報告書78枚目 出陣前の種明かし
ローフル少将とディア局長による突貫工事により建造ドックは何とか復旧された、問題としては皇帝陛下の旗艦が未だ完成の憂き目を見ていないことにある。この問題は基本的に敵の襲撃によるものとして処理されている為、アース王以下の面々は仕方ないものとして処理していた。ただ一人マオ皇帝陛下以外にはと言う但し書きがあるのだが。
「アースおじちゃ~んやってくれたの」
「流石に襲撃までは指図できませんのぉ」
マオの私室でのらりくろりと追及をかわす、一方のマオは絶対に裏はアース王だとあたりをつけて推測と憶測を織り交ぜて追及の手を休めない。マオは怒っていた、とっても怒っていたのだが絵面を見ると不機嫌そうなマオを膝にのせて頭を撫でているお父さんの絵面である。
「マオも引っ込んでいるだけじゃダメなんだと思うの」
「それは解りますが時期ではなかったと言う事でしょう」
「時期って?」
「最終決戦とかですかのぉ」
もっとも最終決戦なんかに出てくると言った日には幽閉してでも閉じ込める気満々であるが、そんな思いをおくびにも出さずに頭を撫で続ける。今回は旗艦が決戦中に完成しないでしょうから諦めてくださいと言い含める。
「絶対怪しいんだけどな~」
「敵の攻撃を動かせたらこんなに追い込まれてませんのぉ」
マオが口をとがらせてする反論に、ありえませんなとばっさりと斬り捨ててマオをベットに置く。再びマーリンとアースにしか見せないジタバタをベット上で行い始め、恒例のごろごろ転がるを経て落下した。
「ぐ・・・左肩が」
「毎回落ちる場所が違うと言うのは才能ですなぁ」
苦笑しながら今回はお諦め下さいと釘を刺して退出する。見張りは近衛兵から選出しておいているので大丈夫だろう。後はフォルナスの釘はローフルが刺すと言う約束なのでこちらも問題なかろう。面倒な事だとブツブツと呟くとそのままマーリン大元帥の執務室に向かうのであった。
・・・ローフルドック復旧事務所・・・
机の上に置いてあるお茶を無言で飲みながら呼び出したフォルナス大尉とメルティア大尉の二人を見つめている。メルティアは何の様だろうかと言う表情で此方を伺っているが、フォルナスに至っては下を向いたままずっとこちらを向うとしなかった。
「さて、お話ししますかねぇ」
「はい、お願いします」
「御拝聴いたします」
口を開くとびくっとしたようにフォルナスが此方を向く。そんな兄をフォローしながらメルティアがメモを取り出して次の台詞を待っている。
「情報漏洩と言うのは罪に当たると言うのは解るかのぉ?」
「勿論です、親兄弟でも話してはいけないとお父様は仰られています」
メルティアが元気よく答えると隣に居るフォルナスは所在がなさそうに落ち着きが無くなってくる。そんな兄を心配そうにメルティアが様子をうかがう。
「さて、フォルナス大尉」
「・・・・申し訳ありません」
「皇帝陛下に聞かれたと言うのは解りますがこれが敵だったら終わりでしたのぉ」
「・・・・・はい」
「もっともその通信を傍受されて襲撃されたみたいですがのぉ」
メーニャとアーニャがそれぞれまとめた報告書を二人に渡す。原因推測とその特定、さらに傍受された通信および場所の特定に至るまで細かく記述されていた。書類を読んでいると見る見るフォルナスの顔色が悪くなる。そんな兄を心配したメルティアがたまりかねたように発言する。
「フォルナス兄様はどの様な罰に」
「アース王、マリス中将からは存分にと書状が届いています」
「・・・・はい」
流れ出る冷や汗を止めることが出来ないフォルナスを見ながら、おおよそ十歳の子供に話す会話ではないなとローフル自身も自分を面白く思っていない。普通の下士官やちょっと偉い人間の子供なら別に怒って終わりで良いのだ、だがフォルナスはいずれ父の後を継ぎ王にならなければならない、ならば仕方ない事ではある。
「・・・・・業が深い」
「お察しします」
「流石に察するね」
アーニャとメーニャが小さく呟いた言葉に反応して此方も小さく言い返してくる、察するなら慰めてくれてもいいんだぞ?と冗談で言ったところ無言になったのでやめる事にしよう、後が怖い、慌ててメーニャにフォルナスの行なった罪状を読み上げさせている間中黙って下を向いてフォルナスが震えている。
「さて、情報漏洩、機密譲渡、施設破壊諸々含めると・・・銃殺」
「お待ちください、何卒お兄様にチャンスを」
全てを観念したようにうなだれているフォルナスの前に、仁王立ちで立ちはだかり必死に頭をメルティアが下げる。惜しい、フォルナス殿とメルティア殿を足して二で割らなければアース王も凌ぐかも知れないのぉ。あらかじめ決まっている答えを出すために無言で顔をしかめ眼鏡を拭く。
「閣下お電話です」
「・・・・出よう・・・・・はい、はい・・・・そのように」
タイミングよくかかる電話に眼鏡を机の上に置き受話器を受け取る。その間に素早く眼鏡をアーニャが手に取り拭き掃除を始める、良く見えないのだがメーニャが凄まじく不機嫌な顔をしている気がするガキのせいであろう。電話を終えると眼鏡を受け取り掛けなおすと二人に向き直る。
「・・・アース王直々の嘆願が来たので減刑・・ただし今回の戦争に参加は認めない」
「・・・・・・はい」
「御恩情感謝いたします」
少しだけ安堵した表情をフォルナスが浮かべると、心底ほっとした表情でメルティアが深々と頭を下げる。本当はこんなことなどしたくないのだがのぉ。
「フォルナス大尉、アースライト王がお呼びだ出頭する様に」
「解りました」
「それとメルティア大尉はまだ話があるので残る様に」
「御命令のままに」
少し悩んでメーニャにフォルナス大尉の付き添いを頼むと、少しだけ機嫌が直った顔でフォルナス大尉と共に部屋を出て行く。これからまだフォルナス大尉は絞られるのだと思うと少しかわいそうな気がする。
「さて、メルティア大尉には戦争に出て頂くが・・・」
「はい」
「別にメルティア大尉が付き人を連れてくる分には私は良いと思う」
「え・・・・・あ・・・・はい、重ね重ね御恩情深くお礼申し上げます」
何を言わんとしたかを気付いたメルティア大尉は最後の部分だけいい笑顔で丁寧にお辞儀をする。本当に察しが良く女性にしておくのがもったいない気もする、これで十歳なのだからこの後の成長が怖い。退出を許可するとまた参りますのでと儀礼を行ない退出する。
「自分が嫌になるのぉ」
「必要悪です」
そっと後ろからアーニャがお茶を差し出しながら慰めてくれる。どうやら本気で慰めてくれたようなので何も言わずにお茶を飲みため息をつく。戦争など早く終わればいい、若者は若者らしくまだまだ遊んで学ぶ時期なのだから。憂鬱そうにお茶を飲み干すと再び陣頭指揮を執る為に立ち上がり、建造ドックに向かうのであった。
・・・アースライト執務室・・・
メーニャ中佐に引率され戻ってきたフォルナスは既に疲弊しきっていた。恐らくローフルに絞られたのだろう。今回は内部でよかったがこれが外部なら私でも減刑にできなかった。隣に居るマリスは怒っている時の特徴がよく出ているので何も言わずに背もたれに寄りかかる事にする。
「フォルナス・・・お母さんはどうすればいいのかしら」
「御免なさい」
行き成りのお母さんトークで慌てて部屋の扉を閉めさせる。付き人達も一斉に気を利かせて扉を閉めるとともに部屋の外に退出していく。メーニャ中佐にもご苦労様と言うとローフルに渡すようにと手紙を渡して退出してもらう。
「アース様の御子たる貴方が軍律違反をするなんてどうすれば」
「あ~マリス良いかね」
このまま続いたら確実に私の方に飛び火すると感じたので慌てて言葉を遮る。メイファはそれを察したように苦笑しているがこのままマリスに着火したら後が大変なのだ。咳払いをすると座りなおしてフォルナスを見つめる。
「まぁ、なんだ?皇帝陛下に言われたので仕方ない部分は認める、だが誰かに相談するのが抜けていたのぉ」
「・・・・甘い・・・・・・・」
隣で口をとがらせて不機嫌になっているマリスがぼそりと呟くが聞こえないふりをして話を続ける。後で絶対埋め合わせ何かでしないといけないなと小さくため息をつく。
「今回はローフルが上手い事全てを収めてくれたが毎回誰かが助けてくれるわけではない」
「はい」
「十歳の我が子に重責を負わせるのは問題があると重々承知している、どうする軍籍をこれを機会に離れても良いんだぞ?」
此方は親として掛け替えのない本音になる。誰が好き好んでこの激戦が始まろうとしている軍に可愛い我が子を置いておこうなんて、時期が時期でなければ強権発動で速攻除籍している。
「いえ、考えが甘かったのです、もう一度チャンスをください父上」
「・・・・・そうか・・・まぁいい、ディア入れ」
御待たせ致しましたのですなと眼鏡をせり上げながらディア局長が一人の女性を連れて入室する。黒髪で整った容姿で落ち着いた表情でコンソールをもってディア局長の後ろから入ってくる・・・・ってメルティアだな。
「ご希望の秘書官をお連れしたのですな」
「メルティア・レアスフィアですお兄様」
唖然としているフォルナスにメルティアは今後お前の秘書官として一緒に行動する事になるのを告げる。それに伴いフォルナスを大尉から少佐にする旨を告げる。愕然とするフォルナスにメルティアが兄弟力を合わせて頑張りましょうと励ましている。
「メルティア自身の希望とフォルナス、お前自身の為だ」
「・・・・・・必ず汚名は・・・・雪ぎます」
「期待している、ローフルはああ見えて切れ者だしっかり学べ」
悔しそうに一礼すると退出許可と共に足早にメルティアを引き連れて部屋から出て行く。感情をぎりぎり抑えたと言うのは年齢にしては良い点数を与えても良いとすら思っている。
「ディア今回はご苦労」
「いえ、御主君の御命令ならば幾らでもですな」
今回の襲撃に当たりローフルとディアは完全に結託していた。証拠や通信記録、敵の潜り込んだ先まで明確に調べつくしてい今回の事件に利用したのだから底が知れない。
「これで少しは好転すればよろしいのですな」
「それが上手くいくなら此処まで追いつめられておらんのぉ」
最後の台詞で心からの本音を漏らす。出来れば内乱に近いことなど起きずに一気に片を付けたいと言うのが本音なのだ。今回はマオ皇帝陛下の件とフォルナスの教育を同時に行う意味で黙認したが・・・・・・。どちらにせよ自分の砂時計も砂が無くなりつつあることだけは確かである。自分のいるうちに万全にせねばと顔をしかめながら窓の外を眺めるのであった。




