2・意外な趣味
引っ越し作業が終わり、荷物を載せていたトラックが家から出ていった。引っ越しと言っても、愛梨と快人さんが住んでいたアパートから持ってきた荷物はそれぞれの勉強、仕事机とあとは二人の本棚とクローゼット程度なので、そこまで作業に時間はかからなかった。別に引っ越し会社に頼まなくても良かったんじゃないかと思う。
引っ越し会社のバイトさんが本棚を運んでいた時に意外な事が判った。何と愛梨の本棚には少女漫画がずらりと何冊もあったのだ。
勿論、中学生の女子が少女漫画を読むこと自体、珍しくとも何ともない。事実未菜に何度か少女漫画を勧められて読んだことがある。しかし黒髪ロングという清楚な外見から勉強一筋というイメージを感じさせる愛梨が漫画を読むということはとても意外だった。
「愛梨、おまえ漫画が好きなのか」汗をかきながら重い本棚を運ぶバイトの兄ちゃんを見ながらいつの間におれの横に立っていた愛梨に訊く。何時から居たんだ……
「ええ、毎月のお小遣いは殆ど漫画につぎ込みました。唯一の楽しみですから」
「……こんな質問をするのは失礼かもしれないけどさ、小遣いって月に幾ら貰っているの」
「五百円ですが、それが何か?」
……今度、母さんに愛梨の小遣いを多くしてもらうように頼もう。五百円って、小学校低学年レベルだぞ。
「……いや、月五百円でよくあそこまで漫画を揃えたなあと」チラッと見ただけで五十冊位あったぞ……
「古本屋とかを活用して買い集めたんですよ」
ふうん、成程。それであれだけのモノを。
そんな愛梨の趣味が詰まった本棚は二階にあるおれの部屋の隣にある空き部屋に運ばれることになった。
元々この部屋はおれに弟か妹が出来た時のために用意されていたらしいが、おれに弟妹が出来る前に父さんが死んでしまったのでそのまま使われることも無く、がらんどうの状態で放置されていたのだ。これからはここが愛梨の部屋になる。
因みにこの部屋には彼女専用のベッドが導入された。しかしこのベッドのマットレスがおれのベッドよりふかふかしていそうなのは気のせいだろうか……
一方、快人さんの本棚にはコンピュータ関連の資料がぎっちりと詰まっていた。やはりIT会社の社員だからだろう。それらは父さんが昔使っていた書斎へ運ばれることとなった。
空き部屋と書斎を再び使えるようにする為に大掃除をすることとなった。張り巡らされていた蜘蛛の巣を取り除いて、かつてこの部屋を住処としていた虫たちの死骸を片付けなければならなかったのだ。
最初は母さんもおれの掃除を手伝った。しかし作業をしているおれの横で魂の抜けた虫を見て「ヒョエエエエ」とやかましくのたまっていただけで正直邪魔だったので部屋から追い出して結局おれ一人で掃除をした。
さて、引っ越しの話はここまで。引っ越しが終わって色々と後処理を終えたおれたちは夕食を食べることになった。
その夕食なのだが、料理を作るのはおれではない。快人さんだ。前に歓迎パーティーを開いた時の約束を彼は覚えていたのだ。失礼な話だが、こっちとしては只の社交辞令だったのだけど。
台所でエプロンを着ながら調理をする快人さんは結構板について似合っていた。
「いやあ。中々緊張するなあ。自信はあるけれど、気に入ってくれるのか不安なんだけれど」
そう言いながらも彼は嬉々として調理に取り掛かっていた。
しかしおれの横にいる愛梨はとても青ざめた顔をしていた。
「お願いだから、レシピ通りの料理を作って……」それはまるで祈りの様な言葉だった。
……というか、いつからおれの横に居たんだよ!




