉妹の中では長女にあたる
三人分の水をもって戻ってきた五人姉妹の三女『まきなみ』は
「しびれるぅ。。。。」
少しばかりしゃべり方が『むらさめ』達に近い
元々『なみ』姉妹達は『あめ』姉妹の発展型として出来た護衛艦達だから本来は似たもの姉妹達なのかもしれない
だがどちらもクリエイティブに徹した一群勤務の五女『すずなみ』より健康美溢れる
「お姉様」といった感じだ
「まだまだ。。。負けないわよ」
そんな二人に囲まれながらも,さらに上の姉として余裕の笑みを浮かべる『しまかぜ』の顔は輝いていた
みんなが各々朝の課業最後の激走をたたえ合っている中
粉川の目は距離をもっている二人を見つけた
『こんごう』と『ちょうかい』
同じイージス艦の姉妹
同型艦の姉妹では長女と末っ子の妹は微妙に離れた状態で息を整えている
『こんごう』の背中を見つめながら。。。。渡そうとしているタオルを握ったままの『ちょうかい』
海の方を見たまま自分の存在に気がつかないふりをしているのか。。。。『こんごう』は後ろを見ずに肩を揺らす
「お。。お姉ちゃん。。。。」
少し歩み寄った妹は小さな声をかける
この秋空の下,少し冷えた風で汗は急にひきはじめている
振り返った『こんごう』は目の前に出されているタオルに気がついてはいるが。。。。
課業を終えた艦魂達が寄宿舎に戻り始める中
二人の間は相変わらず微妙で。。。見ている粉川がじれったくなるように進まない
『こんごう』は差し出されたタオルを開くと自分にではなく妹の頭に被せた
「風邪ひく。。。」
そういうと気恥ずかしそうに目をそらし,そのまま帰ってしまった
帰る足取り組の中一人ポツンと残される『ちょうかい』
「『ちょうかい』ちゃん?」
被されたタオルの下。。。足もとを見ながら倉庫の方に向かっていた『ちょうかい』に一連の流れを見ていた粉川は声をかけた
「?」
運動の後のせいか?呆けていた『ちょうかい』は不意に声をかけてきた男を怪訝な目で見た
最初顔を上げた時は少し驚いた顔をしていたが今は目つきもキツイ
「何?」
怒鳴った時とは違い小さな。。。幼さの残る声はそれでも邪険にした返事を返した
「挨拶は敬礼でしたほうがいい?」
粉川は自分より遙かに小さな『ちょうかい』に視線を会わせるために膝を折り,腰を降ろした
「別にいらない」
ぶっきらぼうな返事
そんなところは姉の『こんごう』に似ていると思った
「私は一応,ココでは二佐になりますけど。。。「人」と艦魂は違うから。。敬礼はいりません。。ただ司令にはちゃんとしてください」
テンションの低い声は機嫌悪そうに続けた
粉川は目の前できっちりと敬礼した
「僕の上司にあたるわけだ!!敬礼!!『ちょうかい』二佐!おはようございます!!」
目の前の男は優しい笑みの中で敬礼して見せた
恥ずかしくなったのか『ちょうかい』は言い直した
「だから。。。別に「人」には関係ない事ですから。。。」
「じゃ普通に話ししてもいい?」
小さな姫様の前,粉川は安心感を与える柔らかい声と笑顔で返事した
昼下がり,煉瓦倉庫の裏手
少しの堤防の向こうには「アメリカ第七艦隊」の姿が見える
澄んでいるとは言えないが,秋空の斜陽の太陽を水面に反射させる景色は美しい
だが
海を行く船はほとんど無い。。。。ココは軍事基地の重要拠点であり「制限水域」
無断で入れば即座に捕縛されるという物々しい港だ
だが晴れ渡った空,雲のない青の下は極めて自由にも思える
「お姉ちゃんとの事で,なんか悩んでる感じだっから」
倉庫の寄宿舎から隠れた木陰の下に粉川と『ちょうかい』は座っていた
二人とも汗を落としココに待ち合わせた形だった
粉川の。。。。的を得た質問に体育座りをしていた『ちょうかい』は体をすぼめた
第三者の誰から見ても。。。。
姉と自分の関係は微妙に見えていた事
「別に。。。あれが普通だから。。。。」
見透かされた悩みに恥ずかしさか頬が赤い
「そうかな?普通なら。。。あんな寂しそうにならないでしょ」
「寂しくなんか。。。。」
寂しい。。。。
他の姉妹艦達が仲良くしている姿を見れば
その思いはいっそう強くなる。。。。
回航で他の港に行っても必ず会えるたの数の多い姉妹とは違う「イージス艦」の姉妹
「なんで。。。そんな事聞くの?」
顔を膝の間に隠してしまった『ちょうかい』は小さく聞いた
「僕は君たちと仲良くなりに来たんだよ!!なんだって力になりたいんだよ!!」
小さな艦魂『ちょうかい』の隣,どこから溢れるのか自信満々の粉川はあっけにとられつい顔を上げた『ちょうかい』の顔に指さした
「言って!!一人で悩んでないで話してごらんよ!!」
「人」と話したことはなかった
近くにいるだけの存在。。。自分たちの操艦にいる人達。。。それだけで
何故「人」がいて「艦魂」がいるかなんて考えてもしかたのない事だと思っていたのに
「人」が自分の悩みを聞こうとしている。。。。
不思議な感覚なのか『ちょうかい』は目を丸くしたまま固まった
そして今まで起きたことの無かったこの奇蹟に自分の心をゆだね
ゆっくりと「姉」と「自分」の話しを始めた
それは逸話のように広がっていた「魂の引き継ぎ」という話しと。。。それをめぐる「姉」の誕生の悲劇
「なるほど。。。。。」
粉川にはわからなかった艦魂たちの悩み
『こんごう』の。。。眠りの中で繰り返していた言葉の意味を理解した
自分以外の魂。。。。
栄光の帝国海軍という魂を望んだ「艦魂」達にとってそれは。。夢だった
「金剛の魂」
自分たちが大戦という断絶の向こう。。。アメリカという庇護の下に産まれた「妾の連れ子」とあだ名された情けない艦隊として設立した事
それ故にこそ。。。。。自分たちが純然たる魂を引き継いだ者と思いたい。。。
そうして引き起こされた「悲劇」
「お姉ちゃんは。。。。自分が苦労したから私達には絶対にそんな思いをさせないために。。。自分に厳しい人なの。。。だからあんなふうなだけ」
非難の矢面に立った『こんごう』が自分の妹を守るためにとった方法は。。。
常にストイックな程に誰よりも責務に身を投じる事だった
それは痛いほどにわかる
「不審船事件」の時。。。。離れていく敵を見逃さなかったあの瞳の意味
でも
「それちょっと違うと,僕は思うよ」
いつの間にか『ちょうかい』の目には涙が浮かんでいた
「違わない。。。そうなの。。」
自分に言い聞かせるようにする態度が。。。。
「違うよ。。。。たとえ責務のために前しかみないとしても,妹を見る目線が一緒なわけないだろ?」
小さな肩は震えるままに涙を零した
「違う。。。私達は他の艦とは違う。。お姉ちゃんばかりが辛い思いするぐらいなら。。姉妹のなれ合いなんか。。。」
イージス艦に産まれた
国の楯として産まれた
たくさんの期待に応えなきゃならない。。。。
艦魂達が復活を期待していた「かつての魂達に」答えるためにも
「『ちょうかい』ちゃん。。。嘘ついたらダメだよ」
嘘じゃない。。。。でも必死の言い訳だった
自分に強い否定ではなく,笑顔で嘘を溶かした男の前で涙は止められなかった
「だって。。。」
「お姉ちゃんと普通に話しがしたいんでしょ」
不器用な姉妹。。。。。
粉川は『こんごう』の不器用さを,ホントに痛い思いをする程に知っていたが
その妹も。。。。ホントに不器用だった
姉を思い普通の「妹」として甘える事を我慢し続けた末っ子の『ちょうかい』
一生懸命に『こんごう』の背中を追う姿を見た時から粉川にはわかっていた
姉しか見ていない幼い瞳の。。。。ささやかな願い
二人ではどうする事もできなかった,その距離
「お姉ちゃんは優しいんだよ。。ホントにホントに。。。」
『ちょうかい』は押しとどめていた思いを吐き出した。。。だまっていられなかった
今まで
言いたかった自慢の姉。。。優しい姉
粉川は小さな手を握りながら一つ一つの思い出を聞いて言った
思い出
無口ながらも姉がくれた優しさ
生誕の時,誰よりも先に抱きしめに来てくれたこと
艤装の時も時間があれば色々外の世界の物を持ってきて
自分が居ないときは。。。他の艦魂に運ばせて。。。
配属が決まれば。。。バラバラになる運命の特殊な姉妹,誕生日に。。。プレゼントを。。。
『ちょうかい』は思い出したように顔を上げた
「プレゼントしたいの。。。。」
涙で,ぐしゃぐしやになった顔は粉川に手を握られたまま初めて自分の意見を言った
「プレゼント。。今までもこれからも。。。お姉ちゃんの妹である事が誇りだから」
自分たちの前に立ち続けた姉に対する感謝と。。。。
これからは共に前立つという願い
普通に話しを出来る姉妹になりたいという思いで
「了解!!お祝いしよう!!」
「ホントに?」
「ああっ!!さっきね『いかづち』ちゃんが僕の所に来て明後日,歓迎会やってくれるって言ってたんだ!!それのスペシャルサプライズ!!決まったね!!」
粉川は『ちょうかい』の手を引くと立たせた
「お姉ちゃん驚かせてやろう!!ねっ!!」
泣いていた顔は一気に華やいだ
明日,買い物に行くことにした粉川と,それに自分なりのプレゼントを細工すると決めた二人は満天の笑顔で約束を交わした
掲載当時に流行っていた後書きのおまけ。
艦魂を描く小説家の皆さんによる交流劇です。
そのお茶会は緊張に包まれていた。。。
華やかな庭園の鳥かご,それを模したステージに作られた席に
アイアン草薙氏の艦魂『大和』様,真名『撫子』と『武蔵』様,真名『桔梗』が迎え入れられ
対するイスには『くらま』『いかづち』『むらさめ』が座っていた
春ウランラ(藁)の会場にあって。。。『いかづち』の緊張はピークに達しているのか眼鏡の奥の肌にじっとりと汗
「。。。なあ。。。どうしたらええのん?」
テーブルの下で姉である『むらさめ』の袖を引く
「ご機嫌でもうかがっとけ。。。」
隣に並んだ『むらさめ』は背筋にじっとりと冷たい汗を這わせながら答えた
面前
おしゃれな英国式ティータイムセットの前
並ぶ艦魂は「紀伊の世界」からはるばるやって来た「大和級艦艇の姉妹」達。。なのに招待した妹達2人が遅刻している状態に『桔梗』嬢の苛立ちはピークに達していた。。。
遅刻なのだから。。。面前で苛つくのは不本意なのだが。。
妹達の到着はあまりにも遅い
心配する心でテーブルを叩く指先の音は『いかづち』と『むらさめ』には怒りのカウントダウンをしているようにも見えた
何度も指を羅列する音を止めたのは『撫子』様
「落ち着きなさい。。。桔梗。。。『しまかぜ』さんに『こんごう』さん。。それに『鈴』さん(長門様真名)が迎えに行って下さったのだから」
今日は。。。。晴れての他小説での活動をしている艦魂との交流会だったのだが
紀伊からのメンバーはこちらへの航行中,妹君2人とはぐれるという,不可思議な状況になり現在に至っていた
不思議なものだ空間をつなぐ通路は,ココまで一つの経路しかないのに
「とりあえずティーどうぞ」
慌てる事を見苦しいと感じる司令職の『くらま』はゆっくりとした口調と態度で冷めてしまわぬ前にポットに出されていたアップルティーを注いだ
同じくゆるりとした態度で『撫子』様がそれを受け取る
「いただきましょ。。。。『桔梗』」
「うがぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
自分を宥めた姉の態度に反発するように爆発した『桔梗』嬢はイスを蹴飛ばして立ち上がった
「アカァァン!!小雪(『信濃』様真名)と零(『近江』様真名)を呼んでくるぅ!!!」
入れられたばかりのアップルティーを満たしたカップが転ぶ
『桔梗』様にあって
命よりも大切な妹達の安否不明などあってはならないこと!
そんな状況下でのんびりとお茶など,すすれるわけもない
勢い右手からは閃光と共にに槍を出しそうだ
「落ち着きなさい」
「アカン!なんぼなんでも遅すぎるて!!私も迎えに行く!!」
走り出す妹の手を掴んだの姉を振り解こうとするが『撫子』様は極めて冷静に言う
「戦場に彷徨ってしまったわけじゃないわ。。。ココまでは一本道。。きっと途中で道草しているだけよ」
穏やかに
しかし力強く『桔梗』の手を引く
「司令官補佐たる貴女が慌てるなんて。。。見苦しいわよ」
チョイと士官服の襟をさする
ベタ金の記章は「大将たる者」という態度を無言で語っている
「そうです。。。私達の方でも迎えを出しておりますから,今しばらくお待ちになってください」
歩調を合わせるように鎮守府司令である『くらま』は転がったカップをとり,ティーを注ぎなおす
目の前に作られた水たまりを『いかづち』が手際よく拭く
「大丈夫ですよぉ!!『しまかぜ』はんも『こんごう』も行っとりますから〜〜」
和みの一発をいれたつもりだったが
立ち上がったまま『桔梗』様に火に油(藁)
「だまれ!!!『いかづち』だったけ?オマエと違って『小雪』や『零』はめっちゃカワの妹なんだぞ!!それゃも〜〜とろけるようなマシュマロのような!!ああああああ『大和(伊)』とかに攫われたりしたらどーすんじゃ!!」
「うは!!わて可愛い無いですか?『むらさめ』どないしょ〜〜」
「オマエ?とりあえずマシュマロじゃーねぇな。。どっちかって言えば,たこ焼き?(藁)」
「うは!!たこ焼き!!せやけど粉物やったら一緒やで!!」
「アクセサリーがマヨネーズじゃダメだろ」
何故か自慢げな『むらさめ』
ボケる『あめ』姉妹(爆)の前テーブルを踏みつけて怒鳴る『桔梗』様
「アホ!!!たこ焼きは,うまいだろ!!」
「ほな愛して下さい」たこ焼きとあだ名された『いかづち』は素早く切り返す
「うは!!無理!!」
高いテンションを維持したまま「ダメ,絶対」と手を出して固まる『桔梗』様
「『桔梗』。。。。。。」
静かな炎が揺れている。。。。
『撫子』様は満天の笑顔の中でテーブルにのった『桔梗』様の足を打った
「いたたあああ!!」
「ふふ。。。行儀がなってませんわ」
軽く叩かれたように見えたがダメージは甚大なのか?飛び上がった勢いからイスに着地した『桔梗』様の目に涙
「。。。撫子姉さん。。。。」
「すいません。。この子ときたら,ついはしゃいでしまって」
テーブルを拭き直す『くらま』の表情は変わらないが『桔梗』様の心配は体滲み出ていてカタカタ揺れる
そんな緊張した場所に『さわぎり』が
小さなワゴンに「ケーキ」を乗せて
珍しく制服ではなく,メイド服でやってきた(藁)
「まあ,可愛らしい」
『撫子』様の微笑みに,照れながらもスカートの端をチョイとあげて挨拶
「初めまして,『さわぎり』ですぅ」
「うおおおおおん!!!」
その仕草に何かを思い出したように『さわぎり』に抱きつく『桔梗』様
頭をグリグリ撫でられて目を回す『さわぎり』の向こう
「うは。。。。ココにも大和長官が(大和(伊))(藁)」眼鏡越しに驚く『いかづち』に『桔梗』様,手を止めて
「ちがうわ!!!大和(伊)と一緒にすな!!」
「はにゃ〜〜〜」クルクル眼の『さわぎり』を指さし
「こんな可愛い妹,見たら!!『小雪』や『零』が今どうしてるかと。。。」
姉という生き物がこんなにも妹を心配する者なのかと眺める『いかづち』
「わても妹やんねぇ」『さわぎり』を撫でる『桔梗』様に自分を指さして
「オマエら『あめ』姉妹は変なのバッかやないか!!」
「うは!!変なの言われで!!」
のけぞる『いかづち』向こう渋い表情の『むらさめ』は
「でもホントの事だしなー」
『桔梗』様は戦艦武蔵とい司令長官付き参謀だこちらの艦魂の事はすべてチェック済みだ
『むらさめ』を長女に八女までの姉妹でまともな妹などいない事など確認済み
「うわぁぁもう,心配でお茶なんかやってられへんわ!!」
「いい加減にしなさい」
流れる黒髪姿の姉の目はわらってはいなかった
「ご招待にあずかっているのに。。。。怒りますよ」ゴゴゴゴゴゴゴ
大和撫子。。。。
その怒りは静かなる言葉を発し,とりあえず争乱のお茶会を沈めた
「いませんね〜〜」
騒がしいお茶会の場から離れた「空間航路」をお迎えに向かった『しまかぜ』は隣にきりりとした帝国海軍軍服を纏った『長門』様,真名『鈴』と捜索をしていた
「空間航路」はただっぴろいが,違う次元を結びつける道となるため大抵は一本道として開けられる
そうしないと次元軸が揺らぐからだ
安定のためにこその一本道。。。。なのに真っ直ぐに繋がる道の中「大和姉妹の妹2人」の姿はどこにも見えなかった
「こんな場所で道草?」
お茶会遅刻についても規律違反であると『撫子』様に言いはなって迎えを買って出ていた
その『鈴』様は顎に手を当てたまま考えを廻らしていた
一本道。。。何度も行き来したが何処にも見えない二人?
「お帰りになられたのかしら?」
「いや。。。それはないと思うが。。もしそうならば向こうからメールが来ていて良いはずだ」
『しまかぜ』は現在一佐なので(大佐)そんなにかしこまられる事をくすぐったそうに思った
相手は帝国海軍七代目旗艦。。。司令職の艦魂
「『鈴』様。。。よろしければ会話は普通に致しませんか?」
笑顔で
気をきかせた
「すまない。。。気を遣わせて」
「いいえ。。私も硬くなってしまう方なので」
お互い熟知ある女としての会話
「さて。。『こんごう』は気になる事があると言ったきり戻ってしまったし。。。どうしましょう」
困った顔のなかにも穏やかさを絶やさぬ『しまかぜ』に徹頭徹尾の軍人である『鈴』様は少しの不満があった
「しばしココで待とう」
そういうと航路に手を組んだまま浮いて
「『しまかぜ』殿は。。。。。『くらま』司令殿とお付き合いをしていると聞いているが?」
静まった航路で核心をそのまま聞いた
遠巻きに相手の事を知ろうとしない,いかにも軍人らしい質問に『しまかぜ』は少し目を大きくして
「『ヒボシ』さんにはお灸が必要ですねぇ。。。」
笑って返事した
少しの沈黙
「ダメですか?」
『しまかぜ』も実に素直に自分の「恋愛」の是非を聞いた
「いや。。単刀直入に言うならば,そんな心持ちで「国を守って行けるのか?」という事なのだが」
「それとこれは違いますからご心配には及びませんわ」
『鈴』様は危惧していた
『しまかぜ』と『くらま』司令の話はココに来る前から紀伊の世界でも多少噂になっていた,それをアブノーマルととるか?ノーマルととるか?は別として「恋愛」をしているという事実が気になっていた
自分たちは「戦争」という向かうべく一方通行に立たされていて「恋愛」というものなど厳禁というか無い世界にいた(一部別ですが)だからこそみんなが一致して「戦い」に向かっていけた事を誇りにさえ思っている
史実通りに進んだのなら自分たち亡き後に『しまかぜ』達の時代が来ていた
その時に「国」を守る職務にある「艦魂」が自分の上司と「恋愛」などしている事など。。。気持ちの良い話しには聞こえなかったのだ
「耐えられない気持ちは今も昔も変わらないと思います」
『しまかぜ』は自分に厳しい視線を向ける帝国海軍軍人『鈴』に告げた
「耐えられない気持ち?相手を想ってか?」
『鈴』様は「熱愛」ならば盲目と言うことかと聞いた
「相手に?違いますよ「守る」という職務の艦生にです。。。。満足を得られる職務ではないのです。。。。むしろ」
「生きるためにか。。。。」
それは寂しい告白だった
『鈴』様には『しまかぜ』が言わんとしている事がすぐにわかったから言葉を絶った
「すまなかった。。。不躾な質問をした」
「いいえ。。。「噂」になっちゃいましたからね。。。「妹達」には内緒にしておいてくださいお願いします」
やんわりとした対応『鈴』様は中身がこれだけしっかりした艦魂ならば大丈夫だと。。自分に納得すると返事した
「了解だ」
そういうとまた航路の道の遠い先を妹達を見つけるために睨んだ
その頃。。。。『こんごう』は自室にいた
四角四面のドア無き部屋の壁を指で探るように触って
「やっぱり。。。。スキマ」
当初『しまかぜ』達とともに空間航路をレーダーで捜索していたのだが,その時に違和感を感じていた
「別の航路がある」
それは前回のお茶会の時,大和長官(伊)が姿を現したボーダー商事謹製の個人用空間航路だった
「残ってた?」
指先でスキマの端をつまみ恐る恐る開ける
中は通常の空間航路に比べると暗い
狭いのか?広いのか?もワカラナイ曖昧灰色の壁。。。自室の鉄壁のように鉄でできている灰色はわかりやすいが「歪み」の見える時空は余計に気味の悪い配色に見える
『こんごう』はゆっくりとスキマの中を覗いた
ひたすら揺れ動く空間。。。。?
「泣き声。。。。」
微かな声
反射を許さない撓みの壁の中,小さすぎる音を『こんごう』の耳は追った
子供?女の子?二人の声。。。。
「ココにいる!!」
それはおそらくお茶会に来る予定だった2人の声
『こんごう』はスキマに向かって飛び込んでいった