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第二話 水の瞳

たくさんの「艦魂小説」作家の先生達からの祝砲もうけ

ありがたくも嬉しい出発ができました!!

「艦魂」それは、どんな艦艇でも宿る船の魂である

「艦魂」その姿は霊感の強い者、魂の精神波長が近い者だけにしか見えない

「艦魂」それは全て若い女の姿をしている


「艦魂」それは女神の模倣でありながらも「人」と「船」を結びつける温かき魂である



「おてやわらかに」


粉川こがわの控えめな挨拶に艦長の「間宮」は意味深な笑みと共に一言添えて握手をかわした

シーマンシップを現すさわやかな挨拶の置くに潜む思案は見え隠れする狂気だが、間宮はみじんもそれを感じさせない笑みで


自分の艦に訪れた新たな同行者である同業者粉川に挨拶をした


おてやわらかに、と

だがそれを願っているのは粉川の方だった


「視察官」


そんなふれこみが今更通用するわけがなかった

外気の冷たさも去ることながら空調の管理も厳しい

CICの手前で握手した手に汗を握った粉川は事の経緯を思い浮かべていた


「イージス艦機密情報漏洩」


国家機密の漏洩という大事件の中、海上自衛隊幕僚長のとった苦肉の策は

「内部調査員の設置」だった

どう苦肉なのかと言えば


「相互監視」という名で「政府監視員」をシャッタアウトした事


国家機密の漏洩なのだから

本来なら「政府監視員」の出入りなどあたりまえの処置がとられるところだったが

そんなことをされたら「別の問題」を掘り起こす事になりかねない

「専守防衛」を掲げる日本におけるイージス艦の「必要性」

高度な疑問はともかく


「予算」の問題


叩けば誇りまみれになる集団と食ってかかって有らぬ嫌疑で「軍備縮小」などとバカげたことを声高くに叫ばれたのではたまったものではない


幸いにして

政府もそこまで無能に軍備を否定はしておらず、それでもマスコミ向けの答えを必要としていたところで折半された回答がこれとなっていた

隙を縫った借地としてだされたもの


「内部調査官」の設置を打診し、うまくを難を避けた形になった


薄暗い通路

CICに入る手前で基地から戻ったばかりの間宮を捕まえた粉川は

この難役の中で護衛艦の艦長にあたる男には早めの挨拶をして印象を少しでも和らげたいと願っていたが、丁寧すぎる間宮の対応に逆の冷や汗をかいていた


「君が早くに乗船してくれたおかげで明日の昼過ぎには出港できそうだよ」


難役を買った「同業者」粉川は見慣れぬ艦内に目を走らせながらも恐縮しつつ、少しの冗談をとばした


「いやぁ、金曜カレーの日ですし何事も早め早めの対処が大切ですし」

話しをはぐらかし、難し方向から逃げたい粉川は「カレー」に会話を運ぼうとしたが


「早め早めか…」


黒の幹部常装服の上着を肩にかけネクタイを弛めながら感慨深げの対応と、少しの含みと影を見せる間宮、笑わない目がそれでも笑顔で労をねぎらって


「お互い自衛官としていらぬ苦労しますな」

「いえいえ」


粉川の居心地はMAXに悪かった


言葉平らで笑顔の裏側を見せない「間宮一等海佐」は幕僚長の覚えも良い「狐」だ

防衛大学卒の切れ者四十五歳を目前にしての准将になるとも言われているほどだ

だからこそ「最新」のイージス艦の艦長でもある

歳に比例して崩れる腹回りが多い将官クラスの中にいて

崩れる事のない筋骨逞しい姿に

弛まぬ高い志をもっている姿が見て取れる


なのに

のらりくらりとした態度で相手をはぐらかす


今回の事件

直接『こんごう』の機密が漏洩したわけではなかったが事件のせいで全てのイージス艦が足止めをくらっていた

昨日の昼に世論を絡めた見地からなどと、やたらに長引き引きずるだ間延びさせられた「審議委員会」が終わり

やっとの出港が決まった。横須賀基地司令に挨拶をして帰ったばかりの所を粉川は伺ったのだ


後回しにはしたくない厄介な相手として認識している艦長間宮を


会話の端々に緊張を走らせている粉川の前

術達者である間宮はリラックスと肩を揺らしてみせると


「カレーは我が『こんごう』のが一番うまいぞ!何せ帝国海軍時代から鬼と称された規律厳しい『こんごう』の目の元で作られるのだからな!」


笑顔が軽く肩を叩くと間宮は叩くとクルリと向きをかえてCICに入ろうとした

「待って下さい」

「まだ「質問」が?」

ドア前で歩を止めた間宮は首だけ後ろに向けた


「あのひょっとして艦長は。「艦魂」が」

「我ら海上自衛官の魂はいつだって船と一緒って事だ」

そういうと自分の胸を叩く仕草をして

「そういう思いで船に乗ってるっていれば、感じられないかな?」


警戒な受け答えはドアを開け青白い光とオレンジのぱねるに満ちた部屋の中に消えていった


外部から来た「士官」である粉川にはCICに入る権限がない

本来ならば事件の経緯から職務権限としてCICへの立ち入りを行う力もあったが、そこはそれ

自分達の艦の頭脳に「勝手知ったる」と言わんばかりに入る事を拒絶する厳しい目線とかち合う、中で働く隊員達に睨まれ退散するほかない状態


たとえ、権利であってもそこまで「舐められてたまるか」という意志に粉川は両肩をすくめたまま退散した

間宮の意味深な言葉に頭を掻きながら

それでも久しぶりの楽しみである「カレー」にありつくために粉川は食堂に向かった





開けた翌日も雨は威力を落としたとはいえ降り続いていた

艦内にまで響く潮騒

白い雨雲は夕方に向かっての天候をどうするか決めかねているように忙しく流れている中

同じぐらい忙しく護衛艦こんごうの乗員も動き回っていた

長く足止めされた停泊から解放されたのだ


そもそも佐世保から出向してきていた護衛艦隊には別の仕事があり

長くココに引き留められる訳にもいかなかった

その遅れを取り戻す為にも早くの出港が必要とされていた


「ひどいもんだよ」


粉川は船内での就寝から他の自衛隊員と同じように起床

業務に移つろうと通路を歩いていたが

昨日カレーを食いっぱぐれた事に少なからず自分の立ち位置の悪さにぼやいていた


結局「同業者」の監視役なんてのは「恨まれ役」みたいなものだ

仲間を疑うなんて、そんな気はなくとも

そういう扱いをうけるのは道理

昨日食堂で「カレー売り切れ」と無言のカードを出されていた時にイヤと言うほど思い知らされた


目の前大型の寸胴に満ちる程作られているカレーがどうして売り切れなのかと突っかかったが


「『こんごう』に乗る全ての乗務員に行き渡るってから出直してこい」


乗艦隊員三百人

全ての隊員の食事を預かる第四分隊補給課の長は、鬼の形相で腕組みしたまま粉川を追い返した

冷ややかな隊員達の笑い声を背に食いっぱぐれの腹を押さえた粉川は、艦を一度降り基地ないの食堂にて食事を済ませるというなさけない事態になっていた


「損な役に飛びついちゃったなぁ〜〜」


独り言を口に出してぼやきながら部屋をでる

赴任したはいいが

そもそも仕事があるわけでもない、むしろ無い

粉川はラッタルをのんびりと上に登った


千切れながら流れる雲の中、雨は静かに降り続けていた

見渡せば周りの艦艇も忙しく出港の支度に入っている

トラックヤードと桟橋には少ないながらも人が集まっていた

夕方近くの出港時間になれば、もっと人も増える事だろう


寂しい出航に少しの花を添えてくれる基地の仲間達が


甲板上の隊員にも煙たそうな顔を向けられながらもあちこちと見回していた粉川は船の切っ先に立つ彼女を見つけた

凛とした後ろ姿

第一種正装に身を包み栗色の髪も綺麗に纏め上げている


「昨日はどうも」


粉川は昨日締め上げられた首根っこを守りながら基地を見つめ背中を向けている『こんごう』に控えめなトーンで話しかけた


「貴様、まだ降りてなかったのか?」

粉川に顔を向ける事なく返事は返された

「降りないよ悪いけど、僕の仕事だし」

顔色をうかがうように近づく粉川は続けた


「仲良くしないかな?君の美しい姿を見ることのできる唯一の「男」として…」

「断る」

『こんごう』の返答は簡潔すぎで相手に遠慮がない、まるで寸切りの会話で後が続かないが、ここでかいわの出来る相手はとりあえず『こんごう』だけの粉川はのらりくらりと歩を進めて彼女に近寄り


「なんでかな、僕は君たちと仲良くなりたくてココにきたのに」

「ふざけた事を」


整った薄いピンク色の唇は会話にはまったく興味を示さない

ただ横須賀の町を見つめ続けていた

少ない雨の靄に曇る町はソフトフォーカスの中、柔らかく見えるヴェルニー公園を


「誰か、見送りにくるのかな?」


『こんごう』の視線先を見ながらそれでも粉川は恐る恐る彼女に近づいた

「近づくな」

そろりと近づく足取りに釘をさし怒りの声も高く彼女は続けた


「オマエが見ていい景色ではない」

「そんな、一緒にみたい…かなぁ?」

猫なで声ですりよる粉川に『こんごう』は無機質で尖った返事を返した

「オマエのような裏切り者が見ていい景色などない」


辛辣な意見に粉川は苦笑いしながらも『こんごう』の言葉に従い舳先の方には進まなかった


「裏切り者なんて、傷つくなぁ」

イタイ思いをしても『こんごう』に取り入りたいのか、周りをウロウロしてみる粉川まるで反応をしめさず、関心もない様子の彼女

愛想笑いでも懸命の粉川だが

相反するように

ツンとすました顔は美しく長い睫毛にまで雨粒を飾っている


「目障りだ早く降りろ」

「それは無理、しばらくは一緒させてもらうよ。だから仲良くしようよ!!ねっ!!」


振り向かない背中に空振りもいいところだが手を伸ばし握手を求めるも見向きもしない


「手も洗ったし汚れてないよ、オヤジ臭もまだしてないとおもうけど?」

それでも粉川は諦めることなく話しかけるが、反応はひたすらに薄く


「そういえば君の目は、青いってより透き通ったガラスみたいだね」


口説き文句を並べたかった訳ではなかった

空振りの握手をひっこめた粉川は

何を話しても意に介さない『こんごう』におべっかをつかうの止めて、彼女の特徴的すぎる「瞳」の事にふれた


実は祭司よに出会った時から気になっていた点だった

日本国籍を持ち、日本を代表する艦艇である彼女

姿形もどこか日本人女性的でなく、精錬されたプロホーションと大人びた体に長い手足

モデルにしてもおかしくないような姿は外国の女性のようにも見え

それを一層際だたせている瞳の色


さらに澄み切った目の玉さえも同化しているような色には、少なからずの驚きもあったのだ


「だからなんだ」


子が初めての疑問に『こんごう』は素早く振り返って胸ぐらを掴みあげていた


友好的な顔は自分より身の丈のある男の顎に怒りの亀裂である眉間の皺を立たせたまま

自分の気にしている部分を突かれたことに対する本気の苛立ちを吐きだしていた


「目が青いから帝国海軍を継ぐにはふさわしくないとでも言うのか?」

対峙した目、近すぎる顔で見る瞳


『こんごう』の目は透き通った湖のようだ

水の瞳

海のように深い闇を持たぬ目

ともすれば目の玉のないレンズをつけているような顔に見えてしまう

粉川はつかみかかられた姿勢のまま軽く手を振った


「そんな事はないよ、ただホントに綺麗な色だなって」

「うそだ、気味悪いと思っただろう」


「いいや」


手を離した『こんごう』は顔を背けた

粉川にしてみれば意外な反応だった

強気な『こんごう』にとって目の話しをされるのはイヤな事だったのかもしれない


日本国に籍を置く彼女にとって、青い目である事は何かしら障害になっていたのかもしれない

俯く姿は寂しそうに見えた


そんな姿に

粉川は大人の余裕を見せた

「気味悪いなんて思ってないよ!!ホントに綺麗だと。初めて会った時に思ったんだ。すごくキレイな目だって!!」

そう言うと急に『こんごう』の前に回り込み両頬に手をよせ顔を上げさせた


「すごい美人だよ、いやまだ美少女かな」


息が届く距離

真ん前に立った

不意の粉川の行為に『こんごう』顔は一瞬で真っ赤に染まった

今まで

自分達「艦魂」を見る事の出来る者はいなかった

だから「男」なんてものは見慣れていて、むしろお互いが「空気」の存在だったハズ

なのに今、粉川の大きな手が自分の頬を優しく包み

真面目に瞳を見つめている

体に触れている


体温

脈拍

味わったことのない高揚感に

『こんごう』は


ダイナミックかつ美しいフォームで粉川の顔面に迷いのないフルスイングの拳をぶつけた


「きっきっきさぁまぁぁぁぁ!!軍人に対して何をするかぁぁぁ!!!」


周り

「艦魂」を見ることの出来ない隊員からすると滑稽な姿に違いない

粉川は大きく吹っ飛ばされてぼた餅が投げ出された鈍い落下音と共に何回転かして甲板にくたばった

雨で足を滑らすにしてもあり得ない錐揉みの果ての姿に、隊員の誰もが声を失ったまま見つめている


その前で今までは誰にも見られる事のなかった魂は吠えていた


「外洋に出たら沈めてやる!!!」


そう言うと

悶絶の坩堝に入っている粉川を置き去りに光の中に消えていった


「手加減してよ…君イージス艦なんだから…」


未だ甲板から立ち上がる事の出来ない粉川は

涙と鼻血の顔面を抑えたままうずくまり

痛みとの格闘という見苦しくも滑稽すぎる「一人芝居」を甲板作業員に晒していた


『こんごう』が戻った後、ラッタルの端から事の成り行きを見ていた『しまがぜ』は笑っていた

隣に立っていた『むらさめ』は冬の雨の中だというのに相変わらず第三種夏服のまま腕組みして

「あいつ、鹿児島に着くまでに死ぬんじゃねーの?」

傍らの『さわぎり』は『しまかぜ』の足にしがみついて

「『こんごう』てやっぱり怖いよねぇ」

心配そうに粉川を眺めた


「気長にいきましょ、あわてちゃダメよ初めて私達を見ることのできる「人」なんだからね。そのうち『こんごう』もうち解けるだろうけど、注意は必要ね」

『しまかぜ』は

終始微笑みながら雨の具合を手で確かめて言った

大騒ぎの二人をよそに雨は足を速めココからは去っていく様子だ

このままなら夕日の綺麗な出港を迎えられそうだ


「夕方には晴れるわ、良い船出になりそうよ」


そんな傍観をかます「艦魂達」の前

粉川はただひたすらにうずくまって、誰からも救助の手を得られないままでいた


「まいった、こんな至近距離でトマホークくらうなんてあり得ない、誰か助けてよ」


奇異な目で見る作業員達の中一人愚痴り続けた

少しずつ登場人物のデータとかも書いていきたいものです

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