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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第五章 不平等な時計
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報告書79枚目 消費戦術

マーリン大元帥の執務室で戦略コンソールを開きシュミュレーションを行う。攻撃50万艦、防衛30万艦、恐らく現状出せる最大の戦力である。ほぼ無理の積み重ねの上に完成した艦隊の為失えばそこまでの諸刃の剣でもある。


「輸送はローフルとディアが請け負うか」

「防衛は私がやるからのぉ問題は無いと思いたい」


駒を動かし進軍先の惑星群をどう扱うかでお互いに考え込む。待ち伏せには良いがばれれば一掃される。危険をはらんだ場所で相手が果たして待ち伏せるか否かで進軍速度も変わる、もし素通りして背後から前と後ろから挟まれれば簡単に大艦隊とはいえ敗走するだろう。


「調べる手段があればいいのだが」

「あると言えばあるし無いと言えばないのぉ」


困ったようにパイプ煙草を咥えて右眉を撫でる、発言通りなのだ、有ると言えばある、無いと言えばない。そんなあやふやな状況で果たして踏み込むべきか否かという悩みがどうしても付きまとう。


「アース参考までに手段とは」

「ローフルとディアに丸投げする」


前回の経歴から恐らく二人は何かの尻尾を握っていると思う、ただその尻尾が幻なのかそれとも実態なのかは解っていない。なので大博打としか言いようがない提案なのだ。右目を細めながらどうしたものかと思案に暮れているとマーリンが笑いながら椅子に座る。


「アースらしくないな使えるものは使ってしまえ」

「それで負けたらそれこそ取り返しがつかんのだが?」

「その時は人類が滅ぶだけだ」

「凄まじい責任の重さなんだが?」

「なに、負けた後なら文句を言う人間もいない」


簡単に言えば出し惜しみをすれば負けるぞと暗に言っているわけだが、問題は手札がはっきり見えないことにある。私が死ぬ程度なら問題は全くないのだが子供とマオ皇帝陛下が害されるのは大変宜しくない。何があってもここのラインは死守せねばならない。さらに難しい顔をして首をひねっているとマーリンに背中を叩かれる。


「どうした本当にアースらしくないな」

「背負うものが増え過ぎただけの事だなぁ」

「余り悩むな、あ・・あなたの好きなようにすればいいと思う」


余り聞き覚えのない単語をマーリンに言われたために少し固まっていると、やっぱり恥ずかしそうにぺちぺちと叩かれる。新鮮な感じだが戦争前としては如何なものかと思ったりもする。それに年・・・いや、目が怖いこれ以上は言うのを辞めよう。


「・・・・・責任だけ取るかねぇ」

「それで滅んだら仲良く討ち死にすればいいだけだ」

「責任イコール壊滅だがのぉ」

「全滅していたら誰も責任など取らぬしお前を攻めぬよ」


それにお前ひとりでは死なせないからとぼそっと呟かれたので覚悟を決める事にする。この後ローフルとディア局長を呼び出し責任はすべて取るのを確約すると何としても伏兵の有無とあるなら壊滅を命ずる準備をする。我ながら無茶を言う上司になったものだとしみじみ思う、昔の自分が一番なりたくなかった上司像だからなと苦虫をかみつぶした顔でモノクルを掛けなおすのであった。


「とにかく出撃までに伏兵の有無、有るなら壊滅を命ずる」

「御主君の命ならば何としてもやって見せるのですな」

「これまた骨の折れる御命令ですなぁ」


想像した通りの反応をディア局長とローフル少将が見せる。我ながら死ねと言っているに等しい命令を下しているのは理解している。ただこれが達成できなければ侵攻も防衛もある意味全力を出す事すらも不可能に近い。輸送艦隊に命ずるには無謀すぎる命令なの解っているが、他に回せる有効な手札が無いと言うのが痛い。


「責任はすべて取る、資金もいくら使っても構わん何としてものレベルだ」

「万難を排してご用意するのですな」

「・・・・・」


ディア局長はお任せくださいと胸を叩いて快諾するが、ローフル少将の方は腕を組んで考えこんでいる。解っている、大変良く解っている。無茶と無謀と無理を押し付けているのは重々承知している。どこまで行っても人材不足と手札不足が問題であるのだ。


「・・・アース王、動くとしてもフォルナス様は如何いたしましょうか」

「任せる、有名なセリフで言えば適切に処理する事を願うのぉ」

「適切でありますか」


総力戦に息子や娘だからといって戦力を出さないわけにはいかない。それこそどの様な結果になろうとも責任があるのだ。本心はどうであれ自分が掲げた能力主義を否定する事だけは許されない。限界まで細くなった目を見てマーリンがたまりかねたように発言する。


「ローフル少将の良心に任せると言う事だ」

「・・・御意に」


その言い方だと確実に後方支援をやれと示唆していないか?そんな言ってやったぞというような顔をされても困るのだが・・・・。ローフル少将は少将で完全に板挟みの顔をしているぞ?収拾がつかなくなってきたので取り合えず下がるのを命じると同時に今度はアトリとネコヤ両大将を呼び出す。


「父上、参上いたしました」

「アース王参上しましたニャ」


少しこわばった顔で二人そろって入室してくる。アトリは無事に男児を出産して母親として今は非常勤ではあるが今回は二人とも動いてもらわねばならないほど切迫している。沈痛な面持ちでパイプ煙草を燻らせていると、察したようにアトリが発言を促す。


「父上、流石に現状は把握しております興亡の一戦であると言うのも理解しております」

「アース王お気に為さらずにいつも通り命令するニャ」


既に覚悟は決めていますと言わんばかりに二人とも敬礼を崩さない。それがより一層覚悟を鈍らせる。未来を託す人間たちに命を掛けさせていいものかどうかの葛藤が今更ながらに押し寄せてくる。


「あ~なに、顔が見たかったから呼び出しただけでな・・・・」

「父上」

「義父様」


あ、いや、顔が怖い本気で怒らんでもいいだろうが、しかもネコヤまで真面目顔で怒っている。斬りかかった時ですら此処までの顔はしていなかったはずなのだが、子供の命の方がほら大事だろ?と何と無しに誤魔化すとさらに真顔で全部大事ですと言い切られた。


「解っているがのぉ・・・ほれ流石に決心がな」

「・・・・・・・理解しましたローフル少将ですね」

「解ったニャ、指示を仰ぐニャ」


なぜバレた・・・・愕然として後ろを見るといつの間にかマリスとメイファがカンペをもってそこに書いていた。いつの間に居たのか、そしていつから聞いていたのか、とどめを言えば気配を消すな心臓に悪い。そしてマーリンがくすくす笑っているのだから恐らくグルだったのであろう。


「ローフルが成功するかしないかが今回最大の問題だ」

「失敗を限りなくゼロにしろと言う訳ですね」

「もっともな話だニャ」

「あと・・・・その・・・フォルナスとメルティアを・・・・・」

「理解しておりますよ父上」

「世話のかかる義父様だニャ」


少し困ったように目線を泳がせて頼むがあっさり快諾される。そこまで察しが良いと困るのだがそれは良いと言う事にした方がよかろう。どちらにせよ時間はもうない。ローフルとディアの策がどの様なもので掴んだ尻尾がどうであれ、それが危険を伴おうとも使うしかないのだ。


「初戦で負けだけは許されない・・・」

「資源を取り返す事と民の解放だな」

「父上の御心察します」


珍しくネコヤが真面目モードになっているので大丈夫であろう。二人が退出した後にマリスとメイファを前に立たせて改めて命令を下す。もうここまで来たらどんな手だって使うしかないのだから。


「マリスはメリアを連れてくると同時にそのままローフルの護衛に」

「畏まりました、今回の主要人物ですね」

「メイファはそのまま遊撃艦隊を指揮しておびき出された艦隊の撃破を」

「総力戦ですね閣下」

「・・・・向こうの時計は無限であるがこちらは有限であるその差だ」


手元の扇子をへし折るとそのまま立ち上がってマオ皇帝陛下に奏上に向かう。いつから私はここまで働き者になったのだか苦笑すら出なくなってきた。パイプ煙草を咥えて歩いているとファーナがいつの間にか隣に歩いていた。マーリンは艦隊の準備があると言い残すと途中で別れたので何時の間にか二人きりである。


「あらぁ久しぶりにまじめな顔ねぇあーちゃん」

「・・・」

「勝率と犠牲の割合が釣り合ったのね」

「・・・・・重さがどちらか上かは聞かんのかね?」

「長い付き合いだから信じてる」


今回はほぼ全員が真面目になるという異例な事態になっているようだ。普段お茶らけてる人間すらも珍しく真顔だ。ネコヤにしてもファーナにしても、そして顔すら出さなかったタケシまでも今回は用意に奔走している。


「むしろこのせいで滅ぶかもしれんな」

「私達だって時と場合を考えるわ」

「・・・時か」

「時ね」


武運を祈ってるわと言い残すとマオ皇帝陛下の私室の前で左折してファーナが消えていく。今回ばっかりは本当の乾坤一擲になりそうだと予感がある。今まで士気を鼓舞する為に散々言ってきたが今回は既に追い詰められた状態からのスタートだ、国力は不明、戦力も不明、指揮官すらも不明。


「どうやって勝つかすら不明と来ている」

「だよねぇ、悩むよね」

「それをさらにどう説明するかだと思っておるんだが」

「ちゃんと話せば理解してくれるんじゃないかな?」


はて、扉をまだ明けていないのだが誰が合の手を入れてるのかと隣を見ると、同じように難しい顔をしたマオ皇帝陛下が人の影でこっそりと隠れて合の手を入れていた。


「何為さってるんですかマオ陛下」

「散歩して帰ってきたらおじちゃんが死ぬほど難しい顔してたたずんでいた」

「まぁ・・・・色々あります」


私室に招き入れられて椅子に座りながら今回ばっかりは生きて帰れる可能性が低いですよとはっきりと断言する。


「そんな気はしていたの」

「今までは多少は道筋がありましたが今回は全て針のような細い穴を無理やり通る、さらにそれが何か所もあるような所業ですからのぉ」

「比喩は良いの勝率だけ教えて欲しいの」

「・・・・・良くて5%、悪くて壊滅ですかのぉ」

「完勝が5%もあるの」

「『も』と捉えるか『しか』と捉えるかですか」

「おじちゃんは紛れもない名将なの、此処まで生き残ってきたのが証拠なの」

「・・・・・勿体なく」

「謙遜すらしないと言う事はやっぱり5%もあるの」


だから私は信じてるときっぱりと言い切られる。そしてその足で傍のクローゼットに向かうと中から墓前で捧げ持った剣を引っ張り出す。もし滅ぶならこの剣でしっかり後を追うから、ちゃんと向こうでもお姉さまやお母様の元に案内するのと気丈に再び言い切った。この皇帝陛下だから全員真面目になったんだろうなとらしくない事を思いながら恭しく頭を下げるのであった。

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